元死霊術師の魔法少女   作:TS魔法少女

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第10話 妖怪VSメカゾンビ

 三人が駐車場から出ると、通りは大混乱に陥っていた。暴れる妖怪たちと逃げ惑う人々、妖怪を抑えようとする警察官という構図があちらこちらで発生していて、幽理には地獄絵図のように見える。

 

「これはマズいですね」

「ゴタゴタ言っていないで、ナイトパレードのヤツを探しながら妖怪を潰していくよ!」

「はいっ!」

 

 二人は意気揚々と暴れる妖怪たちに殴り込みをかけていく。拳や鈍器で次々と相手を潰していく姿は、人々に安心感よりも、新たな恐怖を与えているように見えた。

 

「あの二人みたいなことはできないからなぁ。私は私なりに頑張りますか」

 

 幽理は展開しているクモとネズミに、人でないものを襲うように指示する。大雑把な指示ではあるが、予め『人でない』という条件として体温や呼吸などの条件を教え込んであるため問題ない。人と同じように体温があって呼吸をする妖怪は対象外になるが、大多数の妖怪を対象にすることができる条件だった。

 

「さて、妖怪たちは任せるとして、本体を探しますか」

 

 幽理はベルトポーチから折り畳み式手鏡を取り出して異能力を掛ける。厚みが増して、開くと展開しているメカの位置が表示されるようになった。

 

 メカの位置は一様ではなく、何か所かに集中して表示されている。

 

「この集中しているところのどこかに本体がいるはず……」

 

 異能力の絶対的なルールとして『自分が基準になる』というのがあることは、幽理も把握していた。デウスエクスマキナの場合は『支配』が自分基準になるが、ナイトパレードの基準は『生成』が自分基準になると幽理は睨んでいる。

 

 ゆえに妖怪が集中している場所は生成点──すなわちナイトパレードの居場所である可能性が高いと考えていた。

 

「あとは虱潰しに行きますか」

 

 手始めとして、一番近くの集中している箇所に向かったが、ナイトパレードの姿はなかった。

 

「時間が経てば場所は絞れてくるから見つかるのは時間の問題なんだけど、暇を持て余すわけにもいかないしな」

 

 当然ながら、時間経過によって集中してる場所は移動していく。その移動パターンから、本命の場所が徐々に絞られていった。

 

「どうやら、この辺りみたいだね」

 

 ポイントが一点に収束してナイトパレードのおよその位置を割り出すことに成功した幽理は、さっそく彼の居場所へと向かう。

 

「な、なんだ、この気味の悪いネズミとクモは……。あっちいけ!」

 

 ナイトパレードが作り出す妖怪のうち、人でない条件に該当する妖怪を片っ端から齧り殺していくネズミと、糸で絡めとって喰い殺していくクモを追い払おうと必死になるが、幽理と同じ一般人並みの身体能力で追い払えるはずもなく、作り出した妖怪が殺されるところを指を咥えて見ているような状況に追い込まれていた。

 

「よし、このまま追い込みかけていこうか」

 

 幽理が放っていたメカゾンビたちを呼び寄せて本体を叩けば一瞬で決着が付く。しかし、彼女の脳裏には彼が叩きつけて粉々にした死者の書のことがあった。

 

「壊したものはちゃんと元に戻させないとね」

 

 死者の書は美術館から盗まれたもの。可能な限り返却する必要があるが、彼を殺してしまえば幽理が復元する羽目になる可能性がある。彼に責任を取らせる義務がある以上、殺すわけにはいかない。

 

 幽理は指示の内容を『人でないもの』から、『ナイトパレードが生み出したもの』に変更する。次の瞬間、ネズミとクモは彼が生み出した傍から妖怪たちを殺していくように動き始める。さらには、他で妖怪を蹂躙していたメカたちも続々と彼の元に集結して、彼が妖怪を生み出すのを虎視眈々と狙っていた。

 

「な、なんだよ! こいつらは! くそぉぉ、強力な妖怪まで一瞬でやられてしまうじゃないか!」

 

 巨体を持つ『がしゃどくろ』や『土蜘蛛』、『鵺』といった強力な妖怪たちも、数百匹のネズミとクモによって現れた瞬間に塵となって消えていく。

 

「やっぱり、リスキル最強だわ」

「くそぉぉぉ、卑怯者どもめ!」

 

 涙目になりながら、強力な妖怪を絞り出していくナイトパレードだが、まだ幽理の目には心が折れているようには見えなかった。

 

 ◇

 

