ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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沢村対轟、第2ラウンド!

そして、あの男は止まらない。


第39話 要を築く者

大量リードとは言えないものの、試合は明らかに青道が押していた。その理由は沢村栄純の青道以外に衝撃を与えた好投にある。

 

観客は、エース大塚を先発させなかったことで、青道が打撃戦に持ち込むものと考えていた。だがそれは違う。

 

青道は、このダークホース相手にワンサイドゲームを狙っているのだ。市大三高を叩きのめした薬師相手に。

 

 

 

 

4回裏、一死三塁。三塁ランナーはチームで3番目に足の速い沖田。打者は青道で最も頼りになる男、結城哲也。

 

ここで投手は二人目の真田。データでは、内角への強気の投球と、シュートを投げる投手。

 

そして初球――――

 

グイッ!

 

「!?」

結城は内角へのボールを予測していた。しかし―――

 

フッ、

 

寸前で避ける事の出来た、切れ味鋭いシュート。結城は今の球を見て、シュートをかなり意識するのだが、

 

「デットボールっ!!」

 

「…………?」

当たった感触を感じなかった結城。しかし審判は、結城の服に掠ったボールを見ていた。

 

「初球デットボールかよ!!」

 

「何考えてんだ、あの投手!!」

青道からは非難の声。そして観客からも一部初球デットボールは印象が悪すぎた。

 

「これで一死、一塁三塁!! ここで増子先輩だ!!」

そして、第一打席でホームランを打っている増子。

 

「んが――ッ!!」

気持ちを整理し、打席へと入る増子。バットは短く、確実性を求める。だが、短く持ったところで、力みのない増子のパワーは死なない。

 

「やっべぇ………」

少し苦笑いをしている真田。

 

ズバアァァンッッ!!!

 

「!?」

 

しかし初球。厳しいところにストレートが決まる。

「ストライクっ!!」

インコースの厳しいボール。初球デットボールの影響を感じさせない投球に増子は衝撃を受ける。

 

―――ぜんぜん堪えていないみたいだな。

 

そして、沢村相手に試したムービング対策の打席、バッターボックスをあえて前に設定した増子。

 

「…………(おいおい、俺のシュートを狙うかわりに、ストレートのタイミングは早くなるんだぜ? 俺程度のストレートは内野の頭へと運べると?)」

それが真田の闘争心に火をつけた。

 

「(上等っ!!)」

 

続く第二球。ストレートが内側にやってきて、増子はそのストレートに振り遅れる。

 

「ファウルっ!!」

 

「………ッ!!」

捉えきれない。140キロを超しているであろう、内角のシュート持ちの投手の速球。だが、シュートを封じても、ストレートに対応できていない。

 

そして―――

 

ガっ!!

 

 

「クッ………!!」

 

内角に詰まらされた打球はゲッツーコース。4球目のシュートが予想以上のキレを誇り、増子のバットをねじ伏せたのだ。

 

一瞬にしてスリーアウトの青道の攻撃。

 

 

そして、一巡目を終了し、2巡目へと入る薬師の打線。ここからが正念場である。

 

――― 一巡目でお前のフォームを意識しているだろう。それに、初見はタイミングが合っていなかったが、ここからは解らない。もっと厳しくいくぞ

 

―――先頭打者の山内には、チェンジアップが意識にあるはず。それが最後に来ると思っているだろう。だが、初球のカットボールも意識しているはず。

 

御幸は一打席目での打席を思い出す。相手が最も意識しているボールを。心理学では、終わりと始まりは人間の記憶に残りやすい傾向にあると言われている。

 

御幸はそれを狙い、まず初球は―――

 

「うっ!?」

高速パームで空振りを奪う。ストレートの軌道から縦へと沈むボール。さらに低めに投げれば投げるほど、角度もついて落ち幅も錯覚させることが出来る。

 

続く第二球目は、低めのボール球へと手を出した打者の弱みにとことん付けこむ―――

 

 

――――低めのストレートだ、沢村っ!

 

ズバァァァンッ!

 

「くっそ………!」

先程の低めを意識していた打者は手が出ない。高速パームとストレートの判別がしづらいのだ。

 

―――これでもうストライクはいらない。後は、高めのボール球、釣り玉で空振りを奪うぞ。

 

そして高めへとボールを要求する御幸。

 

「あっ!」

 

反射的に厳しい低めからの高めに、手が出てしまい、

 

「スイングっ!!」

御幸の鋭い声が響くと、

 

「バッターアウトっ!!」

審判も先頭打者のスイングを取り、またしても先頭打者を打ち取った沢村。

 

―――だが、この回はなんとしても3人で攻撃を終わらせる。轟相手に、ランナーを溜めた状態で対戦はしたくない。

 

そして次の打者は、フォーシームを意識させたリードで打ち取った。そして、相手もこちらのリードが変わることを予測していると彼は推測する。

 

―――どんどん投げこんでこい! テンポよく腕を振れ!

