今回は途中で三人称視点に変わります
「アジテイターさん、更新するトレーニングメニューの内容はこちらでよろしかったでしょうか」
「皆さんが併走で出したタイムを纏めておきました。以前と大きな差があれば、色分けして出力するように調整してあります」
「備品の発注ですが、数に違いはありませんか。他に足りない備品があれば、追加で発注致します」
「ヴィルシーナが優秀過ぎる……」
初戦を過ぎて6人もの新規を迎えたチーム:にんじんプリン。
当たり前だが、11人もメンバーが増えたために俺は悠々自適な引退生活とは程遠い忙しい日々を送るようになった。
そんな俺を見かねてか、俺の補佐役を買って出たのはヴィルシーナだ。最初はほんのお手伝いで済ませるつもりが、気付いたらExcelで資料を纏めてくれるまでになっている。
「Excel使えるのが大手柄だわ。トレセン卒業したらどこかに就職する予定でもあんの?」
「卒業後の進路はまだ決まっていません。単に、使える技能があればと学んでいるだけです」
「……真面目だなぁ」
「ふふっ、お褒めに預かり光栄ですわ」
嫌な記憶を思い出す。
前世の頃、学生時代にそういう仕事で必要なスキルに触れてこなかったから就職してからめちゃくちゃ苦労したんだよな。それで後から入ってきた新人の方がExcelとか弄れたりしてさ。
「あー、やだやだ。こういう邪念は俺の悪いところだわ」
「……? どうかされましたか?」
「ああごめん。ヴィルシーナは関係無いよ。俺個人の問題。いつもありがとな、ヴィルシーナ」
「あっ……」
おっと、テイオーにやるノリで頭を撫でちまった。せっかくセットしてる髪だもんな。崩れたらまずい。
「悪い、つい手が出ちまった。嫌だったか?」
「いえ、そんなことは……その、単純に驚いたんです。いつもは撫でる側だったので……」
「ああ、そっか。ヴィルシーナはお姉ちゃんだもんな。妹二人が可愛くて仕方ないか」
「ええ。二人とも目が離せなくって。シュヴァルは奥手だからこちらから甘やかしてあげないと甘えてくれないし、ヴィブロスは甘え上手でつい甘やかしてあげたくなるんです」
「そうか。姉妹の特権だよなぁ、そういう幸せ。俺は一人っ子だから分からねぇけど」
「あら、一人っ子でしたの? てっきり、妹さんか弟さんがいるものとばかり……」
「そう見えるのか? 俺は親に甘えっぱなしだよ。いつまで経っても子供のままさ」
未だに就職する気なんて無いからな。トレーナーなら考えてやらんでもないってところか。今トレーナーやってるのもあいつから逃げる口実の一つだしなぁ。あとマルゼン姐さんとラモーヌさんを両手に添えたい(願望)。
「率先して陣頭に立ち、日々の暇を惜しんで私達に尽力をする方を子供だと思う人はいませんよ、アジテイターさん」
「お、帰ってきたかジャーニー。どうだった、阪神の様子は」
「大きな問題はありません。芝の様子も荒れてはいませんでした。順当に行けばクラフトさんの実力が発揮できるでしょう」
ドリームジャーニー。
こいつにも俺はお世話になってる。ヴィルシーナが主にチーム内の細かいところをやってくれる内政屋なのに対して、ドリームジャーニーはレース場の下見とか泊まる宿の確認などで情報を出してくれる外政屋だ。遠征支援委員会だったか? 俺がやるより手際よく新幹線のチケットとかを取ってくれたりしてくれるからこっちもめちゃくちゃ助かってるんだよな。
今回も、ラインクラフトのために阪神ジュベナイルフィリーズ────そのレース場や周辺の宿の様子を確認しに行ってくれた。
「クラフトさんの仕上がりは如何ですか?」
「ぼちぼちってところか。特に気にしたいやつもいないし、大丈夫だろ」
「……アジテイターさんがそう仰られるなら、そうなのでしょうね」
「へぇ、ヴィルシーナには誰か気になるやつでもいたのか?」
