元死霊術師の魔法少女   作:TS魔法少女

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第8話 嵐の中を駆ける鋼糸

 周防の車に乗り、幽理は再び死者の書を追う。しかし前回と異なり、死者の書が何であるかを知ってしまった幽理はそれほど乗り気ではなかった。

 

「そんなに急がなくてもいいじゃないですか」

「いいえ、逃がすわけにはいかないわ」

 

 周防の方はやる気十分で、二人ともまとめて捕まえようと息巻いている。しかし、今回だけ特別に熱が入っているわけではなく、幽理の熱意がなさ過ぎて相対的にやる気があるように見えるだけだった。

 

「今日は随分と落ち着いているわね」

「そんなことはありませんよ。二度も取り逃していますから」

 

 周防は、そんな幽理の様子を見て、落ち着いて物事を進められるようになったと、前回の暴走っぷりを思い出しながら彼女の成長を喜んでいた。

 

「ふふ、その調子よ。天羽さん」

「そ、そうですか……?! 恐縮です」

 

 さわやかな笑みを浮かべながら褒め称える周防に、幽理は少しだけ引き気味に感謝の言葉を述べた。何の心境の変化かさっぱり理解できない幽理は、眉根を寄せて周防をじっくりとルームミラー越しに伺うが、結局のところ何一つ分からなかったので気にしないようにした。

 

 微妙な空気感の中、周防の車は逃亡中の二人を捉える。行く手を遮るように車を止め、勢いよく車から飛び降りた。幽理は車から出るのに合わせて、チャイナドレス風の魔法少女衣装に換装する。

 

「二人とも、逃がさないわ」

「ふん、それはできない相談だ。お前は先に行け。こいつらなど、俺一人で十分だ!」

「わ、わかったわ」

 

 サイクロンは周防の言葉を鼻で笑い、タッチレスに逃げるように促す。気負った様子もなく、一見すると油断しているように見えるが、まったく隙が無かった。

 

「逃がさない!」

 

 このままだとタッチレスが逃げてしまうと判断した幽理は、ボールペンロケットとメカGゾンビを放つも、サイクロンの周りを取り囲む暴風によって上空へと吹き上げられて爆発した。

 

「うわっ!」「きゃっ!」

 

 タッチレスを追跡しようとした支援班もサイクロンの作り出した竜巻によって行く手を遮られていた。ほとんど支援班に視線を向けることなく足止めをしながら、幽理たちを牽制している彼の実力は相当なものだと幽理は推測する。

 

「この間と同じじゃねえか。そんなチャチな飛び道具が俺に効くわけねえだろ。ま、おかげでアイツは無事に逃げられたみたいだからな」

「やってみなきゃわからないでしょ。それに、今日はここで終わりじゃないんだ」

 

 あざ笑うサイクロンを睨みつけながら、幽理は不敵に微笑む。その態度にサイクロンは青筋を浮かべて、こめかみを引き攣らせる。

 

「そんなハッタリなんざ、俺には効かねえよ──うっ?!」

「今日はクモも仕込んでおいたんだよね」

「ちっ、小癪なマネを……」

 

 幽理はこっそりと大量のメカGゾンビの中に、メカクモゾンビを数匹だけ紛れ込ませていた。そのクモの放った糸がサイクロンの風に吹き上げられながら、彼の体を糸で雁字搦めにしていた。できればタッチレスの足止めもしたいところだったが、竜巻のせいで彼を糸で拘束するのが精いっぱいだった。

 

「この隙に……くらえ!」

「ふざけやがって! こんなものは効かないと言っているだろうが!」

 

 身動きの取れないサイクロンに向けて、幽理はメカGゾンビをけしかける。しかし、異能力を使うには支障がないらしく、彼を取り囲む暴風によって尽く上空へと吹き上げられて爆発してしまった。

 

「くっ、これでもダメか……」

「ちっ、ウザい糸だ」

 

 サイクロンは自らを拘束していた糸を風の刃で切断する。ついでとばかりに幽理に向かって残った風の刃を放ってきた。背筋に寒気が走る感覚──突き動かされるように幽理は素早く地面に伏せた。

 

「うわっ、あぶなっ!」

 

 頭上を風の刃が通り過ぎていく。目を凝らせば空気の歪みみたいな形で見えるが、ほとんど不可視の刃に、無事回避した今でも鳥肌が立っていた。

 

