元死霊術師の魔法少女 作:TS魔法少女
サイクロンの逮捕につながった事件から、二週間が経過した。その間、敵の方に目立った動きはなく、日に日に肌寒さが増して冬が近づいてきているという実感がある。
「ハロウィーンですか?」
「ええ、イギリスやアイルランドで死者の国と一番近くなると言われる日に、先祖の霊を慰めるお祭りのことね」
いわゆる日本でいうところのお盆に近いもの。ハロウィーンが日本に輸入されて、十月三十一日は渋谷で仮装行列が行われるようになった。
「それで警備の手が足りなくて、私たちも動員されることになったのよね」
「でも、魔法少女は、そういう普通の仕事ってしないんですよね?」
「いつもはね。ただ、今年は死者の書の件があったでしょ。調べたところ、ハロウィーンに仕掛けてくる可能性が高いって出たのよ」
「なるほど、死者の国に一番近いハロウィーンが使うのにうってつけ、ということですか……」
幽理は周防の言葉を聞いて、腕を組みながらウンウンと頷いた。
「でも、ここは日本ですよね?」
「そうね」
「ハロウィーンって、元々は日本のお祭りじゃないですよね?」
「そうね」
「そうね、じゃなくて。何で海外のお祭りに合わせて儀式をするんですか……」
大きくため息を吐いて、幽理は肩を落とす。周防も彼女に同意する部分があるらしく、肩を竦めて首を振った。
「さぁね。日本の祭りになっちゃったから、大丈夫ってことじゃないの?」
「そんないい加減な……」
投げやりな周防の態度に幽理は呆気にとられた。死霊術にも大規模な儀式を必要とするものは確かにある。それらは月の力を借りるため、月の運航に沿って儀式の日を決めることになっている。何の関係もない太陽暦で毎年同じ日に死者の世界が最も近くなるという話自体が、幽理にとっては眉唾ものだった。
「ハロウィーンの信ぴょう性はともかく、このタイミングで奴らが動く可能性が高いのは間違いないわ」
「そういうことですか……」
胡散臭いことこの上ないが、死者の書に執着する連中である。適当な暦で決められたハロウィーンに踊らされて動く可能性があるのも、強ち間違いとは言えない。
「わかりました。当日は警備を手伝いつつ、敵の動きを追えばいいんですよね」
「そうなるわ。あくまで警備はおまけ、最優先は奴らの排除よ」
「わかりました」
ハロウィーン当日、幽理たち魔法少女係のメンバー総出で警備の手伝いに向かった。各々、魔法少女のコスチュームに早々に着替えて配置に付く。幽理もこんなチャイナドレスみたいな服装で警備なんて……と思っていたが、普通に仮装だと思われただけだった。
「こんな日に本当に仕掛けてくるつもりかなぁ……」
17時を少し回って、人が増え始める。ほとんどの人が仮装しているせいか、幽理の魔法少女コスチュームの方が逆に普通過ぎて目立つくらいだった。
「人が多いなぁ。これは何かあっても駆けつけるのが大変だわ」
さすがに今回は場所が場所だけに爆発系のメカGゾンビはお休みして、メカクモゾンビとメカネズミゾンビをこっそりと配置している。どちらもよく見ると金属的な光沢があるが、遠目だとほとんど区別がつかない。
幽理が周囲を警戒しながらパトロールをしていると、仮装していた人たちが流れるように歩き出した。流れていく人を目で追いつつ、不審な動きをする人間がいないかを観察していく。すると数名の若い男女が、周囲の様子をうかがいながら立体駐車場の中に入っていくのを見かけた。
彼らに気づかれないように幽理は慎重に後を追う。上っていく途中で立ち入り禁止のコーンが置かれていたが、それを当然のように超えて上へと進んでいく。最上階には中年のオッサンが一人立っていた。
「
「では、これより渋谷の街を死者で埋め尽くし、我々の力を世間に知らしめてやろうぞ。この死者の書の力でな!」
「さすがでございます!」
