「週休4日、正社員雇用」なんて美味い話、ある訳ない! 作:ダブル亮禅
「ちんどん屋、ですか?」
次なる仕事を探す為、顔の広そうな人に話を聞こうと実家の食堂が入っている商店街の町内会会長に会いに来た優太は、予想外の仕事を依頼される。
なんでも、毎年商店街で恒例の福引き大会。
その賑やかしと宣伝を兼ねて毎年ちんどん屋さんに商店街とその付近を練り歩いてもらっていたんだけど、そのちんどん屋さんも団長の高齢で解散してしまったのだとか。一応元ちんどん屋メンバーに声を掛けて、定例化していたこの福引き大会だけはもやってもらえないか交渉した所、何人かは了承してもらえたが、どうしても来れないって人もいてメンバーが揃わず困っていたんだそうだ。
「去年までと同じ様に賑やかで活気のある
ちんどん屋行列にしたいからさ、
優ちゃんも頼むよ!少ないけど謝礼も出すしさ」
仕事がないか聞きに行ったのに、最後の方は町内会会長に頼まれる感じになっていた。本当に人が集まらないんだろう。
「社に持ち帰って、上司と相談してみます」
と一応社長に報告をしてみた。
「ハハッ、ちんどん屋か!面白そうじゃん!
やろう!やろう!」
面白がる社長に、これだけ色んな事に興味持ってやってくれるのに、なんでこの人ニートなんかやってたんだろうと疑問を持ちながら、
「普通にチラシを配るだけでも、良いって言われたんですが、なんせ人手不足らしく、楽器使える人がいれば、謝礼に色つけるそうだけど、社長、なんか楽器できる?」
流石の社長も楽器までは無理だろうなと思いながら聞いてみる。
「うーん、楽器なぁ…」
とちょっと渋い顔をする社長を見て、
「あらさとしちゃん、小学生の頃、バイオリンやってでしょ」
と事務所に来てた早紀さんが横から言う。
「えー15年以上バイオリンに触ってすらいないけど、いけるかな?」
と自信無さげな社長に、
「良い機会だし、久しぶりに弾いてみたら」
と軽く言う。
「一度、物置の奥から引っ張り出してみるか…」
と頭をぽりぽりかきながら社長は自宅へ
バイオリンをとりに行った。
俺は早紀さんに、
「社長、バイオリンやってたんですか?」
と驚いて聞く。
「親の教育方針でやらされてたから、さとしちゃんにはあまり良い記憶ないかもね。でも、5、6年やってたし、それなりのもんよ」
と説明する。
社長がさっき少し渋い顔になったのは、親にやらされてたからかなと事情を察する。
「でも、バイオリン習わせるなんて、早紀さん達のご実家って、結構裕福な感じですか?」
以前から金に無頓着な所のある姉弟について思っていた疑問をこれ幸いとぶつけてみる。
「んー、裕福かって言うとそうだったかも。うちの父、一応小さいながらも会社を経営してたし。さとしちゃんはずっと跡継ぎとして厳しく育てられたから反発してああなっちゃった。でも父が一昨年に亡くなって、会社も別の人に譲ったの。それで会社とも経営とも縁が切れたって思ってたら、宝くじ当たったから会社やりたいって急に言い出して。私、びっくりしたのよ」
と、聞いていないことまで話す早紀さん。
早紀さんももしかしたら話しておきたかったのかもなとふと思った。
「おかげで俺はこの会社に出会えたわけだし、俺、結構ここで働くの好きですよ」
俺もどう答えて良いか分からず、でも何か言わなきゃと思い、
やっとそれだけを捻り出した。
そこに社長が帰ってくる。
「いやあ、物置の結構奥の方にあったから潰れちゃったかと焦ったよー。でも何とかちゃんと音出るわ。良かった良かった!」
と、能天気に笑いながら事務所に入ってきたのを見て、俺と早紀さんは思わず笑ってしまった。
翌日、顔合わせとひと通りの段取りを打ち合わせる為に即席のちんどん屋メンバーが集まった。
元々のちんどん屋メンバーは三人。
やや年配のリーダーの獏さんが口上、
小柄な椎名さんがtheちんどん屋とも言えるチンドン太鼓、
紅一点のよう子さんがチャルメラを担当するらしい。
それに加え、一般参加が3名。
商店街にあるジャズバーからの紹介出来た康治くん。
そして我ら有限会社ハイブリッジ企画の2人。
総勢6名の新生ちんどん屋がここに誕生した!
