結束バンドは可愛い子が多すぎる! 作:喜多ちゃんが可愛すぎてやばい
翌日。バンドの今後について話し合うために、みんなでスターリーに集まることになった。
予定より早い時間から集合している虹夏と山田を置いて、俺は一人で外へと出る。
後藤さんのことだから、きっと一人でライブハウスに入るのには勇気が必要だろう。もしかしたら階段の近くで悩んで思い詰めて右往左往してしまうかもしれない。
そうでなくとも、わざわざ片道二時間もかけて来てくれているのだ。
なのでせめてもの労いと思い、駅まで迎えに行くことにした。飲み物とお菓子も持ってきてある。
「やっほ、後藤さん。おつかれ」
「えっ、あっ……し、白石さん? どうしてここに……?」
「慣れない道を歩いたり建物に入るのって緊張するでしょ? そうでなくても迷っちゃうかもしれないし……だから迎えに来たんだ」
「あ、ありがとうございます……!」
お節介かな? とも思ったが、救世主を見たような顔をしているので正解だったかと安堵する。
そんな後藤さんだが、周りにたくさんの人がいるのが怖いのか、俺の背中にピッタリと張りつくようにして歩き始めた。
おいおい。いきなり距離を詰めてくるね。
お兄さんびっくりしちゃったよ。役得だからいいんだけど。
「す、すみません……この街まだ慣れてなくて、恥ずかしくて……!」
「この体勢は恥ずかしくない?」
「いえ、思っていたより恥ずかしいです……!」
恥ずかしいんだ。ならやめたらいいのに。
結局、後藤さんを背後霊のように従えたままの格好で、俺はスターリーまでの道を歩き切った。
すれ違う人にことごとく二度見され、さすがの俺も少しだけ恥ずかしかった。知り合いに会わなくてよかったー。
*
「それでまずは……なんの話する?」
スターリーの建物内。
机を四人で囲むようにして座りながら、虹夏が切り出す。
「やっぱりこれから仲間としてやっていくわけだし、もっと距離を縮めていきたいよね……そうだ、ひとりちゃんって、なんかあだ名とかないの?」
「あだ名……中学では『あの』とか『おい』とか呼ばれてました」
「それあだ名じゃなくない!?」
後藤さん。同級生に名前を覚えられていなかったのか。
このピンクジャージで影が薄いって無理があると思うけどな。高校生になってから始めたスタイルなのか?
「ひとり……『ぼっち』ってのは?」
「リョウ!?」
酷い。いくら名前を文字っているといっても、それは普通に悪口だろ。
「ぼぼぼぼ、ぼっちです!」
だがしかし、俺や虹夏の心配に反して、後藤さんはキラキラと目を輝かせながらあだ名を復唱していた。こんな嬉しい経験は初めてだとでも言わんばかりに。
まあ、本人が喜んでいるならいいか。
「ぼ、ぼっちちゃん?」
「はい! ぼっちです!」
「ぼっち」
「はい! ぼっちです!」
なんだろう。なぜだかわからないけど涙が出てきそうだ。
後藤さんは次に、期待するような目で俺を見てきた。
えっ、なに? 俺にも『ぼっち』って呼んでほしいの?
「……じゃあ、間を取って『後藤ちゃん』で」
「…………はい」
しょぼんとする後藤さん──改め後藤ちゃん。
ごめんて。でも、女の子をそのあだ名で呼ぶのは俺には無理だ。
他人に聞かれた時の印象も悪すぎるし。
だから許せ。そもそもバンドに入った時点でもうぼっちじゃないだろ。
「んー、次は何話そっか」
あだ名の件が一段落し、再び話題を見失う結束バンド一同。
「そんな時のためにこんなものを用意しておいた」
そこに現れた救世主──その名は山田。
彼女が手に持っているのは特大のサイコロ。昔テレビか何かで見た記憶がある。
各面にそれぞれ違う内容が書かれており、出た目によって話題を決定するという感じだろう。
待て。バンジージャンプ?