 

やはりまだフォームのタイミングを取りづらいのか、あっさりと2ストライクと追い込まれ、

 

―――ここはワンバウンドの高速パーム。腕を振って、振らせに行け!

 

ストンッ、

 

「ストラック、アウト!!」

御幸がスイングをアピールする前に、バットが出たと判断した審判が、アウトを宣告する。

 

「しゃぁぁぁ!! ツーアウトっ!!」

 

「どんどん投げこめ、沢村!!」

 

「完全くらわせてやれ!!!」

 

バックの上級生たちも、未だに快調な投球を続ける沢村を声で鼓舞する。それは青道のスタンドも同じで、

 

「いいぞ、沢村!!」

 

「絶好調だ!!!」

金丸はスタンドで、狩場もスタンドにて、彼の投球を応援していた。

 

しかし―――

 

カキィィンッ!!

 

「あっ!」

 

3番秋葉の痛烈なヒット。初球のムービングを強く叩いた当たりは、一二塁間を抜けていく。

 

「ちっ………(アイツの前にランナーを出したか………)」

あまり歓迎したくない局面を迎えている。

 

「すいません、タイムお願いします」

御幸は急いでマウンドへと向かう。そして――

 

「沢村。二巡目だ。この轟相手に、一打席目と同じような攻めは厳しい。」

 

「……うっす………」

沢村も尋常ではないオーラを感じているのか、御幸の指示に従う。

 

「ここであれを使うぞ、サインも出すからちゃんと投げろよ」

 

「は、はい!!」

 

そしてついに二度目の解禁宣言。轟との対決で、ついに形になった決め球を試す時がやってきた。

 

 

「おっしゃっぁ!! 初ヒット!! それも雷市の前に溜めたぞ!!」

 

「雷市ぃぃ!!!」

ようやく初ヒットが生まれた薬師のベンチは明るくなる。あの沢村のムービングを打ち返したとはいえ、上手くコースへととんだのだ。

 

 

「しゃぁぁ!! かっ飛ばせェぇ!!」

 

「あの投手のボールをスタンドに叩き込め!!」

 

そして、市大三高を倒した実力に惚れてしまった観客からも、沢村の球を打ち返せと言わんばかりの声援。特に、轟への期待は大きい。

 

「っ」

沢村は、その明らかに薬師を応援する声援に顔をしかめていた。確かに、今までの自分も新興の高校が強豪を食らうのは面白いと思っていた。

 

だが、強豪校にいる今の自分には、それは絶対に阻止しなくてはならないことだ。

 

 

―――落ち着けよ、沢村。それに、黙らせてやろうじゃないか

 

ニヤリとする御幸の顔を見て、沢村も自信を持ってマウンドに立つ。

 

――――初球は低目ボールの高速パーム。反応させれば、儲けものだ!

 

しかし完全ボールコースのパームを轟は反応するだけではなく、

 

「ストライクっ!!」

 

 

最高の形である空振りを奪えたのだ。あの轟から空振りを奪えるほどに、高速パームの変化量が大きくなっている。いや、風の影響で、変化量に変化が生じているのだ。

 

 

――――まあ、パームは気まぐれな変化球だからなぁ。次の試合も使えることを祈りたい

 

 

「っ!!!!」

轟は先ほどからこの球種に手古摺っているので、イライラしている。このナックル変化するパームボール。しかも球速が速く、沢村のこの球は独特だ。今の“高速パーム”を、1試合程度で攻略などできるはずもない。

 

カァァァンっ!!

 

続くアウトコースのカットボールも、軌道がずれているために、三塁スタンドに切れるファウルとなる。

 

――――形はなんであれ、あれを使わずに追い込めた。けど、ムービングに手を出して、選球が悪くなっている。恐らく、フォーシームを待っているんだろう。

 

あれだけ、芯でとらえようと引き付けて打つのだ。確実に真芯で捉えれば、沢村のボールはスタンドへと運ばれてしまう可能性は高い。

 

―――― 一球、アウトハイのボール球。外すくらいでいい。ストレートを投げこめ!