「天羽さん、こっちはどうですか?」

「って、何やってるんだ?!」

 

 三十分ほど経過した頃、残った妖怪を片付け終えて、周防と有紗が合流する。無数の機械的なクモとネズミに取り囲まれて、「もうやめてくれよぉぉぉ!」と泣きわめいているナイトパレードを見て目を大きく見開いた。

 

「あ、こっちも終わりましたよ。ちょうど心が完全に折れたところです」

「「……」」

 

 一仕事終えたとばかりに爽やかに告げる幽理に二人はドン引きだった。

 

「やめて欲しければ、お前の壊した死者の書をきっちり復元しろ」

「わ、わかりましたぁぁぁ! 復元しますぅぅぅ!」

「それじゃあ、最初の駐車場に戻れ。言っとくが、復元するまで解放されることはないと思え」

 

 ネズミとクモに取り囲まれながら、ナイトパレードがトボトボと駐車場に向かって移動する。

 

「あの……。妖怪を呼び出したいんですが……」

「いいだろう。だが一度でも反抗的な態度を取ったら、そのまま潰すぞ」

「わ、わかりました……」

 

 ナイトパレードは死者の書の破片を一か所に集め、手をかざして意識を集中する。見る見るうちに破片が元通りの姿を取り戻していく。

 

「直りました。これでよろしいでしょうか?」

「いいだろう。それじゃあ、解放してや──」

 

 完璧に復元できたことで、幽理が満足そうに微笑む。元通りになった死者の書に伸ばしかけた彼女の手が、途中で止まった。

 

「よぉ」

 

 死者の書の上に、小さい人が立っている。その姿に幽理は見覚えがあった。なぜなら、彼女の前世と瓜二つの姿だったからだ。

 

「な、な、何なのこれは!」

「死者の書を付喪神にして回復させたんだが……まずかったか?」

 

 伸ばしかけた手を震わせながら幽理が問い詰めるも、彼女の前世など知らないナイトパレードには何が悪いのか全く理解できていなかった。

 

「死者の書に関わりの深い人間の姿が付喪神として出てくるが、それくらいは勘弁してくれや」

「チェンジで!」

「そんなこと出来るわけないだろうが!」

 

 言い争いを始めた二人に周防と有紗も半ば呆れて肩を竦める。一方、死者の書は何故か書かれていた内容を唱え始めた。幽理の前世の姿で──。

 

 その姿に衝撃を受けた幽理は大きく目を見開いて固まる。ナイトパレードという明らかな別人が唱えただけでも、幽理は相当なダメージを受けていた。それが前世の自分にそっくりな人間であれば、そのダメージは計り知れない。

 

「うああああ、もう駄目だぁぁぁ!」

 

 一瞬にして精神の許容量を超えた幽理は断末魔の悲鳴を上げながら意識を失った。

 

「天羽さん!」

 

 気絶した幽理に駆け寄って有紗が抱きかかえる。周防はナイトパレードに近づいて拘束した。

 

「死者の書を復元したら解放してくれるって……」

「それは、こいつが解放すると約束しただけだ。そのあとで私が逮捕するがな!」

「そんな、酷い……」

 

 身動きを取れないようにしたナイトパレードを周防は車の後部座席に乗せる。有紗も幽理を反対側の後部座席に乗せ、自らは助手席に座る。

 

「それじゃあ、帰るか」

 

 四人を乗せた車は、警視庁に向かってゆっくりと走り出した。

 

 ◇

 

「ほら、入れ!」

 

 周防は捕らえたナイトパレードを異能力者専用の留置所へ放り込む。セフィラの力によって彼らの異能力を大幅に制限する仕掛けが施されていると言われているが、詳しい仕組みを知るものは誰もいない。

 

「さ、サイクロン。お前もか!」

「ふん、ナイトパレードのオッサンも捕まったのか」

「ああ、容赦のない魔法少女にやられた」

 

 二人はそれぞれ幽理の特徴をあげつらって、彼女がいかに自分を捕まえるために酷いことをしてきたか、という話に花を咲かせる。サイクロンには空中から容赦ない爆撃を仕掛けた上、最後にはクラスタ爆弾まで投下し、ナイトパレードには容赦ないリスキルで心を折ったのだから当然の流れではある。

 

 周防としても敵とはいえ同情の余地が無いわけでもないため、愚痴をこぼす程度はため息を吐きながらも大目に見ることにした。

 

「これでやっと四人か……」

 

