ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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ついに沢村君の出番です。


第6話 原石と伝説と……

「こらァァァ!!! ピッチャー!! 何腑抜けた投球してんじゃァ!! 」

 

「す、すいません!!」

 

「ん?」

沢村がまず気づき、一同はその騒動が起こった方へと目を向けると、

 

「すいません。ちょっと礼儀のなっていない人はいたようですね。」

嘆息しながら大塚は高島に謝罪する。

 

 

「こんな球じゃ練習にもならんやろが! もっと活きた球投げんれんのかい! アホんだらぁ!!」

一同はその様子にそれぞれの反応をする。沢村は今にも飛び出しそうな状態になり、沖田がそれを止める。大塚は彼を冷ややかな目で見ている。高島はそんなカオスな状況を収集することに躍起になる。

 

「ハァハァ、すいません大………丈………夫です。ちゃんと投げます」

小柄でサイドスローの投手がヘロヘロになりながらも投球を続けている。

 

 

「わかったならさっさと投げんか川上!!」

その川上と呼ばれた人物が先程から打撃投手をしているが、それでも彼は不満らしく、

 

「東清国、高校通算は42本塁打で今年のドラフト候補生のパワーヒッターよ。まあ、ちょっと練習でヒートアップしているけど、そろそろ止めないと川上君がまずいわね………」

冷や汗をかきながら、高島は嘆息する。これで青道に悪いイメージを抱かれたら、もう入ってくれないのではないかと思えてしまうからだ。

 

「アレが!?」

沢村は思わずその説明で身体の動きを止める。

 

「……………アレを三振にとれば、すぐにプロに行けますね」

大塚は目がぎらついており、闘争心を剥き出しにしていた。

 

「(お父さん、お母さん、薫、雅彦。なんか入るところ間違えたんじゃないかな、かな?)」

沖田は遠い目をしており、達観の領域に入っていた。

 

その後も彼の求める球というものを投げることが出来ず、メタボリックな体型の上級生が怒っている。

 

「あーあ、またこんぐらいでばてて、やる気あんのか、自分? いつまで経っても今のままやとベンチ入りすらも駄目に決まっとるわ。そのぐらいの実力のピッチャーはごろごろおるんやからな、やる気なかったら田舎帰れや!!」

 

流石にあれは言い過ぎだろうと思った沖田が、思わずその言葉に反応し、沢村の拘束が緩くなる。大塚は、「沢村君の言うこともあるようだよ。ちょっとごめんね」と謝罪をし、沖田の穴をカバーしていた。

 

「すいません………ちゃんと投げます」

しかし、もうあの投手が限界なのは目に見えている。体力的にも精神的にもかなりぐらついている。同じ投手として、沢村と大塚はあまり歓迎できない光景だ。

 

「だったらさっさと投げーや!いちいち何回も同じこと言わせるなや」

 

 

 

「そんな体でプロに行くぐらいなんですから、あまり期待できそうもないですね。その図体で内角をどうやって捌くのやら」

 

「だよな大塚、あいつあんな体でプロ行くってよ! マジでありえねぇよな。あんなだったらプロなんか絶対止めた方がいいって! 思わねぇ?」

先程喧嘩していた二人が意気投合。投手というのは案外単純なのではないかと思う沖田。

 

 

「ちょっ………栄純やめろ!!」

沖田が止めるがもう遅い。この言葉ははっきりと東選手に聞こえたようで、

 

「だってあのお腹みたら完全に中年の腹じゃねぇーか! あんな親父みたいな体格で高校生なんだとよ!!」

しかしとまらない栄純。さらに禁句を連発し、東選手のスコアボードにどんどん得点を入れていく。

 

「だ………誰や………こらぁああああ!!! さっきから人のチャームポイントを笑うとる馬鹿は~~~出てこいや!!」

 

「「「は?」」」

これにはさすがの沖田も疑問符が付いた。アレはチャームポイントではない。生活習慣の賜物?

