ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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今回は難産でした。


※7月3日

神宮大会に白龍を出したいので、横浦の神宮出場がなくなりました。


第123話 迫るもの

その頃、他県では続々と秋季大会を制したライバルたちが神奈川と東京の動向を見ていた。

 

 

「西東京の青道がやっぱ勝ち上がってきたな」

光陵高校主将に就任した2年生木村琢磨が準決勝中の青道をワンセグテレビで観戦していた。

 

「当然、だって沖田と大塚がいるんだぜ! 選抜で対戦できたらいいなぁ!!」

来年には新2年生になる成瀬は、気心を知る相手とはいえ、主将相手にため口で青道との対戦を熱望し、騒いでいた。

 

「青道しか眼中になしかよ。達坊の悪い癖だ」

中軸につなぐ役目を任されている2年生山田鉄太郎は、青道しか眼中にないほど浮かれている彼を咎める。

 

「青道だけじゃないし!! 光南には借りを返さないと気が済まないっての!!」

柿崎に投げ負けたことをいまだに気にしている成瀬。痛いところを突かれ、サルの様にうるさい。

 

 

 

ムキーッ、と騒ぐ成瀬を宥めた後、

 

 

 

 

 

 

「けど、せっかく北海道遠征に行ってもつまんなかったし! むしろ、睨まれっぱなしで怖かったんだよ!」

成瀬は、北海道の目つきの悪い同年代の怪物投手に不平を言う。本人のいないところでは絶対に言えないだろうと、後輩の憤慨っぷりを黙って見守っている先輩たち。

 

 

 

 

成瀬は巨摩大藤巻高校との招待試合にて先発したのだが、8回を投げて無失点、8個の三振を奪い、完封勝利に貢献した。中軸も甲子園メンバーを中心に粘り強いバッティングで相手先発本郷を攻め立て、3点を奪う堅実な攻めを見せた。

 

「まあ、達坊はよく喧嘩を買いやすいが、あそこまで闘争心のあるやつはそうはいない。これから伸びてくるだろうし、選抜で大化けするかもな」

あんまりにも黙るのもよくないと感じた高須が、我慢できずに思っていることを述べる。

 

 

 

そう、2年生高須洋二は、彼を相手に2つの四球、ヒットを含む三度の出塁を達成していたが、潜在能力の高さは感じていたのだ。

 

 

「そんなことを言ったら、スピードの速いやつが凄いみたいな風潮じゃないですかぁ! どいつもこいつもスピード、スピードばっかり言いやがって! 俺だってそのうち伸びるし!」

 

成瀬が本郷の話をされると不機嫌になる。試合後のスカウトの大多数も本郷ばかり。投球成績的に自分が勝ったのに、彼が注目されるのは悔しかったのだ。

 

一方、成瀬を視察したのは地元の広島と楽天。他の訪れた3球団は本郷をマーク、さらには成瀬を視察していた2球団も、どちらかというと本郷寄りだった。

 

「まあ、何とかなるさ」

ぽつりと山田が言う。

 

最速143キロなのに、周りの同世代が化け物過ぎて目立たない成瀬を宥めるが、これは逆効果だったようだ。

 

「―――――選抜で、ニュー成瀬を見せてやるし!!」

 

 

 

 

『さぁ、ノーアウトランナー一塁で、打席には沖田!! さぁどういった―――』

 

ブチッ

 

 

「ああっ!! 電池がぁぁ!!!」

木村のワンセグのバッテリーが切れる。映像が消える。

 

ちょうど、沖田がランナーのいる場面で打席を迎えたところだった。

 

 

 

 

一方、前日に神奈川の秋季大会を圧倒的な成績で制した横浦高校。近年目立つようになってきた海堂高校という新興勢力との決勝戦。

 

これを横浦は圧倒し、10対1と叩きのめしたのだ。

 

 

準々決勝で紅海大相良相手にはコールドこそできなかったが、8対2と快勝。いまだ神奈川無敗伝説は継続したままだ。

 

 

「見たかったな、準決勝。」

練習中、ぽつりとつぶやく黒羽。

 

「それよりも、俺のスライダーはどうだ、金一」

2年生にして、今年はベンチ外だったエース、楠慎吾がボールの手ごたえを尋ねてくる。

 