 近くに立っていた周防の方にも流れ弾がいくつか飛んで行ったが、彼女は素早くハンカチを取り出して、風の刃を難なく防ぎきった。

 

「よっ、ほっ」

 

 幽理は素早く立ち上がって後ずさる。追撃を警戒してサイクロンをじっと見つめる。今度は風の刃ではなく、圧縮した空気を砲弾のように打ち出してきた。

 

 風の刃同様に空気の歪みのような形でしか見えないため、気を緩めると見失いそうになってしまう。だが、単発でしか撃ってこないのが幸いして、何とか回避する。

 

「援護します! ──法令。異能力による風を利用した自分への斬撃および打撃を無効化」

 

 有紗が割り込んできて、異能力でサイクロンの攻撃を無効化させる。圧縮された空気が彼女の体に触れると、一瞬で霧散する。

 

 その隙に、幽理は小石を三つほど拾ってサイクロンの方へと投げつける。しかし、サイクロンの近くどころか、すぐ近くに落ちたことで彼はあざ笑う。

 

「ぶははは、俺に届くどころかほとんど飛んでねえじゃねえか」

「これでいいんですよ」

 

 小石を変化させたグレネード──ただのグレネードでなくスモークグレネードからもくもくと煙が出てきて互いの視界を遮る。

 

「視界を遮れる時間は長くないでしょう。すぐに仕込まなければ……」

 

 幽理は待機させていたメカクモゾンビとメカトンボゾンビをサイクロンの方へと展開させる。その頃、サイクロンの方は狙いが見えなくなったことに苛立っていた。

 

「くそっ、小癪なマネを。無駄だと言っているだろうがっっっ!」

 

 竜巻によって視界を遮ったスモークは一瞬で吹き散らされ、互いの姿がはっきりと見えるようになる。サイクロンが忌々し気に睨みつけているのを確認して、拾った小石の最後の一つを放り投げる。

 

 先ほどのスモークグレネードが頭に残っていたサイクロンは青筋を浮かべ、「無駄だ」と言いながら竜巻を放つ。幽理が投げたのはフラッシュグレネードだった。予め伝えられていた有紗と周防、そして幽理は目をつむって顔を背けていた。

 

 三人の異変に、僅かに遅れてサイクロンが気づく。だが、すでに手遅れ。まばゆい閃光が彼の網膜を焼き、視界を真っ白に塗りつぶす。

 

「ぐあああ、目が、目がぁぁぁ!」

 

 閃光が収まるのを待って待機させていたクモの吐いた糸をトンボにペアでくっつける。何本もの細い糸がトンボの動きによって一本の丈夫な組紐になっていく。目で追うのも困難な速度で編まれる組み紐がサイクロンの体に巻き付いていく。

 

「な、なんだこれは!」

「先ほどより頑丈に縛らせていただきました」

「ふ、ふざけるな。こんなものすぐに切り裂いて──」

「させませんよ」

 

 しっかりとクモの組紐で縛られたサイクロンは先ほどと同じように風の刃で断ち切ろうとする。しかし、幽理が阻止すべく彼に向って駆け出した。

 

「ふざけやがって……。貴様ごとき、何ができると言うんだ! 吹き飛べ、クソが!」

 

 近くまで詰め寄った幽理は、サイクロンの周囲を守る暴風にさらされる。風によって生み出される凄まじい力が幽理の全身に襲い掛かってきた。

 

「くっ、ああああ!」

 

 それでも前に進もうと足掻くが、体重の軽い幽理の体は徐々に浮き上がり、そのまま上空へと打ち上げられた。

 

「「天羽さん!」」

「バカめ。そのまま地面に打ち付けられて果てるがいい!」

 

 周防と有紗が吹き飛ばされた幽理の名前を叫ぶ。サイクロンは愚かな行為をあざ笑い、次の相手であろう有紗と周防の方へと視線を移す。実際、幽理は滅茶苦茶な風の流れによって、服があちこち破れ始める。

 

「バカなのは、あなたの、方です」

 

 一番上まで吹き飛んだ幽理は、折り畳み傘を開いて異能力を使う。ベルトが出てきて彼女の体に固定され、骨の先から猛烈な風が吹き出し、彼女の体が上空でプカプカと浮かぶ。

 

 続いて取り出したペットボトルを次々とC4爆弾に変えて、竜巻の中心──彼の立つ場所へと落とし、爆発させる。

 

 ──ドゴォォォン!

