ついに明川戦決着です!
その一球で、球場はどよめいた。
「何だ今の球!」
「今までと違うぞ?!」
「どうなっているんだ!?」
スタンドは明らかに色めき立っていた。偵察に訪れていた他校の生徒たちも、大塚の変貌に驚いていた。声が出ていた明川ベンチが唖然としていた。
そして、この本格派の投球を目の当たりにした彼らは知るのだ。
――――今までは本気ではなかったのかよ。
そう、大塚にはもう一段階どころではなく――――
本来の投球を選択した彼の前に、明川学園がつけ入る隙などない、と言い切るかのように、大塚は打者を制圧する。
ズバァァァンッ!!!!
続く144キロのストレートにも空振り。最後も―――
ズバァァァァンっ!!!
「くっそぉぉぉ!!!」
悔しそうにうめく明川のバッター。アウトハイのストライクコース。
圧倒的な力の差、才能の差が、努力の差が、この打者をオールストレートでねじ伏せたのだ。
144キロのストレートにかすりもせず、三球三振。大塚は、打線に期待するのではなく、自分の投球で、相手を瓦解させることにした。そのための、投球。
勝利への布石。
「…………とうとう姿を現したか、剛腕ルーキー」
楊も大塚が実力を隠していたという事は解っていた。だが、1年生でこれだけ速い投手はそうはいない。自分と比べて、圧倒的な総合力と力の差を見せつける大塚に、初めて彼は冷や汗を流す。
続く打者も、
フワッ、ククッ!!
「なっ!」ブゥゥゥンッ!!
「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」
今度はチェンジアップ。それも、打者の前で、急激に球速を落とす、チェンジアップの中でも最高位クラスといわれるパラシュートチェンジ。
「さらに緩急か………っ!!」
制球力は球威を上げても衰えない。むしろ、球威が増した分、手が付けられない。この終盤に来て、明川学園の打者が、大塚のボールに当てることすら難しくなってきた。
投手戦という試合展開が、自分たちの思惑通りだと考えてきた彼らにとってみれば、楊舜臣が抑えていなければ、ワンサイドゲームになっていたという事を思い知らされる。
「春の地区大会で見せていない決め球…………」
「何だ今の変化球…………」
次々と明るみに出る変化球。その精度の高さに、観客は唖然とする。そして大塚は、明川のムードを全力で消しに来ていた。
最後の打者も、
ズバァァッァンッ!!!
「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」
アウトコース一杯の145キロストレートで見逃し三振。バットすら出なかった。
そして6回裏、唯一のヒットを放っている大塚。彼も精通しているフォームチェンジ。理屈を解っているからこそ、どこで我慢が出来ないのかを解っていた。
――――調子づかせるわけにはいかない。この打者を打ち取る!
楊は、本腰を入れてきた大塚をねじ伏せるために、覚悟を決める。この回が次の分岐点。
――――俺が先頭で出れば、流れはうちに来るっ!! 何が何でも、出塁する!!
自分が流れを呼び寄せるのだと、強い決意で打席に入る大塚。
「ファウルっ!!」
初球ストレートに手を出した大塚。
――――だいぶ手元で伸びている。スピードガンは見ない方がいいかも。
スピードガンが当てにならない体感速度。それは縦の鋭い変化を強く意識しているためだ。
「ボールっ!!」
―――そしてここで外に外れるスライダー、か。
俗にいう縦のスライダー。低目に外れて1ボール1ストライク。横スラの他に、縦すら隠し持っていた楊舜臣。まさにそこがしれない。そして、彼は考えた。
――――このカウント、楊の自信のある球は――――
「ボールツー!!!」
ここでフォークを見切られた楊は、少し衝撃を覚える。
――――見切られた? いや、配球で読んできたのか?
楊はひたすらに愚直な投手だ。打者を打ち取る為に、最も効率のいい、最も打者をねじ伏せる選択を取る。
その愚直な性格が、この恐るべき制球力を彼に授けた。
「ファウルっ!!!」
――――ヒット狙いで攻略できる相手じゃない。何が何でも出塁する。
低めのスライダーに手が出てしまった大塚。ここで続けざまの変化球攻め。平行カウント。
「ファウルっ!!!」
続くボールは高めのストレート。ボール球にまた手を出してしまった大塚。
―――よしっ!! これでストレートを意識させられた。フォークで打ち取るぞ!!
