アジテイター   作:エドレア

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アオハル編の続き

シーザリオと真面目な話をする予定でした。
でもこれだけだとなんか足りないかなって()



アオハル編③

 

 

 

 

 

 

 月日というのは早いもので、いよいよアオハル杯の初戦を迎えることとなった。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 各担当に割り振った五部門のレースの内、四つは安心して任せられる。出てくる相手も名前を聞かないモブ共だ。

 懸念なのは、やっぱり意識がそのままのハルウララだった。

 

「勝負事であることは分かってくれたみたいなんだがな……」

 

 部室でらしくもなく頭を掻く。こういうことやってるとルドルフが咎めるような視線を向けてくるんだよな。癖なんだよ、苛つくと頭掻くもんなの。あいつ曰く俺の髪は信じられないくらいに綺麗らしいが、そんなことはどうでもいい。

 

 ひたむきにティアラを目指すラインクラフト。それのおかげでウララは勝ちたいという意思には触れられている。しかしウララの場合それはあくまで他人の理由であって、自身の物と考えるまでには至っていないようだった。

 頭では勝つ必要があると理解しているようで、実際のところ楽しさの方が勝ってしまうらしい。ここまで来るともうそういう生態としか言い様が無い。

 

「少なくとも坂路で鍛えまくったからフィジカルはウチのチームでも図抜けてるんだがな。ま、なるようにしかならねぇか」

 

 俺はトレセンで待機だ。五レースとも違うレース場でやるから全部について行く訳にもいかない。ウララ以外はどうせ勝てるだろうから口出す必要も無いしな。果報は寝て待て、というやつだ。

 

 ということで、久しぶりの暇な時間だ。家に帰ってBF4をやりたいところだがあいつらが部室に帰ってきた時に出迎えるやつがいないと可哀想だ。そういう訳で、このところ掃除出来てなかった部室を掃除しておく。一応みんなには掃除しておくように言ってはいるが、細かいところには流石に気を配れちゃいないだろうからな。

 

「おやつの食べかすが……あいつら何持って来てんだ。無駄に机の下がカラフルだぞ……ん?」

 

 コンコンコン、と部室をノックする音。どうやら来客らしい。特にそんな予定は無かったが、まぁアポ無しで腹を立てるほど俺も狭量じゃないさ。

 

「はーい。勝手に入ってきて良いぞ。掃除中だから結構ホコリっぽいけどな」

「……すみません、出直した方がよろしいでしょうか……?」

 

 扉を開けて出てきたのは、スペシャルウィークと良く似た髪型をしていて、それでいて随分と雰囲気の違うウマ娘だった。

 

 

 

 

 

「そうか。ラインクラフトの同室か」

「はい……」

 

 話には聞いていたラインクラフトの相方────シーザリオと机を挟んで向き合う。最初はチーム入り希望なのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「その……意外、ですね。そういう格好をされるなんて」

「ああ、これか? 別に普通だろ。掃除してるんだから」

「いえ……なんというか、その……」

 

 何とも歯切れが悪い。

 今の俺の格好は、頭に頭巾と制服の上にエプロンを着てるだけだ。口元もマスクで覆っていたが流石に喋るのに邪魔だから外してる。手には箒とはたき、掃除機と雑巾もあるしそんなに不思議じゃないと思うんだが。

 

「これがギャップ萌えというやつ……?」

「ところで用件はなんだ。チームに入ってくれるんなら有難いが」

「は、はい。その件について考えました。しかし、一つ確認させてほしいんです」

「というと?」

「────貴方の、レースに対するスタンスを」

 

 やけにピシッとした娘だなぁ。俺相手にそんな気を遣うことは無いと思うんだが。

 

「質問の意図が見えないな。俺のスタンスとやらを聞いて何を判断したいんだ?」

「……クラフトから聞きました。短距離担当がいないからチームに入ってくれ、と。しかし彼女にとって重要なのは短距離ではなくトリプルティアラです。ご気分を害したい訳ではありませんが、ティアラに全く縁が無い貴方に適切な指導が出来るとは思えない」