 

「ぐあああ、な、なんだ?!」

 

 一発目の爆弾はサイクロンの目の前に落ちて爆発した。突如として発生した激しい爆炎と衝撃に、咄嗟に風でバリアを作ったものの完全には防げなかった。手足にいくつもの火傷や裂傷を負いながら、上を見上げるサイクロンの目に、容赦なく爆弾を投下しようとしている幽理の姿が映った。

 

「貴様か! くそぉぉぉ! ふざけるんじゃねぇぇぇぇ!」

 

 風の刃で迎撃していたのでは間に合わないため、サイクロンは圧縮した空気を放って爆弾を迎え撃つ。器用にも次々落ちてくる爆弾を丁寧に撃ち落としていた。

 

「くそっ! だが、数には限界があるはず……弾切れになった時が貴様の最後だ!」

「じゃあ、最後はクラスター爆弾にしようか」

 

 最後の爆弾を投下する。これまでと同じように撃ち落としたサイクロンが息を吐くと、バラバラと子爆弾が降り注いできた。

 

「な、なんだ──」

 

 ──ズドドドドドドォォン!

 

 子爆弾が連鎖的に爆発して、爆風と衝撃が断続的にサイクロンに襲い掛かってくる。必死で風のバリアを張って耐えようとするも、いつ終わるとも知れない爆発に彼の集中力はあっさりと限界を迎えた。

 

「ぎゃああああ!」

 

 一つでも漏らしてしまえば、あとは流れるように堕ちていくだけ。わずかにできたバリアの隙間から入り込んだ爆風は、彼の集中力をかき乱す。集中が途切れて穴だらけとなったバリアでは圧倒的な物量による爆発に耐えきれるはずもない。幾度も爆風と衝撃を受けて、所々黒焦げになりながら、サイクロンは地面に倒れ伏した。

 

「異能力が消えた! 捕獲しろ!」

 

 サイクロンの異能力が消えたことに気づいた周防が、彼を捕獲するように指示を出す。すぐに有紗と支援班が動いて、彼の身柄を拘束し連行していった。

 

 彼が連行されてからしばらく、幽理は傘の出力を落としながらゆっくりと降りてくる。

 

「うわぁぁ、衣装がボロボロになっちゃいましたぁぁ!」

 

 彼女が地上に降り立って最初の一言が支給された衣装についてだった。周防が呆れて肩を竦めながら微笑んだ。

 

「そんなの気にしなくてもいい。お前さんが無事だったら、服なんていつでも作り直せるからね」

「そ、そうなんですか?!」

「それよりも、おかげでサイクロンは無事に逮捕できた。これもお前のおかげだよ」

 

 不安そうに上目遣いで周防を見る幽理を安心させるため、周防は歯を見せながら笑った。

 

「でも、死者の書とタッチレスは逃しちゃいましたね」

「そこは気にしなくてもいい。アイツも厄介だが、サイクロンはそれ以上に厄介だからな。十分お手柄だよ」

「そ、そうですか! えへへ、なんか死霊術使っても褒められるって嬉しいですね!」

 

 前世では死霊術でいくら戦果を挙げても、酷いことしか言われなかったせいか、こうして褒められると幽理としてもむず痒いような気持になる。

 

「死者の書は、ここまで執着して盗み取ったものだ。手に入れた以上、すぐに使おうとするはず。必ず動きはあるはずだ」

「使うのですか? あれを……」

「奴らの中に解読できるような人間がいるのだろう。そいつを使って仕掛けてくるだろうな」

「一体何をするつもりなんだろうか……」

 

 周防の言葉に幽理は首を傾げる。幽理からしてみれば、あれは質の悪い中二病ノートでしかない。それで何かしようとしても、痛い中二病モドキが出来上がるだけだろう。

 

「ま、そっちはその時になったら考えればいい。今日はパーッと打ち上げするぞ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 打ち上げ、という言葉に幽理の心はすっかり打ち上げモードになって、死者の書のことなど頭の中からポンと抜けて行ってしまった。

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