「いえ、そんな……アジテイターさんの見識を覆すほどでは」
「多分、デアリングハートだろうが」
「……!」
「流石アジテイターさんですね。想定外など無いという訳ですか」
「そこまでは言わねぇよ。ただ出走する面子でクラフトが一番強いってだけだ。だから気にしない、それだけ」
うちのトレーニングは併走主体だ。まずは誰でも、というか集められるやつ全員集めて適正距離関係無く走らせる。そして併走で傾向を掴んだら、各々の傾向に応じたトレーニングを行うって具合だ。
併走を頻繁に行うのはチームであることのメリットを存分に活かしたいからだ。併走こそ最も実践に近しいトレーニングであり、他のウマ娘の様子を見ながら自分の改善点を探すのにも良いトレーニングだったりする。特にラインクラフトは思っていたよりずっと理論派な考えで走るウマ娘だ。そういうウマ娘に感覚派の走りを勉強させるのに併走ほど適したトレーニングは無いんだよ。
「デアリングハートは、確かにうちのラインクラフトを除けば最有力の候補だろう。だが、それだけでしかない」
「というと?」
「地力が違うのさ、地力が。おまえらも感じてるだろうが、俺の教え方はフィジカル重視だ。レベルを上げて、物理で殴る。分かりやすくシンプルだから、奇を衒う必要が無い」
「強いウマ娘は強い、それを地で行く訳ですね」
「そうそう。そもそもジュニアのウマ娘にレースのテクニックだとか、見るべきポイントとか教えても返って混乱させるだけなんだよ。そういうのはクラシック超えて気付いたら身に付いてるようなもんなんだからな」
ラインクラフトは結構考えて走れるやつだ。が、それは一長一短、冷静にレースの流れを観察できるか、或いは考え過ぎてスパートが遅くなるか、どちらとも起こりうる。それを解消できる一番の特効薬は経験なんだが、ジュニアのウマ娘にそんなもんあるはずが無い。
だから単純な指示を出す。レース中こうしろと────例えばスパートの掛け時、だけとかね。
「地力で勝てるんなら難しいことは考えなくていい。最後のカーブ、スパートしようとして一瞬団子になるから、それを外から差してやれってね」
「外差しはアジテイターさんの得意技でしたね」
「ああ。クラフトは脚が伸びない分、俺みたいに最後の直線で末脚使わせる方が性に合う。斜行にだけは気を付けろと言っといた。心配することはなんもねぇよ」
ラインクラフトについては概ね仕上がってる。どちらかというと、手をかけてやってるのはシーザリオの方だ。
「おまえら、俺の手伝いは良いが自分のことも疎かにすんじゃねぇぞ? 次当たる相手、結構強いみたいだからな」
「おや、もう次のアオハル杯の相手が決まったのですか?」
「逃げシス.Version2ってところらしい」
「逃げシスって……」
俺が手に持つパンフレットにはセンターを堂々飾るツインテールのウマ娘の姿。
そう、スマートファルコンを筆頭とする逃げ専門のチームらしい。元は学園内で有力な逃げウマ娘をスマートファルコンが集めてアイドル化させた一味だ。ただ、アオハル杯のチーム分けで元のメンバー全員が集まれた訳じゃないらしく、それを銘打ってVersion2と名付けたようだった。
「中距離にサイレンススズカさん、ですか」
「正直言うとうちの中距離の面子じゃ厳しい。あの天皇賞を越えて復帰した大逃げウマだぞ。あと20年は経たないと同じだけの大逃げできるやつは現れねぇだろうな」
「勝算はあるんですか?」
「上がり3Fを33秒より早く差し切る」
「それは……」
よりにもよって中距離に指定されてるレースが東京2000m左回りと来た。サイレンススズカにとっちゃあ完全に個人に起因する因縁だ。まず間違いなく本気で来る。
うちの中距離三人の内、辛うじて勝ちの目がありそうなのはフクキタルだ。どうもフクキタルはその日のレースを占いで調子の良さを弄ってるらしく、大吉を出した時のポテンシャルはチーム全体でも最高峰の実力を叩き出す。出来ればそのポテンシャルを維持してもらいたいもんなんだが。
