「週休4日、正社員雇用」なんて美味い話、ある訳ない! 作:ダブル亮禅
「まずい!まずい!まずい!
あれだけ啖呵切っといて、
まだ何も浮かばない!
明日社長になんて言えば…」
実家の食堂で頭を抱える俺。
この3日、ちゃんと考えた。
店の仕事中も、トイレでも、風呂でも。
昨日なんか考えすぎてお客さんの注文間違えて
親父に無茶苦茶怒られたのに…。
でも、まあそうだよな。
会社の事業なんてそうそう思いつくはずがなかったんだ。
そんな時、店に常連のおじいさんが入ってくる。
「いらっしゃい!空いてる席どうぞ!」
おじいさんはお気に入りのいつもの席に座る。
その席に水を持って行く俺、
接客しながらも、頭の中は
「どんな事業をするべきか」でいっぱいだった。
「どうした優坊。上の空って顔して」
流石は俺が生まれる前からの常連さん、
俺の事をよく分かっていらっしゃる。
「いやあ、実は…」
と事の経緯を説明する。
もちろん宝くじや婚活の為などという話は割愛させて頂きました。
俺が一通り説明すると、
「なるほどねえ。いわゆるあれだ!
ベンチャーとかいう会社に入ったって事か」
勝手に納得するおじいさん。
すみません。そんなベンチャーなんて立派なものじゃ無い、なんちゃって会社なんです。とは敢えて訂正しない。
「それにしても、仕事何しようってなあ。普通はなんか仕事をしてて、会社作ろうってなるもんだろ?」
返す言葉もございません。
「その社長さん、今まで何やってた人なんだい?」
不思議そうなおじいさん。
はい、ニートと転売ヤーですとは言えない。
「品物を安く仕入れて、高く売る?みたいな仕事かな」
うん、嘘は言っていない。
「へえ、ってっと商社か何かかな。まあ安く仕入れて高く売るってのは商売の基本だからな。基本がちゃんと出来てる社長なら安心だな、良かったな!優坊!」
安心?ないないと内心ではツッコミを入れる。
「それにしても、そんな社長さんに事業任せられるほど見込まれるなんて、男冥利につきるってもんだ!頑張れよ!」
その頑張る仕事が思いつかないんだけどねぇー。
「頑張りたいんだけどさ、何をすれば良いのか困ってるんだよ」
もう藁にもすがれ!だ。
「おう、おう、そうだっだ。…とりあえずこの町の人が喜ぶような、町が元気になるようなのが有り難いよなぁ。」
再び考え始めるおじいさん。
そこで、何か思い出すおじいさん。
「そうだ!仕事ってわけじゃねえけど、わしの近所の山田さんのお孫さんが飼ってる猫が昨日から行方不明らしい。千里の道も一歩から。まずは身近なとこから始めてみちゃあどうだい?」
猫探しか…山田さんって言ったらうちの店にもちょいちょい食べにくるし、お孫さんと来たこともあったな。なんとかしてあげたいけど、仕事としては微妙だな。
「まあ一度社長に話してみるよ。相談のってくれてサンキュー」
おじいさんから山田さんの連絡先を受け取ると、
ちょうど良いタイミングでおじいさんのうどん定食が上がったと厨房から呼ばれ、
「あいよ!」
とうどん定食を受けとりに行った。
翌朝、結局他に良いアイデアか浮かばなかった俺は
おじいさんから聞いた、猫探しの話をする。
「おお!猫探し!良いね!やろう!」
驚くほど乗り気な社長にドン引く俺。
そんな様子をにこやかに見ている早紀さんが、
「さとしちゃん。探偵モノのドラマとか好きだもんね」
と教えてくれる。
「そう!探偵ドラマの定番と言えば猫探し依頼!
そこからさらなるトラブルが物語を加速させる!
まさに王道的ストーリー展開!」
さらに興奮を加速させている社長。
今日の仕事は猫探しで決まりだな。
俺はおじいさんから貰った山田さんの連絡先に電話する。
食堂の息子の優太だと名乗り、
常連のお爺さんから聞いたと伝える。
「助かるわー」
と山田さんは家へ招いてくれた。
「フータロ、いなくなっちゃったの」
話しながら涙ぐむ山田さんのお孫さんーしのぶちゃん。
聞くと、
いなくなったのは5日前の昼ごろ。
2階の窓の隙間から出たらしい。
今までもちょいちょいこういったことはあったが、
丸一日帰ってこないなんて事は無かったらしい。
写真を貰い、特徴や癖など、変に手慣れた様子で聞き出す社長。
おいおい今メモつけてる、その微妙に小さな手帳、
いつの間に用意したよ。
山田さんの家を出る時、心配そうなしのぶちゃんに
「頑張ってみつけてくるから安心して」
と慰める。
「まあ、僕たちに任せなさーい!
