四代目火影・大蛇丸   作:缶ジュース

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第五章:呉越同舟

「遅い!」

 本来なら作戦の中心にいるべき火影に代わり、獅子奮迅の大立ち回りで九尾を里の外縁部へ追いやった自来也は、一喝した。両肩に老いた蝦蟇を乗せ、束になった髪の毛先からはぽたぽたと真っ赤な血を滴らせていた。

「これはこれは、フカサク様にシマ様……とアンタだけ? ミナトは?」

 自来也が答える間もなく、九尾が咆哮を上げた。その大音響はチャクラを伴う衝撃波であり、九尾の周囲を撹乱のため飛び回っていた無数の忍をゴミのように吹き飛ばした。九尾に近かった者から地面や倒壊した建物に凄まじい勢いで叩きつけられ、身体をあらぬ方向にひしゃげさせる。自来也の白髪を真っ赤に染め上げる血も、そうして即死した味方の血しぶきだった。

「くっ、別の奴に聞けのォ!」

 踏み込みで足場を破裂させ自来也はひとっ飛びに九尾へ突っ込んでいった。入れ替わりに、その損壊した屋根瓦へ暗部が跪いた状態で推参する。

「報告。上忍波風ミナト、九尾の術者と思しき忍と会敵、交戦中。飛雷神の術により現在地は不明」

 大蛇丸が最も尊敬する二代目火影の考案した時空間忍術、飛雷神の術。その使い手は術式でマーキングした任意の地点へと自由自在に空間を跳躍できる。

「術者だと……!?」

 フガクが戦慄する。万華鏡写輪眼の開眼者であれば九尾を使役しうると情報を開示した矢先、この事態が人為的に齎されたとくれば、うちは一族を疑うなという方が無理だ。

「術者の存在には緘口令を。ロ班以下には負傷者の救護にあたらせなさい。例えイレギュラーがあろうと、大勢に変更はない。イ班は援護、抑え込みはフガク、陽動は私と自来也。行くわよ」

 新たな脅威を示唆されても、大蛇丸は淀みなかった。迷いのない指示が飛び、そして焦燥を押し殺したフガクを含む各々が散開した。

「母ちゃん! 自来也ちゃん!」

「大蛇丸ゥ!」

 自来也に仙術を授けた仙蝦蟇のフカサクが音頭を取り、もう一方の肩に乗ったシマと呼吸を合わせ、胸部を大きく膨らませる。仙人モードによるチャクラ感知で、急接近する大蛇丸を察知した自来也が、名を叫んでそれに続く。

「仙法火遁・蝦蟇油炎弾!」

 大蛇丸は自来也の隣に降り立つと同時に人差し指と中指を九尾に差し向けた。

「風遁・大突破!」

 大突破は風遁の基礎忍術だが、だからこそ却って術者の技量が威力に直結する。大蛇丸の生み出した台風の如き烈風を受け、油を吹き出す蝦蟇と連携し放つ火遁の大技、蝦蟇油炎弾は、とてつもない規模の業火に膨れ上がり九尾を丸々飲み込んだ。チャクラの化身である尾獣相手では、それも目眩ましにしかならない。一面で猛り立つ数千度の業火の中から腕を大きく振るう九尾の上体が現れる。あらゆる忍術を隔てる赤いチャクラがその巨体から渦を巻く。

「土遁・土流壁!」

 陣形を組んで構えていた暗部が六人がかりで余波を防ぎにかかった。二大仙蝦蟇を肩に乗せた自来也と大蛇丸が後方へと飛び退き、入れ替わりにフガクが土壁の高台を躍り上がってゆく。

「並んでやってきたからには、とは思ったが、あの眼」

 何も説明をされていない自来也は、その姿を見上げて呟いた。

 万華鏡写輪眼で地獄を見据えるフガクは、やがて苦々しく表情を歪めた。

「ダメだ! 既に、縛られている!」

 地を蹴り戻ってきた自来也と大蛇丸にフガクが言う。本当に九尾を操る輩が存在し、悪意をもって里に攻めてきたという、おどろおどろしい事実が確定した。

「上書きは?」

「やっている。が、すぐには……!」

 フガクが脂汗を浮かべる。攻撃を止める気配のない九尾は、尾を蓮の花弁のように球状に立ち上がらせた。九つの尾すべての先端が向かう先、九尾の口元にチャクラが集まり、一秒ごとにドス黒い色彩を確かにしてゆく。超高密度に圧縮された膨大なチャクラは質量を帯び、九尾の足場が陥没して一帯が縦に揺れた。

「……良くないわね」

「あれはヤバいのォ」

「言っとらんで、はようどうにかせんか!」

「撃ち出す気じゃ! 大蛇丸、自来也ちゃん! 軌道を!」

 さしもの三忍も、あれをくらえば死ぬ。里ごと跡形もなく消えるだろう。

「間に合うか……黄泉沼!」

 自来也の土遁で、九尾の足元が粘着質な底なし沼となる。質量が災いし、身体の半分以上を九尾はそこへ沈ませた。腕を振るい藻掻きながら、九尾は無造作にチャクラの球体を弾丸として発射した。