「ふむ……」

 

 友達想いな子だな。緊張してるかと思えば言いたいことははっきり言う。クラフトに負けず劣らず芯の通ったウマ娘だ。

 

「厳しい意見をありがとう。確かクラフトとは同期で共にティアラに挑むつもりだと聞いているが」

「はい。クラフトとは正々堂々、全力でぶつかりたいんです。そのためにも、彼女の実力を引き出してくれるトレーナーやチームの方が良い。貴方が役者不足だなんて言うつもりはありませんが、それでも適性という概念は教導する側にもあるはずです」

「なるほどねぇ。随分真っ当な信念だなこりゃ。真面目過ぎておじさん恥ずかしくなっちまうよ」

「おじさん……?」

 

 俺が同じ年齢だったらBF4でイキってたはずだ。こんなにしっかりした学生がいるとはね。

 

「そうだな。幾つか答えるとすると、短距離目当てにクラフトを勧誘したことは確かだ。しかし、それでティアラへの指導に手を抜くつもりはない。うちには強力なマイラーもいるし、中距離の指導も俺が出来る。少なくとも、適性ではないとは考えてないよ」

「つまり、トリプルティアラを獲る自信があると?」

「もちろん。それと、他人の心配より自分の心配をしたらどうだ? クラフトはうちで面倒を見るが、シーザリオはトレーナーやチームだってまだだろう。親友の方がスタートダッシュ決めてるぞ」

「ご心配無く。既に別の方々からお声かけを頂いています。私がここに来たのは、クラフトからも誘われている中でチームの要たるトレーナーも見ずに判断する訳にはいかないと判断したためです。何より、彼女とは共にアオハル杯に挑もうと誓った仲ですから」

「それで今日来たのか。ああ、ちょうど初戦でみんな出掛けてるから、うちのメンバーがいないところでフラットに話したかったんだな。それで、どうだ? うちに入る気にはならないか」

「……正直にお話すれば、ここより良いチームがある、私はそう考えています。出来れば、クラフトと共にそのチームに入りたかったのですが」

「袂を別つかクラフトを説得してうちから離籍させるか、になるのか。そこらへんは二人でゆっくり話し合いな。こっちから無理強いすることはねぇよ」

「すみません、短距離を担当する方が他にいないことは重々承知しています。可能であれば、他に短距離を担当してくれる方をお探しするお手伝いをさせて頂きたいです」

「いや、それはいいさ。短距離担当がいないのはうちの問題だからなぁ。というかあれだ、おまえ固すぎ。もうちょい態度崩してくれていいんだぞ。聞いてるこっちの背筋が張っちまう」

「申し訳ありません。これはその、癖のようなものでして……」

 

 やっぱ無駄に有名になったのがいけないな。やたらと持ち上げられるようになっちまったせいか、俺相手に萎縮する後輩が増えた。別にテイオーくらい砕けた態度で良いんだよ、俺なんて。なんならはちみー奢ってやったって良いんだぞ。

 

「一応言っておくとな、クラフトからティアラに挑みたい動機は聞いてる。憧れ、繋ぎたい想い、後人へ見せたい姿、どれをとっても真っ当だ。それに限ればおまえらは俺より遥かに上等なウマ娘だよ」

「しかし、だからといってそれが強くなれる理由にはならない。そうですよね?」

「驚いた、俺の意図を察するのが早いな」

「先輩の気質は有名です。あくまでそれらは、走る理由であって強さの根拠ではないと先輩なら仰られるかと。無論、ただ強いだけのウマ娘になるつもりはありませんが────」

 

「な、なんであんた達がここにいるんすか!?」

 

 おいおい。

 誰だ、扉の前で騒いでるのは。

 