関口のサインに頷く楊。
――――愚直な性格が見て取れる。本当に彼は凄い努力家で、投手だ。
大塚は、予想ではなく、彼をそのように断定した。この配球で、彼が何を選んでくるのかが分かった。
「ボールっ!!!」
マウンドの楊は、またしてもフォークを見切られたことに驚いていた。
――――ならば、ストレート。あのコースならば―――
外寄りに構える関口。それは、この試合で小湊の打撃を狂わせたアウトコースのボール。
――――低目は捨てる。たぶん、ここで俺を歩かせても次を打ち取ればいい。そう思っているはず。となるとフォークの連投か?
そして勝負の7球目。
ズバァァァァンッッッ!!!!!
「!?(しまった……ッ!)」
思わず顔をしかめる大塚。そのコースは小湊先輩の打撃を狂わせたアウトコースのゾーン。そして審判は悉くストライクの判定を下していた。
――――これで―――!!
「ボール、フォア!」
しかし、彼らが思い描いていた現実は永遠に来なかった。
「!!!」
「!!!!」
やられたと考えていた大塚。やったと思っていた楊。ここで、審判はゾーンを変えたのだ。いや、今度はよく見たというべきか。
――――けど、これで出塁。次は―――
大塚は片岡監督の方を見る。
「タイム!! 代打!」
ここで片岡監督動く、代打に東条を起用。
「落ち着けよ、東条。」
――――東条にとって、初見なら絶対―――
―――まさかこんな大事な場面で代打!? 落ち着け、後続を打ち取ればいいだけだ。
「東条、お前なら打てるぞ!!」
一塁ベース上で、大塚が鼓舞する。
―――初球フォークでカウントを稼ぐ。手短に終わらせるぞ
だが、東条はベンチで彼の決め球を何度も意識していた。大塚が嫌な形で四球。手早く抑えるために、最も自信のある球で、翻弄しに来ると解っていた。
ククッ!
カキィィンッ!!
「なっ! (片手一本だと!?)」
低目のボールゾーンの変化球に手が出た。それまでは理解できる。だが、それを片手一本で掬い上げたのだ。
ポテンっ、
「おっしゃぁぁ!!! ライトへのヒット!!」
「しゃあ!!」
塁上でガッツポーズの東条。沖田の打席を見ていた彼は、如何に試合展開を読み、配球を読むかを学んでいた。沖田も、楊舜臣の喉元まで迫っていた。
――――配球を読むのって、すごい楽しいな。
何はともあれ、これで無死一塁二塁。初めての連打、ではないが、続けての出塁。この回が勝負の山場であることは、両チーム解っていた。
「いいぞ、東条!!!!」
3番の悪球打ちを見抜いていたが、出番の少なかった東条の低めの掬い上げる技術までは、調べ上げることが出来なかった。
「東条と大塚が連続で出たぞ!!」
「東条!! ナイスバッチ!!!」
「この回で決めるぞ!!!」
大塚の出塁、東条のヒット。これで息を吹き返した青道スタンド。この試合初めてのチャンス。
無死一塁二塁。ここで9番白洲。
サインは言うまでもなく、
コンっ
「ファーストっ!!!」
捕手の声通りに、ファーストへと送球。これで一死二塁三塁。
「タイム!! 代打!!」
ここに来ての片岡監督の代打攻勢。倉持に代え、ここで小湊春市。
―――木製のバット………こいつ………警戒すべきだな………
楊は直感でこの打者が只者ではないことを悟る。そして、バットを短く持ち、インコースを打つにはもってこいのフォーム。
―――誘っているのか? それとも………これは…………
―――楊?
