「週休4日、正社員雇用」なんて美味い話、ある訳ない!   作:ダブル亮禅

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12話 新たな一歩

事務所兼工房にて…

「…すみません、この電子レンジ、やっぱりもう寿命ですね」

司馬さんが工具を置き、静かに言った。

「そうなの…でも捨てるのもお金かかるし、引き取ってくれない?」

依頼してきた主婦が申し訳なさそうに笑う。

俺たちは顔を見合わせた。

普通なら断るところだ。けれど―

「このデザイン、今も根強いファンがいる。

あとまだ生きてる部品がある」

司馬さんがぽつりと言った。

その言葉に、転売ヤーの社長が目を輝かせる。

「えっ?そんな需要あんの?どれどれ…」

スマホで何やら検索しながら社長と司馬さんは画面を指差しながら何やら悪巧みをしている。

一通り相談は済んだのか、

「ではそちらの電子レンジは当社で引き取らせていただきましょう!」

と調子良く主婦に言うと、相手も

「あら助かるわ」

と喜んでいる。その会話を聞いて事務所にいた早紀さんが、何やら紙を一枚プリントアウトしてきて、

「でしたらこちらの譲渡承諾書にご署名をお願いします。あと社長、お客様に電子レンジをお売りいただいた代金、えーと10円…は安すぎるから100円お支払いして。」

と言いながら、お客さんからサインを貰っている。

それを聞いて社長も小銭を出しながら、

「なるほど、じゃあ本格的にやるなら古物商許可も申請しなきゃだね」

と何やら納得した様子。

「そんなのあんたが修理を始めるって言った時にすでに申請済みよ!まあ、役所に突っ込まれた時、最悪そっちで誤魔化そうってつもりだったけど、ちゃんと役に立ちそうね。」

「流石姉ちゃん!有能過ぎる!」

姉弟2人だけで何やら通じ合っているが、側で聞いてる俺と司馬さんは何の事か分からず、ただポカーンとしていた。

 

「事務所の大改装をする」

突然の社長の発言に、何でも屋の仕事から帰ってきたアキさんと康治くんが突然のことに唖然としている。

「いやね。司馬さんに聞いたら、この辺の人達って物持ちが良いのか、やたらと古い家電や道具を持ち込んでくるんだって。そう言うのって動かなくてもインテリアとか劇団の小道具とかで需要があるの。だから修理出来なかったのは、うちで買い取って、転売サイトと並行しながら、ここでもお店みたいに並べて売っちゃおうと思ってさ。」

それで工場兼接客スペースをさらに広げて、陳列スペースも作ろうという事らしい。

「確かに事務所は全然余裕ありますが、店まで開いちゃって大丈夫なんですか?」修理もやってて今更かもですか。」

心配そうにアキさんが言う。

「その点は大丈夫!そもそも社長が何も決めないで事務所用意してって言うから、その辺は融通の利くとこ選んでるので。」

早紀さん、親指を立ててドヤ顔だ。

「マジっすか、早紀さん有能過ぎっす」

康治くんも驚いている。

確かに、いつも行き当たりばったりなハイブリッジ企画が大きなトラブルもなくやってからているのは、早紀さんのお陰なんだろうなと俺も改めて感心する。

 

大改装という名のレイアウト変更は30分くらいで終わった。

まあ事務所の机をちょっと端に寄せて、パーテーションをずらしただけだからそんなに時間は掛からない。これを機にいつもよりしっかり目に掃除しちゃおうってなったから、そっちの方が時間とったかも。後は陳列用の棚と広がった分のパーテーションがあれば、完成だ。

社長ほ事務用品のカタログで陳列棚見ながら、

「…なんか、こう、オシャレな感じで高級感も演出しつ商品並べて特別感出すの、よくね?」

なかなかいいのが見つからないとボヤいている。

最終的に北欧の有名家具屋のネットカタログまで手を広げていた。

 

まずは陳列棚に並べる商品を揃える必要がある。

修理が出来なかった家電の買い取りをやりますと、修理にきた人達に伝えると、始めは修理の手を抜くんじゃ無いかと心配された。これは予想外だった。全くそんな事考えなかったが、確かに修理出来るのにせずに安く買い叩き、他所に高く売る業者もあるらしいのでその心配をするのも至極当然だ。そんな人達も、司馬さんの修理中の様子を見ると皆んな安心してくれた。そして、電化製品が直せなかった場合も、あの人が直せないなら直らないだろうと諦めてくれた。真剣に壊れた電化製品に向き合う司馬さんの本気がお客さんにも通じたのだ。俺もそれが誇らしかった。

そうして、電化製品を譲ってくれる人が1人、また1人と現れた。そのうち口コミで壊れた電化製品を引き取ってくれると広がったのか、初めから引き取り目当ての人も少なからずいて商品は結構集まった。この地区のルールだと、家電をゴミに出しても役所にお金を払わないといけない。役所にわざわざ行って、金を払うのだ。それならうちに売った方が得なのだ。