リーダーの獏さんから、当日の流れを一通り教えてもらい、その後はみんなで練習した。
康治くんはサックス担当でジャズバーの紹介だけあってすぐに元ちんどん屋メンバー3人と息のあった演奏をしていた。
我らが社長も15年のブランクがあるとは思えない素晴らしい演奏で4人を盛り上げていた。
俺も負けじとチラシを配る練習をした!
あくまで練習だからエアチラシ配り。
いや大事だよ。ちんどん屋ってそもそも注目を浴びて宣伝をするための仕事だからね。宣伝が目的。だからチラシを配るのは一番大事な仕事なんだからね!と自分を励ましながら…。
ちなみに今回の仕事は商店街の都合もあり、土日曜にやる事になった。会社については振替休日という事で対応して貰った。実家の店については忙しい土日抜けるの大丈夫?って親父に言ったら、再就職決まった時に、平日火、木、金の3日抜けるけど大丈夫?って聞いた時と同じ「元々母さんと2人でやってた店だ。気にするな」って返事だった。
かくして、後顧の憂いなく、準備万端整い、
福引き大会の日を迎えた。
当日、俺はやる気に満ちていた。
昨日思い付きで町内会の会長にチラシと一緒に、
うちの会社の広告もつけて良いかとダメ元で
聞いたらOKが降りたのだ!
我が社の知名度アップのチャンス!
名刺大のチラシを作って、
昨日夜遅くまでかかってホッチキスで止めました。
名刺大のチラシには
「忙し過ぎて猫の手も借りたいという貴方!
そんな時はUber感覚で猫の手貸します!
助っ人宅急便!」
というコピーと我が社の連絡先が記載されてる。
田植えの一件でこの辺りではそこそこ知名度は上がってきているみたいなので、これのチラシで更に集客につながれば嬉しい。
年に一度恒例行事となっている福引き大会のちんどん屋。
けたたましく音を鳴らしながら行く我々を皆が注目する。
そこに響くリーダーの口上に、
愉快な中にも少し間の抜けた音楽、
俺も負けじとチラシを配る。
エアチラシ配りでは得られなかった
達成感が嬉しい!
歩く毎に地元の子供達がちんどん屋の行列に加わっていく。
大人達も思い思いにスマホで写真や動画を撮っている。
ちんどん屋一行は一度商店街を一周した後、商店街を中心に輪を描くように周辺の通りをぐるぐる回る。通りを3つぐらい跨いだあたりで、今度は逆回転で商店街に戻る。
そこで一旦休憩。
これをあともう2回やる。
「お疲れ様!なかなか大変ですね」
歩きながらのサックスは大変だろうに、
まだまだ疲れの見えない康治君に
スポーツドリンクを渡しながら話し掛ける。
社長は既にスポドリを飲み干して
椅子にもたれ掛かって動かない。
「飲み物あざーす!
