「週休4日、正社員雇用」なんて美味い話、ある訳ない!   作:ダブル亮禅

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9話 冷やし中華と海の家、始めました 前編

結局、アキさんはパートで

採用される事になった。

前もバイトだったが、拘束時間が長く、

急なシフトチェンジなども多かったらしい。

本当はもっと、

小学校の登校に付き添ったり、

学童のお迎えなど、付き合いたかったので、

この際、仕事より子供優先にしようと。

「週3で生活費大丈夫なの?」

とアキさんが帰った後で社長と早紀さんに聞いてみた。

社長と早紀さんは、顔を見合わせると

少し気まずそうな顔をした。

俺は、はて?という気持ちになったが、

社長が、

「一応、生活の為に10万は稼ぎたいって言うし、

時給2000円って事にしたんだ」

と少し言いにくそうに言う。

なるほど、家賃とかはないって言ってたし、

そんなもんで生活いけるんだ。

10時〜15時半なら

10万はいけるのかなと

頭の中で暗算してみる。

考えていると、早紀さんが慌てて

「ほらアキさん簿記三級持ってたし、

経理の方も手伝ってもらおうかなと、

資格手当よ、資格手当!」

言い訳するように補足する。

そこで、流石の俺も気付いた。

俺よりも時給高いのを2人とも気にしているのだ。全くの杞憂だ。

むしろ、アキさんの為に時給を高めにしようと言うその心意気が素晴らしい!とすら思う。そりゃあ人が増えたら会社の寿命も減るのかとちょっとは考えたけど。ほんのちょっとだから!基本的にはアキさんとりんちゃんが一緒に過ごせる時間増やしてやりたいと言う社長の考えに大賛成だ!

そう考え、俺はにっこりと

「社長!グッジョブ」

と社長に親指を立てグッドサインを送る。

それを見て、高橋姉弟はホッとした後、

にっこりと微笑んだ。

 

次の日は実家の店を手伝っていた。

 

実家の食堂で「冷やし中華始めました」の

貼り紙が貼られる時期になると

食べに来る期間限定の常連客がいる。

お鐘婆さんだ。そのお鐘婆さんが

ハイブリッジ企画の貼り紙をじっと見ている。

「優ちゃん、こんなの始めたんかい?」

と聞いて来るので、

「そうなんだ。再就職した会社で、

まだ設立したばかりの会社だから、

まずは会社の事、みんなに知って貰おうって、

今色々やらせて貰ってるんだ。

お鐘婆さん、なんか仕事とか無い?」

とダメ元で聞いてみる。

お鐘婆さんはしばらく考えてから、

意を決したかの様に口を開いた。

「優ちゃん、海の家やってみるかい?」

 

ー次の日、

「夏にお鐘婆さん、海の家やってるんだけど、

年齢的にしんどくなったから引退して人に

任せようと思ってたんだって、だから、

うちのポスター見て、聞いてくれたんだけど、

一応、うちは週に3日だけしかやってないん

だって正直に話したら、

『その発想は無かったわ。いきなり辞めちゃうのもなんか寂しいし、ボケちゃわないかって心配してたのよ。週3日だけ任せて、残りの週4日を私がやる。体も適度に鈍らないし、ボケ防止にもなる!ちょうど良いねえ』

ってむしろ乗り気になっちゃって。

まあ、何分素人ばかりでいきなりやるのは難しいと思うけど、一度会社で相談してみるよってお鐘婆さんには言ったけど、流石にちょっと無謀、だよね?」

会社の皆んなに海の家をやらないかと言う、話をしてみる。

「いや、優、むしろやろう!夏だし…海の家いいじゃん!やろうぜ!」

またしても、と言うか案の定、社長は乗り気だ。

「いやいや、お鐘婆さんが今回言っているのは、

お手伝いとかじゃなくて、海の家を任せるって

話しなんだぞ。店の設備はそのまま使っても

良いだ言われたけど、仕入れやら光熱費やら

支出分も自分達で賄わなきゃダメなんだぞ!」

流石に今回はコストがかかる上、

正直読めないから社長の能天気にそのまま

乗っかっちゃいけない。

「俺も飲食系はバイトで接客やったくらいしか

ないので、混み具合とか客層とか、どんな風に

やってるのか見ておきたいっす」

と康治くんも慎重だ。

うーんと社長は少し考えて、

「なら一度海の家に実際行ってみよう」

とみんなでお鐘婆さんの海の家に

行ってみる事になった。

 

会社から車で30分ちょいくらいの海岸に

目的の海の家「美川」はあった。

「海の家に向かうスーツ姿の集団は異様っすね」

と康治くんが言うとおり、海の家の店員さんが

俺たちを見てギョッとして近づいてくる。

流石に普段着でくるべきだったなと反省しつつ、

砂でスーツ汚れても大丈夫なのでと中に通してもらう。

中に入ると

「あれま!優ちゃんじゃないの!

