結束バンドは可愛い子が多すぎる! 作:喜多ちゃんが可愛すぎてやばい
「みんな! アー写を撮ろう!」
始まりは、虹夏のそんな一言だった。
「アー写って、アーティスト写真のことですか?」
「そうそう! 4人揃ったし、暇なうちに撮っておこうかなって!」
「あの……この前のライブの時は、どうしたんですか……?」
「あー、あの時のはねぇ……」
虹夏が取り出した一枚の写真を、みんなで覗き見る。
「ほら、喜多ちゃん逃げちゃったから……」
「こ、こんな酷いアー写初めて見た……」
虹夏と山田が二人で真ん中に写り、左上の空いたスペースに喜多ちゃんの写真が合成されていた。
まるで、集合写真を撮る日に休んでしまった可哀想な生徒みたいな扱いだ。
後藤ちゃんの写真を右上に貼り付ければ、いい感じにバランスがよくなるのではないだろうか。
「というわけで、今日は外に出てアー写を撮ることにします!」
「ここで撮影するんじゃダメなんですか?」
「やっぱりこういうのはインパクトが大事だからね! 背景にもこだわらないと!」
そんなこんなで、虹夏が用意したという小道具(ただの結束バンド)を腕に巻きつけ、俺たちは外界へと繰り出した。
探す目標は『いい感じの壁』。なんだそのふわふわとした言い方は──と思ったが、実際の写真を見せてもらったことで納得する。
なるほど。確かにいい感じの壁を背景にするだけで、なんかこういい感じのアー写が撮れそうだ。
俺の語彙力は死滅した。こういうオシャレっぽいやつは喜多ちゃんあたりに任せるのが正解だろう。今日の俺の役目は彼女たちの命令に従い、ひたすら写真を撮るカメラマシンになることだと理解した。
「そういえば楽器は持ってこなくてよかったんですか?」
「ふふっ、ドラムをどう運べと?」
「あっ、すみません……」
ドラムを担ぐ女の子。インパクトという意味ではこれ以上ないくらいに効果がありそうだ。
大丈夫。たとえムキムキになったとしても、俺は虹夏のことを嫌いにはならないからな。
*
歩き回ることしばらく。俺たちは『いい感じの壁』の前へと辿り着いた。
さすが下北沢。ちょっと探すだけでこんなに理想的な『いい感じの壁』が見つかるとは。スプレー缶で俺自ら壁に落書きするという最終手段は、残念ながら使えなくなってしまった。
「よーし、撮るぞー。みんな目線カモーン」
壁を背に並んだ4人にカメラを向ける。
シャッターを切る──そう思っていた俺の指が唐突に止まった。
ダメだ。ツッコミどころが多すぎる。
「後藤ちゃーん、下向かないでこっち向いてー! 写り込んだ幽霊みたいになってるよー!」
「あっ、はい……こ、これでいいでしょうか……?」
「うーん……前髪が長いから、相変わらず顔が隠れちゃってるなぁ」
「で、でも……恥ずかしい、ので……」
そうか。恥ずかしいのか。
じゃあ仕方ないか。
「山田ー! 目が死んでるぞー!」
「バンドマンとはこういうもの」
そうか。そういうものなのか。
山田は俺よりもよっぽどバンドマンの何たるかについて詳しいから、一概に否定することはできない。
それに、目がキラキラした山田ってのもそれはそれで気持ち悪いからな。じゃあそのままでいいか。
「虹夏ー! 山田と肩を組むのはいいけど、逆サイドの後藤ちゃんとの距離が遠くて仲が悪いみたいになってるぞー! ちゃんと結束しろー!」
「ぼっちちゃん! あたしがリョウにやってるみたいに寄りかかってきて!」
「えっ、あっ……うぇあっ!?」
後藤ちゃんがアワアワしている。自分から触りにいくことに抵抗があるらしい。
まるでギャルに翻弄される引っ込み思案な男子みたいな反応だ。面白いので温かい目で見守る。
「喜多ちゃーん! カメラ写りいいねー!」
「ありがとうございます!」
「でも一人だけ明るすぎて逆に浮いてるかもー!」
「それってどうすればいいんですか!?」
虹夏も明るいタイプだけど、左右の二人に引っ張られて落ち込み気味になってしまっている。
ああ、そうか。それも踏まえて立ち位置を変えればいいのか。
喜多ちゃんと虹夏を端に配置して、その間に山田と後藤ちゃんを並べる──そうすることでオセロのように明るさが伝染し、いい感じに統一感が生まれるのはずだ。
「んー、でもなーんか物足りない気が……」
