ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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鬱要素含みます。




第4話 神様は少しだけ厳しい

白熱するエース同士の対決。試合は6回を終わって尚、互いにスコアボードにゼロを並べていた。

 

ここまで大塚は6回を投げ、被安打0、四死球ゼロ、11奪三振。球数は65球と、やや快調なペースでパーフェクトを継続中。

 

圧巻だったのは、第二打席での四番木村との真っ向勝負。

 

ストレート、スライダーを続け、木村もファウルで粘ったが、7球目の137キロのストレートの前に空振り三振

 

この試合で自己最速137キロを計測。その時球場はどよめき、流れは横浜に向くかと思われていた。

 

しかし、広島の尾道。エース成瀬がその流れを相殺する。被安打3、四死球ゼロ、7奪三振、球数も63球とエースの責任を果たすピッチング。

 

尻上がりにスライダーの切れが増していき、見極めが難しくなる一方で、右打者へのクロスファイア-が非常に有効で、スクリューとのコンビネーションで両サイドを使われ、横浜打線も彼を攻略できずにいた。

 

 

試合は7回の表、ランナーなしの一死の場面から。

 

 

「二番、セカンド、高須君」

今日ここまでノーヒットの高須。何としても大塚のパーフェクトを阻止し、ランナーを溜めた状況で3番沖田4番木村に打順を回したい。

 

ドゴォォォォン!!!!!

 

「ストライィィィィクッ!!!」

 

スピードガン表示では、ここにきての初球135キロ。エンジンがかかりっぱなしなのか、それともかかり始めたのか、大塚の勢いは増すばかりだった。

 

「………(どんな形でもいい。塁にさえ出れば………)」

 

ここで高須はバントの構え。ゆさぶりをかけてきたが、絶対的な優位さは覆らない。

 

キィィィン!!!

 

バントしようとした球を、とらえ切れることが出来ず、後ろへと打球は飛んでいく。バントすらさせない、そして前に飛んでも―――

 

「!!!!」

 

バントした瞬間に猛ダッシュをかけてきた大塚。フィールディングはいいと言われていたが、そのチャージの威圧感とスピードは、バントですらプレッシャーをかける。

 

「(なんで投手のくせに、俊足バッター並に足が速いんだよ!? チートだろ!? それに前の下位打線もバントを転がしても、あの強肩………いや、めげるな!!)」

 

きっ、と睨むように高須はダイヤモンドの中心にたたずむ大塚をロックオンする。まずはどんな形でもいい、ヒットでも四死球でも、エラーでも、

 

「…………!!」

ここで高須、バッターボックスギリギリの場所へと立つ。デットボール覚悟の構えに、大塚は口元を歪める。

 

―――――エイジ! ここは一球中にストレート。お前のストレートを見せてやれ。

 

黒羽のサインに対し、

 

――――解った。けど、これで決めるつもりだからね

 

 

ワインドアップからの強烈なストレートが高須の胸元を襲う。

 

「!!!!!」

思わずそのストレートの圧倒的な威圧感に呑まれ、のけぞってしまう。そして―――

 

 

「ストライィィィィクッ!! バッターアウトォォ!!!」

 

コースすれすれのゾーンに迷わず決めにきたのだ。デットボールのリスクもあるにもかかわらず、寸分たがわないコントロールで高須のもくろみを打ち砕いた。

 

 

「………ごめん…………」

 

代わりにバッターボックスへと向かう沖田に対し、謝る高須。

 

「ここで強い打球を打って、反撃ののろしを上げるさ」

 

 

 

「…………来たね…………」

大塚はマウンドで言葉を発した。迎え撃つは、この試合最大の難関。

 

 

三打席目の沖田。

 

 

初球の入りは、

 

「ボールっ!!」

 

大塚、黒羽バッテリーは初球からスプリットを選択。しかし、配球を読んでいた沖田がこれをスルー。

 

「…………(やはりスプリット。このボールは確かにキレもある。だが、カットするだけなら…………)」

 

 

―――ヤバいな、スプリットを配球とはいえ、見切ってきやがった。

 

黒羽もこの沖田の集中力と読みに感服するほかない。ここで初球をあえて見逃す勇気は凄い。

 

続く第二球。

 

 

キィィィィン!!!

 

体勢を崩しながらも、沖田はスライダーに手を出した。ファウルの打球もだんだん前に飛ぶようになり、今のはファーストへのファウル。強烈な流し打ちだった。

 

―――あぶねぇぇ………今のもう少し高かったらやられていたな…………

 

ひやりとする場面で、流石に大塚からも余裕が消え、目つきが変わる。

 

――――抑えるッ!!

