昨年準優勝投手は伊達ではない。
もう一度言おう。
昨年準優勝チームは伊達ではないと。
青道高校対大阪桐生第一。大塚の投球に変化が生じ始めていた。
「スライダーを要求することが多いですけど、どうしたんですか」
大塚が尋ねる。御幸がなぜスライダーを要求することが多いのかと。
「チェンジアップ使えねぇからな。緩急にうってつけで、且つ横変化。これほど有効なボールはないぜ」
続く3回からは大塚の独壇場。ストレートに合わせようにも、意外にスロースライダーが猛威を振るっていた。
横変化と緩急を、この一球種が担っているのだ。やはり大塚にとってスライダーは重要なモノだった。
故に、球威を増したストレートがさらに威力を発揮。決め球のスプリットよりも重要な球種となったスロースライダーは、いつしか大塚にとってなくてはならないものとなった。
それでもストレートに合わせようとしてきた大阪桐生打線に対し、カットボール、シンキングファストが効力を発揮したのだ。
二重三重にも張り巡らされた、大塚の投球術の前に、大阪桐生打線はチャンスすら演出することが出来ず、前半戦を終了。
かァァァァぁぁンッッッ!!!
大塚が守りで力を見せている中、打撃陣ではホームランを打った結城に続きたいとばかりに、3回には特大のフライを打った沖田。
「手応えばっちり!!! 行っただろ、おらァァ!!!!」
雄叫びとともに、打球はどんどんと進んでいく。今度はストレートを運ばれた舘は、この怪物1年生に唖然とするしかなかった。
「なんや、このルーキー。これが怪童なのか」
大阪桐生ベンチは、この異常な打力をみせつける一年生に頭を抱える。そのまま打球はフェンスを越えていくと思われていたが、
ぱしっ
「あぶねぇぇ……入ったかと思った」
センターが何とか捕球。沖田の打球はフェンス手前で失速した。
「なぜだぁぁぁぁぁ!!!!!」
二塁ベース上で絶叫する沖田。相当な悔しがり方である。
結局このままスリーアウトチェンジ。4回も結城が歩かされたものの、増子がゲッツー。御幸は三振といいところがなかった。
4回もお互いに三者凡退。試合は1-0としまったスコアになっていた。
ドゴォォォォォンっ!!
「ストライクっ!!」
各打者が大塚のストレートに手を出せない。初球は癖球、追い込まれるとキレのいいストレートとSFF。単純だが、これを攻略できないでいる。
ククッ、フワッ
「ぐっ!!」
キィィンッっ
そして時折投げるスロースライダーにタイミングを外され、ポップフライを連発。癖球にすら手を焼いているのに、このスロースライダーが猛威を振るう。
結局内野ゴロ、内野フライ、三振で片付けた大塚。乱れる素振りすら見せない。
「打球がこねぇぞ、おい!!」
センターから声が出るほどだ。外野に運ばれた打球があまりにも少なく、守備機会がなかったのだ。
5回表時点で、1-0と青道がリード。4回に初ヒットを許すも、投手のグラブをはじく内野安打のみで終わった大阪桐生。
5回1安打8奪三振。無四球。
序盤と前半は全く隙を作らなかった大塚。さらに、強烈な三振のイメージを植え付けた、SFFの影響か低めのストレートに対して手が出なくなり、制球を乱すこともないので本当に手の打ちようがない。
「いやはや、参った。」
御幸はベンチにて大塚にそんなことを言う。
「??? どうしたんですか? それと、オーバースローのフォームのストレートはどんな感じですか?」
「浮き上がって見えたな。取り難くて、相当当てにくいだろうな」
「やっぱり、腕の角度とかは関係あったんですね。今度はスリークォーター気味に投げようかな。」
フォームを試合中に変えようかと思案する大塚。御幸はそれを見て、あることを感じた。
――――鳴。俺は青道に来て後悔はしていない。どこまでも投手なこいつに、巡り会えたんだからな。
今まで出会ったことがないタイプだ。沢村、降谷も面白いが、投手としてここまで面白い部類は初めてだと改めて思う。
―――クリス先輩以外に「追い付きたい」とか思ったこと、ねぇんだけどなぁ
更に試合は進み、5回の裏、
先頭打者の白州が低めのスライダーに空振り三振。そして一死ランナーなしの場面で
「………………」
初回に三塁打を打った1年生沖田。
スライダーを外にはずす桐生バッテリー。コースもきわどい場所、だが沖田はそれを悠々と見逃す。
「ボールっ!!」
―――――選球眼もええな、こいつ。青道の秘蔵っ子は伊達やない。
大阪桐生バッテリーは、沖田の打力だけではなく、その選球眼にも舌を巻く。
「ストライクっ!」
今度はきわどい場所。一転してインコースにストレートをいれられた沖田。思わず見逃してしまう。
「きっつ。ルーキーへの対応じゃないでしょ」
沖田がそうつぶやくと。
「最大級に警戒させてもらっとるから、大人しく凡退してくれや♪」
捕手は笑顔でさらりと流す。相手も捕手らしく、御幸に負けず劣らず黒い笑みである。
1ボール1ストライクからの外角の直球を流す沖田。またしても先制の場面と同じ様な打球。
カキィィィィンッっ!!
