今回多分に私の趣味が含まれております。苦手な方、心してどうぞ
アジテイターが倒れた。
その報せは、瞬く間にトレセンを駆け巡った。
本人が知ってか知らずか、アジテイターは学園内でも随一の有名人である。単にトレセン生としてだけでなく、株主として時と場を敢えて選ばず樫本代理と舌戦を繰り広げた手腕もトレセン内外から高く評価されていた。
生徒にして、その在り方はどこまでも後輩を重んじる先達者。口さが無い者は、揃ってアジテイターを
トレセンの、誰もが知る大先輩。口こそ悪いが、きっとその口調もぶっきらぼうな自身の優しさが恥ずかしいからだろうと学園にいる皆がそう信じていた。
そんな彼女の凶報である。
これまでの、あらゆるどんな悪い報せよりも、そのニュースは学園の至るところで暗い影を落としていた。
「はぁ……」
「シオンさん。ため息、三回目ですよ」
「……分かってるっす」
「一旦休憩にしましょう。この調子で練習しても身になりませんから」
ダンス練習用の防音室にて。
ウイニングライブのダンスを練習しているチーム:にんじんプリンの中距離担当────マチカネフクキタル・ウインバリアシオン・シーザリオの三人は今一練習に集中しきれないでいた。
「はんにゃかはんにゃかはんにゃかはんにゃか~……んんん~……っぷはっ!」
「フクさん、さっきから何やってるんすかそれ……」
「……あ、これですか? ズバリ、アジテイター先輩の行く末を占おうかと奮闘しているところです!」
「占いって奮闘するものなの……?」
「あ、いえ、ちょっと違うんです。いつもならちゃんと占えるはずなんですけど、今回は何故か見えないと言いますか、弾かれるような感じでどうにも……」
マチカネフクキタルは休みの度、正確には暇さえあればどこでもアジテイターのために占いを試し続けていた。
マチカネフクキタルの占いは当たると評判である。少々騒ぎがちな気性ではあるが、悩める少女達の良き相談相手としてマチカネフクキタルを頼る者は少なくない。今回のアジテイターに関しても、彼女を心配する声が多くマチカネフクキタルとしても心配しているため占いを躊躇うことは無かった。
しかし────。
「ダメです……何度やっても弾かれます……」
「弾かれるとは、どういうことなんです?」
「いつもでしたらシラオキ様のお導きの元、ふんわりと情景というか光景というか……色々見えたりするんですが、先輩の占いに限って見えそうなところで全く見えなくなってしまうんです」
「見えなく……っすか」
「こんなこと、今まであり得ませんでした。見えないことは他の方でもあったんですが、そういう時は決まってモヤがかかるような感じで具体的には描写しない、といった感じだったんです」
「アジテイターさんだと、モヤですらないと?」
「はい……見えそうだなって思ったら、突然真っ黒になる。その繰り返しです。どうしてこうなのか、全く心当たりがありません……」
いつもは気丈に振る舞うマチカネフクキタルも、今回ばかりはお手上げといったところである。
頭を抱えあわあわと右往左往とするマチカネフクキタルの一方で、シーザリオは不鮮明な占いを冷静に考察していた。
(見える占いとそうでない占い。モヤは曖昧な表現にとどめている、と考えられる。完全に遮るというのはつまり……)
「……作為的なものを感じますね。あくまでその、シラオキ様、というものの導きに従うのならアジテイターさんの占いは見てはならないもの、と解釈できます」
「えっ、シーザリオさん今ので分かったんすか?」
「あくまでも私個人の考えです。フクさんの神通力を信じるとして、占いを見せる判断をしているのはシラオキ様のはずですから、完全に見えないのも意図的に視界を塞いでいるのではと思っただけです」
「おお……! 流石はシーザリオさんですっ!!! 私の見方に何か問題があったのかとずっとそればかり……!!!」
シーザリオの考察に声を張り上げるマチカネフクキタルだがその内容を紐解けば良いものとは言えない。占いに通じる神が、アジテイターの
神ですら触れたがらないアジテイター。
それは、ある種の禁忌と言っても過言ではないのだろうか。
『へぇ、バレエやってたのか。ならその体幹も納得だな』
(アジテイターさん……)
ウインバリアシオンは初めてアジテイターから指導を受けた日を思い出していた。
