結束バンドは可愛い子が多すぎる! 作:喜多ちゃんが可愛すぎてやばい
バイト終わり。
メイド服から制服姿に戻ってしまった喜多ちゃんが、一足先に帰ろうとする。
「今日はありがとうございました。これからもバンド活動頑張ってください……陰ながら応援しています」
ん? なんかもう二度とここには来ないみたいな言い方だな。
てっきり今日のことを通してバンドメンバーに復帰したと思っていたんだけど……違ったのか?
そんな疑問を覚えながら虹夏や山田に確認を取ろうとする──それより早く、後藤ちゃんが動いていた。
「あっ、ちょ、ままま、まっちょ……か、帰らな……!」
「えっ!? どうしたの後藤さん! 待ってあげるから落ち着いて!」
そこからは後藤ちゃんが喜多ちゃんに残るように説得し──。
それに虹夏や山田も乗っかり──。
「……うん! 私、もう一度頑張ってみる! 結束バンドのギターとして!」
結果として、結束バンドのメンバーは四人に増えることになったのだった。
めでたしめでたし。
一応俺は部外者だしな。本人たちだけで最良の結果に収まって何よりである。
ふう、焦った焦った。後藤ちゃんには感謝だな。
「でも私、いくら練習しても本当にギター上手く弾けなくて……」
そこで衝撃の事実が発覚した。
喜多ちゃんがギターだと思って買った楽器。
それはギターではなく多弦ベースだったのだ。
己の過ちを知った喜多ちゃんは──その場で静かに息を引き取った。
「あ、あ、あ……あひゅ……!」
可哀想に。楽器って高いもんな。
別に俺がお金を立て替えてもいいけど、幸いここには楽器集めが趣味の万年金欠女がいる。この多弦ベースならば彼女の琴線にも触れるはず──だから何も心配する必要はない。
「ふむふむ、これはなかなか……。いくらだった? 私が買い取る」
「えっ、リョウ先輩? でも──」
「気にすることないよ喜多ちゃん。こいつ、ギターとかベースを集めるのが趣味みたいなところあるから。なっ、山田?」
「そうそう。こんなのいつものことだから。ねっ、リョウ?」
「その通りだけど……それは私のセリフでは?」
納得いかない顔をしながらも、ベースの検分を始める山田。
「たぶん所持金がなくなるから、今月の食事は雪が全部奢って」
「いえっ、悪いのは私ですし、ここは私が──」
「大丈夫。こんなのいつものことだから。ねっ、雪」
「その通りだけど、山田に言われるとなんかムカつくな……なるほどこういうことか」
俺はまた一つ賢くなった。
だからといって改める気はないけど。己の行動を省みさせる意味も込めて、山田は雑に扱うくらいがちょうどいいのだ。
「ギターはどうする? 結束バンドに再加入してくれたお礼に、何でも好きなやつ買ってあげてもいいけど」
「そ、それはさすがに……」
喜多ちゃんにそんな提案をしていると、クイクイっと横から袖を引っ張られる。
「私もちょうど欲しいやつがあった」
「おめーにはプレゼントしねえよ」
「一度脱退して再加入するから」
「それはズルだろ」
なんでもありになっちまうじゃねえか。
いや、そういえば、後藤ちゃんにはお祝いの品とか何もあげてなかったな。
この前、後藤ちゃんらしき人のチャンネルを動画サイトで見つけたし、ハイスペックPCとかがいいだろうか。ノートとデスクトップならどっち派なのか聞いておかないとな。
「はいはい、誰これ構わず貢ごうとしなーい」
ポコンと虹夏に頭を叩かれる。
別に貢ごうとしているわけではない。お金が有り余っているから、どうにか有効活用できないものかと考えているだけだ。
「あ、あの……白石さんって、ひょっとして物凄いお金持ちだったりするんですか……?」
「あー、うん……雪は、ほら……ちょっと特殊だから」
「は、はぁ……」
一言で説明するなら未来予知ができるギャンブラーだ。
負けるはずがない。
「あたしがしっかりしないと、このバンドは崩壊する……!」
虹夏は何やら一人で決意を固めていた。
よくわからないけど頑張れ。幼馴染として応援している。
「とりあえずのところは、リョウのコレクションから貸してあげればいいんじゃない? お金が入ったらまた考えるってことで」
「リョウ先輩のギター……!」
そういえば喜多ちゃんは山田のファンだったな。こいつのどこに憧れる要素があるのか。今世紀最大の謎である。
推しの私物が手に入るということで、喜多ちゃんは嬉しそうにしていた。いや、半分くらいは申し訳なさも感じているっぽいか。
他人のギターを借りるわけだし、否が応でも丁寧に扱うことになるだろう。ならいいか。喜多ちゃんも喜んでいるなら、山田のギターを貸すという方向で話を進めることに反対意見はない。
「それとギターだけど、雪に教わるといい」
「えっ、雪先輩ですか? 私、後藤さんに教えてもらうつもりだったんですけど……」
「確かにぼっちはギターが上手い。雪と比べたら月とスッポンくらいの差がある」
は? それって俺がスッポン側だよな?
後藤ちゃんが天才的なのは俺も認めてるけど、それはさすがに俺を低く見すぎじゃないか?
