ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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これでいったん終了です。

ここまでご愛読していただいた読者様、感想をくださった方々、評価をしてくださった方々に、お礼申し上げます。


原作が夏を終了するまでお休みです。


第143話 黄金の幕開け

練習が完全に終了し、その日は一日がオフだった。各々新年に向けて、帰省する者、まだ懲りずに自主トレを行う者。

 

12月30日の明けに合宿は終了し、青道野球部員たちは動き始めていた。

 

 

「ということは、沢村は一度帰省するんだな」

 

「ああ。やっぱ顔を見せに行かないと。甲子園の時も、神宮の時も――――予選の時だってあいつらは俺を応援してくれてたんだ。行かない理由がねぇ」

 

朗らかに笑う沢村は、荷物をもって長野の地元へと戻る準備をしていた。地元にはきっと馴染みの神社と、今では両想いになった彼女が待っている。

 

 

「春市も神奈川に戻るんだな」

 

「うん。休養も大切だし、リフレッシュも兼ねてね。」

 

春市も沢村と同じく実家に戻る。ほとんど戻ることが出来ていない実家に顔を見せる必要がある。元気に野球をしていること、野球をさせてもらっている感謝を込めて。

 

 

「東条と金丸、沖田は自主トレ? レギュラーなのに抜け目ねぇな」

 

倉持はそう言いながら、グラウンドに向かうためにウェアを着込んでいた。彼は前園、白洲とともに自主トレを敢行するようだ。

 

前園は自分の打法をまだ固めたいと意気込んでおり、納得するまでスイングをやめるつもりはないという。

 

「練習の虫というのも、悪くないな」

 

そんな彼の様子を見かねた白洲が仕方なく付き合う流れになり、去れども彼もどこか楽しげだった。

 

 

「先輩たちこそ、一年の中でいつ休むんですか?」

 

「そりゃあ、3年の秋ぐらいだろ?」

 

当たり前のように倉持は引退するまで休まない宣言をする。

 

「引退まで無休ですか。やっぱり手強いなぁ」

 

沖田はそんな先輩たちの意気込みに苦笑い。

 

しかし、東条と金丸のスケジュールもタイトだ。

 

 

12月30日は、まず金丸と東条の家に向かい、挨拶。その後、青心寮に戻り、自主トレを敢行。

 

オフ返上の合同自主トレだ。特に、1番打者としてさらに高みに至るために、東条はバットコントロールを磨きたいと考えていた。

 

「東条がインハイの速球を打てるようになれば、やばいな」

 

「沖田もだいぶカーブの苦手意識がなくなってきたよね。沖田君の方こそ手におえないよ」

 

各々の課題を口にし、進捗を語り合う。

 

「金丸は外の変化球を押っ付けられるようになれば、率も上がるだろ。」

 

「ああ、特に右投手の外角のスライダーを拾えるようになれば、な」

 

金丸も、外の変化球に対する力不足を痛感した一年となった。だからこそ、速球に強い強みを消さず、変化球を打てるようになるというのは一つの理想だ。

 

「沖田はどうするの?」

 

「ああ。自主トレしようと思ったんだ。けど、それだけだとな――――」

 

首筋に手を当てて、苦笑いする沖田。もうこれで彼がオフに何をするのか見当がついてしまう。

 

東条と金丸はあえて突っ込まない。

 

「まあ、オフの後に成長した姿でも見せてもらったら許してあげる」

そう言いながら、微笑む彼の姿は、沖田にとってまぶしいものだった。いや、眩しいと感じてどうなのかというものだが、彼はそう考えてしまっていた。

 

 

「ああ。そりゃあ、自堕落な生活はしないさ(やばい、東条が可愛く見えたけど気のせいか)」

 

顔を若干赤くしながら、そんな恐れはないと断言する沖田。しかし、東条は沖田がなぜ顔を赤くしているのか、勝手に想像する。

 

「年下なんだから、乱暴したらだめだよ」

 

「俺はケダモノじゃないって! そういうことではなくて」

 

「どういうこと?」

 

意外そうな顔でこちらの様子をうかがう東条。そのしぐさからも目を逸らせない沖田。

 

―――――ああ、くそ。どうかしているぜ、俺

 

 

そして金丸は、降谷ともオフについて話していた。

 

 

「僕も、一度北海道に戻る。でも一日だけ。すぐにここに戻る。」

 

 

降谷は北海道に一日だけ帰り、後は東京の家に滞在するそうだ。彼には基礎という課題がまだ目の前にあったのだ。

 

「じゃあ、俺たちの自主トレに合流だな。狩場も来るみたいだし、受ける奴がいるぞ」

 