「ファウルっ!」
―――――ホンマ、外に踏み込むんか、それで。外一点の読み待ちか?
大阪桐生の捕手は、沖田の狙いが外だということを判断する。
しかし、第2打席はインコースのストレートをフェンス手前まで運んだのだ。
「ファウルっ!!」
二球続けて外のボール。追い込んではいるが、食らいつく沖田。
2球目以外は外。3球続けての外もありうるかもしれない。
――――こういう時は、来た球を打つ。外待ちだけど、中も反応する準備は――――
そして投げ込まれたのは、インコースのストレート。
かァァァァァァァンッッッっ!!
―――――できているっ!!
「なっ(ここに来てのインコースうち!? あんなスイング、張っとったんか!?)!?」
打球の行方を追う捕手。
「!?」
しかし沖田にも驚くべきことはあった。
――――球が、重いッ!!
「ファウルっ!!」
身体の使い方はほぼ理想形だった。だが、沖田の能力が舘の力によってねじ伏せられた。
ビリビリビリ
「くっ」
沖田の腕が痺れていた。あまりの球威に手の感覚が時々消えるほどに。
故に――――
勝負はこの一球ですでに決していた。
ククッ、ギュインッッッ!!
「ストライクっ!! バッターアウトっ!!!」
怪童墜つ―――――――
関西最強の投手にひれ伏す。その自慢の長打を力でねじ伏せ、続く彼のウイニングショットが容赦なく怪童を喰らったのだ。
―――――っ!
ここまで力で敗北感を感じたのは久しぶりの感覚。沖田は肩を落とし、ベンチへと下がる。
「怪童から三振を奪ったぞ!!!」
「次もねじ伏せろ~~~!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴッッッ
舘のほとばしる闘志が、ダイヤモンドを制圧しつつあった。
次の打者は青道の4番、結城。
「――――――沖田が詰まらされた(ということは、初回とは違うということか)」
油断する要素はない。結城はバットを振り抜くことを考えた。最後のファウルボールで、彼が手を気にしていたことから、初回とは全くの別物であると考えた。
ズバァァァァァンッッっ!!
まず初球。舘は臆さずインコースへと投げ込んできた。いきなりのインコースに、結城は反応が遅れた。
――――それや、舘!! その強気の投球で、相手の主砲をねじ伏せえぇぇい!!
松本監督も、マウンドで怖い笑顔をし始めた舘が、やっと本気の投球になっていることを悟る。
――――こうなった舘は、そう簡単に撃てないぜ!!
続く第二球。
きぃんっ!!
「くっ!」
結城がストレートに振り遅れた。タイミングは合っていたはず。だが、それでもバットでとらえきれなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!
「―――――!!!」
結城は、理屈ではない舘の闘気を感じていた。これが甲子園に出た者と出ていない者の明確な差なのかと。
昨年の準優勝投手。その活躍は伊達ではない。その闘志も、全国で2番目に熱かった。
キィィンッ!!
