「週休4日、正社員雇用」なんて美味い話、ある訳ない!   作:ダブル亮禅

8 / 16
8話 櫓を作ってみよう

こうして我がハイブリッジ企画は康治君を加えた3人となった。

 

その後、その日のちんどん屋興行を終え、

最終日である2日目の興行も2回目が無事終わり。残すところあと一回となっていた。

「なんかこれが次が最後って思うと寂しく感じるな」

体的には疲労困憊だったけど、そんな事よりこの6人のちんどん屋が次で終わると思うと寂しかった。

「そうっすね。はじめはバーのマスターから思いっきりサックス吹けるぜって言われて来たけど、こういう音楽も楽しかったっす」

と最後の興行を惜しんでいる様子。

そんな所に休憩中どこか行っていた社長が戻ってくる。

「聞いてくれよ!さっき会長さんから今年のちんどん屋評判良いから、また来年もやってくれって言われた!」

どうやら来年もまたちんどん屋を出来るらしい!

「「よしっ!」」

とハイタッチを康治君と俺。

それを見て社長は

「来年どうする?って一応聞きに来たけど、大丈夫そうだね。」

とニヤリと笑いまた部屋を出ていった。

 

もちろん最後の興行もしっかりとやった。

周りのお客さんもこれが見納めって事で沢山集まってくれた。

こちらも最後に全て出し切ってやろうとより力が入った。

人だかりの中をチンドン興行してると、

小さな女の子が飛び出してくる。

「待ちなさい!りん!…キャッ!」

その女の子を追いかけて来た女性がちんどん屋一行の前で転ぶ。

「大丈夫ですか?」

俺が駆け寄ると、どうやら捻ったらしく足をさすってる。

「おかあさん、だいしょうぶ?」

さっき飛び出して来た女の子も心配して戻って来ている。

「大丈夫よ。すみません、すぐに退きますから…痛っ」

すぐに立ちあがろうとした女性だったが、

足の痛みで立ち上がれないようだ。

「肩貸します。掴まって下さい、確か湿布とかあったと思うので」

俺は肩を貸し、そのまま自治会の本部に連れて行くことにする。確か自治会本部に救急箱があったはずだ。あと自治会メンバーに接骨院の院長もいるからついでに診て貰おうと考えたのだ。

 

「親分さん!さっき転んだ時に足やっちゃったみたいで、ちょっと診てあげてください。」

親分さんというのは接骨院の院長の事で、昔から商店街でそう呼ばれている。どうやら昔テレビのキャラクターに同じ苗字の人がいたらしく、その呼び方がついたらしい。

親分は酒が入ってるようで、少し顔は赤かったが、

女性の様子を見ると真剣な顔で見てくれた。

「まあ、捻挫だね。ちょっとしばらくは安静にしておかなきゃね」

としばらく休んでもらう様なので、後のことは親分さんに任せて、俺はちんどん屋の列に戻ることにする。

別れ際、女性と女の子が、

「ご面倒をおかけしてすみません」

「おじちゃん、ありがとう!」

と言ったので、

「どういたしまして」

と頭を下げて、チラシ配りに戻った。

 

最後のちんどん興行を終え、自治会の休憩所に向かう前に本部に挨拶に行く、

「お疲れ様です。一通り終わりました〜」

リーダーの獏さんが自治会会長に依頼された仕事の終了を伝える。

「おお、お疲れ様、獏さんに、皆さん。おかげさんで今年は例年以上に盛り上がりましたわ」

と笑顔で会長が言うと、

「おいおい、俺ら去年までも参加してたんだけど?」

と元ちんどん屋メンバーの3人が笑っている。

「いやまあ、実際、久米田君のサックスも本格派だったし、高橋君ののバイオリンもなかなかの腕前。俺たちもいつも以上に張り切っちゃったよ」

とチンドン太鼓の椎名さんが興奮気味に話す。

「そうね。タカさんの言う通り、

私もすっごく新鮮な気持ちでできて楽しかったぁ」

よう子さんも同意する。

「まあそういう事だから、来年も宜しくな」

と言うと獏さんは手を差し出す。

社長はそれに応じ握手をする。

「来年も、我がハイブリッジ企画を宜しくお願いします!」

 