技術的なものはある程度できるようになった。だが、その過程で浮かび上がったメンタル面での欠点。

 

一本調子の投球と、短絡的な思考。それがあの、予選準決勝の連打を生んだ。

 

 

もっと変化が欲しい。もっと緩急をつけたい。

 

 

しかし、それは彼一人だけが思い至った事柄ではなかった。

 

 

―――――これは投手全員が直面する課題だ。

 

 

大塚は、ストレートに対する変化をつけたいと考えていた。

 

 

バックスピンの利いた速球は伸びがある。確かに空振りも奪える。しかし、高めの甘いコースにはいれば、スタンドに入れられる可能性がある。

 

 

反対に、回転量の落ちたストレートは垂れる。空振りを奪いにくいストレート。しかし、その反面ゴロを発生しやすい利点が存在する。

 

 

――――ストレートで変化をつけることで、癖玉以外のアクセントが可能になる

 

 

さながら、高回転ストレートと低回転ストレート。どちらもストレート、さらに言えばフォーシーム。しかし、コースごとにこのストレートを投げ分けることが出来れば、さらに合理的に打者を打ち取れるのではないかと。

 

 

三振を奪う以外の選択肢も出てくる。球数を押えることが出来る。

 

「――――――また良からぬことを考えてそうだな」

 

隣には、川上とともに自主トレに参加する御幸。今回は御幸の実家にて、川上がお世話になる。

 

その後、降谷が御幸家に合流する手はずとなっている。

 

「いきなり酷いですね、先輩。ちょっとフォーシームの投げ分けを検討していただけですよ」

 

 

「―――――そこらへんに気づく高校生はいないって。プロでも気づかないんじゃないか?」

 

御幸は呆れた。そこまでまだ考えなくてもよくないかと。プロでもそれを使いこなせる選手はあまりいないだろうと。

 

この投げ分けを有効にするためには、コマンド能力が高くなければお話にならない。それこそ、沢村や、大塚、柿崎、楊などの制球力にたけた投手向きの能力だ。

 

「まあ、やってみてどうなるかですよ。だめなら使わない、使う機会がなければ使わない。奥の手は隠すものですからね」

 

ニヤリと笑う大塚。

 

 

 

部員たちの準備が一通り終わり、順次姿が消えていく中、大塚はマネージャー陣のところへ向かった。

 

「――――――――」

 

しかし、先客がいた。先ほど話していた御幸がマネージャー陣に労いの言葉をかけていたのだ。

 

――――ちゃんと主将らしいことをしているんですね、先輩

 

ニヒルな笑みを浮かべた入学当初のイメージとは別に、チームを背負う熱い心を持っている人だと知っている大塚。

 

そんな彼だからこそ、共に勝利を掴み取りたいと思えるのだ。

 

 

「おっと、どうやら俺とは趣旨が少し違うみたいだけど。まあいいや、どうぞ」

 

すると棒立ちになっていた大塚に気づいた御幸が声をかける。大塚が何を意図しているのかは一目瞭然だと笑っていた。

 

「私事で申し訳ないです」

 

「なぁに、主力投手のメンタルを気遣うのも捕手の仕事だ。」

 

 

 

そしてマネージャー陣の方も、

 

「ほら、彼が待っているわよ」

 

「ファイト、春乃♪」

 

「う、うん」

 

顔を赤くしながら、彼女も彼の姿を目で追っていた。もはや公然の仲とはいえ、改めて向き直ることがいまさらになってまだ恥ずかしい。

 

 

 

 

初々しい彼女の姿を見るだけで、大塚は顔がにやけてしまう。

 

「栄治君。一応オフですけど、オフなんですよ? しっかり休んだほうが―――」

もじもじする彼女が何かを言っている。しかし今の大塚には関係がない。

 

周囲にマネージャーと御幸先輩がいたとしても、あまり関係ない。

 

というより、御幸が気を利かせてマネージャーとともに退散していることに気づいた春乃。

 

 

「え!? あれ!? 先輩!?」

 

周囲に二人だけという状況になっていることに狼狽する春乃。しかしそんな焦りも負の感情から生まれているのではなく、むしろうれしさに溢れている。

 

 

今の戸惑いはあれだ。この現状を甘受していいのかという戸惑いなのだ。

 

 

もはやおぜん立ては済まされている。チャンスメイクしてくれた先輩たちに良い報告が出来るよう大塚は自分の思いを口にするだけだ。

 

 

「確かに選手はオフにしっかり休養を取ることが重要だと思う。だからこれは投手大塚の願いではなく、ただの栄治の願い」

 