(こういうとこの当たり外れはある意味競馬らしいよなぁ。まぁ競馬で金なんか賭けたことないけど)
そもそも前世からして競馬になんて興味が無かった。前世の頃、知っていた馬の名前と言えばテレビで話題になっていた"負け組の星"ことハルウララとあともう一頭だけだ。なんで俺がウマ娘に生まれ変わったか、とんと脈絡が無いんだよな。
「ダートは当然ながらスマートファルコン、中距離サイレンススズカ、長距離にミホノブルボン、マイルにアイネスフウジン、そして短距離にダイタクヘリオスか」
「全員逃げウマ娘として名を馳せる優駿ばかりですね……。私と当たるのはミホノブルボンさんですが、これは間違いなくかつての菊花賞でのリベンジを狙っていると言えるてしょう」
こいつら、五人だけでチーム組んでるが厄介なのは逃げと単騎であることの性質だ。作戦がいらないんだ、このチームには。何せ逃げってのは単純だ。ハナを取り続ければ良い。チーム戦であることを真っ向から否定しているが、その分難しいことを考えなくて良いというのはそれだけレースに対しての余分を省けるということだ。
「気を付けろよドリームジャーニー。同じ負け方するウマ娘なんてまずいねぇからな。ライスシャワーにマークさせつつどちらでも差し切れるようにしろ。ペース配分の調整は怠るなよ」
「ええ、抜かりなく」
強い相手だが、"怖い"相手じゃない。
五部門の内、中距離とダートが厳しいと考える。しかし、逆に考えれば他三つで勝てるんだ。そう思えばそんなに難しく考える必要は無い。だからといって手を抜かせるような真似はさせないけどな。
「……アジテイターさん。オルではスマートファルコンさんの相手は厳しいとお考えですか?」
「ん? なんだ、顔に出てたのか。正直厳しいだろ。相手は"赤鬼"だぞ。余興扱いで出るオルフェーヴルじゃ難しいって」
「普通に考えれば、そうかもしれませんが────」
「たっだいまー! アジテイターちゃん、今日頑張ったよ! 25本から27本走れたんだ!」
「……はぁ……はぁ……待て、ウララ。そのように……泥に濡れたまま走るものではない……」
「おや、オル。お疲れのようだね」
噂をすればなんとやら、だ。
元気いっぱいのハルウララと、対称的に精魂果てた様子のオルフェーヴルの二人が部室に入ってきた。オルフェーヴルには走り方で教えるところはほとんど無いから、ウララと同じようにフィジカル重視でひたすら身体の強化に努めるよう指示している。しかし、その内容はウララの坂路に着いて行けという過酷なものだ。
勿論完全にやりきる必要は無く、限界を感じたら根を挙げて良いと言ったんだが、割りと負けず嫌いなところがあるオルフェーヴルは息も絶え絶えながらしっかりと完走してくれていた。
「アジテイター……貴様どんな教え方をしているのだ……」
「ん、フィジカル重視だけど」
「限度というものがあろう! ひたすら体ばかり鍛えたところで本人がこれでは……!」
「らしくないな、オルフェーヴル。さてはウララのことが気に入ったな?」
「……」
「ふふふ、オルもお姉さんがしたかったのかい? ウララはみんなの妹みたいなところがあるからね」
「ウララちゃん、こっちで体をふきましょう。ほら、上を脱いで……」
「はーい!」
ウララはヴィルシーナに、オルフェーヴルはドリームジャーニーにそれぞれ面倒見て貰っている。ウララはともかく、こうして見るとやっぱりオルフェーヴルは妹だな。ジャーニーに手招きされるでもなく、髪を梳いて貰っている。そういうことやってるから暴君なんて威厳が無いんだ。
「しかし、私も気になります。ウララちゃんにはいつまで坂路のトレーニングをさせるつもりなんですか? 他の方には様々なトレーニングを課しているのに……」
