元死霊術師の魔法少女 作:TS魔法少女
早速、幽理は支給された魔法少女の衣装を身に着ける。どこからどう見ても、某格闘ゲームの2Pキャラのような外見だった。
「これが、魔法少女?」
魔法少女というよりは中華少女と言った方がいいかもしれない。幸いにも幽理は手足が長くほっそりとしているため、チャイナドレスが似合う。しかし、この格好で魔法少女と言われても首を傾げざるを得ない。
「魔法少女のコスチュームは近年多様化してきているのよ。和服みたいなコスチュームもあるから天羽さんのも別におかしく見えるわけじゃないわ」
「そうなんですか?」
「そうそう、この動画なんか参考になるわよ」
周防が見せてくれた動画は主人公の少女を助けるためにサブヒロインが何度もループを繰り返して、悪のマスコットキャラを抹殺するというものだった。多種多様の魔法少女が登場し、その中には幽理と同じチャイナドレス風のコスチュームを着ているキャラクターもいた。
「もう結構です。気にするなって言いたいだけだよね!」
「そういうこと。このブレスレットを使うと一瞬で衣装を切り替えられるようになっているから、戦う時には着替えるようにしてね」
「えっと、着替えないとどうなるんですか?」
「不意打ちなどでやむを得ない場合を除いて、異能力の不正利用になるわね」
異能力の不正利用と周防は簡単に言うが、異能力自体が脅威となるものであるせいか、罰則がかなり厳しく設定されている。幽理はゴクリと生唾を呑み込んで、逮捕されないように気を付けると心に誓い、受け取ったブレスレットを撫でた。
「準備もできたところで、早速、一人異能力者を対処して欲しいのだけど……」
周防は一枚の紙を幽理に差し出す。受け取って内容を確認していく。
「ターゲットは
「完全回避って……。どうやって勝てばいいって言うんだ……」
「そこは頑張ってとしか言いようがないわ。白崎さんも付けるから、二人で協力して何とかしてね」
「マジかよ……」
憂鬱に顔をしかめながら資料の文章に目を通していく。一通り読み終わった幽理は、思わず眉をひそめる。異能力の制約に関する記述があると幽理は推測していたのだが、資料には一切の記述が無かったからだった。
「一つ確認なんですけど、私の学校を襲ってきたゾンビメイカーって、殺人の余罪があったりします?」
「確証はないが、アイツとあった直後に行方が分からなくなった人間は多いからな。殺されていた人間もいるだろう」
「そうですか。それじゃあ、行ってきますね」
幽理は満足げに微笑むと、現場へと向かう。
「やはり、異能には──あの制約がある……」
周防の答えによって推測が確信に変わり、タッチレスを切り崩す糸口が見え始めてくる。資料に書かれた内容だけではタッチレスの能力を説明しきれていない。幽理はぶっつけ本番で異能力を解明しないといけないことに緊張して大きくため息を吐いた。
◇
幽理が事件現場の宝石店にやってくると、有紗が出迎えた。
「幽理、やっと来たのね」
「コスチュームとかの説明に時間かかっちゃったからね」
「ふぅん、そっか……」
有紗はつまらなそうに答えると、幽理を置いて店内へと入ってしまう。幽理も慌てて有紗を追いかけて店内へと入った。一区画だけではあるが、ガラスケースの上部が外されて、中に置かれていたであろう宝飾品がごっそりと無くなっていた。
「これは盛大にやられたなぁ」
「どうやら、一瞬で奪われたらしいわ。取り返そうと攻撃したけど、全て回避して逃走したらしいわ」
「でも逃げられちゃったらどうしようもなくない?」
宝石店の店長が幽理と有紗の会話に申し訳なさそうに口を挟んできた。
「宝飾品にはタグが付けられているので、外されていなければ居場所が分かるんです」
店長がタグの位置が表示されたタブレットを渡してくる。有紗は、それを受け取ると店の前に停めてあった自動車に乗る。遅れて店にやってきた周防のものだった。
「この地図の場所に、急いで!」