「まあ、ケガ前よりも制球は安定していますね。無理に曲げようとするから肘を痛めるんです。握りと最低限の腕の振り方さえ意識すれば、勝手に球は曲がります」

 

今年の夏の甲子園で主戦投手として期待されていた楠だったが、春季大会後の練習中に肘の違和感を覚え、戦線離脱。復帰は秋までかかった。

 

 

秋季大会決勝で叩き出した最速147キロのストレートに加え、スライダー、シュート、カーブ、フォークの本格派。黒羽の指摘によって、制球が安定し、和田も「俺よりも安定しているし、いけるよ、お前ら」と太鼓判。

 

「けど、ノーワインドアップはなんか、こう」

 

「だめです。」

ぴしゃりと黒羽が一閃する。

 

「ワインドアップにしても、威力はさほど変わりません。無駄な動きが多すぎる先輩のフォーム改造。これでも譲歩したつもりなんですが」

ジト目で訴える黒羽。

 

「うっ、毒舌過ぎんぞ、この後輩」

 

「怪我をして後悔してほしくありませんから。俺もイニングを食える投手がこれ以上消えるとリードに苦労するんで」

 

 

「気にするな。畜生のほうが捕手は大成するというし。黒坊は年下だが、頼りになる捕手だからな」

新主将の多村が気落ちする楠にかけ寄る。

 

「まあ、諸星と辻原を見つけてきたのは凄いけどさ。即戦力だもんなぁ。ほかの奴らとは目の付け所が違うというか」

即戦力のルーキーをついでに連れてくる辺り、黒羽の眼力は侮れない。それに彼が来て半年が過ぎ、横浦投手陣の無駄なフォアボールが減ったのも事実。

 

「甘いですね、楠先輩。二人はスタミナがなさすぎです。光るものはありますが、まだまだ即戦力とは言い難いです。」

厳しい評価の黒羽。

 

「まあ、事実だしな。」

 

「容赦がなさすぎ」

同い年の諸星、辻原は苦笑い。

 

 

「まあ、青道のことは決勝が終わった後でもいいだろう。」

 

 

横浦は偵察班に青道の情報を任せ、主力組は選抜に向けてレベルアップに励んでいた。

 

 

 

 

 

場所は戻り、神宮球場。

 

 

「テンポもコントロールもいいっすね、先輩!」

 

 

 

マウンドに向かう川上を鼓舞する沖田。先輩の好投を裏表なしに賞賛する後輩の声援は特に響く。

 

――――ああいうやつが、内野にいると、すごい安心する。

 

 

「そういうお前は、ホームランを含む全打席出塁だけどな!」

内に秘めた本音を隠しつつ、軽口をたたく川上。

 

 

 

「いい所見せたいんですよ!! チームにも! あいつにも!!」

ニッと笑う沖田。リア充特有の今最高です、を地で行くような笑顔。

 

「――――なら、次のイニングは期待しかしないからな!!!」

 

――――こんなにも、こんなにも心強さを感じる内野手、贅沢だよなぁ

 

御幸のリードは勿論心強い。

 

しかし、彼は声が大きく、自分を鼓舞するばかりか、その守備力でピンチを刈り取ってくれる。

 

 

青道史上、最高のショートストップ。そんなことすら考えてしまう。

 

 

「川上先輩! まずは先頭を取っていきましょう!!」

 

 

「ええぞ!! ええぞ!! 快刀乱麻の投球やないか!!」

 

 

「震えるものを感じずにはいられませんよ!!」

 

そして、春市、前園、金丸もマウンドで戦う川上を鼓舞する。

 

 

 

最高の一押しを背中に感じる川上は、止まることを知らない。

 

 

 

6回表、追撃の狼煙を上げる青道野手陣の奮起に呼応する川上の投球は、成孔をまるで寄せ付けないものだった。

 

 

『リリーフの川上!! 4隅にボールをコントロールしています』

 

『イニングを跨ぎましたが、制球力はさらに良くなっていますね』

 

 

初球、外角のスライダーでまずカウントを奪われる西島。

 

 

――――ほぼ真横じゃねぇか!! 層が厚すぎだろ、青道!!

