「週休4日、正社員雇用」なんて美味い話、ある訳ない!   作:ダブル亮禅

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13話 親父の頼み

「おう、優太!悪いな仕事中に。でももう心配いらねぇから、さっさと仕事に戻りな。」

病室に入るなり、親父は病院のベッドから元気に悪態をつく、そんな楽観的な想像で自分を鼓舞しながら病院へ急いだ。

病院に着くなり、手術室の前に通される。

そこには母がいた。

状況を確認すると、

「父ちゃん、開店準備してたら急にうずくまって、脂汗かき始めて、顔も真っ青で、もうこれはただ事じゃ無いって救急車呼んだんだよ。それで病院着いたら、もう、直ぐに緊急手術だって。もう母ちゃん生きた心地がしなかったよ。」

気丈そうに振る舞おうとしているが、涙目で顔色も青くなっている母にかなり危機的状況である事が伝わってくる。

既に手術が始まって2時間が経過しているらしい。

待つしか出来ない自分がもどかしい。

母親を見ると、精神的なところも大きいのだろう、消耗している。

「お昼食べた?」

と聞くが、

「私はいいよ。あんたは食べたのかい?」

と逆にこちらを気遣おうとする。

「俺たちが出来る事は無いんだから。何か食べなきゃ」

と言うが首を横に振る。

少しだけ時間を置いてまた聞いてみたが、結局、同じやり取りを繰り返すだけとなった。

ついに俺も根負けして、

「とりあえずなんか飲み物だけでも買ってくる」

と告げて、病院に入っているコンビニへ向かう。

向かいながら、スマホで「大動脈解離」を検索する。

「死亡率80%」とか「寝たきり」と言ったワードが目に飛び込んでくる。少しでも気持ちを慰めようとした検索で、逆に絶望感を植え付けられ、見なきゃ良かったと言う後悔と、現実を受け止めようと言う葛藤で頭がぐちゃぐちゃになる。

コンビニで母親に、とゼリータイプの飲み物とお茶を買う。

自分用に買った牛乳を店の外で飲む。

いつもなら一気に飲み干せる量を何度かに分けて飲み込んでから、母親の元に戻る。渡された袋を見てゼリーとお茶が入っているのを見て何か言いたそうな顔をしながら、結局母親はゼリータイプの飲み物を手に取る。一応固形物を口にしてくれたことで、俺は少し安心したが、慣れない飲み物に母親がむせて咳き込んだ為、なんとも申し訳ない気持ちになる。母は、

「ごめん、ごめん。でもこれ美味しいよ」.

と俺へのフォローのつもりか、美味しい美味しいとゼリーを飲んでいる。

そんな風にちぐはぐとしながら父親の手術の終了を待った。

 

結局、手術は8時間に及んだ。

手術は無事成功した。

父親はまだ意識も戻らず、集中治療室に移された為、こちらは全く実感は湧かなかったが、医者が言うには病院に連れて来るのがあと少しでも遅かったら助からなかったかもしれない状態だったようだ。

「あんたが家出る時、病院行く様に言ってたから、母さん、直ぐ病院連れて行かなきゃって救急車呼んだのよ。優ちゃんのおかげね。」

と母は言ってくれたが、俺は父親の異常に気付いていながら何も出来なかった自分に腹を立てていた。

 

その後、半日もしないうちに意識は戻り、翌日にはなんとかではあるが話が出来るまでに回復した。医者も一応様子は見るけど、あと2、3日もすれば一般の病室に移れると言ってくれた。

父親が話せる様になって言った最初のセリフが、

「…優太、使える食材…勿体無い、からお前、店やれ」

であった。

「えっ!第一声目がそれ?」

と驚いたが、流石は商売人!損失を少しでも抑えようと言うその根性が素晴らしいとおもうことにした。

それにしても、突然の業務命令である。

俺と親父は親子であると同時に弟子と師匠という関係でもあるし、部下と上司だ。小さな食堂であろうと親父は一国一城の主である。その城主が店をやれというのだ。

俺にやらないという選択肢は思い浮かばなかった。

その時、俺の頭にあったのはどうやってこのミッションをこなすかという事だけだった。

父親は当然として、母親も父親にべったりなので、母親の助力もない。完全に自分だけで店を回さなければならないのだ。

兎にも角にも明日には店を開けなければならない。

食材はこうしている間にも古くなってしまう。

明日は会社だが、休ませて貰う事にする。

病院からの帰り道、会社の近くを通る為、ついでに事務所に顔を出す。今日は会社が休みの為、社長はいないとは思うが、早紀さんは仕事をしているだろうから、事情を説明しておこうと考えたのだ。

まあ、なんかメール一つで有休取るっていうのが、ちょっと気が引けるというか、慣れないからちゃんと書面で有給届けを出すっていうのが本命だったり。

一応事務所に行く前に、有休届け事務所に置いておくので、確認宜しくとメールしておく。

 

事務所に着くと予想通り、早紀さん仕事をしていた。

「市川くん聞いたよー。わざわざ書面で出さなくても、メールだけで良いって前にも言ったでしょ」

と事務所に入るなり早紀さんから叱られる。どうやら社長から連絡が入っていた様だ。

俺は笑って誤魔化す。

「それにしてもお父さん、大変だったね。でも手術成功して良かった!もう話しできる様になったんだって?」

休暇届の用紙を俺に渡しながら早紀さんは言う。

「ご心配おかけしました。2、3日で一般の病室に移れるだろうってお医者さんも言ってくれたので、ひとまずは安心ってとこですかね。父も、早く店に戻りたいって、もうすっかり元気で。それで、ちょっと父から頼み事されちゃって、明日はお休みをいただきたいなと…」

と有給休暇の理由を説明しようとした時に、事務所に社長が入ってきた。

「おっ!優!いるな。良かった、間に合った」

どうやらメールを見て急いで来てくれた様だ。服はジャージだし、髪もボサボサなままだった。

「親父さんの容態とか聞きたくて、急いで来ちゃった」

自分の格好を見て呆れている俺を見て、社長は言い訳した。

「悪いな、休みの日に呼び出すみたいになっちゃって」

心配してくれた社長の気持ちが嬉しかった。

「何言ってるんだよ。親父さんの一大事だぜ。親父さんには良くしてもらってるし、心配してたんだよ。でも見舞いもまだダメだって言うしさ。だけど容態は良い方に向かってらって聞いて安心したよ。」

社長は時々、うちの店に食べに来る様になっていた。今じゃ準常連だ。

「ところで、優は大丈夫か?有休なんて夏の櫓組み依頼じゃん。なんかあった?」

俺の様子から何かを察した社長が聞いて来る。俺は父親より課せられたミッションについて説明した。

 

一人で店を回せるか心配している俺に、社長が自分の胸を叩いて言った。

「おい、そういう時、役に立つのが我らがハイブリッジ企画だろ?」

ニヤリと笑うその顔が、なぜか頼れる男に見えた。

まるで本当に“社長”の様に。

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