そんなやりとりをしていると、

ふと目の端に知った人物が映る。

「あれっ?さっきの」

先ほど足を怪我した女性がそこにはいた。

「さっきはどうもありがとうございます。」

再びお礼を言われる。

「いやいや俺は大した事してませんし」

と言いながら女性の横にあるソファを見ると、

先ほどの女の子が寝ていた。

「この子、疲れて寝ちゃったみたい」

と俺の視線を見て女性が言う。

改めて女性を見ると、

怪我をしたらしい足はガチガチに固めてあり、

よく見ると女性の脇には松葉杖が置いてある。

「足、そんなに悪かったんですか?」

俺は心配になりたずねる。

女性は恥ずかしそうに、

「骨とかは全然なんともないらしいんですが、

1週間は安静にしろって先生が…」

湿布貼っときゃそうなうち治るかなと思っていたが、意外としっかり捻挫になってしまったらしい。

「それでなんですが、実は今週の金曜日、

夏祭りの櫓組みする約束があって。

この足だとちょっと出来ないかなって言ったら

先生からお二人がそういうの代わりにやってくれる

って聞いたので、待ってたんです。」

と女性が言う。

「なるほど、仕事の依頼でしたか。

夏祭りの櫓組みって言うと商店街の横の公民館?」

「そうです、そうです。

あ、申し遅れました。私、荒川アキと申します。

こっちは娘のりん、今年から小学校にいってます」

とソファで寝ている女の子の方を見る。

「荒川さんとこは去年、旦那さんが亡くなってねえ。

櫓組みは旦那さんが参加する予定だったんだけど、

元々女性には大変なのに旦那さんの供養になるって

櫓組みに参加するって言っててねえ。

流石にその足じゃダメだ、止めときなって

言ったんだけどね。聞かないから

それなら代役はどうだい?ってね」

話を聞いていた自治会長が補足で説明してくれる。

「聞いたら金時食堂さんとこの

息子さんが働いてるって言うし、

真面目な方って聞くあし、

地元の人だし安心かなって。」

と若干詰め寄り気味に懇願してくる。

「夫が生前、毎年楽しみにしてたイベントだったんです!

地元に根付いて生活してるなぁって実感できるって!

私達2人とも親が転勤族で

地元と呼べる場所無かったから、

せめてりんには地元と言える場所を

作ってあげようって!夫との約束なんです!」

アキさんは少し涙目で訴える。

その話を聞いて、俺は少し居心地が悪くなる。

俺、地元に住みながら櫓組み、サボってました。

すみません…。

「すみません」

頭の中で言ったつもりが口から出ていた。

せっかくだし、このまま俺の考えを伝えよう。

そう決意する。

「そんな話聞いた後じゃ、俺、代役で

櫓組みに参加するなんて出来ません。

地元民として、店を代表して参加させて貰います」

と宣言する。

自治会長にも参加の承諾を貰う。

アキさんは呆気に取られながらも、

「本当に真面目なんですね」

と少し笑った。

そこに獏さんたちと話してた社長が入って来て、

「櫓組みするの?僕、やるやる!やりたい!

そういうの興味あったんだ!DIYとか!」

と立候補する。

まあ社長さんなら大丈夫だろとの自治会会長の

お墨付きもあり、あっさりと代役が決まった。

 

櫓組み当日。

その日は出勤日だったが、

社長の厳命で俺は今日有給休暇扱いになった。

会場の公民館で社長と合流する。

何故か、康治君も来ている。

「いやあ、力仕事だったら俺に任せて欲しいッす。」

と頼もしい。

「依頼主の荒川さんにはコージーはジャズバー枠で参加って事にしてるから」

と社長がこっそりと補足してくれる。

「流石!社長!分かってる!」

と社長をヨイショする俺。

アキさん、旦那さん去年亡くなってシングルマザーだからあまり余裕は無いらしい。でも、律儀な人みたいだから櫓組みに2人来たってなると謝礼を2人分出しかねない。康治君は地元枠での参加って事にしとけば余計な気遣いをさせないで済む。