目的地である広々とした公園に到着した三人は地図に示された位置へと向かう。そこには盗まれたはずの宝飾品が無造作に置かれていた。しかし、辺りを見回してもタッチレスの姿はどこにも無かった。
「これはどういうこと?」
「これがタッチレスの異能力みたいね」
「えっ、それは一体……?」
「周防さんは宝飾品の回収を! 有紗は魔法少女の服に着替えて! すぐにヤツが来るよ」
幽理がチャイナドレスの魔法少女形態に変身する。少し遅れて、有紗も白を基調にしたドレス風の衣装にティアラを付けた魔法少女形態となる。しかも、万年筆を象った杖まで付いていた。
「なんで有紗は、そんなコスチュームなの……」
「な、何かおかしいでしょうか?」
「おかしくはないわ。おかしいのは私のコスチュームを決めた連中ね!」
吐き捨てるようにチャイナドレスに文句を付ける幽理に、有紗は哀れみの視線を向ける。彼女は純粋に慰めようとしているのだろうけど、幽理には逆効果だった。
「私も終わったら一緒に訴えて──」
「大丈夫、私が惨めになるだけだから……」
「そうですか……」
何もできないことに有紗が落胆している間も、周防は宝飾品を拾って袋に詰めていく。しばらくすると、タッチレスがこちらに向かってくるのが見えた。
宝石店からそのまま歩いてきたらしく、盗んだときと同じ黒いスーツに身を包んでいた。誰もいないと思っているのか、長い黒髪を風に揺らしながら悠然とこちらに真っ直ぐ向かってくる。
「来たよ、気を付けて!」
幽理が二人に声を掛けると同時にタッチレスもこちらの存在に気付いた。彼女は誰もいないと思っていた場所に人がいたことに一瞬だけ驚いた表情を見せる。だが、こちらの正体にすぐ気付いて怒りに顔を歪ませる。
「お前たち、何をしている!」
駆け寄ってくるタッチレスに向けて、幽理はボールペンロケットを投げつける。ヒュプノスの時と違って、ロケットはまっすぐタッチレスの方へと飛んでいく。
「えっ?! すり抜けた……」
タッチレスは軽く避ける素振りを見せたものの、完全に当たったように見えた。しかし、直前にロケットが消えると次の瞬間には彼女の背後の地面に刺さって爆発してしまう
「無駄よ。そんなもの、私の異能力の前では意味がないわ! 大人しく、それを置いて立ち去りなさい!」
余裕の表情でタッチレスは立ち止まる。だが、周防が彼女の言葉を無視して宝飾品を回収していたため、彼女は苛立ちから歯噛みをすると、真っ直ぐ周防の方へと駆けだした。
「させない。──法令、タッチレスの私に対する手足による打撃を無効、および、私のタッチレスに対する手による衝撃を倍増」
有紗がタッチレスの前に立ち塞がり、異能力を使って押し返そうとする。しかし、向かっていった有紗の体は同じようにタッチレスの体の反対側にまるですり抜けたように移動して、その勢いのまま前のめりになって倒れてしまった。
「えっ、あっ──」
「邪魔しないで!」
有紗を掻い潜ったタッチレスは周防に肉薄する。宝飾品の回収を続ける周防に向けてタッチレスが蹴りを放つ。周防はとっさに両手をクロスして蹴りを防ぐ。相当の威力だったらしく、受け止めた蹴りの威力を殺しきれずに周防は吹き飛ばされてしまった。
「ちっ、相変わらず鬱陶しいヤツめ。それを返せと言っている、だろッッ!」
タッチレスの鋭い蹴りが全力で放たれる。周防は後ろに下がりながら蹴りを受け止め続ける。しかし、一向に宝飾品を落とさない彼女にタッチレスが苛立ちを募らせていく。
「こっちからは触れることすらできないのに、向こうからは好き放題できるなんて……」
「触れることはできるわ。さっきも一瞬だけど触れたもの」
「えっ?」
幽理のボヤキに有紗が訂正を入れる。驚いて思わず聞き返してしまうが、彼女は自分の感覚が間違いないと大きく頷いた。
「ということは、触れた瞬間に異能力が発動するということか。他にも条件がありそうだけど、これなら効くかもしれない」
幽理はベルトポーチの中にあるペットボトルを握り、周防に向かって叫んだ。