憧れの人から初めて指示されるトレーニングである。どんなトレーニングでもやる覚悟であったウインバリアシオンであったが────。
『ならさ、みんなにバレエの手本を教えてくれよ。あるだろ、バレエ特有の歩き方ってのがよ』
『は、はぁ……?』
自分がトレーニングするのではなく、チームにバレエの手解きをしろという。
自分ではなく、みんなに。その指示にほんの少しだけウインバリアシオンは心を曇らせた。チームである以上仕方ないとはいえ、やはり自分こそを見てほしいと思っていたからだ。
しかし、その考えは皆で鍛練を重ねてすぐに羞恥によって改められた。
『シーザリオさん、ちょっとだけ左によれてます。足じゃなくて、体の中心を意識するといいっすよ』
『フクさんはもう少しだけ体を前に倒してもいいと思うっす。フクさんは自分が考えてる以上に体幹は整ってる方っすよ』
(みんなの癖に、気付けるようになった)
アジテイターに言わせれば、チームの中で最も体幹が整っているのがウインバリアシオンだという。
確かに、自信はあった。幼少期からバレエに慣れ親しんできたウインバリアシオンにとって、体幹を鍛えることは日常の一部と言って良いほどに体に馴染んだ動作なのだ。結果としてその経験は、チーム全体の強化に大きく貢献していた。自身の経験が、他者の糧となる。皆の視線から向けられる信頼に、ウインバリアシオンはこれ以上無い自負を感じていた。
何より────。
『
『体幹の話っすよね。……もうちょい柔軟をやった方がいいと思うっす。オルフェさんの体は頑丈な方だと思いますけど、それだけにまだ硬いところがあるかなと』
『ふむ。では余の柔軟を手伝え。貴様からの手解きであれば、間違いは無かろう』
『えっ』
あのオルフェーヴルが教えを請うようになった。
天上天下唯我独尊、傲岸不遜、傍若無人を地で行く(ウインバリアシオンからはそう見えている)あのオルフェーヴルが、である。底に煮え滾った感情を隠せないウインバリアシオンであったが、少なくともオルフェーヴルに対して教導できるというだけでも気分が良かった。巡り回れば自身の不利になるというのに、自分に対して大人しく言うことを聞くオルフェーヴルの姿はウインバリアシオンにとってはかとない高揚感を与えていた。
(あのオルフェーヴルが、金ぴかが、暴君が、大人しくしてる。そうさせるだけの信頼を、アジテイターさんはあいつに持ってる)
実のところ、前例に無い環境のおかげでオルフェーヴルが気安くなっているだけの話である。
シオン、と愛称で呼ばれていることの意味にウインバリアシオン本人は全く気付いていなかった。
(アジテイターさんって何者なんだろう。自分が倒れても大丈夫なように、いなくてもできるメニューがあるし……)
アジテイターが倒れたその影響は当然チームにも及んでいる。
しかし、名目としてはアジテイターのトレーナーが率いているチームである。アジテイターは自身に不慮の何かがあった時のため、トレーナーにいつでも引き継げるよう日々の資料を送っていた。アジテイターからすれば社会人として当たり前の共有なのだが、その手際の良さに複雑な思いを抱くチームメンバーは少なくなかった。
(早く復帰して下さい。あたしはまだまだ、貴方に教わりたいことが沢山あるっすよ……)
胸に握りしめられた祈り。
ウインバリアシオンが抱く思いは、学園にいる誰もが持つ健気な願いだった。
「……………………」
トレセンに程近い病院にて。
「会長。またこちらにいらしたのですか」
「……エアグルーヴか」
病床に伏すアジテイターに付き添うのはシンボリルドルフ。
エアグルーヴからかけられた声に顔を上げて見れば、その顔には深い隈が刻まれていた。
アジテイターが倒れた直後。
人を手配し病院へとアジテイターを担ぎ込んだのは他ならぬシンボリルドルフだった。現役時、些細な怪我の一つもしなかったアジテイターが倒れるという前代未聞の事態に毅然と対応したシンボリルドルフではあったが、冷静でいられたのはそこまでだった。
年末の折に、アジテイターからその特殊性は聞いている。頑健さにおいてはトレセンはおろか、世界のウマ娘全てで比肩する者はいないと謳われるほどなのだ。
実際に医師が診察しても、特に大きな異常は見受けられない。可能性があるとするならば、いみじくも縋りつく声の仕業ではないかと────。
「会長。ここで眺めていたところで、アジテイター先輩が起きるとは思えません」