 

思い切り外により、ベースからも遠い場所へと要求する御幸。恐らく狙い球がきたら一段と力を入れるはず。ここで高めの釣り玉に手を出してくれれば、第3打席までに決め球をとっておける。

 

振らなければ決め球で三振を奪う。

 

「(きたァァ!!!)」

轟は、自分が狙っていたボール、初打席で自分を打ち取ったフォーシームを待っていた。

 

だが、明らかにコースを外している球。明らかに冷静ではないその体は、フォーシームに反応し、

 

ズバァァァァァんッッッ!!

 

「うっ!!」

しかし寸前でバットを止める轟。狙い球とはいえ、フォーシーム狙いであることを晒す。

 

――――やはり、フォーシームに反応したか。これで外のコースを意識している。今までの球種で左打者に見せたのはサークルチェンジ以外の球種。

 

御幸は沢村の決め球を、どこに投げ込むかを考える。

 

――――アウトコース、ボールになる縦スライダー。文字通り、お前のウイニングショットで三振を奪ってみせろ!!

 

 

ざわざわ…………

 

沢村の纏う気が変わったこと、それは素人の観客でさえ分かった。故に、そのプレーヤーたちは沢村の変化に気づく。

 

「沢村…………」

内野から見た沢村の後姿は、どこか頼もしかった。沖田には、彼の背中が大きく見えた。

 

「ふっ………決めてきなよ。」

小湊も、沢村のその後ろ姿に笑みをこぼす。

 

 

――――ストライクはいらない。最高のスライダーを、ここに投げ込んで来いッ!!

 

「うおぉぉぉぉ!!!!!!」

一際ダイナミックなフォーム。それは一打席目の轟を打ち取ったフォーシームを投げた時と同じ。

 

――――来るっ!!

 

轟も沢村がここで決めに来ていることを悟る。そしてその球をスタンドへとブチ込むイメージが浮かび上がる。

 

右肩に隠れていた腕が、突然振り下ろされ、勢いよくバッターボックスへと迫っていく。

 

――――外の甘い球!!! 貰った!!!

 

ククッ、ギュインッッ!!!!

 

しかし、ストレートと途中まで同じだった軌道が、手元で鋭く、縦と横に大きく沈んだのだ。

 

「!!!」

バットとボールが大きく離れ、轟の打撃を切り裂いて見せたのは沢村。轟は、沢村のスライダーを捉えきれなかった。

 

「ストライクっ!!! バッターアウトォォォ!!!!」

 

 

その瞬間あの馬鹿げた飛距離を期待した観客の歓声がなくなった。轟の空振り三振。

 

あの怪物打者相手に、沢村は真っ向勝負を選択して、二打席目も抑え込んで見せたのだ。同じ一年生が、とんでもないことをやってのけた。

 

 

 

沢村の決め球が通用した瞬間だった。

 

 

 

 

 

「しゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

大きな雄叫びを挙げる沢村。

 

 

沢村の雄たけびと共に、青道応援席を中心とした歓声が沸き起こった。

 

「沢村が抑えたぞぉぉぉぉ!!!」

 

「野郎ッ!! マジでかっこよすぎだぞ、この野郎ッ!!」

 

「凄い、すごすぎるよ!!! 沢村君!!!」

 

「とんでもないことをやりやがったぞ、アイツ!!!!」

 

「いいぞ、沢村~~~!!!」

 

「キタキタキタ~~~!!! 沢村の伝家の宝刀!!!」

 

この試合のキーポイントだった轟封じ。沢村が見事に期待に応える活躍。金丸らベンチの1年生たちも、同い年の投手が大仕事を成し遂げたことに、自分のことのように喜ぶ。

 

「逞しくなったわね、沢村君」

貴子も、この夏まで成長をし続けた沢村に、惜しみない賛辞を贈る。本当に、

 

――――この子たちは、本当に凄いわ。本当に――――

 

だからこそ、貴子は思う。

 

――――あの子にあそこまで言わせたのよ。だから必ず戻ってきなさい、丹波君。

 

丹波と大塚のやり取りを見ていた貴子は、そう強く思うのだった。

 

 

 

 

 

「何だ………今の………あの時の投手と同じ………違う………更に曲がって…………」

真中のスライダーを思い出しているのだろう。だが、それよりもキレの段違いで、次元が違った。

 

轟は初めて、投手に負けたと痛感した。初めて完膚なきまでに負けたと感じた。

 

しかも―――

 

「凄い………沢村のスライダー…………あんなに曲がるなんて………」

ベンチには、まだ登板していないエースの姿。同じ一年生ながら、エースナンバーを背負い、この前の完封試合の男。

 

轟は、彼を打つ前に、沢村に打ち取られてしまったのだ。

 