ナイトパレードを取り囲むようにして、彼らが集まって話し始める。彼らの周りには、赤い塗料で描かれた六芒星を模した魔法陣が描かれ、それぞれの頂点には蝋燭の明かりで照らされていた。
「なんか見覚えがあるんですけど……っと、それより先に他の人たちに連絡をしなければ」
即席の儀式場に感じる嫌な予感に身震いしながら、幽理は周防に連絡を取り居場所を伝える。すぐに増援を送るとの返事をもらい、物陰に隠れて様子をうかがった。
「一体、何を始めるつもり……」
「よし、準備は整ったな。さっそく始めるぞ!」
「「「はいっ!」」」
ナイトパレードの号令と共に、若者たちが魔法陣を取り囲む。ぐるりと周囲を見回して、ナイトパレードは魔法陣の中央へと進み出る。彼は死者の書を大事そうに両手で押し頂いていた。
「あれは……。まさか本当に、死者の書を使って儀式をするつもり……?!」
「夜の帳が降り、漆黒の闇が世界を覆いつくす──」
「……ッッッ!」
ナイトパレードが呪文を唱え始める。聞き覚えのある──いや、ありすぎるフレーズに幽理は目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えた。
「こ、これは……間違いない。私が前世で『カッコいいだろぉぉぉ!』と思いつつ、適当に作った呪文……」
適当に作った呪文ゆえに、唱えても効果が無い。しかし、彼らの雰囲気がいかにもそれっぽく、実は何か起きるんじゃないかと錯覚しそうになる。
「ううう……。これは恐ろしい精神攻撃……」
ナイトパレードの唱えている呪文は彼らの想像以上に幽理に対して精神的なダメージを与えていた。物陰に隠れているため、彼らから見えるわけではないが、彼女は先ほどから頭を抱えて地面にうずくまっていた。
「ううう……痛い、痛すぎる……」
呪文が唱え終わった時には、すでに幽理は虫の息になっていた。そんな彼女の状況をよそに、儀式をしていたナイトパレード達が浮足立つ。
「なぜだ、なぜ、何も起こらぬ……」
「何か儀式に不備があったのでしょうか?!」
「バカな、これは古代の死霊術師が書いたと言われる由緒正しい聖典だぞ!」
「そんな……バカな……」
ナイトパレードの強弁に、幽理が物陰で跪きながら小声でツッコミを入れる。一言一句違わず、彼女の前世で適当に作った呪文を『由緒正しい』などと言われれば、悪い冗談だと言いたくなるのも当然のことだった。
「何が違っているというのだ! 儀式の手順も我が家に古代から伝わる伝承に従っているはずだ!」
「ぐはっ!」
ナイトパレードの言葉に、幽理の精神はさらなるダメージを受ける。見覚えがあると思った魔法陣は、これまた前世の幽理が『それっぽい』感じで適当に作った代物だと、彼の唱えていた呪文を聞いて思い出したものだった。
「ぐぬぬぬ、クソっ!」
──ガシャン!
ナイトパレードは死者の書を怒り狂って死者の書を地面に叩きつける。ちょうど、そのタイミングで周防と有紗が現場へと姿を現した。
「貴様ら、おとなしくしろ!」
「あ、幽理さん、大丈夫ですか?!」
周防がナイトパレード達を威圧している間に、有紗が過大な精神的ダメージによってぐったりとしている幽理を抱き起す。
「だ、大丈夫……やっぱり死者の書はヤバい代物だったわ……」
「なるほど、お前たちが黒幕ということか!」
いまだ足元のふらつく幽理を支えながら有紗が周防の元へと向かう。息も絶え絶えの幽理を見て、周防の顔が怒りに歪む。
「貴様ら、死者の書で天羽さんを……。死者の書はどうした?!」
「……」
周防の厳しい追及にナイトパレードが戸惑う。そもそも彼らは、この場に幽理がいたことすら気づいていなかったのだから当然のこと。さらには何も起きなかったことで、怒り狂って死者の書を壊した、などとはとてもではないが言えるような雰囲気ではなかった。
「あれは……死者の書?! 粉々に砕け散っている。もしや、これを使って天羽さんに呪いを……」
僅かに視線を動かした周防の目に粉々になった死者の書が映る。全てを察した周防は憤怒の形相でナイトパレード達を睨みつけた。