「いけませんよ、ウインバリアシオンさん。そのように大声で驚かれては他の方の迷惑になります」

「何をいけしゃあしゃあと……! そ、そこの金ぴかがここに来る理由なんて無いはずっす!」

「ほう、金ぴかとな。随分と安直な渾名を付けてくれるではないか」

「私からも同じことを言わせてもらうわ、ジェンティルさん。ここに貴方にとって目ぼしいものなんて無いはずよ」

「あら、随分な言われようね。目ぼしいものなんて、ここには一つしかないでしょうに……」

 

「お ま え ら」

 

 努めて冷静に扉を開け、それでも声に苛立ちが募る。

 

「こっちは真面目な話やってんだ。騒ぐなら窓から放り出すぞガキ共」

「……随分と斬新な格好で凄まれるのね、アジテイターさん」

 

 廊下でぴーちくぱーちくわめくクソガキ共────ドリームジャーニー、オルフェーヴル、ウインバリアシオン、ヴィルシーナ、そしてジェンティルドンナ。

 とりあえず、廊下でたむろされるのは迷惑でしかないから部屋に入れるしかなかった。

 

 

 

 

 

「で、何の用なんだおまえら」

「もちろん、チーム入り希望よ」

「なっ!?」

 

 一気に人口密度が増した部室内。

 先に来ていたシーザリオを尻目に、開口一番アホ抜かしたのはジェンティルドンナだ。

 

「余も同じく。またと無い機会であるが故にな」

「あ、あたしも入部希望っす! オルフェさんに負けてられないっすから!」

「私も、是非。例え同じチームだとしても、やることに変わりはありませんわ」

「おまえら全員かよ……」

「ああ、私はオルの付き添いだよ、アジテイターさん。こうして会うのは初めましてになるかな? 以前はオルに美味しいお茶をご馳走してくれたみたいだね」

「ああ、あのお茶菓子の。それでも四人か……」

 

 何なんだこいつら。

 面子が濃すぎる。特にオルフェーヴルとジェンティルドンナ、おまえらどっちかというと自分でチーム率いている方だろ。

 

「あの……私は席を外しましょうか?」

「シーザリオさんも入部希望? アジテイターさんはティアラ路線の方にも人気があるのね」

「いえ、そういう訳では……!」

「……なんだ。何でうちなんだ。ここぶっちゃけ零細だぞ。他に良いところがあると思うんだが」

「アジテイター、良いところなど貴様の存在一つで十分説明になるはずだが」

「……俺ぇ?」

「貴方の真の実力に気が付いている猛者は意外に少なくないのよ。皇帝から執着されている、その意味をよく噛み締めてもらいたいものだわ」

「……噂に聞く併走で、あの生徒会長に圧勝したと聞いています。是非、勝利の秘訣を教えて頂きたいのです」

 

 テイオーに見せたあの併走かよ。

 噂に尾ひれが付いてやがる。勝てて当然の併走に圧勝なんぞ何も意味が無ぇのによ。

 

「出来れば、併走してほしいっす! あたしも追い込みですし、色々と足りないところを教えてほしいと……!」

「悪いな、併走はやってねぇんだわ。ていうか走るのはもうやんない」

「え……」

「あら、それは残念。理由をお聞かせ頂いても?」

「分かるだろ。俺が走ると、面倒なライオン丸がガルガル言いやがる」

「「「「「あ~」」」」」

 

 こんなんで納得されるのは不本意だがマジでそうだから洒落にならん。

 ちょっと体動かそうかなって外で適当なウマ娘用のレーンにいたらいつの間にか後ろにいるんだぞ。驚き通り越して呆れるしかないじゃん。しかもたまたまコースが被っただけの他のウマ娘にレースで見るような気迫出して威嚇までする始末。大人げないとかそんな次元じゃない。一緒にいる俺が恥ずかしい。

 おかげで気軽にジョギングすら出来ない。俺が一体何をしたって言うんだ*1

 