「こっちに投げてください!」
瞬時に理解して、周防は宝飾品の入った袋を幽理の方へ放り投げる。運動が得意ではない幽理ではあるが、彼女の的確なコントロールのお陰で難なくキャッチできた。
「貴様ら……。私をおちょくっているのか!」
タッチレスは、怒髪天を衝くような表情で幽理に向き直り真っ直ぐ向かってくる。彼女が駆け寄って来るのに合わせて、幽理はペットボトルで作ったC4爆弾を地面に放り投げてリモコンを手にする。
「なっ、くそっ!」
「遅い!」
幽理がボタンを押すのと、タッチレスがC4爆弾に触れるのはほぼ同時だった。幽理は来るであろう爆風に備えて反射的に目を閉じる。C4爆弾の方は、彼女が触れると同時に遠くの見通しの良い場所に何故か移動していた。そのまま誰一人巻き込むことなく爆発して終わる。
「無駄だッッ!」
「えっ?! キャッ!」
足元にあったはずのC4爆弾が離れた位置で爆発したことに気付いた幽理は目を開けるようとする。だが、それよりも早く幽理の腹にタッチレスの鋭い蹴りが撃ち込まれる。重い衝撃に痛みよりも先に肺の中の空気と、胃の中のものが口から押し出される苦しみに襲われる。
後ろに吹き飛ばされながら、宝飾品の袋を持つ手から力が抜け、地面に落ちる。
「げほっげほっ!」
咽ながらも何とか立ち上がろうとするも、それより先にタッチレスが宝飾品の袋に触れる。すると、最初から何も無かったように袋ごと消えてしまった。
「幽理っ、貴様ッッ!」
周防が怒りにまかせてタッチレスに殴りかかる。しかし有紗と同じように、触れた瞬間に反対側へと移動して、飛びかかった勢いによりバランスを崩してしまう。
「無駄だって言っただろ。残りも回収させてもらうよ」
周防がバランスを崩している隙に、タッチレスは残りの宝飾品を素早く回収すると、そのまま立ち去ってしまった。
「幽理、大丈夫か?」
「す、すみません、逃がしてしまいました……」
「無理に喋らなくていい。結局、捕まえる糸口も見つからないままか……」
「いえ、タッチレスの異能力は先ほどの一戦でだいたい把握できました」
周防はもちろん、横で聞いていた有紗も驚いて目を見開く。大人の周防は驚くのも一瞬だけで、すぐに目を閉じて気持ちを落ち着ける。
「今から追っても無駄だろう。これからの対策を立てるために戻るぞ」
「わかりました」
幽理と有紗は周防の車に乗って、警視庁の魔法少女係へと戻る。幽理にとっては正式に魔法少女になって初めての依頼。それが敗北という形に終わったことで、少なからず幽理はショックを受けていた。車の中では幽理を中心として重苦しい雰囲気が漂う。
「気にする必要はない。これまで何度も失敗していた相手だからな」
「しかし……」
「むしろ、天羽がいてくれたお陰で、ヤツを捕まえる糸口が見えてきたんだから大手柄と言ってもいいだろう」
それは周防の掛け値なしの正直な賞賛。しかし、それでも完全に割り切れるような幽理ではなかった。重苦しい空気の中でも車は走り続け、警視庁へと到着する。周防を先頭に魔法少女係に向かい、応接テーブルを三人で囲む。
「さて、まずはヤツの能力について気付いたことを教えて欲しい」
「タッチレスの能力は──瞬間移動です」
「だが、ヤツは歩いて移動していたでは……」
周防が眉間に皺を寄せながらつぶやく。それを見て幽理は俯き加減に首を横に振った。
「いえ、ただの瞬間移動ではなく、自分が触れたものを瞬間移動させる、という異能力です」
「なるほど、それで私や白崎さんの攻撃が当たらなかったということか」
「はい、完全回避に見せかけていたのは二つ理由があって、一つはご存じの通り、瞬間移動の意能力で可能なことを隠すため。もう一つは──」
幽理はいったん言葉を止め、周防を、そして、有紗の目を順番に見つめる。
「瞬間移動の能力の弱点の隠蔽です」
「「弱点?!」」
「回避できる量に限界があるんですよ」
驚いて声を上げる二人をよそに、幽理は不敵に微笑んだ。