「それならジャンプしてみるのはどうですか?」
「お、いいね喜多ちゃん! それ採用!」
喜多ちゃんをビシッと指差しながら虹夏が言う。
「有識者が言っていた。OPでジャンプするアニメは神アニメだと」
続く山田の言葉に俺は無言で頷いた。
確かに、その法則は多くの作品に当てはまっている気がする。
なんというか、アニメのキャラが『ぴょん』ってジャンプすると、こっちの心まで『ぴょんぴょん』と飛び跳ねてしまいがちなんだよな。
だからといって、アー写でジャンプしていると神バンドになれるのかどうかはわからないけど。
「よーし、撮るぞー! 俺の合図に合わせてジャンプしてくれよー!」
『はーい!』
カメラを構え、呼吸を整える。
被写体のジャンプ力はもちろんのこと──いい写真を撮るには、撮影する側の技術も大事になってくる。
何度も飛び跳ねる体力は、おそらく山田や後藤ちゃんには備わっていないだろう。
ゆえに、この一発で決めるくらいの気持ちで臨む必要があった。
「3……2……1……ハイ!」
4人の少女が、横並びで手を繋ぎながら、一斉に地を蹴る。
瞬間、俺は目を疑うような光景を目撃した。
幽霊ではない。UFOでもない。
それよりも貴重で、よっぽど価値のあるものが、俺の視界に映り込んでいた。
「どう!? うまく撮れた!? 結構いいジャンプができたと思うんだけど…………ねぇ、聞いてる?」
虹夏の問いに応える余裕すらないまま、俺は撮ったばかりの写真をじっくりと確認した。
なんてことだ。やはり見間違いではない。
そこには本来ならば絶対に見えてはいけないものが、はっきりと記録されてしまっていた。
「ちょっと、何をそんなに真剣に──って、ぼっちちゃんのパンツが見えてる!」
「えっ……!?」
俺の手元を覗き込んだ虹夏が、その事実に気づき慌てたような声をあげる。
次いで、まるでひったくり犯のように、勢いよく俺の手からカメラを奪い取った。
「なにガン見してんのバカ! えっち! へんたい!」
「……悪い。あまりの衝撃に思考が止まってた」
「もう! 本当にもう……!」
ぷりぷりと怒りをあらわにする虹夏。
俺は後藤ちゃんに向き直り──そのまま流れるように土下座した。
「ごめん後藤ちゃん。わざとじゃないんだ。許してくれ」
「い、いえ、別に……私の下着に、価値なんて無いですし……むしろ、変なものを見せてしまってすみません……」
その発言に、俺はすぐさま否定の言葉を返そうとした。
それは違うよ!
後藤ちゃんのパンチラには価値がある──というか価値しかない!
思っていたより可愛いの穿いてるんだね!
最高だったよ!
ありがとう!
しかしさすがに変態度合が限界突破していると気づき、喉まで出かかったそれらの言葉は固く飲み込んだ。
後藤ちゃんは魅力的な女の子だということを自覚してほしい気持ちはあるが、いくらなんでも単語の選び方が最低すぎる。
日本語って難しい。
「とりあえず……これを受け取ってくれ……」
「えっ、なんでいきなり一万円札を取り出したんですか……?」
「その……お詫びの品、的な?」
「う、ううっ、受け取れません……!」
無理やり握らせようとしたが、首をブンブン振りながら頑なに拒否されてしまう。
どうしよう。後藤ちゃんが謙虚で優しい女の子である事実は褒められるべきことなんだろうけど、これでは俺の気が収まらない。
そんなことを考えていると、不意に肩をトントンと叩かれた。
「雪」
「なんだ?」
「ほいっ」
振り向いた先にいたのは山田だった。
彼女は自分のスカートに手を伸ばしたかと思うと──何をとち狂ったのか、そのままぺろりと捲り上げたのだった。
「ちょ、リョウ!? 何やってんの!?」
虹夏が叫ぶが、山田は奇行をやめようとしない。
当然、下着は丸見えになっている。
ふむ……タイツ越しの下着というのも、なかなか趣があっていいものだな。100点満点。
「はい。パンツ見せてあげたからお金ちょうだい」
「しょうがないな。ほれ」
「……なんで千円?」
「自分で見せてきたんだから、謝罪の分は含まれないだろ?」
「……ケチ」
山田が千円札を雑にお財布にしまう。
おい、今舌打ちしたか?
逆に公然わいせつ罪で罰金を請求することだってできるんだぞ? お?