 

 

「その割り振られたオフの期間は短いけど――――君のその時間、貰ってもいいかな?」

 

 

言い回しがくどいかもしれないが、今の大塚が考えた言葉でもあった。

 

 

「――――――うん」

 

しかしこれだけストレートは言われたら、さすがの彼女も決心がついた。恥ずかしいはずなのに、嬉しいから、もう躊躇いの感情が消え去った。

 

「―――――ふふ」

 

大塚は、素直になった彼女の姿を見て、微笑む。まるで自分が何か失敗をしたような、いたずらがばれた子供のような、幼さを感じさせる、年不相応な笑顔。

 

「そんな風に笑われたら、どうしていいかわからないよぉ」

 

なぜ彼はここで笑うのか。悪意の欠片もないことはわかっている。けれども、彼はいつも自分を見て微笑む。

 

どうやら彼は、彼女と二人きりになると、精神年齢が下がるのだけは理解できた。

 

 

「春乃は悪くない。俺が笑顔を隠しきれないだけだよ。その次の言葉を言えば、きっと君は気絶するんじゃないかって思うくらいのこと、思い浮かんだりするんだ」

冗談気に、そして本当に思い浮かんでそうだと思わせる、彼の様子に、彼女は嘆息する。

 

 

「もう―――――」

 

色々と心外なことを言う彼だが、どうせ気障な言葉ばかり思い浮かんでいるのだろうと、春乃は理解した。それを聞く心の準備はまだできていないのだが、それを聞きたいという心も存在していた。

 

 

でも、どうせなら―――――

 

 

―――――その言葉で、私を狂わせてほしい……

 

 

彼になら、理性を狂わされてもいいかもしれない。もう恥ずかしいことはない。隠すようなことも、今はまだない。

 

 

――――引っ込み思案な、内気な私を……

 

 

だんだんと熱にうなされているのが分かる。栄治はいつもとは違うくせに、妙なところで冷静だ。冷静にとんでもないことを言い放つ。

 

しかし、そんな言葉をもらう側はそれどころではない。

 

「栄治君になら――――――いいよ。」

 

だから、これはちょっとした仕返しだ。理性をまだ強く残して、そんな言葉をのたまう彼へのカウンターなのだ。

 

 

 

 

「気絶するくらい―――――私を―――――」

 

 

言い終わる前に、春乃をやさしく包み込む大塚。まるでその先を言わせないかのように、彼は先手を打ってきた。

 

「―――――――案外臆病なんだ、栄治君」

 

 

囁くように、まるで試すように大塚の胸元でつぶやく春乃。

 

「まさかここまで寄せられるとは思わなかった。参った。本当に参った。本当に危なかった。」

 

焦りを感じさせる彼の声。どうやら、理性が壊される寸前だったらしい。ちょっとした勝利気分を味わう春乃だが、

 

 

「けどいつか、俺は君の全てを奪う。俺の背を押してくれた、君の優しい心と、君の全て。嫌だと言っても、もう聞かないからな」

 

彼女の仕返しに対する強烈な切り返し。遠回しな、プロポーズにも近い言葉を言い放った大塚。

 

 

「うん。その時に、私を奪って。もう戻りたくないと思わせるくらい、私を連れて行って」

 

顔を真っ赤にしているのに、その声色は動揺すら感じられない。彼女は既に行動で示していた。

 

――――もう自分は、貴方のモノだと

 

試すような言葉ばかりで、奥手なのは自分の方であり、未だに彼女が言う通り、自分は臆病なのかもしれない。

 

「―――――敵わないなぁ、恋する女の子は。無敵なんだって痛感するよ」

観念したように、栄治は白旗を上げる。そして、彼女の強さをまたしても思い知る。

 

「なら栄治君のおかげだね。私が強くなれたのは」

 

――――ほら、こう言えばこうだ。

 

目の前の乙女は、簡単に理性の壁を突破してくる。並の男なら、もう襲い掛かっているのではと思うくらいだ。

 

しかしそれはだめだ。婚前交渉はしないと決めている。

 

固い貞操概念を心の中に刻んでいる大塚は心の中で否定する。今手を出すのは少し違うのではないかと。

 

 

――――父さん、貴方はよく我慢できましたね……

 

 

映像でしか見ることが出来ない、可愛さ全盛期の母親の姿。

 

 

 

それを未成年の時には手を出さないと、婚前交渉はしなかったと誇らしげに語る父の言葉。

 

 

――――すいません。3年間、理性が持たないかもしれません。

 

 

初めて親にこっぴどく怒られるだろうなと、未来の光景を想像する栄治。

 

 