 

鬼の形相へと変わる大塚。

 

第3球。

 

 

ドゴォォォォンッッッ!!!!!!!!

 

「!!!!!」

 

強烈なストレートがアウトハイに投げ込まれ、スイングをするも空振りを奪われてしまう。

 

 

―――138キロ――――

 

会場がどよめいた。この7回にきて、自己最速の138を計測。強打者との対戦で力を温存していたことが分かる。だが、大塚のスタミナがもはや尋常ではない。

 

「ここにきてそれかよ…………」

 

 

連投規定、恐らくこの回までだろう。故に、大塚はこのイニング、沖田に全てをぶつけに来ている。

 

 

――――ここで俺が打ち取られれば、完全にヤバい。今度はサヨナラのリスクもある。

 

 

成瀬が安定しているとはいえ、彼も7回で降板する。控えの投手は幾分も落ちるだろう。故に、延長戦はどうしても避けたい。

 

 

第4球

 

 

キィィィィン!!!

 

なんとか今度はこの試合誰も当てるのことのできなかった魔球スプリットに掠り、バックネットに飛ぶ。

 

「!!」

大塚は少し驚いたような顔をしていたが、すぐに目は真剣になる。それも大して動揺もしていない。

 

――――こいつ、3打席でスプリットに掠りやがった。

 

 

一度ここでタイムを獲る黒羽。マウンドの大塚に駆け寄る。

 

「アイツ、まさかお前のスプリットに当ててくるとはな。けど、ストレートは今まで以上だ。力押しで、高めで最後は仕留めるぞ」

今の球速とキレ、球質ならば行けるという黒羽。

 

「いや、あくまでストレートは高めだけど、それでは足りない。やっぱり散らしていくよ。」

 

 

「エイジ?」

 

「全球種をかけて、アイツには勝負しないと。一本化するとそのうちやられる。けど今アイツはファウルで逃げている。」

事実、ストレートには振り負けている。彼はそのバットコントロールでボールに当てているが、それでもまだストレートはタイミングが合わない。

 

「………解った。俺もそれが妥当だと思う。外にパラシュートチェンジを見せて、緩急を使おう。」

 

 

 

そしてマウンドから捕手が下りていき、ホームベースの後ろに座る。

 

「(配球の確認か? だが、俺のやることは変わらない………)」

 

集中しろ―――

 

第5球。

 

フワン、

 

「!!!!!」

バットが思わず出ない球速差。タイミングを狂わされ、バットのヘッドが上手く出てこない。

 

キィン!

 

かろうじてバットに当てた沖田。ここで緩い外の球を使う度胸に、沖田は獰猛な笑みを浮かべる。

 

強打者と対戦する時、一番勇気が要るのは緩い球を使う時といわれている。一歩間違えば、ホームランボール。だが、はまれば勝負を決められる非常にリスキーな球種。

 

揺れながら落ちるあのパームの軌道をしたチェンジアップは、先程までの沖田のバッティングの調子に影響する。

 

「(頭を整理しろ………狙うのはあくまでスプリット。いずれ絶対にその球が来る。後のボールはクサイところをカットするだけ)」

 

そう、奴はいつか決め球で打ち取ろうとするだろう。そこが最後のチャンス。

 

 

あの時に当てることが出来たが、ここは自分のバットを信じることにした沖田。出来なければ延長戦。サヨナラの危険は避けたい。

 

 

 

「凄いわね…………この試合………成瀬君もいいけど、大塚君と沖田君…………」

 

青道高校野球部副部長、高島 礼(たかしま れい)。ロングヘアーでふくよかな胸囲と眼鏡が外見的特徴の女性であり、英語の教員でもあるので、万能である。少し天然な部分はあるが、野球の知識はそれなりにあり、その熱意も人一倍強い。

 

その彼女だが、あの成宮鳴を破った右腕を見る為だけにここへやってきたのだが広島のエース成瀬もまた、素晴らしいピッチングで大塚に対して、堂々たるピッチングで返している。

 

さらに、尾道の怪童をこの目で見ることが出来た。

 

 

そしてこの勝負。もうこれで8球目になる。

 

「ファウルっ!!!」

 

両エースとも、イニング制限があるため7回で降りなければならない。故に、少しでもエースとしてチームを勢いづけるプレーが一層求められる。

 

―――ここで大塚君が沖田君を抑えれば流れは横浜に。けど、沖田君が出塁すれば球数制限で大塚君は降板しなければならない。そうなれば、後続の木村君を抑えられるかが不安。

 

キィィィン!!!!