「ファウルボール!!」
結城がストレートを捉え切れない。その事実が、青道ベンチを浮足立たせる。
「ストレートですよね!? アレ!? 結城があのスピードに詰まらされる!?」
太田部長は、チーム一の強打者が追い込まれているということに驚きを隠せない。
「結城先輩……」
東条は、その打席をただ見つめていた。応援することしかできない。
「ファウルボールっ!!!」
またしてもストレートを捉え切れない。3球連続のストレート。未だに結城は、打球を前に飛ばすことが出来ない。
そして優位に立っている関西最強バッテリー。
――――アレを投げさせてくれ、近藤。
舘が、相方の近藤に対し、あの球を要求する。
―――――おいおい、ここでネタばらしさせるほど安くはねェぞ。
それでも、舘は首を横に振る。
――――あの大塚、アイツは決め球のSFFを晒した。そして、まだ手札はあるだろう。
舘は投げ合っている相手、ベンチでじっと戦況を眺めている大塚に一瞬視線を移す。
―――――1年生の投手の独壇場にしたくない。相手のムードを消してこそ―――――
―――――チームに勢いを与えることの出来る投手こそ、
それは自分勝手な投手に非ず。自ら考え、自分が最善だと思ったことを為す。チームの為に、何が必要か。
――――それが俺のエース像だ
舘は一歩も引かない。すると近藤はため息をして、
「タイムお願いします!!」
マウンドへと駆け寄る。そして舘に一言、
「自分で決めたんやから、あの打者をねじ伏せるんやで? 心配すんな、舘のボールは絶対受け止めたる!」
「ああ!!」
二言のみのタイム。だが、これがこの勝負における絶対の分岐点。
――――何かくるッ!!
結城は本能で感じ取った。取りに来ていると。
舘の右腕から放たれたボール――――それが――――
フワッ、フワワギュインッッッ!!!!!
「!?」
その球はストレートよりも、スライダーよりも遅かった。しかし、一瞬浮いたように見えた後、急激に沈み、縦へと結城のストライクゾーンを抉る。
その滅多にお目にかかれない軌道、通常のカーブではないそれが、
その予測困難なボールが結城に襲い掛かる!!
「!!!!」
ブゥゥンッッッ!!!!
そして、舘の放った決め球が、近藤のミットから零れる。
「うぉ!!!!」
しかし、こぼれたボールを素手で掴み、結城に間髪入れずにタッチする。
「ストライクっ!!! バッターアウトっ!!!」
青道の4番をねじ伏せた。完膚なきまでに、打てるというイメージを掻き消した。
「しゃぁぁぁぁ!!!! 舘ぃぃぃぃぃ!!!!」
「あの四番を三振に取ったぞ!!!」
「まだまだ勝負は解らんで!!!!」
タイムリーを打った打者にやり返す。それは投手としては絶対に成し遂げたいことだろう。だからこそ、こう言う事をした後の投手は――――
「なんだったんです? 今の球……」
東条が尋ねる。
「……おそらく、ナックルカーブ」
クリスがその問いに答える。だが、その彼も少し動揺を隠せないでいる。
「ナックルカーブ!? それは本当ですか、クリス先輩っ?」
東条がその決め球に、驚きを隠せない。
「ナックルカーブ? カーブの亜種ですか、クリス先輩?」
沢村は、ナックルカーブをカーブの亜種とまでしかわからない。
ナックルカーブは、普通のカーブよりも大きく縦に落ち鋭く曲がる。その独特な曲り、ナックルの出来損ないともいわれるこのカーブは、見せ球にも非常に有効である。
だが、彼が今投げたナックルカーブは違う。
通常、この球種はカーブとは違い、変化の大小や緩急の投げわけが難しく、握り方も特殊なため、制球も難しい。
だが、舘はそのウイニングショットを制御する技術を持っていた。
球質の重いストレートに、空振りを奪えるスライダー、打者の打撃そのものを破壊しに来るナックルカーブ。
これが準優勝投手舘広美の、高校最後の実力であり、彼の覚悟である。
青道は、舘の本気の投球で叩きのめされた結城の姿に衝撃を隠せない。
――――あの結城が、手も足も出なかった。
一打席で対応する方が難しい。だが、ここに来て切り札を使ってきた舘の闘志に、真っ向から挑んだ結城が負けたのだ。
彼らしくない腰の砕け散ったスイング。青道から大阪へと流れかけた流れを――――
「久方ぶりに震えましたね、アレを見ると」
そんな中、大塚は笑顔のままだった。横にいた御幸は、目を大きく見開く。
「やっぱりああいう投手を打ち崩してこそでしょ。それに、俺だって圧倒するから心配いりませんよ」
不敵な笑みを浮かべ、マウンドへと向かう大塚。
――――高校3年間の重みを感じた。
だが、大塚も彼の闘志を感じていた。だが、それで動揺するほどではない。
――――理解しているけど、はっきり口には出せない。だけど、自然と頬が緩む。
目の前の打者を狩るために、大塚も自分の最善を尽くすことを誓う。
――――今度は俺の番。先輩だけが見せつけるのは、フェアじゃないでしょ?