「ち、違う! 死者の書は何も起きなかった! これは俺が偽物だと思って地面に叩きつけたせいだ!」
周防の怒気に気圧されるように、ナイトパレードが言い訳の言葉を並べ立てる。事実にも関わらず、それは彼女の怒りの炎に油を注ぐだけの結果となった。
「そのような戯言を……。貴様ら生きて帰れると思うなよ!」
「そうですわ。天羽さんをここまで追い詰めておいて……。許しません!」
怒りに震える二人を前に、ナイトパレードも別の意味で怒りに震えていた。もはや、今さら幽理が間に入ったところで、収まるどころか酷くなるだけ。下手をすれば、彼らの怒りが幽理に集中する可能性もある。
「ここは……。みんなの怒りが収まるのを待つしかないな」
少しばかり回復した幽理は、睨みあう彼らを呆然と見ながら傍観者に徹することを誓った。
「──法令。床からの私に対する反動を倍増」
先に動いたのは有紗だった。彼女は地面を蹴ってナイトパレードを守るように立ちふさがる男の一人に手に持ったステッキを叩きつける。異能力によって地面を蹴った反動が二倍となり、常人では考えられないほどの速度を威力による衝撃により、男は壁まで一直線に吹き飛ばされた。
「うがぁぁ!」
「遅いわ!」
男をカバーするように別の男が有紗に襲い掛かる。咄嗟に地面を蹴って彼女は異能力により強化されたバックステップにより難なく回避した。
「くそっ、お前たち。こいつらを足止めしろ!」
ナイトパレードが指示を出して立体駐車場から飛び降りると同時に、若者だったものは様々な怪物の姿に変化した。
「くそ、ヤツの異能力か……」
「あれが? まるで幽理さんみたい」
「ヤツは本体の能力は一般人とさほど変わらんが、ああやって、妖怪を作り出して従わせることができるのさ」
「マジかよ……」
周防と有紗のやり取りを聞きながら、幽理は信じられないものを見たように呆然としながら呟く。死霊術も同じようにゾンビをはじめとした不死の怪物を作り出すことができるが、無から有を生み出すようなことはできない。火葬が一般的になっている日本で人間のゾンビが作り出せないのも、それが理由だった。
「ま、どっちにしてもぶん殴れば解決するのは変わらない」
「なるほど、そうですよね!」
周防は服を硬質化させ、有紗はステッキを構える。
「──法令。地球からの私に対する重力を倍増」
有紗は地面を蹴って飛び上がる。反らした背中を戻す勢いに二倍の重力を加えた力で猫獣人のような妖怪の脳天にステッキを振り下ろす。
バコン、という豪快な音とともに、妖怪の頭が地面にめり込んで、その周りにはクレーターができていた。しばらくは、頭をめり込ませたまま手足をぴくぴくと動かしていたが、すぐに力が抜けて体がベタリと地面に付く。死体はすぐに空気に溶けるように消えていった。
「まずは一匹」
一方、周防も立ちふさがる壁のような妖怪の腹を殴り、衝撃波によって大穴を開ける。穴はすぐに塞がろうとするも、それよりも早く二発目、三発目……。瞬く間に跡形もなくバラバラになった妖怪は欠片が地面に落ちるよりも早く風に溶けて消えた。
「ほら、二匹目」
「二人とも、脳筋すぎじゃないか……?」
周防はともかく、大人しそうな有紗の方が武闘派すぎて、さすがの幽理も唖然として二人が暴れる姿を見てることしかできなかった。
「討伐完了です!」
「終わったぁ!」
まるでウォーミングアップだと言わんばかりの軽い感じで、妖怪たちを撲殺しまくった二人は爽やかに汗を拭う。終わって一息ついたところで、幽理が復活したことに気づいて二人が駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「そうね。もう大丈夫だよ」
「それじゃあ、みんなでナイトパレードを追いかけるわよ! ほら、天羽さんも早く立って!」
先ほどの戦闘で高揚した周防に急かされ、幽理はよろよろと立ち上がった。