 

『インコース、ボール!! これもきわどい球!! 厳しく攻めます、マウンドの川上!!』

 

 

ナチュラルシュートするストレートを2球目で見せたことにより、ここで西島に迷いが出た。

 

 

ここで内角低めに落ちるシンカーにハーフスイング。

 

―――シンカー!? 夏とは比べ物にならないぞ!! データと違う!!

 

そして最後は、

 

 

『あっと、中途半端になってしまった!! 簡単に小湊が捌いてまず先頭打者を抑えます、マウンドの川上!!』

 

ここで右打者にはわずかに逃げるカットボールを際どいコースに投げ込み、打者のうち気を誘うリードでアウトを奪う青道バッテリー。

 

力のないスイングでバットに当たった打球に力はなく、小湊が難なく捌いて内野ゴロになり、青道に守備のリズムが生まれる。

 

 

 

続く7番小川に対しても、

 

『打ち上げた~~~!!! セカンド小湊が両手を上げる!!』

 

初球のインハイボール球のストレートを打ち上げる小川。外中心から一転、内角の見せ球に、思わず反応してしまう。

 

 

『とりました、ツーアウト!! マウンドの川上、テンポよく投げ込んでいます!!』

 

「調子いいでしょ、これ!! キレキレじゃないですか!!」

沖田が興奮気味に叫ぶ。

 

「ツーアウト、ツーアウト!!」

小湊も、川上の登板から青道の守備に落ち着きが訪れたことを感じる。

 

―――――投手に必要なのは、制球力と変化球、なのかも。

 

 

 

「ええやないか、ノリ!! このまま決めたれ!!!」

 

 

 

 

そして最後も、

 

 

『スライダー!!! 三振~~!! この回も川上がパーフェクトリリーフを見せます!! 2点ビハインドの青道、守備で流れを呼び込むか!?』

 

 

しかし負けず劣らず、小川も6回裏は投球を立て直し、先頭金丸を2打席連続三振に打ち取り、つづく川上にも見逃し三振。

 

東条もレフトフライに打ち取り、青道の攻撃を食い止める。これで東条は4打数無安打。この大一番で一番のブレーキとなってしまう。

 

「くそっ、ストレートに手を持っていかれた…」

悔しそうに呻く東条。

 

「ああ、確かにあのストレートはやべぇな。」

小川に圧倒されている金丸も、小川の速球に脅威を感じ、東条に同調する。

 

「だけど、ボールははっきりし始めている。次のイニングから隙がでかくなるかも」

守備の時間の直前、二人にそう話す大塚。リリーフ登板中心の影響なのか、投球テンポに変化が生じ始めていることを大塚は察していたのだ。

 

全力投球のリリーフとは違い、今回のそれはロングリリーフ。今までの調子で投げるわけにはいかないのだ。

 

そして、ロングリリーフの際に必ず投球に変化が出始める機会が来る。それは、5回という早いイニングからのスイッチにも起因している。

 

 

無論それは、川上にも言えることでもあるが、力投派でもない彼にはその影響があまりなかったのも事実だった。

 

 

スライダー中心の攻めで、ストレートとシンカーでコーナーを突く投球がうまくハマり、成孔にランナーを許さない投球を維持する川上。

 

 

 

7回表も、先頭の城田を外角ストレートで見逃し三振に打ち取る。

 

『手が出ない、三振!! 外角低めにコントロールされたストレートが決まります!!』

 

『川上君もさすがの制球力ですが、打者の反応を見極めた、御幸君のリードが光りますね』

 

 

 

ナチュラルシュートするストレートでバックドアを奪う川上。

 

 

 

技巧派の川上は、磨き上げてきた制球力で、成孔にバットをまともに振らせない。

 

これで、5回ツーアウトから登板し、毎回の奪三振。これで計3つの三振を奪う。

 

「あの川上がこんなに三振を取るなんて……」

太田部長も、大舞台で躍動する川上の姿に心を打たれていた。

 

「ああ。今は心技体すべてが整っているのだろう。問題はランナーを出した後の投球。」

一方、片岡監督は川上の投球をごく当たり前の指揮官の視点から見続けていた。

 

――――ランナーを出す気配すらないが、油断ならんな

 

上級生の安定した投球に、一抹の不安を抱えつつも見守る片岡監督。

 