大塚は、舘にウィンクした。それに気づいた舘は――――――
「………ふっ」
とっても怖い笑顔で、大塚に返すのだった。
そう、彼も――――
大塚の方も、止まらない。
「ストライクっ!!! バッターアウトっ!!! チェンジッ!!」
6回も早々と2死をとると、続く打者には外角直球で見逃し三振を奪う。
大阪桐生は未だ綺麗なヒットすら打つことが叶わない。この怪物の踏み台にされている感がひしひし伝わる。
――――ようやく思い出した………横浜シニアの、大塚栄治。
横浜シニアでは、快速球投手として、そして彼の持つ伝説的な決め球の前では、全ての打者が一度は三振を奪われるという。
そして、現在の球速はマックス147キロ。あの降谷には及ばないが、キレ、コントロール共に高いレベルでまとまっており、そのストレートを攻略できないようでは、変化球にも対応できない。ましてや、低め、両サイドには癖球を投げ込み、内野ゴロを量産することで、スタミナ面でも余裕だ。
―――――舘もええ投球をしとるが、大塚はそれ以上や。うちの打線を寄せ付けんとは。
松本監督は、いい投球では勝てないことをわかっていた。だからこそ、勝てる投球というのを求めていた。普段から口を酸っぱく言っていたことを、大塚にされてしまった。
舘も、初回を除けばそれが出来ている。事実、あのイニングは分岐点になる筈だった。しかし、その守備からくるプレッシャー、追われている物が感じるその追い込まれる感を感じさせない大塚の投球。
まるで山の如く、動じないメンタリティ。
―――――こないな器が、プロで大成するんやろうなぁぁ
投げ合いで崩れない投手こそが、本当のエースなんだと。
最高の投球を続ける大塚を見つめる松本監督。まるで、投げることに喜びを感じているかのようにそのフォームは躍動感が出ていた。
大阪桐生は、結局最後まで大塚を攻略することが出来ず、内野安打2本に抑えられる屈辱の無四球完封を喫することになる。
しかしスコアは1-0。舘は8回でマウンドを降り、後続の投手も青道打線を抑えた。
沖田は1安打、あの全国屈指の投手のストレートを打ち返せるだけのパワーを見せつけ、ショートのレギュラー争いに名乗りを上げる。だが、最後の凡退が最悪に近い。
結城は1安打と物足りないが、打点は1、四球を選んでいるので、調子自体を崩しているわけではなかった。アレは舘が結城の実力をはるかに凌駕していただけだっただけのこと。
東条は1安打を放つなど、一応の結果は残し、7回の第3打席で自分の打撃を監督にアピールした。
まさかの投手戦。打撃戦が予想されていた試合は、スミ一という壮絶な投げ合いになった。
「………今日はうちの敗けですわ。まさか、期待の一年生が、これだけの投球をするなんて、思ってもいませんでしたわ」
ここまで完膚なきまでに打ちのめされては、ぐうの音も出ない。スコア的には完敗というほどではないが、それでも打線の方は大塚に完敗だった。
彼等は、大塚を打ち崩せなかったこと、舘を援護してやることが出来なかったことを悔いていた。だからこそ、この敗戦を受け止めていた。
――――彼を日本一の投手にするために、絶対に叩かなければならない投手だったと。
計15個の三振を奪われながら、球数は117球。三振と内野ゴロとはっきりと決めているのか、癖球に翻弄されていたのが如実に出ている。
「アレはまだまだ成長するでしょう。私の想像を超えた投手に」
「今度会うのは甲子園になりそうですわな。ほな、また」
片岡監督と別れた後、松本監督はあの大塚栄治の投球に衝撃を覚えていた。一年生であの完成度。まだ成長する余地がある。だからこそ、これ以上成長すれば高校レベルでは攻略が不可能な投手になるのではと考えていた。