そこに気付いた社長、グッジョブです。

「そんな事より、櫓組み、ちょっと楽しみだな。

地元の人とやるっていうのもなんか良い!」

と照れたのか社長が話題を変える。

「そういや社長、結構行動派だよね。

何にでも興味持ってやってくれる。

本当にニートやってたの?」

と今まで疑問に思ってたことを聞く。

「やってたよニート!。

あと、行動派っていうのはちょっと違うかな。

その点はむしろ普通だと思う。

むしろ逆なんじゃ無いかな。」

行動派って言葉にしばらく考えて、社長は言った。

「逆?」

と聞き返すと、

「田植えにしても、、猫探しにしても、

ちんどん屋にしても、今回の櫓組にしたって

どれも誰もがやってみたいと思う仕事だと思う。

でも、田植えなら苗を育てたり、

植えた後も雑草抜いたり手間暇かかる。

猫探しやちんどん屋だってそれだけで

仕事として食べていくのは難しい。

櫓に関しては、普通はボランティアだし、

地元との付き合いみたいなのがついて回る。

だから気軽に手を出さない訳、

それがうちだったら田植えなら田植えだけ、

猫探しだって、ちんどん屋だってチャレンジ出来て、

飛び入りで櫓だって組めちゃう。

責任も、準備も、日々の研鑽もなく

出来るんだから、そりゃやってみたい!

ってなるよ。」

と自信ありげに答える。

「なるほど、働き方の問題か」

そう言った面も確かにあるなと変に納得した。

 

公民館の端の方には」顔だけは必ず出します」と

譲らなかったアキさんが他のご婦人たちを手伝っている。

娘さんのりんちゃんはまだ学校だろう。

代役まで自腹切って準備しているのに

わざわざ自分も参加する。

その律儀さに、尊敬の念を感じつつも

「大丈夫かな?」と危うさも感じる。

人間、手を抜くべき所は抜いておかなければ、

潰れてしまう。と俺自身の体験を思い出す。

そうやって気にかけるようになり、

ちょいちょい話しかけていると

いろんな話を聞くことができた。

 

旦那さんが亡くなったのは癌だったらしい。

一年くらいの闘病で、しっかり死と向き合う

事が出来たから、意外と亡くなった時も

受け入れられたらしい。

それはりんちゃんも同様らしく、

時々悲しむ事もあるが、その都度、

でもお父さんは頑張ってたから、

りんも頑張らなきゃって泣き止むらしい。

癌で亡くなった事で住宅ローンはチャラに。

それでも将来のりんちゃんの

学費などを考えると夫の保険金には

手をつけられないので、

生活費分稼ごうとパートで働いているが

今の仕事だと結構拘束時間が長く、

りんちゃんとの時間が取れないのが

悩みなんだそうだ。

 

作業しながら社長や康治君に、

聞いた話を共有していると、

「あ、おじちゃーん。こんにちはー」

とりんちゃんがやって来る。

学校が終わったようだ。

「おっ!こんにちは。学校終わったんだ。

楽しかった?」

と挨拶をする。

その後、社長や康治君にも挨拶をした後、

アキさんの元に走っていく。

「かわいいなあー」

普段、子供と接する方の無い独身男の心を一気に和ませる、破壊力抜群の笑顔に3人ともぽやや〜んとなる。

アキさんの所で甘えた後、そのまま周りのご婦人方の元に行き、再び笑顔を振り撒く。

ご婦人方がりんちゃんに飴ちゃんやらお菓子をあげているのを見ると、社長は

「しまった!こんな時に限ってお菓子を持って来ていない!」

まさに痛恨極まれりという顔をしている。

 

りんちゃんの登場で一気にほんわかムードになった現場だが、そのおかげか作業も速やかに終わった。

片付けも一通り終わり、

「暑い中ご苦労様。奥でビールでもどうぞ」

とご婦人達からお誘いを受けていると、

アキさんが電話をしている声が聞こえる。

「えっ?明日から来なくて良いってどういう?

えっ!お店が閉店?オーナーは行方不明?」

と剣呑な話が聞こえる。

「大丈夫ですか?」

と声をかけると、

「オーナーが夜逃げして、勤めてたお弁当屋さん

潰れちゃいました」

とその場にへたり込むアキさん。

それをみて社長は

「週3日で宜しかったら、うちで働きませんか?」

と声を掛けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。