誰だこんなの入れたバカは。山田か。
「何が出るかな? 何が出るかな?」
ノリノリでサイコロを投げる虹夏。かわいい。
「じゃん! 学校の話〜!」
「学校……あっ、そういえば三人は同じ学校なんでしたっけ……?」
「そう! 下高だよ!」
「家から近いから選んだ」
「ぼっちちゃんは秀華高だよね? 通うの大変じゃない?」
「大変、ですけど……でも、高校は誰も、過去の私を知らないところにしたくて……」
「はい! 学校の話終了〜!」
暗い雰囲気になりそうなのを察して、虹夏が話題を強引に終わらせる。
俺からしたら、後藤ちゃんの話には共感できる部分があった。わかる。心機一転。新しい人生を始めることに憧れるし、なんかいけるんじゃないかって思っちゃうよな。
でも、自分の本質ってのは急には変わらないんだ。
周りが変わっても自分が変わらなければ意味はない。
世知辛いね。
「次は〜……じゃん! 恋バナ!」
「恋……バナ……?」
まるで初めて聞く単語であるかのような反応を示す後藤ちゃん。
人と関わるのが苦手な彼女のことだ。たぶん、男と関わった経験もほとんどないのだろう。
顔はいいし、ギターも上手いし、モテる要素は十分備わっていると思うんだけどな。
まあ、それを言ったら俺たちも人のことは言えないけど。
『…………』
結果、数秒間ほど無言の空間が生まれた。
「あ、あの! す、少し気になったんですけど……」
そんな空気を変えるために声をあげたのはまさかの後藤ちゃん。
俺たち三人の恋愛事情を知らない彼女が、何を思ったのかこんな質問をしてくる。
「白石さんって……虹夏ちゃんかリョウさん、どちらかと付き合ってるんですか……?」
予想外の問いに俺たちはお互いの顔を見合い……そして、同時に吹き出した。
「ええー、そう見える? 全然そんなことないのに〜」
「えっ、でも、それにしては距離が近いような……」
「あたしたちはただの幼馴染だよ〜。まっ、仲がいいのは否定しないけどねっ」
虹夏が見せつけるようにウインクをする。かわいい。
「少なくとも私は雪と付き合ってない。でも、虹夏はわからない」
「ちょ、リョウ!?」
「雪は週の半分は虹夏の家に泊まってる。間違いが起きていても不思議じゃない」
山田の暴露に、後藤ちゃんが驚いたように俺と虹夏の顔を交互に見てくる。
なんだその『やっぱりか!』みたいな反応。別に一線は超えてねえよ。今のところは。
「それって、同棲……」
「ぼ、ぼっちゃん!? 誤解しないでね!? 雪は一人暮らしだから、寂しいと思って泊めてあげてるだけだから!」
間違ってない。同様の理由で、俺の家に山田を泊めることもたまにある。
逆に、虹夏が俺の家に遊びに来ることはほとんどない。そうすると今度は星歌さんが一人になっちまうからな。
「そ、それに、あたしたちはただの幼馴染だし……今更お互いのことを意識するとか……ねえ?」
「えっ? いや……俺は普通に、虹夏のことは女の子として意識してるけど」
「ええっ!? そ、そそそ、そうなのぉ!?」
虹夏が驚いたように椅子から飛び上がる。
彼女は顔を赤くしながら両目を高速で泳がせていた。
ここまで動揺している姿を見るのは、確か足を滑らせて押し倒しちゃった時以来か。
たまに摂取すると健康的になれそうだ。
「私のことも虹夏のことも、雪はよくエロい目で見てる」
「ええっ!? 嘘ぉ!?」
「最近だとぼっちも危ない」
「私もなんですか!?」
後藤ちゃんがバッと振り返りながら凄い目を向けてくる。
何やってんだ山田。これで後藤ちゃんが俺を警戒してスターリーに来てくれなくなったらどうするつもりなんだ。
こんなギタリストもう二度と捕まえられないぞ。戦犯になる気か山田ァ!
「確かに後藤ちゃんは可愛いし頑張ってるなぁとも思うけど、そういう目で舐め回すように見たりいきなり襲ったりはしないから安心して」
「えっ、あっ、えっ…………はい!」
安心するような優しい笑みを心掛けてそう言えば、後藤ちゃんは何とか理解を示してくれたようだった。
よかった。結束バンド二度目のメンバー離脱危機は回避できた。
「ていうかそれを言うなら、リョウだって雪の家によく泊まってるじゃん! 間違いが起こってるのはそっちじゃないの!? あたしと違ってお姉ちゃんがいないから、完全に二人きりだし!」
ビシッと指を差されながら矢面に挙げられる山田。
しかし彼女は涼しい顔で虹夏の追及を受け流す。
「別に襲われたりはしてない。雪はヘタ……紳士だし」
おい。今ヘタレって言おうとしたよな?
いくら事実でも言っていいことと悪いことがあるだろ。もう二度とお金貸してやらないぞ?
「ああー、確かに。雪ってそういうラインは超えてこないだろうし、だったら安心か……」
「そう。安心。最近だと、せいぜいお風呂に一緒に入ったくらい」
「ぶーっ!?」
虹夏が口に含んでいたジュースを勢いよく吹き出し、その全てが正面にいた俺に直撃する。
うわぁ、ベトベトだ。これはシャワー浴びて服も全部着替えた方が良さそうだな。
お泊まりセット置きっぱなしにしておいてよかった。
「は? お風呂!? 一緒に!? えっ──ちょっと待ってどういうこと!? ねえ!?」
胸ぐらを掴まれながら前後に強く揺さぶられる。
おい、なんで俺なんだよ。普通なら山田に詰め寄る場面だろ。流れ的にさあ。
「そんなに驚かなくても……虹夏だって、小さい頃はよく雪と一緒に入ってたでしょ?」
「小さい頃はね!? あたしたちもう高校生だよ!? そんなのもうほとんどセッ……そういうあれでしょ!?」
最後に入ったのは小学校三年生──八月三十一日のことだったか。
あの時に比べたら虹夏も山田も随分と成長したものだよな。感慨深い。
「陽キャ、パリピ、バンド、爛れた関係……あばばっ、あばばばばば……!」
横を見たら後藤ちゃんが痙攣しながら死んでいた。
大丈夫? 救急車呼ぶ?