そして年が明けて月日のたった翌年の4月。
新入生はグラウンドにいた。
「…………栄純の奴どこだ…………?」
沖田が焦っている。栄純は確かに入学をしたと聞いている。しかしここにいない。
「いないね、まさかまだ長野にいるのかな…………」
冗談半分でそんなことを言っている大塚も、全然気が気ではない。栄純という友人がここにいないことに不安を感じている為、軽口を言って精神を落ち着かせているのだ。
「ねぇだろ。てか、お前も不安がってるのか。」
「当たり前だよ。あれだけのことをしたんだ。来てくれないと困る」
そして次々と、出身中学もしくはシニアチーム、名前、ポジション、一言を言う流れになり、
「国分寺市立第一中学校出身、大塚栄治です。ポジションは投手を希望しています。一秒でも早く、エースナンバーをつけられる選手になります」
ざわざわ………
まさか、あの大塚栄治?
怪我で一年いなかったあの伝説の………
そして紹介は続き、
「国分寺第二中学出身、沖田道広! ピッチャーとキャッチャー以外、どこでも守れます!! 今年一軍に行きます!!」
ざわざわ………
今度は壊し屋かよ
というか、なんで大塚と一緒の高校なんだよ
「うっ………俺は…………」
その声を聞いてしまい沖田は表情を苦しくする。それは事実であり、受け止めなければならないこと。
「黙れッ!!」
大塚がその瞬間、彼らしくない怒った声で周りを一喝した。大塚の怒鳴り声は響き渡り、辺りがしーんとした。
「…………俺と沖田の勝負は中学で一番心躍るものだった。だからこそ、俺のライバルを貶める言動はだれであろうと許さないよ?」
はっきりと言い放った大塚。沖田を庇うようにして前に出てそう宣言した。これでは誰も何も言えない。被害を受けた彼がこうなのだから、だれも言える資格はなくなる。
「すみません。俺の言いたいことはこれだけです」
一礼して、列に戻る大塚。周りを気にすることなく、彼は自然体で戻る。
「悪い………やっぱりおれのせいで………」
「それは言わない約束だよ、道広。」
「すまん………」
そして一年生の紹介が終わる時間が迫った時、ついにそれは起きてしまった。
「あっ! 誰か割り込もうとしてるぞ!!」
「「あ……………」」
沖田と大塚がハモッた。例の友人が今になって姿を現したのだ。
「初日から遅刻とはいい度胸だな?おい小僧、練習が終わるまで走ってろ! あと、もう一人紛れていた奴と同室の者も同罪だ」
「げぇ!?」
そこへ御幸先輩も名指しされた。同室の先輩も一緒で、見覚えのある小さい先輩と横にも縦にもでかい先輩もいた。
「「(あ~~~あ…………)」」
二人は沢村を残念そうに見て、練習に参加するのだった。
「うっ、すまねぇ。」
「ほら、俺も一緒に謝りにいくから、な?」
大塚がフォローするが、余程あの言葉が響いたのか沢村はショックを受けている。
「ハァ………うっし! まぁ、やるしかねぇぇ!」
その後沖田と大塚は、沢村が一人でグラサンの監督のもとを訪れ、謝りに行っているのを確認し
「自主練か、道広?」
一人黙々と素振りをしている沖田を見て、大塚が声をかける。
「そういえばあいつらは今頃寮で夕食かな? さっき見たけど、凄い量だった。アレを食べるのは少しきつそうだ。」
そして彼の言う通り、一年生はその量を食べきることが出来ず、死屍累々としている。
「まぁ、俺もタオルでシャドーするし、近くでやっても構わないよね?」
「ああ、俺が独り占めするようなことはしないぞ」
「ふっ、あの一年生。中々見所があるようだな。それに素振りのセンスもシャドーのフォームもいい。今日はこれからランニングだが、次に会う時は奴らも誘う事にしよう」
眼光の鋭い先輩が、二人を虎視眈々と狙っていた。
そして次の日
「これよりお前達の希望ポジション毎に別れてテストをする!!アップシューズからスパイクに履きかえて第二グラウンドに集まれ!!」
「おっしゃぁぁぁ!! ついにこの時がやってきた!!!」
意気揚々と第二グラウンドへと向かう沢村。
「まあ、どれだけ成長したのか見せてもらおうかな?」
大塚もあの紙を見て、沢村がどの程度化けているのかを見たい願望もあるので非常に楽しみである。
―――彼には何か人を引き寄せる力がある、そう思うのは気のせいなのかな?