 

「ファウルボールっ!!!」

 

若干息を切らし始めた大塚。顔には汗が少し滲んでいるが、球威は微塵も衰えていない。

 

―――中学2年生でこの体力…………彼は間違いなく化けるわね。けど、その大塚君に食らいついている沖田君のバッティング技術は凄まじいわね。

 

沖田の方も集中力を切らすまいと鬼のような目で闘争心を失わせていなかった。

 

気を抜けばやられる。その言葉がどちらにも頭に浮かんでいた。

 

 

そしてこれで10球目。

 

 

カッ!!!!

 

沖田君が体勢を崩しながらついに大塚のスプリットを捉えた。だが、打球が低く投手の大塚へ―――――

 

 

球場に鈍い音が響いた。

 

「…………あ……………!!」

思わず声を上げてしまった礼。沖田の放った打球が大塚の左足に直撃したのだ。右足が宙に浮いている為、その体重を支えていた無防備な左足に打球が襲った。

 

「ぐっ!!!」

 

「…………!!!!」

 

苦悶の表情を浮かべる大塚。そして、打った瞬間に呆然としている沖田。観客のだれもが息をのみ、沈黙してしまった。

 

 

「ッ!!!」

そして走るのが遅れた沖田は当然一塁ベースに間に合うわけでもなく、打ち取られる。カバーに入ったのはキャッチャーの黒羽であり、スローイング後に大塚の元へ駆け寄る。

 

「エイジっ!! 足は大丈夫なのかよ!!」

 

「エイジッ!!」

 

「エイジッ!!」

 

「大塚先輩!!!」

チームメイトが駆け寄るも、まだ苦悶の表情を浮かべた彼は立ち上がることが出来ない。

 

観客もその惨状に黙り込んでしまいざわざわと不安定な雰囲気に。そして、一塁キャンパスの前で沖田は硬直したまま大塚の方を呆然とした表情で見ていた。

 

「……………………………」

その惨状を黙って見ていることしか出来ない礼。だがそうしているわけにもいかず、未だに立ち上がることのできない大塚を見かねて、スマートフォンを取り出し救急車を呼ぶ。

 

 

その後、大塚栄治は病院に直行。沖田道広はチームメイトにもその精神状態を心配され、7回終了時点でベンチに退いた。

 

結局、延長の9回に二番手の投手に分があった尾道のリリーフ投手が不安定な精神状態の横浜の打線を抑え込み、尾道も沖田の交代で動揺があったが、打順が回ってきた木村が最後に勝ち越しを決め、広島の尾道が優勝を決めた。

 

しかし、チームメイト一同は相手投手の大塚、そして顔面蒼白の沖田の手前、喜ぶことが出来ず、最も悲劇的な決勝戦として人々の記憶と記録に刻まれることになった。

 

 

横浜ナインも尾道の監督からの直接の謝罪と目に涙を浮かべて土下座する沖田を責めきれず、プレー中に起こった事故であるという事で一致した。

 

尾道のエース成瀬達也は地元の強豪校へと進学が決まり、広島のエースとしての道を歩むことになる。3年後、青道高校最大の敵として君臨するのはまだ先の話。

 

 

準優勝メンバーの多くは神奈川県内の高校に進学を決め、特に黒羽金一は横浦高校へと進学し将来のスタメンキャッチャーとしての道を歩むことになる。

 

 

その後、沖田道広はバッティングの調子を落とし、メンタル面で長い長い精神的なスランプに陥り、地元のチームメイト以外のライバルチームからのヤジに耐えられず他県へと転校していった。

 

そしてこの大会を最後に大塚栄治は中学時代での登板がなくなり、人々の記憶から忘れ去られていった。

 

 

しかし、野球の神様はそんな二人を忘れない。

 

 

天才ではない怪童は憂き目にあいながらもそれでも譲れない想いを秘め続ける。

 

本物の天才は苦難の道でさえも乗り越える勇気を未来に示すだろう。

 

 

しばしの眠りの後、彼らを再び知る時が来るだろう。

 

 

 

 

 




大塚君の怪我の度合いはですね・・・・

踝あたりを骨折して、結構重いです。次の全中には間に合わないぐらいの。

沖田君はマジでトラウマになっています。イップスほどではありませんが、尾を引いている状態で、まあ心無いことを言われてメンタルがぼろぼろになるという・・・

そして成瀬達也君は全中二連覇投手として広島の光陵入り。

準優勝捕手の黒羽金一は神奈川の名門、横浦入り。

この二人は、後々のライバルになります。



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