 留置所に背を向けて、立ち去りながら周防は呟く。これまで長いこと拮抗していた状況が、幽理という存在によって優位に傾いてきていることは喜ばしいことであった。だが一方で、彼女一人に大きく依存する状況はタッチレスの前例があるだけに不安も大きい。

 

「先のことを考えていても仕方ない、か……」

 

 天秤が大きく傾いた以上、敵がいかなる手段を取ってくるのか、周防にも想像がつかなくなっている。

 

「そろそろ、クリファも本格的に動き始めるはず。これからが本番といったところね。どんな手を使ってくることやら……」

 

 魔法少女の異能力の根源であるセフィラ。その対となる存在であるクリファ。ただ力を与える存在ではない。ほんの僅かではあるが、セフィラは善性に、クリファは悪性に思考誘導していることが分かっている。だからこそ、ゾンビメーカーやヒュプノスをあっさりと殺した幽理を相手にしてもなお、サイクロンとナイトパレードは生き延びることができた。

 

「そろそろ天羽さんも目を覚ますころかしらね」

 

 周防は戻る前に幽理が治療を受けている医務室に寄っていくことにした。

 

 医務室では、ちょうど目を覚ましたであろう幽理が上半身を起こして、ボーっと窓の外を見つめていた。

 

「具合はどうかしら?」

「あ、周防さん。大丈夫ですよ。それで、死者の書はどうしました?」

「あれは美術館の方に返しておいたわ。付喪神のおかげで解読が進んだみたいで、あちらも喜んでいたわ」

「そうですか……」

 

 幽理としては複雑な気分だが、目の前で聞かなければ何とか耐えられそうだ。あの美術館には二度と行くまいと心に誓って、幽理はベッドから降りた。

 

「復帰して早々悪いんだけど、今回の件を整理したいから魔法少女係に行きましょうか」

「はい」

 

 魔法少女係に戻った幽理は、周防に促されるまま応接テーブルの手前側に座る。遅れて周防もコーヒーを手に反対側に座った。

 

「昨晩はお疲れ様。おかげでナイトパレードも無事に逮捕できたわ」

「はい、周防さんも」

「でも油断は禁物よ。これからが本番ってところね」

「他にも厄介な異能力者がいるんですか?」

「ええ、中でも危険なのは物質主義(ナヘマー)。彼らのリーダーね。あとは奴の補佐をしている広域感染(パンデミック)ね。おそらく彼らが動き出すわ」

 

 周防の話によれば、二人はこれまで表立って動くことがなく、素性も能力も未知数。相手の異能力の把握が勝負のカギになる異能力者同士の戦いにおいて、圧倒的に不利な立場であることと同じ。さすがの幽理も多少は危機感を感じ、周防を真剣な眼差しで見つめたまま、生唾を飲み込んだ。

 

「それだけじゃないわ。幽理と同じように新しい異能力者が加わる可能性もある」

 

 周防が幽理を引き入れたように、敵も誰かを引き入れる可能性があるのは当然の話だった。口を真一文字に引き結び、幽理は周防の話に耳を傾ける。

 

 その後も状況説明は続いたが、一度で覚えきれる量ではなかった。そのことは周防の方も認識しているらしく、この日は概要を把握しておいてくれればいいと言うだけに留まった。

 

 話を終えて、一日フリーとなった幽理は休んで英気を養おうと自宅に戻る。しかし、自宅の前に人が立っているのを見て、幽理は露骨に顔をしかめた。

 

「レイ……」

「昨日は何をやっていたんだよ! 帰ってこないみたいだったから心配したんだぞ!」

 

 先日のこともあり、彼の姿を見て少しだけ異性として意識をしてしまう。しかし、その直後に詰め寄って問い詰めてきたことで、彼に抱いていた感情は全て吹き飛んでしまった。

 

「別にあなたに言う必要ないでしょ!」

「ずっと心配していた俺の身にもなれよ!」

 

 怒りの感情に任せて冷たく突き放す幽理を、自分勝手な理由で怜は責め立てる。それがますます幽理の感情を逆撫でしてしまう。

 

「アンタには関係ないじゃない。別に私は心配してほしいなんて頼んでないんだから、ほっといてよ!」

「あ、おい、待てよ! まだ、話は終わって──」

 

 幽理は、怜を振り切ると、素早く家の中に入り玄関のカギをかけた。それからしばらく外で怜が何かを喚いていたが、すぐに元の静けさを取り戻した。

 

 この後、怜はとんでもないことをしてしまうのだが、この時の幽理は全く想像だにしていなかった。

 

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