まずは遠投。投手の肩をそれぞれ見るつもりなのだろう。そこには、あの時の御幸先輩と複数の上級生が見守っていた。
遠投はあまり好きではないんだけどね………
大塚の出番が来てボールを受け取ると、ステップを踏みながらゆったりとした綺麗なフォームで、その右腕を振り抜いた。
グォォォォォォンッ!!!!
唸るような剛球が、空を切り裂くように投げ込まれ、そのままフェンスに直撃した。
「……………!!!」
その光景にグラウンドの人間は騒然とする。大塚としては、まだ足が完治しているとはいえ、フォームに物足りなさを感じている。だからこそ、こんなもので驚かれては困るという思いだった。
「うおりゃァァァァ!!!!」
グォォォォン!!!!
そして沢村の番。沢村も遠投96mとまずまずの成績を残し、手ごたえを感じていた。
「(フォームもだいぶ変わっているね。右手の壁を意識していなかったからそれについて教えていたけど、まさかあんな変則フォームになるなんて………)」
教えていたというより、アドバイスをしていたのだが、沢村の豹変ぶりに驚いていた。
グオォォォォォォォンッ!!!!!!!!
「「!!」」
しかしその次の投手希望の選手が大塚以上の遠投の肩の強さを見せたために、辺りはまたもや騒然となった。その中には沢村と大塚も入っていた。
「(凄いね。速球だけならかなりのモノを感じる。確か彼は………降谷暁(ふるや さとる))」
体格も大塚と同じ程度あり、沢村よりもがっちりとした性格。下半身の粘りではなく、指先の感覚と、スナップの強さがモノを言っている。まだ上体で投げているところがあるが、ここにも原石は存在した。
そして次は的当て。一番わかりやすく言うと、ストラックアウトだろう。番号にかかれたコースを言われるがままに狙って当てるというモノである。
「このパワーアップした俺の力を見せてやるぜェ!!!」
沢村が意気揚々とテストに入るのだが、
その初球。
カァァァンッ!! ドゴッ!!
「あ…………」
ストラックアウトのフレームに球が直撃し、跳ね返ったボールがグラサンの監督こと、片岡鉄心監督に直撃したのだ。
「うわあぁぁぁ…………」
大塚もこれには引かざるを得ない。だが、彼は宣言通り、初日からとんでもないことを実現している。
「なんでさぁぁぁぁ!!!!!!」
結局、沢村の成績は20球中、10球を当てるにとどまった。どうやら、あのフォームは幾分も球威を増したようだが、その分コントロールがまだ定まっていないように見えた。
そして、大塚の番だが、
「当てるだけなんて、打者がいない中で投げるのは楽だね………」
20球中、最後にスライダーで当てようとしたのが失敗して19球。最後にやらかしたので、反省する大塚。
その一方で、
「降谷ァァァ!! どこに投げているんだァ!!!」
制球力テストで、20球中6球と散々な成績の模様。ガックリと項垂れる。
「難しい……壁投げと全然違う」
「当たり前だ、馬鹿野郎~~~!!!!」
その頃、野手の練習では、
パシッ、
「ファーストっ!!」
「シッ!!」
上手く厳しい打球を捕球した沖田は、そのまま反転スローイングで、ノーバウンドでファーストに矢のような送球を送る。
「つぎっ!!」
カァァン!!
パシッ、
シュッ!!
沖田は並外れた身体能力で打球に追いつき、そのほとんどを捕って見せた。
最後―――
カァァァン!!
「あっ!!」
ノックを打っていた先輩が打球を上げ過ぎて、ライナーを打ってしまう。三遊間、深いところ、だが―――
「うおっ!!!」
パシッ!!
ダイビングキャッチをして、倒れながらもボールを放さなかった沖田。クラブを上にあげて、捕ったというアピールをする。
「おぉぉ!! ナイスガッツっ!!」
「(俺にはもう、実績なんてない………だから、やるしかない………!!)」
沖田は目に見えて燃えていた。
バッティングでも、
カキィィィン!!!