3年後、果たしてこの投手の姿はどうなっているのか。自チームの監督ですら把握していない圧倒的なスケールの大きさ。
―――お得意のフォームチェンジは姿を変えとったし、球威とキレが増した分、お手上げやった。
フォームチェンジが変化していることを見抜いた松本監督。今は膝の動きに違いがあるだけだが、高校生レベルでこれを完全に会得しているだけでも恐ろしいことだ。
フォームのどれかにタイミングを合わせれば、4分の1で確実に痛打できていたのが、今度は大塚の本能で変わってくるのだ。むしろこちらのフォームチェンジが厄介だ。
さらには、舘への投球と他のメンバーとでは腕の角度も違っていたことで、フォームチェンジが進化していることを見抜いた松本監督。
あの一級品のストレートを変化球に対応しつつ打てと言われれば、それは厳しい。高校生に求める内容ではない。
―――あんなルーキー、文字通りの10年に、いや………100年に一度の天才やわ………
だが、そんな投手を叩かなければ、甲子園優勝はこの先3年はないという事。あの投手を打ち崩すことが出来る打線が果たしてこの日本に何チームあるのか。
―――帰ったらビデオやな。あのルーキーの攻略法を見つけて、夏にリベンジや。
松本監督は知らない。
まだ彼がチェンジアップ系を投げられることを。この試合でチェンジアップは一球も投げていないのだ。
この試合で御幸がSFFを解禁したのは、彼を調べていくうちにSFFの存在が明るみに出てくるからだ。チェンジアップ系はまだ対外試合では試しておらず、中学時代に比べてもその威力は凶悪化している。
そして、これは夏予選前のデータであり、この先何かの拍子で彼が成長することは有り得るのだ。
なぜなら彼は、まだ高校1年生なのだから。
「…………圧巻だったな…………」
クリスのつぶやきがあまり聞こえていない沢村。
9回完封内野安打2本のみ。四死球ゼロ。15奪三振。この試合で全国屈指といわれていた大阪桐生の打線を完全にねじ伏せたのだ。
「…………………………」
相手チームのムードすら掻き消す圧倒的な投球。味方を勢いづかせる三振、それでいて打者を打ち損じさせる癖球で球数を節約する投球術。
序盤のフォーシームに強いイメージを植え付けた大塚は、後半どんどん癖球を投げ込み相手をうちとっていった。球威がある分、内野の頭を越さないその打球を無難にさばく内野陣。
それで運よく2球粘った打者には、その粘りを打ち砕くフォーシーム、SFFが襲い掛かる。粘っても無駄。初球を捉えられない。悪循環になり、後半はバットを振ることのできる選手が少なかった。
しかし何よりも、全国クラスの投手との投げ合いで崩れない強いメンタリティが、この試合での青道の勝因となった。
大塚は投げ合いに強い。その事実を前に、
「けど、明日の試合……俺だって俺の力を存分に出してやる………!! あいつは凄い投手だよ……けど、俺は負けられねぇ!!」
沢村もまた、夏前の最後の練習試合で、新球を試す。彼に匹敵するほどのストレートはまだない。だが、彼に連なるウイニングショットを手にした。
日曜第1試合、先発は沢村栄純。
試合後、
「ふぅ………復活を勝利で飾れたのは大きいかな。」
とんでもないことをやってのけた大塚は自然体で、勝利を得たことに安堵を覚える。
「俺にとっては大きな勝利で、大きな試合だったけどな。」
沖田は本人に比べてとてもこの試合を感慨深いものだと言う。全国レベルの投手相手に、ヒットは打てたがそれは本気ではなかった舘の時。悔しい思いをしたのだが、今は大塚の快投の方が喜ばしい事だった。
