「週休4日、正社員雇用」なんて美味い話、ある訳ない!   作:ダブル亮禅

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6話 再就職して初めてのお給料

「いやあ助かりました。

来年も宜しければ、お願いしますね。」

農協の星さんがにこやかに頭を下げてる。

「いえいえ、こちらこそ良い体験ができました。

来年も是非!お声がけ下さい!」

あわててこちらも頭を下げる。

「ありがとうございます!

いやあ実際いつもこの田植えのシーズンは農家の皆さん腰痛やらなんやらで接骨院や整形外科に入り浸ってますからね。それが今年はだいぶマシだって喜んでましたよ。体キツくなったから農家やめちゃう方も増えてきてるので、農協としても有難いです」

と星さんも嬉しそうだ。

 

「今回は俺たちが田植え始めたのが

遅かったみたいで、

既に田植え終わってた農家さんから、

来年は頼みたいって声いっぱい貰ってるらしいよ。」

と農協で聞いた話を社長に伝える。

「おお!来年以降も田植えできるのか!

これはもう、うちの会社の事業内容に

加えちゃっても良いんじゃない?

これはこの前Amazonで見た長靴ポチッとかなきゃな」

と気の早い社長。

「でもまあ確かに農家で人手が

不足しているっていうのは今回よく分かったし、

田植えに限らず、幅広くやっていくのも良いね」

作物を作る。人にとって基本とも言える仕事。

ただの手伝いとはいえ、その一端に関わる事が出来たのが、なんだか誇らしいというか、自信になったというか。なんかうまくは言えないけど、少なくとも、農家の人たちや農協さんという縁ができた事。これが最悪、食うのには困らないという事、なんとも心強い気持ちにさせてくれた。

そんな事を社長と話していると、

事務所に早紀さんが入ってくる。

 

早紀さんは、社長に封筒を渡す。

「あれ?今日だっけ?」

と受け取った封筒を見て一瞬焦っていたが、

あわててネクタイを締め出し、

カッターシャツのボタンを止め、

スーツの上着を羽織る。

そして、んっんっと軽く喉の調子を整えると、

「あ〜市川くん、ちょっと」

と俺を呼ぶ。

俺も一瞬何事か?と心配になったが、

社長の口元がニヤけているので、いつものお遊びだなと

付き合う事にする。

「はい!社長!」

といつもより少し真面目風に社長の机の横に馳せ参じる。

すると、

「今月一か月間お疲れ様、優」

と、先程の茶色い封筒を俺に渡してくる。

茶封筒の中には一枚の紙が入っていた。

"6月度給与明細"

そう書かれていた。

「あっ」

そう言えば、もう1か月か!

転売ヤーやら、猫探し、

あとは大半が田植えしてただけだけど、

ちゃんと1か月経ってたんだ。

給与明細という事実が俺は手のひらの中で

たった一枚の紙を少し重く感じさせた。

給与明細を見る。

額面──168,250円。

手取りで13万弱。

確かに金額だけ見れば超薄給。

でも俺が思ったのは?

(……え、こんなに? 俺、まだ大した働きしてないよな?)

転売の手伝いでマックのハッピーセットを買い占めさせられたり、事務所の掃除をしたり…正直、猫探しや田植えは社長の活躍でやり遂げられたって感じだし、俺、こんなに貰えるほどの働きは出来ていない。それに週に3日しか働いていないんだぞ。

「…これ、流石に多くない?」

思わず声が漏れた。

さっきまで、スーツとネクタイでビシッと決めて社長は、

既に背広を脱ぎ捨て、ネクタイも外し、カッターシャツのボタンも3つくらい開けて、今は椅子に座ってポテチをつまんでいた。

その社長が、その呟きを聞き、

「一般的な会社が週に5日働くから、週3日勤務のうちは3/5くらいかなーってその金額にした。つか求人にもその金額で載ってたろ。むしろ今月の仕事はほとんど優がとってきた仕事なんだから少ないくらいだ。」