関口が楊の迷いに戸惑う。これまではすぐに配球を考えていたが、ここにきて楊に迷いが生じていた。明らかに誘いを狙っているこの小柄な打者。日本らしい、弱点を突く小技の出来る選手。
―――― 一死、二塁三塁。スクイズもある場面。迂闊には投げられない。一球ウエストするぞ。
「ボールっ!!」
一球ウエストする楊、関口のバッテリー。
「(誘いには応じないか………でもこれで、次は入れてくるかも………)」
カっ!
「ファウルっ!」
木製独特の打球音。小湊は何とかストレートに当てるが、上級生と同様、タイミングを狂わされた。
―――これが楊投手のフォームチェンジ………一筋縄ではいかないね………
次はどこに来るかを思案した瞬間。
ククッ、
丹波のような、向かってくるカーブに思わず仰け反らされた小湊。
「ストライクツーっ!!」
――――くっ………追い込まれた…………これでもう兄貴と同様、クサイところはカットするしか………それにあのカーブを見せられたら………
「勇気を見せろッ、小湊っ!!!」
そこでスタンドからの狩場の声。小湊はハッとした。
―――負けたら終わりの高校野球に次はない。
監督の言葉が重くのしかかる。
「タイムお願いします!!」
慌てて間を取った小湊。その短い時間が、とても長く見えた。
―――あの時、狩場君は丹波先輩のカーブを恐れずに、気持ちでタイムリーを打った。当たるかもしれない恐怖に打ち勝って、決勝点を叩き出したんだ。
何が何でも打つという気迫。それが自分と上級生の違いだった。頭では分かっていたのに、それを肌で初めて感じ、体現できそうな気がした。
――――打つ……必ず………っ!!
小湊の目に力が宿る。
――――カーブを見せた、これで…………いや違う、まったく先程のカーブを恐れていない。死球が怖くないのか?
楊は目に力が宿っている小湊を見て、彼の心の変化を読み取った。あの目は怯えていない。
かっ!!
「ファウルっ!!」
そしてストレートに食らいつく春市。デットボールで出塁しても、次は自分の兄。
―――この流れは渡さない。兄貴と一緒に、甲子園に!!
―――アウトコースのフォーク。これで―――
楊が振り被り、小湊はバットを構える。
―――終わりだッ!!!
正確無比なコントロール。この局面でも制球力に微塵の狂いもない。だが、
―――フォーク!?
カッ!
「ファウルっ!!!」
―――まだ粘るか…………ッ!!
楊はこの異様なしぶとさに、あの四番よりも手強いと感じた。確かに一発はない。だが、ここまで粘られたのは、この試合では初めて。
「ハァ………ハァ…………」
高すぎる集中力を維持し続けるのは難しい。だが、それでもこの打席だけはと、春市は無理やり持続させる。
――――インハイのストレート。木製のバットごと、圧し折るッ!
―――来るなら来い!! 絶対に打ち返す!!
ゴゴゴゴゴゴゴッ!
この日最高のボールが、関口のミットへと進む。この時でさえ、まだまだ制球力は衰えない。
―――――!!
それはコンマの世界。春市は自分のバットが折れかかっている感覚を感じ取っていた。
―――それでもっ!!
カッ!!!
「なっ!!」
打球は右中間へ。浅く守っていた外野の壁を――――
パシッ!!
しかしここで、回り込んで捕ったライトのファインプレーで、ヒットにならない。しかしこれを見た大塚がタッチアップ。
「バックホームっ!!」
そして春市の打球もそれほど深くはない。このタッチアップは博打に近い。
―――なっ!
大塚が物凄い勢いでホームに突っ込んでいた。その表情からは鬼気迫る何かを感じ取っていた楊。バックホームのカバーにはいる際、彼の走っている姿を見ていた楊は
――――際どいタイミングだ。止めてくれ、関口っ!!
ストライク送球が関口のキャッチャーミットへと届き、後は大塚へとタッチをするだけ。
―――暴走…………アウトだッ!!