「おい、アイツ何メートル飛ばす気だ!!」
フリースイングでも沖田の勢いは止まらず、快音を連発していた。
その後、全体練習に参加し今日の練習が終わった後
「………もう終わりなのか………?」
沢村は呆然とした顔で、辺りを見回す。
「そうだね。早く今日は寮で夕食を食べなよ。」
そしてケロッとしている大塚と、
「おい大塚。お前も今日は素振りをしないか。お前のバッティングもあの頃は上手かったし、やってみるのもいいだろ?」
沖田がこの練習後に自主練に大塚を誘う。
「そうだね。9番目の打者としての心構えは必要かな」
大塚もバッティングを磨く必要があると感じており、彼の誘いを蹴らない。
「ぜェ、ぜぇ………なんであいつ等ばてないんだ…………」
「し、し……死ぬ…………」
「……………………」ちーん
しかし他の同級生は息も絶え絶えで、倒れ込んでいる者が半数だった。
そしてこの一年生の初練習初日の夜。片岡監督はおでこに湿布を張りながら、今日の体力テストの結果を、高島副部長と太田部長とともに見ていた。
「投手の成績が終わったようですね。野手は例年に比べ、複数のポジションに自信のある子が多いので、まだ続いていますが………」
「うむ。」
鉄心は、高島の報告を受け、投手のデータを見ていく。
しかし、彼が満足を覚える、目に留まる選手はなかなかいない。どれも平均、球速もそこそこ。変化球も持っている者と持っていない者がいるが、それでも実戦で使えるかは未知数。
エースの不在
青道高校は打撃や守備などを見ればそれこそ全国トップクラスの評価であることは間違いない。去年もドラフトで指名される野手が存在し、その打撃力は西東京の中でもトップクラスの実力を誇っているだろう。
しかし、毎年青道高校には打撃力や守備力のいい選手があつまるものの、エースと呼べる投手が滅多に出てこない。
丹波、川上は確かにいい投手ではある。しかし、弱点が致命的であるために、それを克服しない限りはエースにはなりえない。
丹波の場合は、中盤にかけてコースが甘くなり、打たれ出したら止まらない。要は集中力とメンタルの問題だが、それが長年の彼の課題となっている。
川上は右バッターには通用する。一方で、左バッターの被打率が高いのだ。以前左に対する有効な球種を持っていたが、それが実戦で使えるものではなく、とてもまだ間に合っていない。さらにはコントロールを気にし過ぎるあまり、四球を連発することもある。
そして、そんな弱点を持つ投手たちを抱えてるために、青道の試合は毎年打撃戦となるのだ。
稲城実業や市大三校という強敵がいる中で、やはりエースと呼べる投手がいない現状では甲子園に行くことなど不可能であり、ましてや目標の全国制覇には程遠いだろう。
しかし、今年は目につく投手が複数現れたのだ。
「長野からの野球留学生。沢村栄純。遠投96m。制球20分の10。評価B。私が見ていた時よりもだいぶフォームが変わっていて、球威を増していました。その分制球を乱しているようですが、まだフォームが固まっていないからでしょう。」
理由 レベルの高いところで、エースになる!!
「…………小学生か何かか………?」
残念そうな目で、沢村の写真を見つめる片岡。言動が物凄くバカっぽい。それは一同も思ったことだ。
「東京に在住、その前は神奈川の横浜シニアに在籍していた大塚栄治。遠投115m。制球20分の19。評価はA。復活したといううわさを聞いてスカウトしたのですが、やはり持っているものが違います。」
理由 けがをした自分をスカウトしてくれた青道のスカウトの目が節穴でないことを証明したい。東京というレベルの高い場所で自分の実力を磨くことは、プロに行くための最善の環境であること。今年、甲子園に行きたいです。
「………スカウト泣かせだな。」
それ以上は何も言わず、片岡は次の紙を見る。
「北海道出身、降谷暁。遠投120m、制球20分の6。評価B。この子はまだ上体で投げてはいますが、非常に肩が強く身体能力も高そうです」
理由 野球特集に載っていた御幸一也さんなら、自分のボールを捕ってくれると思ったから。早くマウンドで投げたい。
「…………」
残念そうな目で、片岡は沢村と降谷のレポートを見る。
「すいません…………」
高島が謝罪する。沢村は彼女が連れてきた選手なのだ。
「胃薬を今度紹介する。ストレスはためない方がいい」
「心遣い感謝します」
しかし後に片岡は、今年こそ甲子園に出られる可能性をこの時に感じていたらしい。
次回
おや、沢村の様子が・・・・