「……らしくない言い回しだな、エアグルーヴ」
「らしくないと思うなら、貴方がそうさせているのだと思って下さい。そもそも、会長がここまでなりふり構わないでいることが"らしくない"のではありませんか?」
アジテイターが倒れてから既に一週間にもなる。
その間、アジテイターの両親やシンボリルドルフの両親、チーム:にんじんプリンのメンバーなど多くの人間がアジテイターの見舞いに訪れた。そしてその全てに、シンボリルドルフは立ち会っている。
放課後、シンボリルドルフは連日アジテイターがいる病室へと通い詰めていたのだ。
「らしくない、か。私としては、今まで取り繕っていたつもりもなかったんだが」
「なら、今が素の会長ということですか?」
「アジテイターの前なら奔放に振る舞えるんだ。……そんなこと当たり前のこと、倒れてから始めて知ったよ」
「ご自愛なさって下さい。先輩を心配する声は止みませんが、会長を心配する声も大きいんです」
「分かっているさ。私のこれは、ただのわがままだよ」
「わがまま、ですか?」
「ああ。……彼女が目を覚ました時、視界に入る最初の人間が私であってほしいというだけの、ささやかな欲望だ」
「それはまた……なんとも」
エアグルーヴからするとここまでシンボリルドルフが崩れた様子は見たことがない。現役の頃、アジテイターに振り回されて周囲の様子を省みないことはあったがそれでもまだ取り繕うだけのプライドはあった。しかし今回は意図的にも余裕の無さを見せている。
シンボリルドルフにここまでさせるアジテイターへ半ば嫉妬していたエアグルーヴは、冷静な側近を演じる他無かった。
「お医者様でも分からない以上、我々にできることはありません。貴方が憔悴していては、先輩が起きたとしても安心できないかと」
「エアグルーヴ。今私は、時として起こりうる正論そのものの説得力の無さを感じているよ。頭ではそうと分かっていても、心がそれを許さない。余裕の無い人間は、いくらでも視野狭窄に陥る」
「それが分かっている時点で視野狭窄とは思えませんが……」
「……アジテイターには秘密がある。彼女の家族を除けば私しか知らない秘密がね。私はそれを知っているから、ここにいる」
「それは……」
まるで梅雨時のような、湿度を孕んだ視線をシンボリルドルフはアジテイターに向けている。勿論アジテイターの秘密をシンボリルドルフが話すはずが無い。
テコでも動かないだろうという意思を見せるシンボリルドルフにエアグルーヴは辟易した。一体どのような秘密があるのかは知らないが、それが今回の昏倒に関係しているなら医師などと共有し対策するべきなのだ。しかしシンボリルドルフはそうしていない。本来は理性的なシンボリルドルフが理屈に則った行動をしていない以上、正面から説き伏せることは無理難題と言っても過言ではなかった。
「……分かりました。それなら、業務の一部を私達にもっと振り分けて下さい。睡眠を削ってまで行うことではないはずです」
「気付いていたのか……いや、バレて当然なのだろうな。済まない、迷惑をかける」
平然と頭を下げるシンボリルドルフに思わず歯噛みしたエアグルーヴ。
エアグルーヴが知るシンボリルドルフとはこうではないのだ。他者を慮りこそすれ、決して卑屈ではなく、時には大人が相手でも皇帝として威圧を隠そうともしない猛々しさ、それがエアグルーヴが知る皇帝シンボリルドルフなのだ。
それがこうも弱々しく頭を下げている。アジテイターの前であれば素になると語るがそれは言い訳だ。例え虚勢と言えども張れるはずの傲慢さをシンボリルドルフは持っている。エアグルーヴを相手にそれをしないのは、アジテイターとはまた別の方向で彼女に気を許しているからに他ならない。
(難儀が過ぎる……アジテイターには、早く起きてもらわなければな……)
他の者とは斜め上ながら、エアグルーヴもまたアジテイターの一日でも早い復帰を望んでいたのだった。
────起きよ、寝坊助
どこだろう、ここは。
ふわふわとした、でもなにも見えない場所。
体の感覚が無い。浮いてるのか、水の中にいるような感じもする。
────いつまでそう惚けているのだ。起きよと言っている
居心地が良い。なんか暖かい。こたつみたいな温もりがある。
なんだろう、眠くなって……
────起きよと言っているのにまだ寝るか、阿呆!!!