 

沖田まで参加していると勘違いした高島は「もう終わりだわ………」と意気消沈していた。

 

沖田視点で見ると、どうやらあの後輩たちも薄々それを感じていたらしく、ひそひそ声で話をしていた。この人は怒るとめんどくさいのか。

 

「………チャームポイント!? あれが? 短所だろ、短所!!!」

先程まで怒っていたはずなのに、沢村は、今度は馬鹿笑いをしていた。

 

「何が野球留学だよ。覚悟や向上心は立派だけどよ、 ここじゃあ、力がある奴は何しても許されんのかよ!!」

 

「何か問題があるかもしれないけど、頭ごなしに叱っても逆効果ですよ、先輩」

厭味ったらしく大塚もそれに続く。

 

「名門と呼ばれるこの学校じゃあ、練習に付き合ってくれる大事な仲間に対して、罵倒してその挙句の果てに田舎に帰れなんて言うのかよ!?」

沢村がさらにヒートアップ。大塚も何かを言おうとするが、悉く沢村に言いたいことを言われ続けている。

 

「そうだね、だか「もしそれを世間が認めても………俺は絶対にお前を認めねぇぞ!わかんねぇのかよ?たった一人じゃ野球は出来ないんだよ、この糞デブ」右に同じです」

最期カッコつかないな、と苦笑いの大塚と、激怒している沢村。

 

そこへ遂に東選手がやってきた。

 

「ああ~さっきから黙って聞いてりゃ、………この糞ガキどもが」

威圧しているが、沢村と大塚は退かない。というより退く気がそもそもない。

 

「終わりだわ………日程をずらせば………いえ、それは隠蔽だわ。でも…………」

そして意気消沈状態の高島礼、そして彼女を励ます沖田。

 

「あ、あの大丈夫ですよ。あの先輩以外はまあまともだと思いますし…………」

そして息をするように失言をする沖田。

 

「ああん!? てめえも舐めてんのかぁ、コラァァ!!」

 

「しまったぁぁぁ!!!!」

自分にも矛先が向けられ、失敗したことを自覚する沖田。

 

 

その後、話し合いの結果一対一の打席勝負をすることになった大塚と沢村。仮にもドラフト指名候補。なので、沖田は止めにかかるが、

 

「絶対倒す!!」

そう言って何も聞かない沢村と、

 

「道広君には、見せちゃおっかな、今の俺の球。どう言い訳をするのかな、あの人♪」

不敵な雰囲気で何かを含んでいる大塚の笑顔は、ある意味沢村よりも怖かった。スイッチが入ってしまっているようで、こちらもどうしようも出来ない。

 

「ははっ、面白そうだね礼ちゃん、そいつらの球、俺が受けていい?」

そこへ、サングラスの伊達男がやってくる。何やら真打登場って感じで登場してきたが、

 

「先輩、恰好ついていないっすよ。そんなポーズなんてしなくていいのに」

沖田が冷静に突っ込む。

 

「へ、へぇ~~(震え声) 今年の仮一年生は面白そうなやつばかりなんすね、アハハハ………」

若干顔が引きつっているサングラス先輩。明らかに怒っている、そしてまたしても失言をした沖田は、

「しまった、また突っ込んでしまった!?」

 

「ギャグかよ!! 道広もやる気満々じゃねェか!!」

沢村も笑い、

 

「そういうのはいいと思うよ(笑)」

大塚は満面の笑みだった。

 

「まあ、とにかく。受けるキャッチャーがいないそうだし、ここはこの仮一年生を見てみたいっていう俺の好奇心もあるわけなんですよ。それに、東さん、最近天狗気味だから若者とプレーをすれば初心に振り返れるんじゃないかと思って~~~」

 

「だ、だ、誰が天狗じゃァァッ!!!!!」

 

 

「もう収集つかない………どうすればいいのよ…………」

この惨状に、礼は項垂れるしかなかった。

 

 

 

その後、サングラス先輩こと、御幸一也2年生が、大塚と沢村の球を受ける事になった。順番はまず沢村からという事で、

 

「なんで俺まで………」

沖田は審判をやらされていた。

 

「あの一言のささやかなお返しだぜ♪ まあ、運が悪かったと思ってくれな♪」

この先輩、ノリノリである。

 

しかし、沢村がいったいどんな球を投げるのか興味がないわけではない。

 

果たして奴はどんな球を―――

 

「準備は出来てるか小僧?それともここでリタイアして詫び入れるなら今のうちやぞ。一度そのマウンドに上がってプレー開始したらどこにも逃げ場はないんやぞあぁ」

 

あれ、勝負は?

 

大塚はあくびをしながらその汚いセリフの応酬を見守っていた。沖田はいつまでもたっても始まらない勝負に悶々としていた。

 

「上等だっつーの! 逃げ場だと? そんなのてめぇの方なんじゃねぇーの? 今からてめぇはぶちのめされんだからな? つーかボールぶつけられても文句言うなよ、このメタボン」

 

勝負は…………?