 

 

 

その頃、大塚と春乃の空気を読んで、離脱した御幸とマネージャーたちはというと

 

 

「うまくいっているかな、栄治君と春乃ちゃん」

 

「不味いことになる要素がないからな。それに、あいつはチャンスで必ず結果を出すからな」

 

夏川が心配そうに二人のことを想うが、御幸はそんな心配はいらないと涼しげな顔だった。

 

 

「うんうん。御幸君にも大塚君の半分くらいの優しさがあればねぇ」

 

 

「うんうん。クラスメートの女の子もほっとかないのにね」

 

しかし、御幸の女性に対する心遣い皆無な行動に苦言を呈する幸子。夏川もクラスの女子が彼とどう話せばいいかわからないとたびたび相談を受けていたりする。

 

「う、うるせぇよ。俺はまだ野球一本でいいんだよ!」

 

「そのまま行き遅れる、なんてこともあるかもね」

 

 

「はぁ……」

しかし完全に否定できない御幸。

 

――――はぁ、どこかに甲斐性があって、優しくて、美人で、手料理が上手な女の子はいないものか」

 

 

「聞こえているわよ」

 

「失礼ね、ほんと」

 

しかし二人とも、目の前にいるじゃない、というほど御幸に気があるわけではないのでそれほど怒ってはいない。

 

「――――――はぁ……ほんと、羨ましいなぁ。」

 

御幸に出会いはあるのか。

 

 

 

 

1月1日。

 

一方、青心寮から家に戻り、荷物を置いて神奈川横浜に向かう沖田。久方ぶりの単独行動である。

 

 

「けど、招待券、ねぇ」

 

彼女が出来てから、沖田のアイドルに対する熱は冷める一方だった。あの時の自分はどうかしていたというか、まさに黒歴史というほかない。

 

 

しかし、高校時代の自分自身を思い出し、頭を抱えることになるとはまだ知らない沖田。

 

今の彼は、ドルオタ沖田と比べても、50歩100歩なのだ。

 

 

 

「まあいいや。あいつの店がそれだけ取引があって、引合があるんならいいことだし」

 

花屋を営んでいる彼女の店の花が一部ライブ会場で使用されることになるというのだ。その為、開催に協力してくれた彼女らにその一日は楽しんでもらいたいという一心で、プロデューサーなる人物がチケットを贈ったという。

 

沖田はその後ろ姿しか見ていなかったが、大柄な体格の持ち主であることはわかった。

 

――――良い鍛え方をしてやがる。

 

何かスポーツをしていた、と思わせるような恵まれた体格だ。

 

 

2枚分のチケットだが、急遽母親が受注品に追われて手が回らなくなり、辞退。代わりに沖田が来ることになったのが今回の流れ。

 

 

「けど、待ち合わせが横浜、ねぇ。神奈川は一年たっても迷いやすい」

待ち合わせ場所でしばらく待機する沖田。数か月前に比べて少しだけ景色が変わったことを確認しながら、辺りを見回す。

 

――――良い街だなぁ、横浜って

 

 

 

そんなことをしていて60分。すると、彼女の姿が見えてきた。

 

――――やっぱクールぶってても女の子だなぁ

 

白いニットセーターに藍色のフレアスカートに首元には鮮やかな青色のマフラー。

 

そして、耳には可愛い耳当てもあり、とっても暖かそうだ。

 

 

「ごめん、待った?」

 

「いや、俺も今ここに来たところだよ、凛――――あっ」

 

思わず名前で呼んでしまったことに慌てる沖田。名前呼びは恥ずかしいからやめてと以前言われていたことを思い出す。

 

「――――いいよ、名前呼びでも」

 

そして、部員たちにも彼女の名を教えていない沖田は、細心の注意を払い、人前で彼女の名前を呼ぶことはなかったのだ。

 

 

そう、今まではだ。しかし、何と今日はオーケーの言葉を貰った。

 

――――明日はツンドラが降るかなぁ

 

ツンデレならぬ、ツンドラ、と心の中で自分に突っ込む沖田。

 

沖田脳は死ぬまで治らないのか。頭沖田は本当にどうにもならない。

 

 

「でも、9月から数か月。こんなに粘ったアンタの粘り勝ち。だから別にいい」

 

「それは――――なんというか、光栄だ」

彼女の思わぬ発言に驚き、冷静になる沖田。

 

それから、今回のライブ会場へと向かう

 

「―――――ごめんね、母さん急用が出来て、アンタも補充みたいな扱いになるけど……」

 

 