「うおっ、なんだ。クソうるせぇな……は?」
────ふん、ようやくか。まだ起きぬようであったら、そのまま還していたところだったぞ
よく分からない謎の空間
そこで、俺の目の前には昔の公家みたいな格好のでっかいおっさんが座っていた。
「えっと、あんたは一体……? ていうかここどこ? あと俺はどうなってんの?」
────質問を一度にするでない。混乱しているのは分かるが、まずは己の記憶を辿ってみよ
えっと、確か俺は……
「ああそうだ。久しぶりにあの女の声が聞こえたんだ」
いや、聞こえたなんてもんじゃねぇ。
ルドルフの声に被せるようにがなり立てて来やがったんだ。あんまりにもうるさくて、俺は意識を保っていられなかった。
────そこまで理解しているなら良い。あれは貴様の魂に打ち込まれた楔よ。しばらくは
あ、ってなんだ。あ、って。
ん? 塞いでやっていた……?
「あの、あんたは、っていうか貴方はもしかして……」
────ようやく気づいたかこの粗忽者。貴様の信仰心はこの現代に珍しいほどだが、それと察しの良さは比例せぬようだな
「本当に申し訳ありませんでした。子供の頃からマジで助かってます。めちゃくちゃありがとうございます」
土下座一択でしかねぇ。大恩人……恩神? に何舐めた口利いてんだ俺は。こんなの腹切りもんだろう。
────助けてやっているというのに腹など切ってくれるな。第一ここでそんな真似は不可能だ。
凄い、当たり前のように読心してくる。
ていうかここ現実でもどこでもなさそうだ。高天原とかかな? 何にせよ神様の領域であることに間違いなさそうだ。
────高天原……いや、いい。貴様が持つ
「あーそれはそうっすね。また知らん声の女に襲われた訳ですし……」
────知らん女か。本当に知らぬのか?
「いや知らないですって。今世は当然だし、前世でもあの女の声は聞いたことがないんですよ」
────ではそのまた前世、更にはその前世はどうだ?
「は……?」
────魂に打ち込まれた楔だと言っただろう。幾度の輪廻を経たところで、因果は変わらず繋がっているのだ。あれは必ず貴様を追ってくるぞ
嘘でしょ、怖……。
えっとつまり? 神様の言う通りなら、俺は輪廻転生のどこかであの声の女を引っかけてて未だに執着されてるっていうこと? ホラーが過ぎるでしょ。
────一度は塞いでやったが緩んでいる以上同じ手は使えぬ。それに、
「俺自身って……いや、どうにもならなかったから神頼みしたんですけど……」
────案ずるな。三女神よりきっかけは貰っている
とん、と。
頭に軽く何かがぶつかる。
なんだろうなと見上げれば、頭上に丸い輪っかが浮かんでいた。
「は?」
────三女神曰く、ウマ娘のことならある程度の融通が利くらしいが貴様はその範疇にいないらしい。しかし、
「なんじゃそりゃ!? この輪っかがそうなの!? めちゃくちゃ縁起悪くねぇ!?」
俺まだ死んでない……死んでないよな? そうだよな?
────貴様は今世にてウマ娘でありながら、ウマソウルを持たぬ。この世界のウマ娘はな、本来であれば並行世界の競走馬の魂を引き継いでいるのだ。それ故、魂による干渉やそうした気配に聡い。ウマソウルさえあれば、あの女に惑わされることも無くなるだろう
「なる……ほど? いや全然分かりませんけど、とりあえずウマソウルってのがあればいいんですね?」
────そうだ。要は貴様の魂には本来埋まるべきはずの隙間があるのだ。そこを勝手にされているのだから、身動きできないよう埋めてしまえば良い。理屈としては分かりやすかろう
ふむふむ。俺自身全く覚えは無いが魂とやらに足りないところがあるからそれを他のパーツで補うってことなのか。オカルトが過ぎるぜ。
とりあえず、輪っかに触れてみる。もしかしたら透けるかもしれないと思ったが普通に取れたし何なら外せ……うぉわ!? こっちにすっとんで来やがった!
