ブルアカ×8番出口 The Exit 8 Blue Archive 作:how-kyou
11月から年末年始にかけてノロかかったり緊急搬送されたり、家族云々。
とりあえず書き切れたので供養。
また何かぼちぼち書いてみようと思います。
早瀬ユウカ、期待値で歩く
本来であれば領収書の精算を片づけ終わっていて、約1890秒の休憩時間に、お気に入りの紅茶を飲むタスクだった。
そう…溜まっていた書類の処理がひと区切りついて、思わず一息吐いたのと同時に、妙な眠気に誘われたのだ。
そして、気付けば私は……見知らぬ地下通路にいたのだ。
灰色のコンクリート、少しばかり湿った空気、照らす蛍光灯は不規則に点滅している。
「……ここは?こんな所の仕様書、通した記憶は無いんですが??」
随分と手の込んだドッキリだ。
いや…現実ではなく、体感型ゲームの可能性の方がある。
ゲーム開発部…この間叱った、モモイの仕返しかもしれない。
もう一度シバくと決める。
先ほどとは違った一息…溜め息が思わず出てしまった。
仕方ない、と
とりあえず歩き始めてみる。
ヒールの音が「コツ、コツ」と、寂しく私一人分だけ返ってくる。
曲がった道の先。
前方の壁には、黄色い案内板があった。
・異変を見逃さないこと
・異変を見つけたら引き返すこと
・異変がなければ引き返さないこと
・8番出口から外に出ること
「……はぁ」
先ほどよりも大きな溜め息。
たった今、モモイがシバかれる線が濃厚になった。
「ルールは明快だけど…」
ここは従うしかないのだろうか?
ムカつくが、
他に手掛かりはない。
あるのは目前の黄色い案内板だけ。
……特段、論理立てた訳でも無いが、
“従う”しかないと仮定する。
「…いいですよ、分かりました」
不満もあるし……、
ちょっぴりホラーゲームさながらの不安感もある。
でも立ち止まっていても、何も解決しないだろう。
蓋然性に基づいた訳ではない。
そう判断して、私は進み始めた。
⸻
「……ん?」
違和感しかない。
さっそく異変があったではないか。
壁の案内に出口への矢印が幾つか描かれてある。
案内は「○番出口⇧」「○番出口200m先⇧」と連なっている。
「えーっと…1番はさっきのところだから2番が書いてあって、その次が3番ってなって……あれ??」
4番が無くて、次は5番、その次は7番。
「素数……しか無いわね」
4、6、8の文字があると思われる箇所は、塗りつぶされている。
描かれているのは素数の出口だけ。
「どうみても異変ですね。いや、よりにもよって「8番」が消えている時点で…要件が未充足な訳ですし…戻ってみましょうか」
踵を返すと、通常の案内板が出てきた。
その表示は「1 → 2」に切り替わっていた。
つまるところ、この仕様は正しく生きている。
⸻
同様にしばらく進むと、
通路の床タイルに数字が並んでいた。
(異変ですね…戻りましょう)
そう思い、後ろに振り返ってみれば、
先に進むのと同様にタイルが並んでいた。
つまり私は今、前後共に数字に囲まれてしまっている。
「…解かなければ、前にも後ろにも進めない…と言うことですか」
諦めて、その規則性に目を向ける。
1,1,2,3,5,8,13……。
試しに進んできた方向のタイルを、一枚踏んでみる。
足元のLEDがほのかに光る。
「フィボナッチですか。…なるほど、踏み順を強制しているんですね」
ここまで考えた所で、
1.2.3……“4”のタイルに足が触れてしまった。
すると蛍光灯がパチンと消えた。
予想の範疇だったから、驚きこそしなかったものの三秒ほど、無音が続いた。
そしてすぐに点き直る——本能的に、これは「警告」だと察する。
「…遵守しましょうか」
正しく淡々と“8”まで踏み進め、その先の“13”を踏み進める。
そして、来た道を戻る。
⸻
ちょっと進んだところで、
スピーカーがノイズを吐いてきた。
聞いた記憶がない、乱れた女声のアナウンス。
『つぎは——3の問題——ヒル— 23の問題……』
『“連続——説”前がお出口です……右でも左でもありません』
「…せめて、ちゃんと言うか、座標問題くらいにしてくれませんか?」
『………』
それ以上話すことはないと言わんばかりに、アナウンスは止まった。
一応周りを見渡す。
…アナウンスの通り、右も左も何もない。
だが天井に非常口マークがある。
矢印が示す方向は“上”。
床の点字ブロックの継ぎ目に、うっすら梯子の影が見えてきた。
「設計者に腹が立ってきましたね…」
先ほど聞こえてきたのは、
ヒル、23、連続……説。