 

「ククク、なんだよ。メタボンって………やっぱ面白れぇよ ………。」

 

…………勝負……………

 

何か沖田の頭の中で何かが切れそうな気がする。これ以上は危険だと自分でも解った。

 

「おい御幸、何笑っとるんじゃ! これ以上なめとんならいてこますぞ? われ!」

 

……………………ねぇ…………

 

もはや目のハイライトが消えかかっている沖田。高島礼は、そんな沖田の目が淀んでいくのを見て、さらに項垂れる。

 

「プッ、後輩にも舐められてんのかよ。やっぱり豚みたいな体してるからか?」

 

……………………おい……………(怒)

 

「黙れや糞ガキ! 殺すぞ」

 

 

「おい…………いつまで遊んどるんやァ………さっさとはじめろや、ボケ共ッ!! それともなんや? 勝負やらんのなら、こっちが全員イテまうぞ、ゴラァ!!!」

ついに沖田の堪忍袋が切れた。広島県出身の怖い言葉を羅列していく沖田。

 

「なっ………」

一同が凍る。それまではあの温厚な沖田がこれほど切れたのだ。

 

「さっさとはじめろやァッ!!! いい加減うんざりしとるんやァ!!! おんどりゃには付き合いきれんッ!! 勝手に勝負して、全員野垂れ死んどけやァ!! ワテが引導渡したろうかァッ!?」

 

「やっと元気になったようだね。どう、すっきりした?」

そんな中で、軽口を言える大塚は異常だった。

 

「…ッ…悪い………後悔はしているが、それでもまあ、一年分吐き出した気分だな。失礼しました……」

 

「それはよかった♪」

 

「……………………」

一同がシンとしてしまったので、大塚が困ったので、

 

「勝負、始めてもいいと思いますよ。」

 

「お、おお………(あの坊主、あんなに怖くなるとはなぁ、それに、あの餓鬼も何で平気なんだ?)」

東は沖田の豹変と、大塚の平常心が気になって仕方ないが、それは目の前の少年を打ち込んでからにすると決めた。

 

「プレイボール」

少しトーンの落ちた声で始まるの合図をする沖田。

 

そして初球、

 

―――真ん中? こんなパワーバッターにそんなインコースの甘いところを要求?何考えてんだ、この人…………

 

沖田がそう思った瞬間、

 

「なっ!?」

 

沖田の顔面にボールが飛んできたのだ。しかし、御幸がそれをキャッチし、寸前で顔面を強打する事態はなくなった。

 

「おっと失礼」

 

――――今のは、サイン違い? いや、沢村が明らかに嫌がっていた? それにこれはストレートなのか?

 

沖田が審判目線で見た沢村のボールは不規則な回転がかけられており、非常に軌道が読みにくかった。

 

 

 

「ふぅん。そういうことか。」

大塚は高島とともに沢村のボールを見ていた。そして大塚は一球でそのボールが何なのかを看破した。

 

「どう? 面白いボールでしょ?」

 

「そうですね。あれしか知らないのは致命的ですが、ダイヤの原石のようです。文字通り荒削りな。なんだか指導したくなるような選手です。いろいろ才能はあるのに、何もかもが足りなくて」

 

「そうよ! 貴方も解るのね! そうなのよ、それでね―――」

 

「(あ、地雷ふんだ)」

大塚はしばらくの間、高島の野球談議に巻き込まれた。

 

 

キィィィィン!!!

 

「ナイスボールっ!! 球は来てるぞ!」

 

沖田は何球も投げているにもかかわらず、この人がいまだに沢村のボールを捉えきれていない理由に気づき始めていた。

 

―――まさか………いや、そんな馬鹿な………天然のムービングがここまで………だが、この程度のストレートを芯でとらえきれない理由は…………

 

普通はフォームや握り方を教えられるはず。だが、沢村はそれがない。故に、それは偶然が重なってできた沢村の唯一無二のボール。

 

―――伸び代だけなら、全然わからないぞ、こいつ………

 

沖田はこの沢村の底知れぬ伸び代に戦慄を覚えた。これでもし、ちゃんとした指導を受けて、自在にボールを変化させられれば…………

 

キィィィィン!!!

 

「ファウルっ!!」

 

またファウルか…………

 

そして――――

 

 

ズバンッ!!