────言い忘れていた。その輪は、本来であればウマ娘として生まれるはずの、しかし三女神ですら凶暴に過ぎると匙を投げたほどの馬の魂だ。貴様はそれを調伏させ、名を聞きださなくてはならぬ。無論凶暴であるが故に困難はあろうが、魂としての強靭さは折り紙付きだ。心してかかるが良い
「それを先に言ってくれませんかねぇ……」
この輪っか、ふざけたことに自立して動けるらしく俺の手から無理やり抜けたと思ったらとんでもねぇ速度で頭を狙ってきやがった。ギリギリ避けたが今も輪っかは宙に浮いていて、少しでも隙を見せればまた突撃してきそうな気配を醸し出してやがる。
なんだよ、凶暴な馬って。馬は人類の家畜だろ。大人しく言うこと聞いてくれよ。
「あの、ちなみになんですが調伏出来なかったら俺どうなるんですかね……?」
────さてな。貴様にとって愉快なことにはならないとだけ言っておこう。
あ、これ死に物狂いで頑張らなきゃいけないやつじゃん。サボったら絶対ろくなことにならない。
────伝えるべきことは伝えた。後は貴様一人でどうにかしろ。それさえ済めば……
言うだけ言って神様はスッと消えていなくなった。残されたのはふわふわとした白い空間に俺と輪っかだけ。
「名前を聞き出せって……いや輪っかは輪っかじゃん。なに、天使様とでも呼べば────危ねぇっ!?」
俺の言葉が気に入らなかったのまた輪っかが突撃してくる。
馬の意識があるそうなんだが見た目がただの輪っかなせいで何考えてるか全く読めねぇ。馬でも人でも顔がありゃ何かしら読み取れそうなのに、ただの輪っかじゃ考察のしようがねぇよ。
「あのー、すいません。ちょっとお話できたりします? できれば穏便にいけたらなと思って……ぐふぇっ!?」
また突撃。しかも今度は頭に来ると見せかけて腹を狙うフェイントかましてきやがった。夢っぽい場所なのに痛みはしっかりある。いってぇ。
「あー分かったよ。そうか、そうか。つまりてめぇはそういうやつなんだな。ふざけやがって。エーミールもこれには激おこだよ」
わざとらしく近づく。俺がてめぇにビビると思ったか? 生憎俺は、売られた喧嘩は買う主義なんだよ。
また突撃かましてくるが、こいつにはそれしかない。フェイントさえ分かれば────。
「あらよっ!」
『!?!?!?』
もう一度、捕まえられるんだ。
「全く、こっちが下手に出りゃつけあがりやがって。てめぇがどこの馬の骨か知らねぇが、俺にはてめぇが必要なんだよ」
────……! ……!!!
言葉は無いが、感情は伝わってくる。どうにも苛立ちが収まらないらしい。
伝わってくるのは感情だけじゃなかった。こいつの……人生……いや、馬生? だった頃の記憶みたいなのが見える。なるほどな、こいつ人間に虐待されてんだ。そりゃ人間不信になるよな。
「人間が気にくわねぇってか。奇遇だな、俺にも気に食わないやつがいるんだよ。未練がましい女なんざ俺からは願い下げだ」
────……!
「でよ、おまえあれだろ、競走馬やってたんだろ。なら度肝抜かせるには走らなきゃいけねぇじゃん。おまえも俺が必要なはずなんだよ」
────…………
「気に食わねぇ、許さねぇ、潰してやりてぇ、殺してやる。そんな気持ち全部ぶっ混んで俺に乗せちまいな。少なくとも、それでてめぇの心残りは果たしてやる」
────!
「自慢じゃないが、俺もかなりの捻くれ者だ。てめぇ程度に染まるつもりはねぇ。強いて言えば、おまえのために走ってやるってことぐらいだ。ああ、そうだ、おまえを満足させるには現役復帰しなきゃいけねぇな」
────!!!
「俺はアジテイター、しがない煽り屋だ。特技なんざこれっぽっちも無いが、焚き付けるのは得意なのさ。
────さぁ言ってみろ輪っか野郎。てめぇは誰で、何に勝ちたい? 世界のどこを目指したいんだ?」
────……■■■■
「ん、なんだ? やっぱ口利けんじゃねぇか。じゃなきゃ三女神もウマ娘にしようとしないよな────」
ああ、やっと聞けた。
どれだけ苛ついていても、やるべきことは分かってる。
「さて起きようか、相棒。この世の度肝を抜いてやろうぜ」
????のヒミツ
実は、人を殺しかけたことがある。
多分あいつ、どう足掻いても元の気性のままウマ娘になれないやつですよね(キャラ紹介無しです)