ブルアカ×8番出口 The Exit 8 Blue Archive 作:how-kyou
学園に到着したはずの私は、見知らぬ地下通路に立っていた。
理由は分からない。
頭上の蛍光灯は薄暗くて、
コンクリートの壁も、同じような薄暗さで続いている。
カツンと足音を立てて一歩踏み出すと、
それがやけに響き、
心臓の鼓動が膨らんだように感じてしまう。
「…ここは……一体、どこなのでしょうか」
私はそこはかとない不気味さに、小さく息を呑み、思わず声に出してしまった。
だが、それでも返ってくるのは自分の声の反響だけ。
手にしていたカバンは消え、制服だけが現実との繋がりの証のように身を包んでいる。
やがて、私は壁に書かれた案内表示を見つけた。
【ご案内 Guide】
・異変を見逃さないこと
・異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
・異変が見つからなかったら、引き返さないこと
・8番出口から外に出ること
──8番出口…。
矢印は奥へ奥へと続いており、
その方向へ進む以外に、道はないようだ。
そうだと、本能的に分かる。
「ここは…ルールに則る、しかありませんね」
自分に言い聞かせて、危険だとしても歩みを進める。
そこから先、この通路には確かに「異変」があった。
〜〜〜
同じ道が連続していると思いきや、
一つ目の「異変」は分かりやすかった。
進んだ先の壁のポスターが、すべて……全く同じ一枚に変わっていた。
ひたすらに不気味だった。
見覚えのない…少なくともトリニティ…いや、キヴォトスの人物でもないはずだ。
一枚一枚、描かれては整然と並び、それはまるで私を監視するかのように。
その中の一枚と目が合う。
背筋が粟立つ。
半ば逃げるように、元来た道を引き返す。
進めば看板に描かれている数字が『2』と進んでいた。
これを『8』まで進めたら良いのだろう。
そして進捗を実感しつつ、もう少し進めば、先ほど、嫌というほど目にしたポスター達は無くなっていた。
「……驚かせないで…ほしいものですね」
心を落ち着けようと、また小声で呟いた。
〜〜〜
二つ目の異変は、唐突に訪れた。
突如として、蛍光灯のひとつだけが、激しく点滅を始めた。
それはあたかも、私の行く手を試すかのようであった。
驚きから、思わず走り抜けそうになるのだが、すんでのところで、
──「驚いてはいけない」と、冷静に足を止めることが出来た。
「平常心、平常心……」
私は私に、言い聞かせる。
〜〜〜
空間に振り回され、何刻ほどか時を経た。
疲れを覚え始めた時、
曲がり角を抜けると、さもありなんと自動販売機が置かれていた。
中身のすべてのペットボトルが、おそらく水。
ラベルも印字もない、透明な液体だけが並んでいる。
「……これは」
不思議なことに、随分と歩いてきたのに、生憎と喉は乾いていない。
だが、長く彷徨い続けているせいか、
この様なレベルで試されているのだろうか?と錯覚する。
少しイラッとしてしまい、つい顔をしかめる。
当然飲み物を買うことはせず、ただ通り過ぎる。
以降も異変は続いた。
窓もない地下で、なぜかいつもの紅茶の香りが漂って来たり。
まだ『8』番まで辿り着いてないのにも関わらず、
曲がり角の先からティーパーティへ誘われる声が聞こえてきたり。
ある時には「襲われる!?」と思わせる、背後からの足音が聞こえた気がして、振り返ると誰もいなかったり。
「……っ」
最初こそ、平静保っていたが、疲れが増した身体は、やけに心臓が跳ねる。
そしてその度に、制服の胸元が小さく揺れる。
私は驚きを押し殺しながらも、努めて冷静に、一歩ずつ確実に進んだ。
やがて、限界を迎える前に来ることが出来た。
──8番の看板。
(…やっと、出られますね)
もう一度最初からは…、もう、正直難しい。
八つ目、異変は有るのだろうか?
それとも、素直に進ませてくれるのだろうか?
通路の先に…『懐かしい』人影が見えた。
「……先生?」
そこに立っていたのは、私が日々を共にしていた存在──大切な、大切な『先生』だった。
柔らかな笑みを浮かべ、
その姿は、どこまでも優しく、まるで
私を迎えているかのような…。
私は口に手を当てて、自然と目も潤んでしまう。
「先生っ……!よかった……!」
本能のまま、
駆け寄ろうと足を一歩、踏み出す。
その瞬間、声が響いた。
「こっちに来たらダメだよ」
──はっとする。
幻聴だったのか、それとも幻覚か。
でも、間違えるはずがない…その声音は確かに先生のものだった。
温かさと……同時に、どうしようもない距離を思わせる響き。
私は硬直した。
次の瞬間、頭の奥底から冷静さが戻ってくる。
「これが……八つ目の異変ですかッ……!」
幻覚だとしても、先生に見えた。
それはあまりにも悪趣味で、
手を伸ばせば届きそうなほど近くにいるのに、理性が告げていた。
ここで踏み込めば戻れない、と。
唇を噛みしめながら、私はその場から後ずさった。
「先生……」
何度か名を呼んだが、先ほど聞こえた声は……もう返事は、無かった。
ただ、幻影のようなその姿は…よく見せていた、困ったような笑みを……浮かべている。
きっと、このままその顔を見続けたら…私は永遠に囚われてしまう。
そう確信し、震えながら、さらに背を向ける。
私は、
足を引きずるように出口の矢印へと歩いた。
『8』の文字が見えた。
──そして。
「頑張ったねナギサ…もうここに来るんじゃないよ」
その言葉が、また脳内に直接響いた。
振り返った。
だが、そこに先生の姿はなくて、
目に映るのは、見慣れた学園の玄関であった。
光が差し込み、生徒たちの笑い声が、遠くから聞こえ始める。
戻ってきた…。
私はゆっくりと呼吸を整える。
頬には知らず涙が伝っていた。
(……現実なのですね)
だが心には、別の思いが残っていた。
あの幻影は、なぜあれほどまでに本物に見えたのか。
なぜ、あの言葉は、優しく胸に残るのか。
答えは出ない。
ただ一つ、確かなことは──
「……会いたいです……先生」
吐き出すように呟いた言葉は、
幸い誰に届くこともなく空気に溶けていった。
私は歩き出す。
再びいつもの日常に戻るために。
けれどその足取りの奥底に、
消えない切なさが確かに残っていた。
──『8番出口』での記憶とともに。
初めてブルアカのSS書きました!
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