 

後日、事務所の隅に置かれたジャンク家電たちに、社長が綿密なリサーチをもとに設定した値札を康治くんがつける。

『電子レンジ1980年モデル 2000円』

『ラジオ1950年製(真空管) 5000円」

とはじめから壊れて動かないと断った上でレトロ感を演出する為のおしゃれアイテムとしての商品から、

『トランジスタ 1個50円』

『内部基板 200円』

まだ使える安価な部品まで、幅広い商品ラインナップだった。

「ちょっとカッコよくないすか?秋葉原のジャンクショップみたいで!」

陳列された商品を見て康治くんも喜んでいる。

すると、意外にもそれを買う人が現れた。

店と並行して社長がやっている転売サイトで店のことを知ったそっち方面の好事家が覗きにきたらしい。無線弄りが趣味のおじさんや、自作パソコンにハマっている学生。いる所にはいるものである。

他にもテレビの制作会社や劇団の小道具さんなどもレトロな道具を求めてやってくる。

元々売っているものが今は売っていない物。

だから一期一会の精神なのか、意外と躊躇せずに買っていくのだ。

俺たちはあまりの呆気なさに、呆然としながらも、気づけば俺たちの店はいつの間にか「修理屋+ジャンクショップ」という二つの顔を持っていた。

地元の人にとっては“便利な修理屋”。

「これ、直らないなら引き取ってくれるんでしょ?」

そんな依頼も日常になり、壊れた家電は自然と集まってくる。

 一方で好事家達には“宝探しの場”になっていた。

「え、これオシャレじゃん!500円?安!」

「この部品探してたんだよ!これとあれを組み合わせれば!グッフッフ…」

DIY好きの若者や工学男子が陳列棚を見て目を輝かせる。

気づけば店内は、壊れた炊飯器を修理に持ち込むおばあちゃんと、部品目当てでガラクタを漁る若者が同居する不思議な空間になっていた。

「いいっすねぇ!俺ら、地元のおばちゃんからもオタクの兄ちゃんからも頼りにされてるとか最強っすよ!」

康治くんが笑いながらレジに立つ。

俺はふと、心の中で呟いた。

―これ、もしかして“街に必要な場所”になってるのかもしれない。

社長が悪ふざけの様な理由ではじめた会社が、今は一つのコミュニティとして成長しつつあることに驚きつつも誇らしさを感じていた。

 

会社が順調な中、俺個人も良い変化があった。

大きく変化は、会社の仕事と実家の店の手伝い、世間的にどう受け止められるのかは知らないけど、俺の中ではダブルワークのつもりで働くようになった事だ。

前職の頃は、会社が何よりも優先であって、休みの日も資料作りだの客からの呼び出しだの、何かとやる事があった。そんな中で家の手伝いは仕事では無い、むしろそんな事で会社の仕事が疎かになってはいけないと罪悪感すら感じていた。

でも、ハイブリッジ企画に入ってからは、どちらも俺にとっては大事な仕事で、どちらも疎かにしちゃいけないって思えるようになった。特に俺の場合は店のお得意さんとハイブリッジでも関わる事が多いので、ハイブリッジでお世話になった事で、よりそのお得意さんを大事にしようと思えたし、お得意さんも前より足繁く店に来てくれるようになったと思う。店の売上も少し増えて来ている。そんな事があるとハイブリッジで関わる事があった際には恩返しのつもりでいつもより頑張れちゃったりする。そうやって頑張っているとお得意さんが別の仕事や知り合いを紹介してくれて、ハイブリッジの仕事がまた増える。

なんだか俺自身はただ頑張るだけで、どんどん良い連鎖が繋がっていく感じがすごく楽しい。そう思えるようになった。

なんだか毎日が充実している。

俺はふと気づく。

―ああ、こういうのが「働く」ってことなんだ。

食い扶持の為とか世間体が悪いから働かなきゃって思ってたけど、働く事で得られるものってこういう繋がりなのかも知れない。

その事に前職の「普通の」会社では気付かなかったのに、週休4日のまだ赤字だらけでごっこ遊びの様な会社に入って気付けるとは、なんという皮肉だろうと思わず笑ってしまう。

兎にも角にも、そんな感じで俺は充実していた。

仕事が楽しい!

人生で初めてそう思えた。

 

そんなある日…

いつものように実家の食堂を手伝っていた俺は、何となく顔色の悪い親父を見て、嫌な予感を覚えた。

「たまには病院行って健康診断でもして貰えよ」

と父に伝え、母にも

「親父、病院で診てもらったほうがいいぞ」

と釘を刺しておいた。

しかし、その日の昼前、会社の仕事で畑にいた俺に父親が倒れたと連絡が入った。

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