 

 

「すごい、すべてのボールで際どいゾーンのボールの出し入れができているなんて」

ベンチにいるマネージャーの幸子は、投球に磨きがかかる同級生の投球に驚嘆していた。特に、すべてのボールで勝負できている点について、

 

―――――まるで、大塚君のようね。そういう投球

 

常日頃から、大塚と話し込む姿が見受けられていたのは公然の事実であり、川上自身も大塚を下級生としてではなく、一人の投手として話をしているといっていた。

 

そして大塚も、川上のメンツを傷つけないよう、丁寧な口調でピッチングについて語り合っていたことも知っている。

 

あの気弱なサイドハンドが、強心臓のサイドハンドになり、青道屈指のリリーフ、火消しになった。

 

無論先発だってこなせるのだが、先発の枠に大塚と沢村がいるので中々出番が来ない。しかしそれでも腐らず、焦らずに準備をしてきた。

 

 

その努力が実を結ぶ投球に、幸子は思う。

 

 

―――――下級生だけじゃないわよ、うちの投手陣は。

 

 

3本の矢だけで、勝ち進んだと思うな。後ろにいる川上がいてこその、青道投手陣だと。

 

 

続く左打者の枡には、逃げるシンカーが威力を発揮する。

 

 

―――――このシンカー、うちのツネといい勝負…

 

 

初球にカウントを奪われた枡。外角を見送った結果、ストライクのシンカーで先手を打たれてしまったのだ。

 

 

さらに――――

 

 

「!!」

先程と同じ外角、しかもより厳しいコースに投げ込んできたボールがよりキレのあるボールとなっていたのだ。

 

 

ストライクからボールになるシンカー。

 

 

『振らせた!! これでテンポよく追い込んだ川上!! テンポ良いですね。』

 

『ええ、自分の投球リズム、相手に考える暇を与えない。すべてがいい状況です』

 

 

―――――ここで、相手はボール3つ使える。何を投げてくる?

 

 

追い込まれた枡、追い込まれ方も最悪に近いが、それでも粘ろうと努力し、次のボールを考える。

 

 

ここで、川上は意図的にテンポを遅らせる。突然体の動作が緩慢になり、ゆっくりとプレートに足を置く。

 

 

―――――なんだ、何を投げに来る?

 

 

やってきたのはアウトハイの見せ球。ボール球だった。

 

 

「ボールッ!!」

 

 

―――――ストレートを見せ球にするのか? インコースもそろそろ来そうだな

 

枡も当然考える。無意識のうちにインコースを意識した足の動かし方をしてしまう。

 

御幸は、それを冷静に見ていた。

 

 

―――――ストレートの見せ球を見せた。川上のカットは本来左打者へのボール。

 

ゆえに枡は気づくだろう。インコースにカットボールを投げ込んでくるのではないかと、脳裏に突き刺さるだろう。

 

 

そして、枡からカウントを奪ったボールはいずれもシンカー。

 

 

両サイドを意識し、ストレートの印象が低下したこのシチュエーション。

 

 

2点ビハインド、次の攻撃は上位打線から。さらに流れがほしい。

 

 

御幸の要求は即決だった。そして、川上も特に驚いた反応もなく、無言でうなずく。

 

 

『さぁ、カウント1ボール2ストライクから4球目』

 

 

セットポジションからの繰り出されたボールに、会場が今日一番の盛り上がりを見せる。

 

 

乾いた小気味いいミットを鳴らせる音とともに、川上のボールが外角低めに決まる。

 

 

球種は勿論

 

 

『最後はストレートぉぉぉぉ!!!! 見逃し三振!!!! ツーアウト!! 見事な投球!!  川上の勢いが止まらない!! これで4つ目の三振を奪います!!』

 

そして続く2番山下もカットボールで打ち取る。あてにいったスイングで内野ゴロ。

 

球威に劣る川上が、強力豪快打線を制球力と変化球の切れで、その悉くを打ち破る。

 

 

 

 

大歓声に包まれる神宮球場。1年生投手陣の陰に隠れがちだった川上の名が一気に轟いた瞬間だった。

 

 

むしろ、易々と降谷を追い抜き、大塚や沢村と一気に肩を並べてしまいかねないほどの安定感。

 