「そういう訳で、俺が併走するような指導は行ってねぇんだ。それ目当てなら悪いが帰ってくれ」

「確かに目当ての一つではあったが、それで諦める理由にはなるまい。貴様からの教導を受けられるだけでも値の付けられない価値があろう」

「……なんでぇ? 何でそんな俺の評価高いの? 俺同期のお嬢様相手に煽り散らかしてその結果押し掛けられたクズだぞ。自分の嗜好は否定しないが、褒められた人格じゃないのも自覚してる」

「いや、それは無いでしょう。もう少し学園内での貴方の振る舞いを省みて下さい。アジテイター先輩は、みんなの頼れる先輩なんですよ」

「……おう」

 

 なんでか知らんがシーザリオから強めの叱責? を頂いた。他の奴等もうんうん頷いている。

 

「あんまりさ、ナルシストぶりたくはないから自己評価低めのつもりなんだけど、なに、俺って意外とそうでもない感じ?」

「なんでここまで自己評価低いんすかこの人……後輩みんなをよく見ていて、適切なアドバイスをくれたりおやつを奢ってくれるような先輩を悪く思う後輩はトレセンにいないっすよ。むしろ、トウカイテイオーさんのおかげでやっと適切な評価が広まり出したと思ってるっす」

「……分かった分かった。なんか、その、おまえらが俺を悪く思ってないのは理解した。正直意外なんだが、それは置いといてだ。改めて、うちに入るとして……担当距離が全員被りそうなんだがそこんとこ理解しているか? 同じレースに出走できるチームメンバーは最大三人までだぞ」

 

 うちに実力者が入ってくれるのは嬉しいが問題はこれだぞ。基本カツカツなもんで、来る者拒まずのスタイルだがあぶれるのはどうしても頂けない。うちは五部門それぞれに一人いるから残りの二人ずつをどうにかしなきゃいけないんだ。

 

「そうね……私とヴィルシーナさんでマイルを、ウインバリアシオンさんとオルフェさんでそれぞれ中長距離を分けるといったところかしら。他にマイルを走れる人はいないものね」

「構いませんわ。チームとして、課される役割を果たしましょう」

「それについてだが、余にも一案ある。まず姉上。姉上にも、にんじんプリンに入ってもらいたい」

「オルからの頼みなら喜んで。それで、どれを走れば良いかな?」

「姉上には余の代わりに長距離を頼みたい。ウインバリアシオン、貴様は中距離を。そして……ここからが本題だ。アジテイター、確認するがアオハル杯は非公式のレース、故に実際の戦績とは関係しないのは間違いないな?」

「そうだが……」

「であれば、()()()()()()()()()()を選んだとて問題はあるまい?」

 

 確かにそうだが、だからといっていたずらに適性外の距離に出す訳にはいかないぞ。合わないレースを走らせて怪我でもするようなことがあってはならない。

 

「オルフェさん、何を企んでるつもりなんすか」

「企むなどとは人聞きが悪い。アオハル杯は学園内の、ウマ娘のためだけに行われるレースだ。ならば余もその流儀に則るまで」

「勿体ぶるなオルフェーヴル。おまえは何が言いたいんだ?」

「アジテイターよ。余に────ダートを走らせてみるつもりはないか?」

 

 

 

 

 

「オルフェーヴルちゃんって言うんだ! 私はハルウララ! 一緒に頑張ろうね~!」

「うむ、よく励むが良い。アジテイター、ハルウララの鍛練内容を教示せよ。余もその中身を吟味しよう」

 

(゜ロ゜)

 

 ウインバリアシオン、気持ちは分かるがそんなにアホっぽく口を開けるな。オルフェーヴルとチビッ子の組み合わせは結構あるぞ。

 

 帰ってきたチーム:にんじんプリンの面子と新規メンバーの顔合わせだ。特にトラブル無く、順当に勝ったようでウララ以外はしっかり四勝してくれていた。

 