「なるほど、ヴィルシーナはそう思うか。ウララ、他のトレーニングってやってみたいか?」
「他のトレーニング……?」
「例えば、プールを泳いだり、重い物を持ち上げる筋トレだったり、クイズで頭を鍛えても良いなぁ」
「プール! プールでみんなと泳ぎたいな!」
「じゃあ明日はプールだな。水着忘れないようにしろよ」
「うん! 今度はオルフェちゃんと一緒に泳げるね!」
「えっ」
ぷーる、ぷーると楽しそうに歌うウララと、またも驚いているオルフェーヴル。そんな宇宙に浮かぶ猫みたいな顔すんな。こいつこれでも疲れてる方だからな。
「アジテイターさん、こんなノリでトレーニングを決めて良いんですか……?」
「他の奴等は真っ当にトレーニング組んでるがこんなのはウララだけだ。根っこがガキなもんで興味あるトレーニングじゃないとこいつの身にならん。尤も、オルフェーヴルがいる内はどんなトレーニングでもいけそうだがな」
「オル、もう一踏ん張りだ。他にダートを走ってくれるウマ娘を探してるところだから、上手くいけばアオハル杯の前に仲間が増えるよ」
「道連れを増やすだけではないのか姉上ぇ……」
流石にオルフェーヴルを休ませるべきかなぁ。俺の見立てじゃウララほどではないとはいえ、それを除けばうちのチームで二番手に位置するくらいの頑丈さがあると思っているんだが。
それかあれかなぁ、頼れるお姉ちゃんがいるからすぐ弱音になっちゃうとか。そんなら合宿で引き離してみても────
「宿の手配は、全て私が行いますので」
「怖ぇよ。ナチュラルに読心すんな」
「何のことでしょう。私はただオルを愛でているに過ぎませんよ?」
「……私も何か、妹達のためにどこかツテを作るべきかしら……?」
ヴィルシーナ、おまえはそのままでいてくれ。頼む。
個性が振り切ってるうちのチームじゃ数少ない常識人なんだ。これ以上変なのを増やさないでくれ。
(ダートより短距離走れるやつ集めたいなぁ。未だにクラフト一人は可哀想だ)
ダートの二人が個性的過ぎて他に走れそうなやつが思い付かん。ジャーニーが何やら企んでいるそうだがこういうのは聞かない方が無難だろうな。
(クラフトはしばらく放置でいい。ジュベナイルフィリーズを勝った後で方針を考えよう)
12月上旬。
「勝っちゃった……」
ラインクラフトは阪神ジュベナイルフィリーズに出走し────自身でも驚くほどの大差を付けてレースに勝利していた。
(全部、アジテイター先輩……いや、トレーナーの言う通りになっちゃった)
アジテイターはここに来ていない。名義上はアジテイターのトレーナーがチームを運営しているという建前なので、来ていなくてもおかしくはないのだが、当のアジテイターはそもそも来る意味が無いとまで言い切っていた。
(
正直に言えば、ラインクラフトの内心は半信半疑であった。レースの世界というのは厳しいもので、思うように上手く行く方が難しいのだと。デビュー戦に勝った後でもラインクラフトはそう考えていた。
(逆なんだ。思うように上手くいかせられるウマ娘が勝つ。ここはそういう世界だ)
蓋を開けてみれば、9バ身差。
レース前に警戒していたデアリングハートは5着に沈み、その差はどれほどあるか。ラインクラフトは今、畏敬の念を以て他のウマ娘から見られていた。
「……おめでとう、クラフト」
「あ、ありがと、シーザリオ。……やりすぎちゃったのかなこれ……」
「多分……」
控え室にて応援に来ていたシーザリオから互いに素っ気なく、祝福の言葉を受けとる。祝福の意思が無い訳ではないのだが、シーザリオもまた内心この結果にドン引きしていた。
(もしかして、ホープフルステークスで私もこれをやらないといけないのかな)
