結束バンドは可愛い子が多すぎる! 作:喜多ちゃんが可愛すぎてやばい
「これ、今日のセットリストと楽譜。あと、あたしたちインストバンドだから」
「は、はい、わかりました……」
インストバンド。ボーカルが無いバンドのこと。
虹夏から内容の書かれた紙を受け取った後藤さんは、その場でゴリラのようにドラミングを始めた。
おいおいおい。いきなりどうした。ルーティンってやつか?
「ふ、ふふっ、大丈夫……私、ギター上手いらしいし……」
そうして始まった一回目の合わせ。
とりあえず一曲目の冒頭を試しに演奏してみたわけだが……その結果は散々なものであった。
「ド下手だ!」
「ぐはっ……!」
虹夏の心無い言葉に後藤さんが倒れ伏す。
なんて酷い。確かに聞くに堪えないクソザコな演奏だったけど、せっかくの助っ人にそんなこと言わなくてもいいのに。
「どっ、どうも、プランクトン後藤です……」
「売れないお笑い芸人みたいな人出てきた!」
床に転がりながらミジンコのモノマネを披露する後藤さん。
しかしその体勢はまずいな。何故なら彼女の服装は制服──つまり下はスカートだ。
パンツ見えそう。
「もう、無理です……私のことは放っておいてください……」
そのまま後藤さんはゴミ箱の住人となり、一生をそこで過ごしたのだった。
結束バンド──完。
「……ああ、そういうことか」
──なんてバットエンドで終わらせるわけにはいかないので、俺は後藤さんに対して説得を試みる。
幸い、原因はわかった。解決策も──荒療治のその場しのぎであるが、一応は思いついた。
「ねぇ、後藤さん。ひょっとして、人と合わせるの初めてだったりする?」
「ど、どうしてそれを……!」
やっぱりそうか。基礎的な技術はあるはずなのに──むしろプロに近い実力を持っているはずなのに、それが全く発揮されていなかったのはそういうわけか。
虹夏も山田も、自分の演奏をしながらだったから気づけなかったのだろう。外から見ていた俺だけが、かろうじて違和感を拾うことができた。
というか独りでこの域まで達したのか。なんというか、山奥で修行していたらいつの間にか最強になっていた主人公みたいな子だな。
「ごめんなさい、こんな下手くそがライブに出ようなんて思い上がって……こうなったらもう、私のハラキリショーで場を盛り上げるしか……」
「いくらなんでもロックすぎるよ!」
「盛り上がるというかお通夜になりそう」
「文字通りね──ってバカ!」
なるほど。ライブはライブでもお笑いライブ路線ならいけそうか。
って違う違う。今はそんな冗談を言っている場合ではない。
俺はポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、後藤さんに手渡した。
「はいこれ。今日やる曲の音源が入ってるから、それに合わせてギターを弾いてみてくれる? できそうかな?」
「は、はい、それなら……たぶん……」
イヤホンを片耳に装着しながら、ギターの感触を確かめる後藤さん。
「他人に合わせるのが苦手なら、今日のところはあの二人の出す音は全部無視しちゃっていいから。イヤホンから聞こえてくる音源をメトロノームにする感じで……人前だと緊張すると思うから、最初から無理に全力を出そうとしないで、軽くウォーミングアップから始めるイメージで……それで、慣れてきたら少しずつ調子を上げていく……みたいな?」
「は、はい、やってみます……!」
深呼吸を一つしてから、後藤さんは演奏を開始する。
この場には俺たちしかいないが、それでも緊張はしているのだろう。初めて来た場所だしな。本調子とは程遠い。
せいぜい最大値の50%といったところか?