ここから導き出されるのは。
「…!! 急いで引き返さないとっ!」
第六感的に辿り着いた、嫌な解答。
…恐らく、入り口と出口、
その“中間”…例えば先ほどの梯子のようなものが、無限に増え続けることを示唆しているのでないか。
戻り始めようとするが、
来た時よりも幾分遠く見える。
私は、全力で走り始めた。
⸻
監視カメラが首を振っている。
赤色LEDの点滅周期が私の心拍と同期しているように見える。
つまるところ、不安を煽るようなそれなりの点滅速度。
少しばかり、それを睨みながら深呼吸を意識する。
息が整うと、落ち着いて周りを見る余裕が生まれた。
近くの掲示板には、見慣れた書式の精算表が磁石で留められていた。
[支出一覧]
・「新刊」660円
・「超合金コクマーZ」5,500円
・「〜〜〜(掠れていてよく読めない)」30,000円(※『天井』 と記されている)
「…はい、異変ですね」
気が抜けた。
思わず眉間に指を当てる。
⸻
その命題は曲がり角前の壁に書かれていた。
「問題:本物であることを証明せよ。※偽物なら引き返すこと」
覚悟を決めて、進む。
——通路の奥の方に、見えてきた。
「8番出口」の文字。
私が安心感を抱く…
その手前にて、静かな人影が佇む。
此方に歩んできて、より鮮明になる。
そして、私は目を見開く。
「——先生?」
頭の中で整理し、記憶と比較していく。
見た限りではあるが、呼気や視線の追随、歩幅のクセ……十分“本物”に見える、にしか見えない。
———つまるところ、私は『偽物ではない』とするための不完全な証明を積み上げていた。
事象に対して、証明は幾らあっても足りない。
でも『そうあれかし』と決めつけて、
私は先生の元へ駆け出すために一歩踏み込もうとする。
気持ちを遮るように、先生が私の後方を指さす。
振り返って見れば、
どこかで見た記憶がある、
壁掛け時計があった。
秒針は右に進んでいる。
次に先生は左手を上げ、自分の左を指でトントン。
そのまま、壁に掛かった時計に視線を送る。
こちらの秒針は進むのに、先生の背後の時計は…逆回転に刻んでいる。
『ユウカらしくない…ケアレスミスだ』
向こう側が明るく、輪郭は微睡み、ほどけて見える。
ただ比較的首から下は見えるが故、少しばかり緩んだネクタイが見える。
そして、少し掠れた声が聴こえた…ような気がした。
「……先生、なんでしょう?」
分かってる。解ってる。
それでも近付きたい。
だけど、論理では説明出来ないけれど、
拒絶されているような感じがする。
先生は質問に答えてもくれない。
それでも確かめたい。
異変なら引き返す。
もう一つのルールも明快だったはずだ。
真実なら———?
それこそ、罠かも
選択しなくてはならない状況に、
嫌でも、私の心拍が上がる。
この問題に対する解は、もう近いはず。
「もし“先生”なら——私にルール違反を勧める確率は、ゼロ…」
口に出すと落ち着く。
人影から目を逸らさず、
もう一つ仮定を置く。
「もし“異変”だと仮定するなら——私に“近づけ”と暗に誘導する。そして近づかないことが最適解のはず…」
少し、光に慣れて彼の顔が見えてきた。
先生の唇が、ほんの少しだけ笑った気がした。
よく分かったね、と言わんばかりの顔。
私にルール違反を勧めない。
それが“答え”だ。
息を吸う。
ここまで歩んできて、重くなった足を、境界から離す。
私は静かに踵を返した——引き返す。
表示が、確かに切り替わったのを確認した。
「7 → 8」
——あ。
『…よくできました』
聴こえた気がした。
出口の光が、私の肩に落ちた。
⸻
「……ん———あれ?」
覆われていた白い光はほどけていて、現実の光に重なったよう。
確かに現実ではあるのだが、妙な感覚を覚える。
机には…領収書の山。
うんざり。
まだ温かい紙コップ。
そうだ、さっき淹れたんだ。
湯気も出ていて、さして時間が経っていないことを示している。
「…夢、だったのかな」
椅子に背を預け、深呼吸した。
——胸ポケットに何か入ってる?
指を入れると、薄いレシートが一枚折りたたまれている。
計算し忘れていたのだろうかと、やや焦りながら触れてみる。
指先に、黒いインクの微かな跡が残った。
印字されていた文字も少し擦れてしまったようだ。
端の滲みが、細い矢印に見えた。
——私の視線はその向きを向いた。
いつもの…——があった。
そうだ、ちょっとした計算でも…数学は真実を導く。
前にユウカに抱きしめられた話書いてます!
気が向いたらみてみてください!あとネタください!