アジテイターの指示でシーザリオは年末のホープフルステークスを次に控えている。ラインクラフトと本格的にぶつかるのは桜花賞からと決まっているのだが、アジテイターが課したトレーニングの成果がここまでのものとは思っていなかったのだ。
(顔から火が出るほど恥ずかしい)
シーザリオはチーム入り前にアジテイターに対して語ったティアラ路線のウマ娘に対する指導適正云々を指摘した下りを大いに恥じた。アジテイターからすれば、路線や走りたいレースの傾向など欠片も考慮の内に無く、ひたすら素地を鍛え上げれば良いだけでしかなかったのだ。そしてチーム:にんじんプリンのメンバーはそれに応えられるだけの才能を持っている。
思っていた以上に、チーム:にんじんプリンはある種の人外魔境なのだとシーザリオは痛感せざるを得なかった。
「次はシーザリオの番だね。そっちの調子はどう?」
「可もなく不可もなく……かな。それを言ったらクラフトもそうだと思うけど……」
「あはは……」
これ、大丈夫なんだろうか。
シーザリオ、ラインクラフト両名の心中は一致している。驕りと謗られても当然というつもりでいるのだが、あまりにも他のジュニアウマ娘との差が隔絶していてライバルと呼べる相手がお互いにしかいないのだ。
有力ウマ娘と目されているデアリングハートやエアメサイアなど同期のウマ娘は他にいるが、それを大したテクニックもなく一蹴出来てしまう
この場にアジテイターがいれば、はっきり宣言するだろう。二人の前に、敵らしい敵はいなかった。
(けれど、そのアジテイターさんが私ではサイレンススズカさんには勝てないとはっきり言った)
難しい、ではない。勝てない、と。
シーザリオは怖じ気付いていた。サイレンススズカにではなく、冷徹にもそう判断したアジテイターの戦術眼に、である。
一見するとアジテイターの指導は感覚派に寄っているように見える。勿論いくらかはデータで判断しているが、基本的には各ウマ娘ごとの好みに応じたトレーニングを割り振っているのは明白だ。
だが勝ち負けの話では感覚的な話を全く出さない。恐ろしいのは勝てないと判断した際に何故勝てないかを明確に説明しないのだ。当然抗議したシーザリオだが、返ってきた声はどこまでも平坦だった。
────仮にさ、深海魚にカモメの話をしたとして、そいつが空飛べるようになると思う?
届かないものを追いかけたところで徒労である。
あまりにも
(勝つか負けるか、その基準はアジテイターさんの中にだけ理論が組み立てられている。けれど、それが分かるのもまたアジテイターさんだけ)
だから話さない。何故なら、アジテイター一個人のみの理解だけで完結しているが故に。
「……クラフト、アジテイターさんって感覚派か理論派か、どっちかって考えたことある?」
「え、いきなり唐突だね……」
「考えてみたら、アジテイターさんはどっちなのか一度も聞いたことが無かったから……」
「そういえば、アオハル杯の発端も管理主義か放任主義のどっちかっていう話だったもんね。……言われて見ると、アジテイターさんはどっちだろう……?」
感覚的にトレーニングを組み立て、理論的に戦況を判断する。
二択ではなく、そのハイブリッド。足して二で割るのではなく、乗算的に双方の良いところだけを取り入れる。
改めて考えると、アジテイターの方針は他に類を見なかった。
(まさか……)
当初この方針は、樫本代理が掲げる管理主義に対する当て付けだろうとシーザリオは考えていた。
しかし、稀代の跳ねっ返りだと豪語するアジテイターが果たして樫本代理個人のみに絞って当て付けるだろうか。こと、煽ることに関しては他の追随を許さないとばかりに振る舞うアジテイターが煽りたい矛先────。
(
樫本代理就任直後に繰り広げた舌戦にて、アジテイターが放った台詞である。その後に続く言葉も、レースの人気とそれに伴う利益に終始していた。
(管理主義か放任主義か、二択に膠着したレース界そのものに警鐘を鳴らしている……!?)