「Wow! ジェンティルドンナさんとヴィルシーナさんデスね! 共に最強を証明しましょう!」

「ふふっ、退屈せずに済みそうね。ヴィルシーナさんは如何かしら?」

「ジェンティルさんと共に走れる得難い機会です。頂点に至る走り、チームの皆さんにもご覧に入れましょう」

 

「ライスシャワーです。ドリームジャーニーさん、足を引っ張らないよう頑張るから、よろしくね」

「おやおや、私相手にそう卑屈になることはありませんよ、ライスシャワーさん。長距離であれば貴方の方が先達なのですからね」

 

 各々、挨拶出来ているようで何よりだ。こういうのは第一印象が大事だからなぁ。

 で、なんか有耶無耶にされてたやつがいるんだ。

 

「シーザリオ! 来てくれたんだね!」

「その、私は……断ろうと思ってきたはずなんだけど……」

 

 シーザリオと真面目な話してたのにやたら圧の強い面子が来たせいで話が流れちまってた。まぁこれに関しては二人でしっかり話し合ってもらいたい。

 

「本当は、クラフトにもここを抜けようって言いに来たつもりなんだ。良いチームが他にもあるって伝えようとしたんだけど……」

「ティアラの傑物が二人も増えたからなぁ。どちらもおまえ達に向いた、王道の走りが出来るタイプだ。間違いなく勉強になる環境だぞ」

 

 気付いたらシーザリオの口調が随分と柔らかい。親友の前なら自然体でいられるんだろう。

 やはりだがシーザリオとラインクラフトは共にいた方がいい。少なくともそれがシーザリオのためになる。下手に引き離すと常に気を張ったトレーニングをシーザリオはしなくちゃいけない。適度にリラックスするのも重要だから、やはりこの二人はセットで考えるべきだ。

 

「ありがとう、シーザリオ。私のこと深く考えてくれたんだよね」

「クラフト……私は……」

「でもね、私はここが良いなって考えてる」

 

 意外だ。

 お詫びという善意にかこつけてうちに入れたんだが、既にこのチームで走りたいと思えるだけの帰属意識があったらしい。

 

「シーザリオが望んでるチームって、ティアラへの指導をしてるトレーナーがいるとか、そういう順当な話だと思うんだ。でも、ここにしか無い価値もあるんだよ」

「ここにしかない価値……?」

「キングヘイローさん。あの人もアオハル杯に出るんだって。同期の、あの"黄金世代"と共にだよ。そしてキングさんが担当する距離は────短距離」

「! クラフト、まさか……!」

「もちろんティアラも凄く大事。あっちを立ててこっちが立たず、みたいなのは望んでない。その上で……私は全て勝ちに行く」

 

 クラフトには確固たる理由があるようだった。

 なるほど、キングヘイローか。確か憧れているとは言っていたが。

 

「私達はトレセン学園に夢を叶えに来た。夢を見るんじゃなく、叶えに。その中で……憧れを踏破するのも、また一つの夢なんじゃないかって思ったんだ。アオハル杯なら、ティアラで挑めないウマ娘に挑めるんだよ」

「それは……何にも替え難い理由だね」

「シーザリオはどうだ? 短距離の適性は無いか」

「私に短距離は無理です。クラフトとは適性距離が違う……」

「シーザリオさん、中距離はどうっすか? こっちはまだ一人分空いてるっすよ」

「そうですとも! 今ならDXニャーさんのおみくじ付き人形が付いてきま……!」

「フクキタル、今ちょっと黙ろうなー」

「ブギュェッ!?」

 

 真面目な話を脱線させるなとあれほど言ってるだろうが。

 とりあえずフクキタルには顔面にアイアンクローかましとく。じたばたするな。俺から逃げ出したかったら基礎筋トレを一からやり直してこい。

 