たったの半分。されど、先程の演奏とは比べるべくもない。
虹夏と山田も、後藤さんが奏でる音の
「ひとりちゃんって、もしかしてかなり……」
「うん。上手い」
さて、ソロプレイを強制することで、一先ずの問題は解決した。
これから後藤さんがバンドメンバーの一員としてやっていくなら、周りの音を聞きながら仲間に合わせて演奏する技術も当然必要になってくるだろう。
だが、今はまだ無理。時間的にも、絶対に間に合わない。だから、今日のところはこれでいい。
あとは──虹夏と山田、二人の問題だ。
「というわけで、後藤さんは暴走列車と化した。もう止められないし止まらない。今の彼女にはもう、自分のギターの音しか聞こえていない」
ゴクリと唾を飲み込む二人の幼馴染に、俺は真剣な顔で命令する。
気分はさながら、兵士のモチベーションを引き上げる指揮官のごとし。
「だから、死ぬ気で合わせろ。食らいつくことさえできなければ、お前たちの演奏は音楽としてすら破綻する。虹夏。山田。後藤さんを生かすも殺すも、二人の頑張り次第だ」
挑発的な顔で煽るように言ってやれば、二人の瞳にも負けじと闘志の火が灯る。
「いいね! やってやろうじゃん!」
「雪の下手っぴなギターよりは合わせやすい」
後藤さんは外部との接触を完全に遮断するためか、その後、完熟マンゴーと書かれたダンボールで全身を武装した。
待って。なにそれ聞いてない。
誰もそこまでやれとは言ってないんだけど。
ただまあ、それで後藤さんのパフォーマンスが上がるなら今だけは目を瞑るか。
虹夏と山田が合わせる難易度は爆上がりしたわけだけど、そこは二人に死ぬ気で頑張ってもらおう。
ドラム──伊地知虹夏。
ベース──山田リョウ。
そしてギター──完熟マンゴー仮面。
可愛い女の子二人と変人ひとりによる演奏は、なぜかめちゃくちゃ盛り上がったし大成功した。
すごい。まさかここまで上手くいくとは。
MCは死ぬほど滑りまくってたけど──。
*
「いやー、とりあえず無事に終わってよかったー!」
「この路線でも行けるかもしれない」
路線? えっ、完熟マンゴー仮面路線?
それはもうギャグだろ。せっかくビジュアルがいいのに何でイロモノに振り切ろうとするんだ。アホかよ。
「そうか、私、ライブしたんだ……ライブ……?」
満足そうにしているドラムやベースと違って、後藤さんはあまり実感が湧いていない様子だった。
そりゃそうだよな。視界を塞いでいたから、観客の反応はわからないし。
聴覚も半分以上遮断していたから、どんな演奏だったのかすら自覚できていない。
これで達成感を覚えろという方が無理な話だ。
「そんな後藤さんに──はいこれ」
「わっ、えっ……?」
「さっきのライブ映像。箱の中に入っていたから外の様子がわかんなかったでしょ? だからこれで確認してもらおうと思って」
スマホで撮った映像なので多少荒い部分もあるが、それでも俺が使っているのは最新機種の一番高いやつだ。
そこまで見にくいことにはなっていないと思う。
「わっ、すごい……お客さん、こんなに盛り上がってる……!」
映像を見て、ようやくライブをしたという実感が湧いてきたのだろう。後藤さんが嬉しそうに破顔する。
は? かわいいかよ。
「普通に顔を出して演奏できたらそれが一番かもしれないけど、なんてったって今日できたばかりの即席バンドだからね。それを考えたら、このライブは間違いなく大成功だったと言えるんじゃないかな?」
「は、はい! 私も……そう、思います……!」
出会った時は濁っていた目が、今は少しだけキラキラと輝いている。
よし、いい傾向だ。このままいけば、きっと結束バンドのメンバーとして定着してくれるだろう。
降って湧いた天性のギタリスト。しかも可愛い女子高生。
こんな逸材、もう二度と手に入れる機会は訪れないだろう。
絶対に逃がしてなるものか……!
「っ!? ……! ……?」
俺の邪念を感じ取ったのか、後藤さんは背中をぶるりと震わせてキョロキョロと周りを確認していた。
勘のいい女の子だ。なるべく変なことは考えないようにしよう。
「よーし、歓迎会も兼ねて打ち上げ行こっか!」
「ごめん眠い」
「えっ」
虹夏の提案を、悩む素振りすら見せずに断る山田。
「あっ、私も、今日は人と話しすぎたので帰ります……」
「結束力全然ない!」
結束バンドなのに。やはり改名した方がいいのではないだろうか。
「後藤さん、家どこ? よければ送ろうか?」
「あっ、いえ、ここから二時間くらいかかるので……」
はっ? 二時間? 遠すぎない?
いや、女の子の安全に比べたら往復四時間くらいどうってことないけど……でも、人と話して疲れたって言ってたし、俺が一緒にいたら心が休まらないか。
今日会ったばかりの男に自宅を知られるのも抵抗があるだろうし、ここは深追いしないのが懸命か。
「わかった。気をつけて帰ってね」
「は、はい……それでは……!」
そうして後藤さんは、まるで逃げるようにしてスターリーを後にした。
ギターを背負ってるのに俊敏だな。ジャージを着ていたし、実は体育会系なのかもしれない。
それはないか。
「おつかれ」
その後ろ姿に続くようにして、山田も家へと帰還する。
「……どうする? 二人だけで打ち上げやる?」
「……やる」
「やるんだ」
という感じで、バンドメンバーが半分欠けた状態──なんなら俺はメンバーですらないというよくわからない組み合わせで、打ち上げ兼後藤さんの歓迎会(本人不在)を開催するのだった。
もうこれわかんねえな。ただのデートだろ。
なお、デートはとても楽しかった。