「いやいや。俺は気にしていないよ。それに、デートらしいことが初めてできてよかった」

どんな形であれ、初デートが知り合って3か月で初めてというのはなかなか粘ったと思う、と沖田は自画自賛した。

 

――――世のボーイズやガールズがどんなのかは知らないけどさ

 

「――――本当に調子がいいね。もう楽しいの?」

 

不思議そうに沖田を見つめる凛。どうして彼はこんなにうれしそうなのか。

 

「好きな子の目を引きたいんだよ、男ってやつは」

正直に本音をさらけ出す沖田。嬉しそうに話す沖田だが、凛は嘆息して呆れ口調になる。

 

「知り合ってから何度も思ったけど、本当に子供っぽいね」

 

 

「ああ、まあ凛が俺よりも大人っぽいというか、なんというか。凄いしっかりしているってことでいいじゃないか」

 

これは彼の本心である。クールで学業もそつなくこなし、友人もいる。いろいろなニュースにも精通している。家事も一通りできる。

 

でも、何かに憧れたいという気持ちが燻っている。そんなアンバランスな彼女に、自然と惹かれた。

 

その強い意志を秘めた瞳に、一目惚れした。

 

 

「これじゃあどっちが年上なのか、わからないみたいだね――――でも、ストレートに言葉で伝えてくれるところは、あんまり嫌いじゃないよ」

 

得意そうに語る彼女の姿は、ただ後ろから支えてくれるような女性ではない。

 

沖田は家庭で主導権は女性に与えたほうがよく回ると考えていた。これは自分の家族の経験からはじき出した答えだ。

 

――――何話を飛躍させてんだ、俺は

 

首を横に振り、先ほど思い出したことを忘れようとする沖田。

 

「??」

そんな彼の様子を見て不思議そうに見つめる彼女だが、その理由には最後まで気づかなかった。

 

 

そんな他愛のない会話をして数分。

 

 

「そろそろシーパスに乗る? 今回はちょうどよく2枚あるみたいだし」

 

「うん。私も船に乗るのは初めてだから、少し楽しみかな」

 

そう言ってそのライブとやら行われる会場に向かう二人。

 

 

しかし二人は知らない。

 

ここから彼女の運命が回り始め、彼女は真剣に打ち込める道を見出すことになる。

 

 

そして沖田にとっては苦難の日々が始まる。

 

 

彼女は――――――彼の尊きものは、夜空に輝く星となる。

 

 

その星に手を伸ばし、手を伸ばしてはいけないと悟り、諦めて―――――

 

 

それでも彼女の手を掴むと決意する、彼の苦闘が始まるのだ。

 

 

 

しかしそれはまた、別のお話。

 

 

 

 

同日の1月1日。

 

 

沖田が運命の前夜に遭遇する最中、沢村は長野に帰省していた。

 

 

駅にまで帰ってきた沢村を待ち構えていたのは、背番号1を背負う自分の写真を手に持つ両親と、若菜の姿。

 

 

そして彼の仲間たちの笑顔。

 

 

 

もう何も言わなくていい。自分が成し遂げたこと、そしてこれから続けていくこと。

 

今自分が背負っている期待を背負う覚悟と重み、その喜び。

 

 

全部わかっている。

 

 

だからこそ、今最初に言わなければならないことは限られてくる。

 

 

「ただいま、親父、母さん、じっちゃん――――――」

 

 

皆の喜ぶ姿が視界に映る。ただ笑顔で、温かく迎えてくれる。

 

「ただいま、みんな――――――」

 

かつての仲間も、駅の前に勢ぞろいしてくれた。まるで自分のことのように沢村栄純のことを祝福してくれる存在に、何度目かわからない有り難さを感じる。

 

一番言いたかったことを言える喜びを示そう。

 

 

その時間を長くするのだと誓おう。

 

 

「エースになって、帰ってきたぞ」

 

 

約束を果たすことが出来た。故郷で誓ったエースになるという誓い。

 

その約束を果たし、ここに帰ることが出来た。

 

仲間に伝えなければならない事実。伝えたい事実。

 

 

その後、沢村は大塚と激しいエース争いを繰り広げることになる。投打で力を発揮する大塚に対し、彼はスコアボードにゼロを並べること、リードを必ず守ることで対抗した。

 

 

3年間背番号を奪い合い、青道黄金時代の礎を築いた二人のエース。

 

 

西東京の常勝軍団、東の王者。その時代を築いた二人のエース争いは、まだまだ続く。

 

 

 

青道黄金期の礎を築いた黄金世代。

 

 

その躍進は以降も続くことになる。

 

 

 

 




いったん筆をおきます。お疲れさまでした。


何とか新年には終わった・・・
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