と何を言ってんだ?みたいな顔で社長が言う。

「あれはたまたま店の常連さんが依頼してくれただけで、俺は何もしてないって。と言うか?こんなに出して会社的に大丈夫?」

俺は心配になって聞いてみる。

「大丈夫、大丈夫。金のことは姉ちゃんが全部見てるから安心しろ」

と能天気な社長に困った顔で早紀さんが答える。

「そうね…。大丈夫か?と言われたら会社としては6月は赤字ね。」

ほらみろと言う顔で俺は社長を見るが、

「まあそうだろうね。結構働いたんだけどなー」

と涼しい顔。

それを肯定するかの様に早紀さんが続ける。

「うちの会社、元から何もしなくても何人か従業員入れて10年は続けられるだけの資金がある状態でスタートしてるのは知ってるよね?」

採用された時の面接を思い出し頷く俺。

「この従業員、ざっくり言うと6人か、7人なんだけど、それで10年は持つ。だからそもそも社長の他に市川くんが1人しかいない現状だったら何もしなくても30年は会社続けられるの」

いつかは終わると漠然と考えていた俺に30年と言う数字はかなりの衝撃だった。その俺の顔を見て、ちょっと笑いながら早紀さんはなおも続ける。

「それに今月は猫探しとか田植えとか収入があったでしょ。あれで今月の支出の30%弱は稼げたから、この調子でいけば40年以上は続けられるんだよ」

「40年!俺、定年まで働けるんですか!」

40年って言えば、40年後俺は67歳!67歳って言えば余裕で定年退職!最後まで働けるって事だ!ほんのお試しで入ってみた会社だけど、一生涯働けるならありがたい!

「まあ、あくまで現状維持出来ればって話だけどね。

少しは安心してもらえた?」

嬉しそうな俺様子を見てホッと一息ついている早紀さん。

改めて、もっと頑張って会社を続けたい俺は、

「俺、今は全然役に立ってない、

まだこれだけの給料貰える資格はないです!」

と切り出す。

早紀さんは少し肩をすくめ、落ち着いた声で答える。

「労働契約を結んでいる以上、あなたは立派な正社員です。きちんとした対価を受け取る権利があります。資格が無いなんて事ないのよ」

と今度はちょっと嗜める口調で早紀さんが俺にいう。

「はい!だからこれからはもっと頑張って、

会社続けられるように俺、稼ぎます」

と高らかに宣言する。

「真面目だな優は」

「真面目ね」

と姉弟は呆れた顔で顔を見合わせた。

 

「そういや、こういう給料の事とかも

早紀さんがやってるんですね。」

ふと気付いて聞いてみる。

「まあ普通はしないわよ。特別よ、特別。

でもまあタダ働きって訳じゃないのよ、

一応顧問料も貰ってるし。」

甘やかしているわけではないとでも言いたげに、

早紀さんは答える。ただ、続けて、

「まあ、多少は“家族割り”でお安くしてますけどね」 

とちょっと頬を赤らめて言っている所を見ると、

本当に良い姉弟だなと改めて思った。

弟の社会復帰の為に弟の起業を支える姉。

なんだかんだと文句を言いながらもちゃんと前に進む弟。

微力ながら俺も頑張らなきゃな。

俺は明細書を胸ポケットにしまいながら、気持ちを新たに、

「じゃあ俺も張り切って仕事探しに行ってきます!

目指せ!定年!の精神で!」

と次なる仕事を求めて、事務所を出るのだった。

 

優太が飛び出した後の事務所。

 

「今の説明で良かったかな?」

事務所を出る優太を見送った後、早紀が言う。

「なんか元気そうだったし大丈夫じゃない?」

と、社長が答える。

「でも今月の稼ぎ、支出の30%弱って

言ったけどその7割がハッピーセットの転売

の稼ぎだって言った方が良かったんじゃ…」

あえて説明を省いた事に罪悪感を感じる早紀。

「大丈夫だって。実際、やる気出してるんだし。

結果オーライ!従業員のやる気を引き出すのも

経営者の仕事っていうじゃん!」

姉を励ます様にわざと明るく言う社長。

姉を気遣いながらも、

「役に立ってない」「もっと頑張る」

と語る市川優太に少し違和感を感じるのであった。

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