タイミング的にはアウトに近いようにも見えた。だが、向かってくるミットを目前に、大塚は全速力の状態で無理に体を捻り、体を地面にたたきつけながら回転させ、そのタッチを躱し、
フッ、
彼の右腕が、ホームベースを触ったのだ。
「なっ………(なんて奴だ………あんなスライディング。利き腕を差し出した………ッ)」
下手をすれば、怪我の可能性もある危険なプレイ。それを躊躇わずにやってのけた大塚。
「ハァ、ハァ…………これで、先制か………?」
息を乱しながらも、大塚はベンチへと帰る。一瞬目を伏せた大塚だが、それを気にするそぶりもない。そしてその背中を見るしかない楊。
その瞬間、スタンドが湧いた。
「先制っ!! ついに均衡が破れたぞ!!」
「投手なのに、なんて奴だ! あんなスライディング、プロでも見ないぞ………!」
「春市君がやってのけたわ!!」
「それに大塚君も凄いスライディングでした!!!」
「ここで一気にたたみかけるぞ!!!」
「ナイスバッティング、小湊!! ナイスラン、大塚!!!」
ようやく欲しかった欲しかった先制点。青道は苦しみながら、この6回裏のワンチャンスをものにした。
兄の激走に、興奮する裕作。
「やったァァァ!! 兄ちゃんがやった!! 凄いよ母さん!!」
自分の事のように喜んでいる裕作。そして、
「うん!! うん!! 帰ったら美味しいものを作ってあげないとね。けど、後で注意ね。あんな危ないことは見てられないわ」
満面の笑みで息子の得点を喜ぶ綾子。しかし、怪我に繋がるプレイなので、しっかり試合後に叱ってやろうと決意する模様。
「大丈夫なのかしら、確か大塚君、右手が利き腕よね?」
沖田の母親が心配そうに大塚の様子をうかがう。大塚が怪我をした事情を知るだけに、また怪我をしてほしくないのだ。
「そうね。後で病院に行かせるべきかしら?」
「(マジかよ、姉だと思ったら、母親なのかよ!? というか、大塚の母親って、どっかで見たことがある気がする。)」
金丸は東条が昔何か喚いていたような記憶があり、その時に彼女に似た女性を見たことがあることを思いだした。しかし思い出せない。
「(どっかで見たことがある気がするんだよなぁ、あの人)」
狩場も、腑に落ちないといった顔だった。なので二人は東条に後で問いただそうと決意する。
しかし、初得点、先制の喜びもつかの間。
ズバァァァァンっ!!!
「ストライクっ!! バッターアウトっ!!!」
続く小湊亮介は三振。未だ闘志の衰えない楊は、この回を1失点に抑えた。
「…………8回までだ。行けるな、大塚?」
「…………何なら、9回まで行きますけど?」
「そうか…………」
7回表も止まらない大塚。技巧派の仮面をかなぐり捨てた彼の前に歯が立たない。
ズバァァァンッ!!!
「ストラックアウトっ!!!」
二球目のパラシュートチェンジを意識し過ぎた4番白鳥は続く高めの真直ぐに手が出てしまった。
「まだだ!!」
楊との対決。初打席こそ痛打を浴びたが、第2打席はきっちり内野ゴロに打ち取っている。この第3打席はどうか。
「ファウルっ!!!」
いきなり初球のストレートに合わせてきた楊。まさか初見で当てられるとは思っていなかった大塚は、笑みをこぼす。
―――凄いな………この人…………
続く第2球。
カキィィィンっ!!!!
「ファウルっ!!」
そして今の球速も146キロを計測した。だが楊も、振り負けていない。
ククッ、フワッ!
「ぐっ!?」
パラシュートチェンジにバットが止まる。ここまで来たらもはや意地である。
―――おいおい、打者としても怪物か?
―――危なかった。頭に入れてなければ、もっと力を入れ、三振していた。
楊もパラシュートチェンジは頭に入っていた。だからこそ、バットを止めることが出来た。
その後もストレートに食らいつき、大塚に対して負けていない楊。
―――すごい勝負だ………
この回からショートの守備位置にいる楠木も、内野から彼らの勝負を見ていた。
カァァァンっ!!
「ファウルっ!!!」
その後も彼は大塚のボールに食らいつき、これでもう8球目。2ボール2ストライク。
――――なんて奴だ…………ここでもう一回パラシュートチェンジだ!