「だったら……これならどう?」
山田が虹夏の近くへと移動する。
足元にしゃがみ込んだかと思うと──虹夏のスカートに手を伸ばし、そのままガバッと捲り上げた。
「ふぇ……?」
両手を使い、中身が俺によく見えるようにスカートを持ち上げている山田。
そのおかげで、虹夏の下着の前面部分が、これ以上なくしっかりと目に焼きついてしまう。
まるで時間が止まってしまったのかと錯覚するような刹那の間。
自分の状態に気づいた虹夏が、顔を真っ赤にしながらスカートを押さえた。
「きゃああああああっ!?」
手遅れとわかっていたが、俺はすっと目を逸らした。
何も見てないアピールだ。たぶん効果はない。
「バカバカバカ! 信っじらんない! いきなり何するの!? リョウのバカァ!」
「子供っぽい縞々パンツ。でも雪的にはポイント高いはず」
「わー! わーわーわー!」
山田の胸ぐらを掴み、勢いよく前後に揺らす虹夏。
山田の頭がぐわんぐわんしている。このままではただでさえアホな山田の脳みそがさらにポンコツになってしまうかもしれない。
俺は虹夏を落ち着かせるため、目の前に五千円札を差し出した。
「虹夏、ごめん……どうかこれで……」
「要らないから! だから今見たものは忘れて!」
それは無理だ。記憶力には自信がある。たぶん死ぬまで忘れないだろう。
「雪、私には?」
「あるわけねえだろ。むしろお前が虹夏に払えよ」
「そんな……!」
当たり前だ。むしろなんで報酬を貰えると思ったのか。
そんなことをしたら俺が山田にやらせたみたいになっちまうだろ。
犯罪教唆で捕まるのは御免だ。
「えーと……これ、私も見せた方がいいやつですか?」
「見せなくていいから!」
喜多ちゃんの発言に虹夏が鋭くツッコミを入れる。
見たいか見たくないかで言えば、もちろん見たい。だが、俺から頼むことは絶対にできない。
後輩の女の子にパンツを見せてくれとお願いするなど、事案以外の何物でもないからな。
その後、二度と変なものが見れないようにということで、俺は目隠しをしたままカメラマンをすることになった。
たとえ視界が塞がっていたとしても、音の振動や空気の流れを知覚すれば日常生活を送るのに支障はない。
定位置は先程と同じで、カメラの角度も全く一緒。ならば少し前の自分を完全に模倣すればいいだけ。簡単な話だ。
「あの、なんで雪先輩は普通に動けてるんですか? もしかして見えてるんですか?」
「見えてないと思うよ。でもほら、雪って耳がいいから」
「楽器を上手く演奏する以外は何でもできる。その言葉に誇張はない」
「これはちょっと方向性が違うような……」
カウントダウンをしてから、1回目と同じように写真を撮る。
その写真を、虹夏たちに確認してもらう。俺は見ることができないからな。これって手間じゃね?
「あっ、喜多ちゃんのパンツ写ってる」
「うそっ……!? はぁ、雪先輩に目隠ししてもらっててよかったぁ……!」
「大人っぽい黒色のやつ」
「ちょ、リョウ先輩!? なんで言っちゃうんですか!?」
何の躊躇いもなく暴露されてしまう喜多ちゃんの下着事情。
目隠しを外したい衝動を抑えながら、俺は懐から財布を取り出した。
喜多ちゃんの声が聞こえた方向に歩いていき、五千円札を手渡す。
「いえ、要りませんってば! というかほんとに見えてないんですよね!?」
俺は無言で頷く。
横から手が伸びてくる気配を感じたので、ひらりと避けて五千円札を財布に戻す。
「チッ」
「なんで今の躱せるんですか!?」
「山田ならやってくるだろうなって」
「その信頼が今だけは憎い」
「ゆ、雪先輩! これ何本ですか!?」
「三本」
「ほんとに見えてないんですよね!?」
だから見えてないって。
喜多ちゃんが何本の指を立てたかを当てることなんて、視覚に頼らずともだいたいわかる。さすがに百発百中とはいかないけど。
その後も撮影を続け、満足するアー写が撮れたわけだが、俺はスターリーに戻るまでの間、ずっと目隠しをされたままだった。
いや、俺は別にいいんだけどさ。
目隠しされた男と一緒に歩くとか、そっちの方が恥ずかしいんじゃないだろうか。
いじめの現場として通報されたらどうするつもりだったんだ。
「はっ……ライブで緊張しない方法って、もしかしてそういう……!? で、できる気がしない……!」
小さな声で後藤ちゃんが何事かを呟いていたが──たぶん違うと思う。