「ふふふっ……くっふふふっ……」

「凄いでしょ、シーザリオ。こういうところなんだよ、このチームって」

「そう、これが"にんじんプリン"なんだ。面白いところなんだね」

「……この占い娘については一旦忘れてくれ。で、どうなんだシーザリオ。うちに入るか、他のところへ行くか」

「今ので迷いは吹き飛びました。是非、入らせて頂けると嬉しいです」

「今のを決め手にされると釈然としないんだが……まぁいいか。フクキタル、おまえのおかげらしいから釈放な」

「げふぅっ!? アジテイター先輩、お力が大変強い……!?」

 

 初戦終わっていきなりの6人新規加入者ときたか。中々ハードになるな、こりゃ。

 気を取り直して、部室内にいる全員に向き直る。俺がこのチームの音頭取ってるんだ。気を引き締めるためにも号令はいるだろ。

 

「よーし、聞けおまえら。既に各々挨拶は済んでると思うが、改めて、チーム:にんじんプリンに六名が新加入だ。せいぜい仲良くやってくれ」

 

 もう姦しいとかじゃなく単純にうるさい。よくもまぁこんな喧騒を好むもんだ。

 メンバーは合計で11人。全員分のトレーニングメニューを考えなくちゃいけないな。

 

(あれ? もしかしてこれかなり忙しくならねぇか?)

 

 おかしいな。悠々自適な引退生活から大分かけ離れてきたような……? 

 

「アジテイターちゃん! オルフェちゃんと一緒にトレーニングに行っていい?」

「別に良いが……いや待てウララ。レース走ったばかりだろ。どこに行くつもりだ?」

「坂路だよ! 鍛えるなら坂路が良いって言ってたもんね!」

「案ずるな、アジテイター。余がついている。無理など余の目が黒い内はさせまいさ」

「……ウララ、こないだ何本坂路走ったか覚えてるか?」

「え~っとね、10本走ってちゃんと休んで、今度は15本走ったから……25本だよ!」

「……は?」

 

(゚Д゚≡゚Д゚)゙? 

 

 俺とウララを二度見するんじゃない。

 気持ちは分かるがウララに課してるトレーニングは坂路を中心に組んでるぞ。今度一対一でウララと綱引きしてみろ、負けるのはオルフェーヴルの方だ。

 

「いやぁ、良かった。ウララ以外にダートを走れるやついなくてさぁ。渡りに船ってやつだ。オルフェーヴル、ウララとよろしくやってくれ」

「……心得た」

 

「あいつ、あんな顔するんだ……小さい子に弱いのかな……?」

「ウインバリアシオン、おまえも似たような顔してたぞ。オルフェーヴルは今いいから、ちゃんとフクキタルとシーザリオと打ち合わせしろ。チーム戦は普段と勝手が違うぞ」

「ひぇっ、聞こえてたんすか!? すみませんっす!」

「ウインバリアシオンさん、そう固くならなくても大丈夫ですよ~。いざとなればシラオキ様のお導きが……」

「おまえは砕け過ぎだフクキタル。占い好きならもうちょいしゃきっと振る舞え。おまえのはインスタント過ぎて胡散臭さがあるんだよ」

「なんですとぉ!? 私の占いは実家に古くから伝わるそれはもう由緒正しき伝統が……!」

「高い声でわめくんじゃねぇよ。ヘリウムガス吸わされたいか」

「ヘリウムガスを吸わせたら更に声が高くなるんじゃないんすか?」

「高くなり過ぎて人間の可聴域越えそうじゃん、こいつ」

「聞き捨てなりません! 確かに普段はソプラノですが、アルトだっていけます!」

「なら普段からアルトで話せや。大体何かにつけておまえは叫びがちなんだよフクキタル。例えば同室とか……」

 

「……クラフト」

「ふふっ、楽しそうだね。シーザリオ」

「うん。こんなにも騒がしい空間が、好きになるなんて思えなかった」

「みんな仲間でライバル、だったかな。ウララちゃんほどじゃないけど、私も毎日楽しいんだよ」

「ユメヲカケル、か。そうだ、トウカイテイオーさんはアジテイター先輩から薫陶を受けてたはず。それを考えれば……こんな日常も、悪くないのかも……あれ?」

「どうしたの、シーザリオ?」

「その、アジテイターさんの耳が────」

「耳? そういえば、アジテイターさんは飾りを付けてないよね。初めて見たよ、何も付けてない人。大抵はみんな付けてるのに……」

 