「ボール!!」
しかしバットが出ない。御幸には、今何を投げても食らいつかれるような錯覚を起こしていた。
―――あれを投げましょう。もうあれをするしかない
大塚のサインに、思わず御幸は監督の方を見た。
―――構わん。ここで出塁を許せば、流れが変わる。
―――勝負球…………ッ!
楊もそのバッテリーを様子から、決め球が来ると察した。だからこそ、その目の鋭さも一段と強くなる。
そしてノーワインドアップからの10球目。
―――ストレート!! これでっ………!?
捉えたと思った瞬間、視界からボールが消えたのだ。
ストンッ!!
「ストライィィィクッ!!! バッターアウトっ!!!!」
――――最後はSFF………俺のあこがれた投手の息子は、親に似るのか…………
楊にとっては思い入れのあるSFF。だが、彼は和正のように、スピードと落差を両立できなかった。打たせて取る、その為の球種にしかならなかった。
しかし大塚の最後の球。それは自分が憧れていたSFFと同じような軌道だった。
――――これが、大塚栄治か…………
勝負に負けたというのに、楊の心中は酷く晴れやかだった。
そして7回の裏、二死。打者は沖田。
――――最初は驚いたが、彼には大塚程の球威もない。当たれば飛ぶ。
カキィィィンッッ!!
「ファウル!!」
鋭い打球が切れてファウル。沖田は表情を崩さず、打席に入り直す。
「――――こいつ」
楊舜臣も、この打者だけは格が違うと感じていた。自分に対して、追い込まれた感情すら抱いていない。
――――ここはスライダー。一球外に
「ボール!!」
ストライクゾーンすら見切られているが、今のは外したボール。通常の投手ならばいいコースにいった場面。それでも沖田は動かなかった。
―――――歩かせるか、それとも―――
沖田は、楊舜臣の意志がこの次の球で分かると考えていた。この局面、明らかに自分は有利だ。一点差を守り、最後のイニングに望みをつなげるなら―――
「ボール、フォア!!」
ノーヒットだが、最後は負けたような感覚を覚える楊。
――――この打者が早い段階で出ていれば、危なかった。
伊佐敷と結城を抑え込んだ楊ではあったが、最後に沖田との勝負を避けた。しかし後続を打ち取り、残りのイニングに望みを託す。
そして―――――――――――――――――――――――――――――
9回二死ランナーなし。
「ボールをよく見ていけ!!!」
「まだまだ諦めんなぁ!!」
「試合は9回二死から!!!!」
一点ビハインド。差はわずかに一点。だが、それがどうしようもなく遠かった。
「よく見ていけぇぇ!! 高田ァァア!!!」
ドゴォォォンッ!!!
「ストライィクッ!!」
だが微塵の衰えも見せない、大塚のストレート。140キロを超えてきている。依然として衰えを知らない大塚の投球に、一本が出ない。
「遠い…………うっくっ…………」
ベンチで応援している選手の一人が、涙を滲ませていた。
差はわずかに一点。連打があればチャンスは生まれる。だが、
目の前には伝説の後継、大塚栄治が立ち塞がる。
「泣くなッ! まだ試合は終わってねえ!!」
「まだだ!! まだっ!!!」
ドゴォォォンッ!!!
そしてここにきて、最速147キロに到達する。
――――ここで、俺が出て………――――
ククッ、ストンッ!!
「ストライィィクッ!! バッターアウトッ!! ゲーム、セット!!」
最後はSFF。その切れ味鋭い変化球を前に、最後の打者は空振りを喫するのだった。その瞬間試合が終わり、青道は犠牲フライの一点を最後まで守りきり、1-0の投手戦を制した。
大塚は9回を投げ、被安打3、11奪三振。後半の三振のペースが上がり、二桁に到達した。
対する楊舜臣。8回を投げ、被安打2、四死球2、1失点。15奪三振。強豪相手に最後まで強気の投球を崩さなかった。
その試合を見た観客の1人は語る。
ーーーー二人がプロに入る予感が確信に変わった。
海を渡ったエースは、確かに足跡を残したのだ。
最後に弟君が成し遂げました。
予選4回戦がこれだと、万が一甲子園の舞台では……
自責点1で、大会を去る楊……