「本当の大塚栄治の復活第1試合を、スタメンで出た事。そしてお前を勝利投手にできたことだ」
彼にとってみれば、今までの技巧派の大塚は活躍していても心から喜べるものではなかった。自分が壊したために、球威も落ちた力で投げ続けている彼の姿は、正直苦しかったのだ。
だが、ここで彼は真の姿に戻った。それが沖田には嬉しくて仕方ないのだ。
「喜び過ぎだよ。まだ俺達の夏は始まっていないんだぞ」
「………俺は、お前がエースになると思うぞ。だから、背番号1のお前を援護して、甲子園を制する。それが俺の夢だ。まあ、丹波先輩の出来次第だが………」
そうなのだ、現エースの丹波の投球次第では一年時の大塚のエースは望めない。丹波先輩がエースとして頼りない投球をすれば、大塚にも目が出るかもしれないが、それは現状望めないし、調子を上げている仲間をそう思うのは、沖田も大塚もあまり考えたくはない。
「可能性は薄いだろうね。丹波先輩、結構いい投球をしていたし、あの時のように崩れることも少ない。」
そして早々に背番号1を諦めている大塚。自分に出来ることはやった。これで後は丹波投手の投球次第でエースが決まる。彼がエースの名にふさわしい投球をすれば、序列的に自分はエースにはなれない。
「まあ、明日の試合で沢村も入り込んでくるかもしれないぞ?」
「…………栄純か………そうだね、沢村も俺にはないモノを持っているしね。正直、3年生になった時、球速差がなくなればエースを奪われるかもしれない。そんな強敵だよ」
「奴に塩を送ったのはどこの誰だよ?」
「ハハハハ………だって俺一人で東京予選を勝ち抜けるほど甘くないでしょ? それに、投手は替えが効いた方がいい。強豪校になると、二番手の存在や複数の投手は必須だよ」
こういうところは名門にいたせいか、シビアな大塚。片岡監督は一人のエースにこだわり過ぎている傾向もある。大塚にはチームのここ一番を任されるという心意気こそ感じてはいるが、エース一人では甲子園を制することは出来ないと達観していた。
「まあ、明日の試合、ダブルヘッダーだがどうなることやら………」
復活の剛腕。闘志を燃やす左腕。
そしてその闘志をぶつける相手が決まる。
相手は今年の選抜準優勝チーム。選抜での自責点はわずかに2点。予選からの無失点記録が決勝で途絶えるほど、スコアボードにゼロを並べた男を擁する関東の新星―――――
前橋学園。
その中心の男は、今年の高校ドラフト世代でナンバーワンの称号を冠する男。
今年最も評価の高い好投手との対戦は――――
青道に、
そして沢村に、
何を齎すのか。
「とりあえず、あの凡退はないだろ、沖田」
「すまん」
「いや、せめて当てよう。先輩たちは全国に出ていない人の方が多いんだから」
大塚は、本選で戦ううえで全国経験者との経験値の差をチーム単位で感じていた。
青道は甲子園を離れて久しいチーム。ゆえに、全国の恐ろしさを知らない。
―――――出来るだけ手遅れにならない時期に感じ取ってほしいけど、大丈夫なのだろうか。
大塚の不安は、遠くない未来で的中してしまうことになる。
原作とは違い、最後まで投手戦となった大阪との練習試合。
舘先輩は、ナックルカーブを覚えているので、緩急+もう一つ決め球がある状態です。
初めから使われた場合、青道は一点も奪えなかったでしょう。やはり甲子園を経験した昨年準優勝高は踏み台にはできないし、むしろ青道の方が格下ですからね。
とまあ、次は今年の選抜準優勝投手を擁する高校ですね。2009年選抜の今村よりも絶望感を覚える投手と言って過言ではないでしょう。
そんな全国の怪物にプライドを潰されるか否か、沢村の運命は!?