いやいや市川さんもお疲れ様っす」
「康治くんはずっと吹いてるでしょ。
吹きながら歩くってしんどくない?」
と俺が言うと、
「まあ慣れっすね。それより暑いのがキツいっす」
と笑いながら言う。
「そういや市川さんって、高橋さんと同じ会社なんすよね?」
高橋?と聞いてピンと来なかったが、康治君が社長の方を見ながら言うので、社長の名前が高橋だったのを思い出す。
「そうだよ。まあ会社って言っても俺と社長2人だけなんだけどね」
宝くじの資金を食い潰して運営してるとは言わない。
「そういや、市川さんの会社のチラシに受付は火、木、金って書いてたんすけど、他の曜日とかは何してるんすか?」
早速チラシの反響が!まあ雑談のネタだけどと1人ウケながら、
「いや、うちの会社、火木金の3日しかしてないんだよ」
と正直に話す。
「ええっ!マジっすか!そんな会社あるんすか!」
と驚く康治君。
そこで以前、社長が言ってた事を話した。
「うちの社長が言うには、
日本って仕事って言うとすぐ
しっかり腰を据えて自分の人生賭けて
全身全霊でやれ!みたいなとこあるでしょ。
あれが嫌なんだって。
仕事なんて所詮食い扶持。何でも良いのよ。
もちろん人生賭けて仕事やりたい人は
頑張れば良いしすごいと思うよ。
でも皆んなが皆んな、自分の人生も、
家族よりも優先する覚悟を持たなきゃ仕事
しちゃいけないのはおかしいってさ。」
なんかうんうんと仕切りに頷いている康治君、
「俺も親からいい加減夢諦めて就職しなって
言われるんすよ。」
と悔しそうに言う。
「でも確かに日本で普通の会社に勤めると、会社が優先になっちゃうからね。俺も実家の食堂と両立しようとしたら体がついていかなかったよ。」
俺は同僚達のまた失敗しやがったって顔を思い出す。
「そうなんすよ!就職したらなんか仕事を1番優先しろってなるんすよね。俺の仲間も何人それでジャズ辞めたか…」
指折り数える康治君。
「実際、仕事のある日はもちろん、
休日も連絡入れば即駆けつけなきゃだから、
スケジュールが会社が優先にはなっちゃうよね」
確かに言われてみれば、会社行き出すと
会社のスケジュールに合わせて動くようになるなぁと前の会社を思い出しながら話す。
「だから今は時間が自由になるフリーターやってんすけど、やっぱ微妙に世間の風当たりが冷たい感があるっす」
と康治君は肩を落としながら呟くように言う、続けて
「市川さん、週3勤務ってどうです?」
と聞いてくる。
「上手くは言えないけど、
実家の手伝いと会社が、両方いい感じで
刺激し合ってる気がする。
店の手伝いが会社の仕事につながったり、
会社の仕事であった人が店に来てくれたり。
なんか今はそう言うのがすごく楽しいんだ」
と田植えで知り合った人が店に来てくれた時のことを思い出しながら、その時の気持ちが少しでも伝われという思いで話した。
「なんか良いっすよね。そう言うの。
俺もジャズと会社、両立して良い刺激欲しいっす」
と康治君が羨ましそうに言う。
「なら僕の会社で働いてみないか?」
急に声がして振り向くと、
「社長!」
そこにはさっきまで疲れ切って動かなくなってた社長が腰に手を当て立っていた。
「話は聞かせてもらった。
コージーのサックスの腕前は一緒に回ってて知っている。
我が社ハイブリッジ企画はコージーの夢を応援しよう!」
と康治君に腕を差し出す。
「いや、コージーって、社長」
いきなりのコージー呼びに思わずツッコむ俺。
「僕は君のような人の為に会社を立ち上げた!
仕事何かの為に夢を諦めるな!」
えっ?そうだっけ?キャバ嬢に社長ってチヤホヤされたいからじゃなかったっけ?とか野暮なことは言わない。
俺だって康治君を応援したい気持ちは一緒だ。
「はい!高橋さん!俺も夢掴みたいっす」
社長の差し出した腕を掴み、康治君も乗ってくる。
「よしっ!コージー!今日から僕のことは社長と呼べ!」
と調子に乗る社長。
「はい!シャチョー!」
なんか社長のイントネーションが軽い。
とりあえず有限会社ハイブリッジ企画に新たなメンバーが加わった。
…
…って、
「いやいやいや!康治君が仲間になるのは俺も嬉しいけど!
ちゃんと先に説明しておかなきゃ、ダメでしょ社長」
思わずツッコむ俺。
そして、この会社が宝くじの当選金を資金とした本当に有限な会社である事、やる事も決まっていない事、さまさま会社創設の動機が社長の社長と呼ばれたい!である事などなどを社長と説明した。
きっと康治君もドン引きすると思いきや、
「マジすか、マジロックじゃないっすか!
面白そう!俺やりたいっす!」
と逆にさらにやる気になっている!
「大丈夫?宝くじだよ。無くなったら終わりなんだよ。
まあ当分もつみたいだけど。」
と念を押したが、
「大丈夫っす!その頃には俺、売れて逆に
会社を儲けさせてみせますから!」
と胸を叩いて言い切った。
「夢のある人はやっぱ強いな」
その頼もしさに、ちょっと嬉しくなった。
兎にも角にも、
康治君が新たな仲間に加わった!