 

「………へ?」

 

「ちょい審判。コールは~?」

御幸先輩に急かされ、

 

「ストライク! バッターアウト!!」

信じられない。いくら慢心があったとしても、このバッターを抑えた。

 

「シャァァァァ!!!!!」

そしてマウンドで雄叫びを上げた沢村。

 

「何や、最後のボール………最後は動いて………」

 

「ムービングファースト………まさかこんなに早くお目にかかれるなんて………」

沖田はその球種を知っているし、沢村以外も知っている。

 

「…………それが、このガキの………それに、そっちのガキ、名前は?」

 

「大塚栄治です。横浜シニアで投手をやっていました。」

 

ざわざわ………

 

まさか、あの大塚って…………

 

間違いない、あの伝説の…………

 

「エイジ? お前ってすごいやつなのか?」

 

「凄いも何も、全中準優勝投手よ。」

 

「え、えぇぇぇぇ!!!! こいつが!?」

沢村が驚く。まさか、自分の手のとどかない場所で戦っていた投手が近くにいることに。

 

「まあね、運がよかったんだよ」

へらへらしながら白状する大塚。

 

 

「そうかァ………怪我からのカムバック。まあええわ。お前もその実力を見せてもらうわ」

 

「ご期待に沿えるよう努力はしますね」

 

 

「なんだか、黒くなったわね、あの子………どうしてこうなった…………」

高島礼がまたしても落ち込む。

 

「うっ……ごめんなさい…………」

思い当たることが多すぎるので、一応謝る沖田。

 

 

 

 

「プレイボール!!」

 

―――けど、アイツの球はどうなっているのかな…………

 

 

あの頃と変わらないワインドアップ―――いや、違う。

 

歩幅が少し狭い。これでは手投げに―――

 

 

ズバンッ!!!

 

しかし、沖田の不安とは裏腹に、大塚はキレのいいボールをアウトロー一杯に決めてみせた。

 

―――それに角度もあるし、あの膝の動きが。そうか、軸足を怪我したが、右足は無事だった。だから感覚が残っていたのか。

 

そして、お得意のフォームチェンジオブペース。打者のタイミングを探り、それを外す動き。

 

「(おいおい。こんな高等技術を持ってんのか、それにコントロールも反則レベル。さすがは、あの成宮に一度投げ勝っただけはあるな。)」

知り合いの左腕が昔、いけ好かない右腕に負けたと抜かしていたので、それが彼なのだろう。

 

―――おいおい、ここでそれを使うのかよ。まあ、試したいという気持ちがあるのは解るけどさぁ

 

御幸はそのどこまでも攻撃的で繊細な投球こそが、大塚の真骨頂だという事を知る。

 

第二球。

 

 

ククッ!

 

ガキンッ!!

 

「ぐっ!!?」

かろうじてファウルになったが、明らかに東は差し込まれていたというより、詰まらされていた。

 

「何だ今のは………これはツーシーム? いや、この軌道は………」

沖田はあの時会得しているはずのない球を投げていることに驚いていた。僅かに右バッターの膝元に沈み、芯を外したのだ。

 

 

「(たった一年で、そないなシュート系とはなぁ、ああいうのを天才いうんやろうな。)」

東には大塚のボールがはっきりと胸元からやや膝上に沈んでいたことを感覚で分かった。そして見事なコースを突いたそのボールを打っても、今のはファウルにしかならない。

 

シンキングファストボール。速球系の変化球の一つであり、通称「沈むストレート」。シュート系にスライドするのではなく、おちながら切り込んでくるため、高速シンカーといわれることもある。

 

「……………(早く勝負を決めるか)」

 

第三球。その瞬間、御幸と東には何か悪寒がした。それは大塚から放たれたオーラ。目に見えないはずなのに、彼の体からそんなものが見えるようになる。

 

―――来る、アイツの決め球が…………

 

直感で分かった。今から奴は、自分の一番自信のある変化球を投げるのだと。そしてそれは、彼の代名詞―――

 

 

「(なんや………何が来る………?)」

東も沢村の時の様な油断はない。だが――これは明らかにおかしい。

 

 

そして放たれたボールは――――

 

「捉え―――!?」

 

東の視界から消え、東のスイングは空を切り、

 

「ぐっ!?」

御幸のミットからこぼれ、彼が後ろに逸らしたのだ。彼が逸らすところを見たことのなかった選手たちはいっせいに動きを止め、その光景を目の当たりにする。

 

「おい………御幸が後ろに逸らしたぞ………」

 

「なんだ、あれは…………」

 

 

「今、ボールが沈んだ………? 何だよ、今の球?」

沢村はその名を知らない。いや、変化球すら知らないのだろう。だからこそ、沖田が審判の防具を脱いで答える。

 

「大塚の決め球。SFF(スプリット・フィンガー・ファーストボール)だ」

 

 

ここから始まる逆襲の時。かつての天才は地獄を潜り、怪物として表の世界にたった。

 

 

 




沢村のことを気に入った大塚。戦慄を覚えた沖田。

次回が入学前最後の話になります。

時期的にはオリジナルの話になると思います。
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