「三重羅生門!」

 禍々しい面相の巨大な門が地面を割って弾道上に出現してゆく。両手を地につけ大蛇丸が口寄せした三つの羅生門は、無残に薙ぎ倒されながらも弾丸の軌道を上空方向へ逸らすことに成功した。遙か遠方に望む火影岩の一部を削り取り、弾丸は空へと小さく遠ざかる。そして、真昼の太陽のような光を迸らせ、夜を完全に払う劇的なさく裂をした。視界を白く染め上げた光の次の瞬間、鼓膜を破壊する轟音と衝撃波が里を薙ぎ払う。散乱していた死体も、充満していた錆びた鉄のような匂いも彼方へと吹き飛んでいく。

 鳴動の中、九尾は黄泉沼から這い出てきていた。自来也と共に飛び散る破片を紙一重でかわしつつ、距離を詰めていた大蛇丸は、自身の最強の術である八岐の術を発動するべく印を結ぶ。

「待て大蛇丸」

 仙人モードで感知に長ける自来也が先に、九尾の挙動の変化に気づいた。凶悪な目つきで見据えてきてはいるが、攻撃の素振りがない。ハッとして二人が振り返ると、四方を暗部に護られたフガクが九尾を刺すように見つめていた。万華鏡写輪眼の虹彩がゆっくりと回転している。

「このチャクラ質……完全な支配は……いったい呼び寄せた術者はどれほどの……」

 視線を切らさず腰だめの姿勢になったフガクが苦しげに呟いた。万華鏡写輪眼の幻術により、九尾を抑え込んだのだ。

「素晴らしいわ……」

 大蛇丸は喜悦を隠せない。恍惚と伝説の再現に見入っていると、その視界へ閃光のように黄色い影が映り込んだ。赤い髪の女性を抱きかかえて現れたその若い忍は「これは……」と状況に目を見張る。

「ミナト……! ……なるほど、術者を()ったんだな?」

「いえ。契約封印を施したのみです。相当な手練れで仕留めきれませんでした」

 目撃したら一目散に逃げろと他里の忍が教わる木ノ葉最強の忍、波風ミナトは衒いもなくそう言った。

「流石、と言うべきかしら」

 ミナトが術者との繋がりを断ったおかげで、フガクは九尾を幻術にかけられたのだ。諦め混じりの口調で称賛した大蛇丸は、地面に横たえられる女性に目を向けた。

「クシナも……まったく、大した生命力だこと。生まれた子どもも、無事なようで何よりだわ」

 尾獣を抜かれれば人柱力は即死する。経絡系に癒着した尾獣のチャクラが引き剥がされる際に、生命維持系統が全損するためだ。彼女が虫の息でも生きているのは、うずまき一族の血に由来する強靭な生命力ゆえだった。

「四代目……自来也先生……九尾は、私が……ミナト、ナルトを、お願い……」

 自分をそっと横たえたミナトへ、腕に抱いていた赤子を預けて起き上がろうとするクシナを、「余計なことをせず仰向けに寝てなさい」と大蛇丸が止めた。

「私も、木の葉の忍。まだ、やれるわ」

「お転婆は相変わらずね……もう母親だというのに。私はいいのよ。うずまき一族の血を引く生まれたてのちょうどいい器を、人柱力にしたいというなら、どうぞ、お好きに」

「ダメ。それに、違う。私が、道連れにするって、言ってるんだってばね」

「私は、八卦封印でアンタに再封印すると言っているのよ。大人しく寝ていなさい」

「早く! 封印を! 長くは保たん!」

 膝を折って虎の印を結んでいたフガクが切羽詰まった声で叫ぶ。高まる瞳力に毛細血管が耐えきれず、その両目からは血涙が流れていた。

「猶予はなく、選択も限られとる。幸か不幸か……な。前例はないが、それでゆくぞ! 辛い役目ばかりだが、今一度耐えてくれクシナ」

 フカサクとシマの口寄せを解除した自来也は、八卦封印の緻密なチャクラコントロールに対応するため仙人モードも解除する。そして髪を振り回し、付着していた血を辺りに撒き散らした。足で乱雑にそれを延ばし、赤黒い円を描く。

 その円陣を即席の儀式場として、八卦の封印式を扱える世界でも限られた忍のうちの三名、自来也、大蛇丸、ミナトの三人がかりで封印の発動に掛かった。

「私は、この子と、生きられるの?」

「さぁね。精々、祈りなさい」

 弱々しいクシナに、的確に印を結びながら大蛇丸は無慈悲に言い放った。

「大丈夫だよクシナ。だから、これからは三人で暮らそう」

 泣きそうな顔を一瞬で隠したミナトが、印を結ぶ手は休めずに笑って言った。

 クナイが手から落ちる。家紋が血に染まった。首筋から血を吹き出させ、崩れ落ちてゆく。誰も反応できなかった。それは、あまりにも想定外の行動だった。

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