「でも、教えるだけならたぶん雪の方が上。中級者くらいになら一瞬で到達できると思う」
「雪は名選手にはなれないけど、名監督にはなれるタイプだよね〜」
虹夏までそんなことを言ってくる。
山田だけならまだしも、虹夏もそう言うってことは、もしかしたら本当のことなのかもしれない。
誠に遺憾だ。
「ぼっちちゃんも、わからないことがあったら何でも聞いてみるといいよ。ギターの技術だけじゃなくて、ライブで緊張しなくなる方法とか、他人と合わせるコツとか、そういうのも教えてくれるはずだから」
「楽器を上手く演奏する以外はだいたいなんでもできる。それが雪」
これは褒められていると見るべきか。それとも貶されていると捉えるべきか……。
微妙なラインだな。
俺としては高校生にしては上手いレベルで演奏ができるっていう自負があったんだけど……そうか、俺って下手くそなのか……。
「わかった。喜多ちゃんをすぐにバンドメンバーとして活躍できるレベルにまで成長させて、その汚名を返上してやるよ!」
俺は気合を入れた。絶対にあの幼馴染たちを見返してやる!
「だからそこは疑ってない」
「雪ってたまにズレてるよね」
その日から、俺と喜多ちゃんの楽しくも厳しい修行の日々が始まった。
*
「喜多ちゃん。正直言って、虹夏も山田も、後藤ちゃんも、高校生離れした実力を持っている」
「は、はい……!」
「だからあの三人に追いつくためには、それなりにスパルタな指導が必要になってくる……覚悟はいいか?」
「はい! よろしくお願いします!」
さて、まずは基本。コードの押さえ方だ。
ギターとベースを間違えていたとはいえ、多少は勉強していた様子。
だが、それは一旦全て忘れてもらう。変な癖がついていても面倒だからな。
最短最速で上達するには、寄り道している暇は一秒たりともないのだ。
「喜多ちゃん、ちょっと左手見せてくれる」
「え? はい、どうぞ……」
喜多ちゃんの手を取り、ムニムニと感触を確かめる。
ふむふむ。大きさはこれくらいで、指の可動域はこんな感じか。
指先はちょっとだけだが硬くなっている。何度も弦を押さえたことがある証拠だろう。
指に痛みが走って練習の質が下がっても困るからな。その辺の匙加減も見極めていかないと。
とにかく練習して慣れるというのは、別に間違った練習方法とまでは言い難い。
量は正義だ。でも、だからといってマメができたから良い、血が出たから頑張った──と素直に認められるかというと、それも違う。
根性論は悪ではないが、根性だけでどうにかなるほど音楽の世界は甘くないというわけだ。
「あ、あの……?」
「よし、だいたいわかった。それじゃあ一つずつコードを確認していこうか」
「は、はい……!」
まずは喜多ちゃんを椅子に座らせて。その後ろから両手を回すようにして、指の置き方を教えていく。
前からやるよりも、こっちの方がわかりやすい。
「あ、あわ、あわわっ……!」
「喜多ちゃん?」
「は、はい! なんでもないです……!」
耳元で話されるのは苦手なのか?
いや、別に嫌がっているって感じではないな。
だったらこのままでいいか。少しの間だけ我慢してもらおう。
どうせすぐに慣れる。
「……なんか、距離が……めちゃくちゃ近くないですか?」
「ああー、雪はねぇ……集中して教えようとすると、あんな感じになっちゃうの」
「あの状態の雪は効率だけを求めるようになるから人との距離がいつもより更にバグる。しかもあれで下心が一切ないから余計にタチが悪い」
「わ、わぁ……!」
「……ぼっちちゃんも今度やってもらう?」
「えっ、いや……心臓がもたなそうなので……え、遠慮しておきます……」
うん。飲み込みが早いな。
さすが喜多ちゃん。真面目だし器用だし、この調子ならすぐに上達しそうだ。
「Fコードは他のコードと違って、指の置き方が特殊でね」
「は、はひっ……!」
「親指はネックの上じゃなくて、裏に置く感じ。で、親指と人差し指で、ネック全体を挟み込むように」
「こ、こう、でしょうか……?」
「うん、いいね。でも、人差し指は腹じゃなくて、もっと側面で押さえるようにした方がいいかな。あと、ネックも少しだけ体から離した方がいいかも。指の動きを目で確認したいのはわかるけど、ネックを手前に引きすぎるとコードが押さえにくくなっちゃうからね。ギターが斜めになるように構えて、その状態で手首をグッと前に出すように……うんうん、そんな感じ。喜多ちゃんは上手だね」
「あっ、ちょ……耳元で囁きながら頭を撫でるのは、さすがに反則……んっ……!」
上手くできたら褒めてあげる。これは教育における鉄則だ。
飴と鞭の割合は人によって変えているが、喜多ちゃんは半々くらいがベストだと俺は見ている。
ちなみに山田に教える時は驚異の飴0である。教えているのはベースじゃなくて勉強の場合がほとんどだけど。
「わ、私たちは一体、何を見せられているんでしょう……」
「……他の場所で練習しよっか」
「……はい」
気づけば虹夏たちが周りから居なくなっていた。
集中していて全然気づかなかった。いつの間に。