「───アジテイターさんの右の耳、変な傷がある……?」

 

 

 

 

 

 アジテイターのヒミツ⑨

 実は、右耳に()()()()()()()痕がある

 

 

 

 

 

*1
この認識である





 キャラ紹介

 アジテイター
 苦労人と化したクソボケ。そもそも世話焼きな性根なので遅かれ早かれこうなる運命だった。
 耳には何も付けていない。ただ一つ、髪に隠れて見えづらいが右耳に傷がある。その理由は両親しか知らない。

 シーザリオ
 大真面目にアジテイターとお話しにきたラインクラフトの相方。断るつもりがチーム:にんじんプリンのノリの良さに乗せられた。
 ラインクラフトがキングヘイローを相手に短距離で挑むと聞き応援している。共に中距離を担当するマチカネフクキタルやウインバリアシオンとは占いやダンスの話題などでウマが合っているようだ。
 
 ウインバリアシオン
 アジテイターに憧れるファンの一人。アジテイターがトレーナーをやると聞きつけ何かと境遇の似たヴィルシーナと向かったら何故か仇敵とその姉に出くわした。
 オルフェーヴルがアジテイターにやたらと親しげな関係のため対抗心を燃やしている。一方でマチカネフクキタルとは占いの相談をしたり、バレエの経験からシーザリオにダンスを教えたりなど新たな交遊関係に花を咲かせている。

 ドリームジャーニー
 オルフェーヴルの付き添いで来た堅気に見えないお姉ちゃん。外野から見守るつもりがオルフェーヴルのお願いであっさりチーム入りを決めた。
 共に長距離を担当するライスシャワーとは小柄な体格が共通しており目線が合うという意味で仲は悪くない。アジテイターと同じ追い込み脚質であり、彼女なりに受けた指導を自分の物にする貪欲さもアジテイターに高く評価されている。

 オルフェーヴル
 いつぞやにアジテイターの家へ遊びに行った暴君。アジテイターがトレーナーをやると聞き爆速で部室に駆けつけた。依然として言わないがアジテイターの大ファンであり今回のチーム入りで一番嬉しがっているのはオルフェーヴルである。
 どうせなら余興扱いで楽しめる方が良いとダートを自己申告し、結果的にハルウララの面倒を見る羽目に。思いの外バイタリティが高めなハルウララに振り回される日々を送ることとなる。

 ジェンティルドンナ
 いつぞやにアジテイターの家へ遊びに行った貴婦人。オルフェーヴルがうっきうきで部室に向かうのを見かけて面白そうな気配を感知し着いてきた。ついでにヴィルシーナと共に走れるのも楽しみにしている。
 ヴィルシーナと共にマイルを担当するが、最強マイラーと名高いタイキシャトルに対しては流石に一歩譲るといった力関係。しかしこれに甘んじるつもりは全く無く、虎視眈々とマイルでも最強の座を狙っている。互いに上昇志向がありながらも礼儀は尽くす性格なため、マイル部門は絶妙な緊張感を保ったチームとなっている。

 ヴィルシーナ
 ヴヴヴ三姉妹の長女。実は三姉妹でチームを組むつもりが妹二人に先約があったためにウインバリアシオンと組む方に舵を切った。
 ウインバリアシオン同様アジテイターに憧れており、強敵相手でも平静なアジテイターのメンタルを見習いたいと思っている(実際はアジテイターの性根がクソボケなだけ)。ジェンティルドンナと共にマイルを担当する傍ら、多忙なアジテイターの助けになれないかと補佐役に立候補するつもりでいるようだ。
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