 

「ノリさん、ナイスピー!!!」

 

「流れきてるよ!! 先輩の投球で!!」

 

二遊間からは称賛の声が、

 

 

「裏の攻撃で逆転できます、しますよ、みんな!!」

 

大塚は、次の攻撃に期待感を抱く。

 

 

「そろそろ、俺もチャンスで打たないとな。ゲッツーは話にならねぇ」

御幸は一番川上の調子の良さを感じ取れる場所にいたからこそ、なんとしてもこの回で勝負を決めたいと考えていた。

 

 

 

 

 

 

『さぁ、川上の投球で流れを呼び込んだ青道!! 先頭は今日マルチヒットの小湊!!』

 

 

明らかに雑念を感じ始めている小川は、制球が乱れ始めていた。

 

 

――――本当にはっきりしている。甘い球を逃さずスイングしよう

 

 

ボール先攻の苦しい投球。3球目に甘いスクリューが入り込んできた。

 

 

――――狙い球じゃないけど!!

 

 

乾いた音ともに三遊間を抜いていくヒットを放つ春市。

 

『引っ張ったぁぁぁ!!! レフトまえぇぇ!! 小湊今日はこれで3安打猛打賞!!』

 

 

『いいですねぇ、甘いボールを逃さず打つ。基本ができていると、いいヒットも出る確率が高いですからね』

 

続く、3番沖田。内野陣は深めの守備位置。

 

 

―――――落ち着けよ、沖田。

 

脳裏には、打席に向かう直前に言われた主将の言葉。

 

 

――――熱くなりすぎちまった。冷静に、コンパクトに

 

 

今は大きいのは必要ない。後ろにつなげることが一番できる方法を最優先に。

 

長打を捨てたわけではない。しかし、落ち着きを取り戻した沖田には、甘いストライクボールは厳禁。

 

 

明らかに息が上がり、苦しい表情の小川。対する沖田は打席に集中した姿。

 

 

初球はアウトコースに外れるストレート。制球が本格的に定まらなくなってきた。

 

 

―――――荒れているな。だが、はっきりしている。ゾーンに来たら振りぬくぞ

 

 

対する小川は、苦しい表情を浮かべ自分のこれまでの武器すべてが通用しない沖田に対して、

 

―――――同い年のやつにはもう、打たせん――――っ!!

 

 

甘くいけば小島の二の舞。厳しく、より厳しいボールを投げる必要があることを小川は第一に考えていた。

 

 

そして、2球目のスクリューを簡単に見切られた後、2ボールノーストライクからの3球目。

 

 

―――――あっ

 

手元が狂った。そんな感覚が小川に走る。この緊張した場面で、最も相手をしたくない打者相手に自分のバランスが崩れたことを悟る小川。

 

 

 

 

その数秒前、

 

―――――もう一本打ちたいよなぁ。

 

打席の沖田は、一瞬だけ魔がさしていた。無理を言って観戦に来てくれと頼み込んだ彼女に自分のがんばっている姿を見せたいとほんの少し思っていた沖田。

 

いいところを見せたいと思う自分も、チームのために打ちたいと思う自分も変わらない。

 

 

この時の沖田はその両方に対して何一つ恥じる気持ちなどなかった。

 

 

だからこそ、ここて実力から来る自惚れとは違う、油断が彼の中に存在していた。

 

 

 

荒れている投手相手に、明らかに見落としてはならない、注意。

 

 

その一点に対し、注意を怠った沖田は、あまりにも無防備で、無警戒過ぎた。

 

 

―――――えっ?

 

小川から放たれたボールは、すっぽ抜けというレベルではないほどに勢いがあった。

 

 

無意識に、そんなボールは来ないと、頭から捨てていたことが沖田の過ちだった。

 

 

自らの視界にそのまま飛び込んでくるようなボールが、やってくるという危険を――――

 

 

―――――ちょ、待っ―――――!!!!

 

 

思わず身を躱そうとするが、間に合わない。

 

 

そして暗転する視界。沖田は突然訪れた衝撃を前に、視界が真っ白になった。

 

 

 

 




後味が悪いと話を考えた時から思っていたので、すぐに後味が悪くならないところまで投稿します。


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