わざわざ来てくれたんかね?迎えにもいけず

悪いねえ」

とお鐘婆さんが出てきてくれた。

「連絡もなしにこちらこそ申し訳ありません。

会社の者が一度見ておきたいと言うので、

今日は客としてお邪魔致しました。」

と一応、会社を代表して丁寧に伝える。

「これはこれはご丁寧に。

皆さんもはるばるお越し下さりまして。

ほらほら、こちらへどうぞ」

と海岸の様子がよく見える席に案内された。

 

「よく考えると、海来るの久しぶりっす」

康治くんがそういうと、

「僕もだ。20年くらいぶりかも」

と社長が言う。

俺も子供の頃、店が休みの日に連れて来て

貰ったことがあったな懐かしんでいた。

「私は、3年ぶりくらいですね。夫とりんと

家族で。その後は色々バタバタして行けてないです。

あっ!でも今年はりんと2人で来る予定です」

とアキさんが嬉しそうに言う。

最近、りんちゃんとの時間が取れるようになって、

気持ちに余裕が出来たと言っていた。

 

海の中をぐるりと見渡す。

畳風の御座が敷き詰められて、折り畳みの机が

置いてあるシンプルな作り。

お客さんは俺たちの他は3〜4組といった感じだった。

「思ったより海水浴客はいないんですね?

海開きしてすぐだからですか?」

と案内してくれたお鐘婆さんに聞く。

「まだ夏休み前の平日なんで、落ち着いたもんだよ。

夏休みに入ると一気に人が増えて、土日なんかは

そりゃ凄い事になるよ」

と脅かしてくる。

アキさんが、

「でもここ良いですね。

なんだか広く使えて、結構、机と机の間狭くて

窮屈なイメージあったけど、こは居心地良さそう」

と利用者の立場で感想を言ってくれる。

「まあここの海水浴場は家族連れが多いから、

これくらいやったりしてないとね。

子供は暴れるし、うどんやラーメンこばして

火傷しちゃったら可哀想だからね」

とお鐘婆さんは褒められて嬉しそうに言う。

「だいたい机が15卓だから60から70人って感じかー。

だいたいお客さんは一日中いるの?」

美川は席料がかかるスタイルの海の家だから、

一度払えば特に時間制限も無い為、一度入ったら

最後まであると思いきや、

「いやいやだいたい2〜3時間で帰るね。

夏休み入るとだいたい席は全部埋まる。

それが3回転くらいかね」

と軽く言う。

「60席×3回転って1日180人!

俺たち4人じゃ、とてもじゃ無いけど、

回せないですね。」

正直、海の家ってもうちょいのんびりしたイメージがあったので、店回すくらいはいけるのかなと思ってたけど、甘かった。

飲食のアルバイトの経験のある康治くんもちょっと厳しそうと言う顔をしてうーんと唸っている。

「えっ?そうなの?」

と社長が悲しそうに言う。

「その話じゃが、もし、ここをやってもええって言うなら、うちのアルバイトも使ってやって欲しいんじゃけど、頼める?」

とお鐘婆さんから提案される。

どういう事か聞いてみると、

「週4日の営業にしたいと言ったら、うちに来るアルバイトは夏のうちに稼ぎたい!って子ばかりだったから、困るって怒られちゃってね。」

と言う事らしい。

まさに渡りに船な話である。

「それはかなり助からので、

こちらからお願いしたいくらいですが、

そもそもその人数分の仕入れか…。」

俺の実家の食堂に普段40〜60人のお客さんが来る。

その3倍の仕入れという事で尻込みしてしまう。

「ああ仕入れはね、この辺りの海の家は

みんな組合に入ってて、そこに発注渡せば

トラックでここまで運んでくれる仕組みなのさ。

買い足したかも、そこそこ融通が効くよ」

と言いながら、発注書と食材の単価のリストを

見せてくれる。

その単価を見て

「これは…」

と唸ってしまう。

実家の食堂は商店街にあるので、

出来るだけ商店街で売っている物は

商店街で購入する。

近所付き合いって事もあるし、

逆にうちの店に食べにも来てくれるから

持ちつ持たれつお互い様ってところがある。

ただ、その分コスト面ではどうしても

やや高めになってしまう。

その感覚で組合のリストを見ると、

かなりお安いのだ。

どうやらこの海岸の海の家は禁漁期間中の

漁師さんや農閑期の農家の出稼ぎ先としての

役割もあったから漁協も農協も協賛してて

お友達価格というやつでやってるらしい。

海の家のメニューって比較的安いけど、

こんなカラクリがあったとは…。

俺はリストを見ながら、

「社長…、これは利益が出てしまうかもしれません」

と思わず言ってしまい、お鐘婆さんから

怪訝な顔をされてしまうのであった。

 

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