とやたらと自信満々な社長。
「フータロ、お願いねー」
手を振るしのぶちゃんを見送られながら、
「絶対みつけような」
社長と頷きあう。
そのあと社長に連れられて、保健所へ。
「えっ?保健所に何のよう?」
保健所に連れてきた社長にたずねる。
「フッ、探偵は依頼人が考えたがらない、
最悪の可能性から調べるものなんだぜ!」
絶好のチャンスとばかりにポーズをとり、格好をつけて言う社長。
「なるほど、それは確かにそうだ」
素直に感心する俺。
「おう。とりあえず最近の殺処分がいつ行われたか聞きに行くか」
保健所に入る俺たち。
殺処分はここ何週間かは行われていなかった。
はじめは動物愛護団体のクレームかと警戒されたが、
しっかり名を名乗り、近所のお孫さんのために
猫を探していると伝えるとあっさり教えてくれた。
ついでに保健所に保護されている猫を見せてもらうことに。
まあ、流石にそんな都合よくいないだろうけど、
万が一ってこともあるし、ダメ元で見せてもらう。
ー
いた。
写真を見ても同じ。
聞いてた癖や特徴も全く一致。
フータロって呼ぶと寄ってくる。
おまけに首輪にはコータロと書いてあった。
もう間違えようがない。
社長と顔を見合わせる。
念の為、山田さんとしのぶちゃんに保健所に来てもらう。
「フータロ!どこ行ってたのよ!もう!」
目の前では感動のご対面が繰り広げられている。
猫はやっぱりフータロだった。
保健所にワケを話し、山田さんに引き取りの書類を書いてもらい、
無事、フータロはしのぶちゃんの元へ。
めくるめく物語を期待していた社長は拍子抜けして
しばらく呆然としていたが、
しのぶちゃんがあまりにも喜んでいるので、今は嬉しそうだ。
そんな俺たちの所にしのぶちゃんが来て、
「フータロ見つけてくれてありがとう!これお礼のお金!」
と両手いっぱいの小銭を差し出す。
社長はそれを受け取ると、
「毎度ありがとう!また困ったことがあった時は電話してね」
と名刺を渡す。
「ありがとう!シャチョーありがとう!」
と見えなくなるまで手を振るしのぶちゃんを後に
事務所に戻る俺たち。
「見つかって良かったな、猫」
社長が呟くように言う。
「ああ、なんかこういうの良いよね。」
社長の机を見ると先ほどの小銭が置いてある。
「そういや、さっきのお礼いくらだった?」
「574円だね。」
言った後、ニヤリと笑う社長。
「猫探し1回574円か。ガソリン代にもならなかったな」
と俺は残念がる。
「でも、まあ、ああいう依頼でお礼が子供の小銭っていうのも、
ある種定番だったから僕的にはありかな」
とあいかわらず呑気な社長。
しかし、急に真剣な顔をして、
「確かに今回は儲けはないし、ボランティアみたいなもの。
でもこう考えたらどうだ?会社の宣伝をしているんだってな。
だからこういう相談事があったら、また僕らで解決しよう。
そうやって相談事を解決していくうちに、顧客のニーズって
やつも掴めるんじゃないかな。
言いかえればリサーチだな。
そうやってニーズを掴めば、事業にもつながるんじゃないか?」
と語りだす。
「でもそれじゃあ、しばらくは儲けなしになるな…」
不安がな俺に、社長は胸を叩き、
「もともと儲かる気なんかゼロで始めた会社だぜ。
儲からないのが当たり前!
むしろそれが将来の投資になるなら万々歳!
その為の金は惜しまんよ。金ならある!」
何やら社長が頼もしく見える。
「金ならある」
どうやらさっきの台詞が気に入ったらしい。
同じ台詞をひたすら強調するように再度言う。
うん、社長は通常運転だ。
翌日、俺は店の壁に貼り紙を貼る。
よろず困り事お引き受けいたします。
〜有限会社ハイブリッジ企画 連絡先◯◯◯〜
筆で書かれたその貼り紙をひとまず満足げに眺める俺。
どう転ぶかわからないけど、とりあえずはやってみよう!
会社の事業については相変わらず全く見えてこないけど、
少しは前向きになれたかなと、
ふと思った。