アジテイターの立場は複雑だ。学生ではあるが、URAの株主でもありレースに対する考え方はおよそ一般のウマ娘とは言い難い。
樫本代理が提唱する管理主義に対してアジテイターが危惧していたのは人気の陰りやそれに付随する利益の増減についてだったが、あれはもしかしなくても、今のレース界そのものにも言えるのではないのだろうか。
「……ザリオ、シーザリオ! どうしたの、顔が真っ青になってるよ!?」
「え……」
「大丈夫? 具合でも悪い?」
「だ、大丈夫。ごめん、色々考えこんじゃって……」
「そうなの? 本当にそうならいいけど……シーザリオもレースが近いんだし、何か不調があったら……」
「本当に大丈夫。それよりクラフトは時間を気にした方が良いよ。ライブの時間、そろそろじゃない?」
「あっ、そうだった……!? 早く行かないと……!」
上手く誤魔化したシーザリオではあったが、変わらず内心は穏やかではない。
夢を追いかけターフを走るウマ娘達だが、URAからすればまな板の上の食材と変わらない扱いなのだ。レースの栄光も、ライブの熱狂も、全てはURAが用意したターフという名の器が無くては盛り付けようが無い。そしてそのURAもまた、樫本代理とアジテイターの論戦により一枚岩でないことも露呈している。
「アジテイターさん。貴方は一体、どこまで見据えているんですか……?」
慌ただしくラインクラフトが去った後で、シーザリオは戦慄しながらそう呟くしかなかった。
アジテイターのヒミツ⑩
レースの方針やそれが与えるレース界への影響について、特に何も考えていない(シーザリオの勘違い)。
キャラ紹介
アジテイター
何それ……知らん……こわ……なクソボケ。シーザリオの深読みを聞いたら間違いなくそう答える。
トレーナー適性Sな才能を遺憾無く発揮しチーム:にんじんプリンの面子を順調に鍛えている。唯一の懸念事項は相変わらずハルウララだが時間が解決するだろうと楽観的。この辺りも言ってどうにかなるものではないだろうというリアリストとしての一面が垣間見えている。
ちなみにシーザリオの深読みはただの勘違いだが、それとは別にトレセンを激震させる施策はしっかり用意している(まだ表に出していないだけ)。
ヴィルシーナ
アジテイターの頼れる敏腕秘書。どこでどうを学んだのか、アジテイターより卓越したPCスキルでチームの運営に貢献している。トレーニングも充実しており、特にあのジェンティルドンナがタイキシャトルの前では後塵を拝するという珍しい状況にジェンティルドンナ攻略の鍵があるのではとライバルの分析に余念が無い。
また、いつもは姉という立場から甘えられることが多いヴィルシーナだが、年長者として振る舞うアジテイターからは逆に甘やかされる機会が多く、アジテイターの前では"姉"らしさを脱ぎ捨てていいのではないかと葛藤しているようだ。
ドリームジャーニー
ヴィルシーナと並びチームの運営を支える両翼の一人。
遠征支援委員会のツテから主にチームのレース場出向を手助けしている。また、アジテイターは知らないが急速にチームへの加入の希望が増えており、それを断る窓口としての対応にも力を入れているようだ。
また、ヴィルシーナ同様年長者として振る舞ってくるアジテイターに対して確かな信を置き始めている。愛しの妹であるオルフェーヴルが文句をたれながらもハルウララと仲良くしている様子に癒されていることもあってチームでの居心地は悪くないようだ。
オルフェーヴル&ハルウララ
チームにんじんプリンの可愛いシスターズ。傍若無人……かと思いきや面倒見の良いオルフェーヴルと天真爛漫なハルウララの二人はいつの間にかチームの中でもコンビとなっている。
結果的に無邪気なハルウララがオルフェーヴルを振り回す日々となっており相対的にオルフェーヴルらしい暴君さは鳴りを潜めている。口ではアジテイターに対して文句を付けるオルフェーヴルではあるが、騒々しい毎日に楽しさを隠せないでいるようだ。
ラインクラフト
史実と違って阪神ジュベナイルフィリーズを圧勝してしまい困惑している。本来なら喜ぶべきところが自身が出した結果に自分でも引いており下手をするとシーザリオ以外相手にならないのでは思い込み始めている。
短距離部門は未だラインクラフト一人である。アジテイターは仲間を探しているが、ラインクラフトはこの状況に着いてこられる仲間を探すのは無理ではないかと諦めているようだ。
シーザリオ
アジテイターの振る舞いを勝手に深読みして勘違いした可哀想な娘。
ラインクラフトが圧勝した様子を見たせいでプレッシャーを感じているがアジテイターからすればそれも込みで仕上げている。ゲームアプリで例えるとアジテイターの方針はスキルよりステータス重視の方針であり、例に漏れずシーザリオのステータスも同期の3~4倍(ラインクラフトも同様)に盛られている。
ちなみに勝てないとされたサイレンススズカは全てのステータスが少なくとも1200(UG)以上の判定である。まだまだ強さには上があるのだと、シーザリオはトレーニングに入れ込んでいるようだ。