「何だ、今の球は(ここで新球かよ。雷市の打撃は責められねぇ。追い込まれた瞬間に、勝負はついていたのか…………)」

轟雷蔵監督は、沢村の高速縦スライダーにバットが空を切った息子を責められない。初見であそこまでキレのあるウイニングショットを捉えるのは、プロでも難しいだろう。

 

「監督!!!」

太田部長は、怪物を抑え込んだ沢村を見て笑みを浮かべ、片岡監督を見る。

 

「ああ。確実に流れはうちに来たな(実戦2度目。この勝負所で新球種を投げさせるか、御幸。だが、それに応えた沢村も、いい投球をしていたな)」

まだ表情には出さない監督。彼ら二人を褒めるのは、試合が終わってからだ。

 

 

しかし打線は、6番伊佐敷が打ち取られた後、7番8番と快音が聞かれず、4回の裏も速い時間で終わった。

 

対照的に、沢村は安定感?のある投球。

 

 

5回表

 

沢村はその後、

 

――――――――――――畜生!! 大きいのはいらねェ!! とにかく芯に当てれば――――

 

 

先頭打者の三島。とにかく当てればどうにかなると考えていた。そして――――

 

 

3球目のムービング。

 

カァァァンッッ!!

 

「ショート!!」

ショート方向に転がる当たり、難なく沖田が処理をしようとするが、

 

ダンッ

 

「―――――ちっ!!(こんな時にイレギュラーかよ!!)」

 

寸前でイレギュラーのバウンド。沖田が少し待って捕球体勢に入ってしまう。

 

「セーフっ!! セーフっ!!」

ここで三島の内野安打。

 

 

「うおぉぉぉぉ!!!!」

吠える三島。ヒットすら打てていない相手。少しでも相手を威圧する、プレッシャーをかけるような行動に出る。

 

 

 

「沖田、どんとマインド!!」

沢村からの一声。先制ホームラン、タイムリーヒットなど、打撃で大きく貢献してはいるが、守備にプライドを持っている沖田。やはり気落ちしてしまう。

 

 

「悪い!! (足を引っ張るとか、何やってんだよ俺は)」

沖田は、自分を責めるが、

 

 

「次、そっちに打たすからな!!」

御幸が黒い笑みで沖田にそんなことを言い放つ。

 

「しゃぁぁ!! どんな打球も止めてやるっ!!」

 

 

――――ハハハ! アイツ、単純すぎ―――

 

御幸は心配がいらないと感じた。ああいう風に声が出ているので、大丈夫だろうと。そもそも、打撃の方で調子がいいのだ。

 

 

カァァァァンッッ!

 

「ぐっ!!(相変わらず、球持ちがいい上に――――)」

ムービングファーストをインコースに投げ込まれ、詰まらされる6番真田。

 

 

「いったぞ、沖田!!」

御幸が笑顔で畜生発言を繰り返す。

 

「しゃぁぁ!!」

今度は逆シングルで素早く二塁へ転送。

 

 

「ったく、羨ましいね、その体格!」

二塁手小湊が沖田からの正確な送球を捕球、その直後にはすでに送球体勢に入り、

 

 

「アウトォォォォ!!!」

 

ここで真田をショートゴロゲッツーに打ち取る。やはり、青道の二遊間は固い。

 

 

――――すげぇぇ、あんな体勢で素早い送球するとか、すげぇぇよ、沖田!

 

沖田の守備には華がある。だからこそ、自分も負けない投球をしたいと考えた沢村。

 

 

しかし、

 

「ボール、フォア!!」

 

7番渡辺にツーアウトからフォアボールを出してしまった沢村。

 

「気持ちが入り過ぎだっつうの!! スライダーの制球が甘いぞ!!」

 

 

「すいません!!」

最後決め球にスライダーを持ってきたが、相手は手を出さなかった。やはり、ストライクゾーンに投げるのは難しい球種であることに変わりはない。

 

 

――――よく轟にはコースに決まったなぁ。スライダーの制球に不安が残るな。

 

御幸は、スライダーが不安定な決め球であることを感じる。強打者相手じゃないと、制球すらままならないらしい。

 

 

しかし、

 

ズバァァァンッ!!

 

「ストラィィィクッ!! バッターアウトっ!!」

 

 

8番打者をアウトローのストレート、ボール球を振らせ、この回も無得点。薬師の攻撃を食い止める。

 

 

「ナイスピッチ、沢村ァァ!!!」

 

「ナイスピー!!」

青道応援席を中心とした声援が沢村に向かう。大仕事を成し遂げた沢村は充実の投球に満足げだった。

 

 

 

 

スタンドの峰は、この沢村の快調なピッチングは、もちろん彼の地力もあるが、リード面で成長した御幸の力も大きいと感じていた。

 

「予選を勝ち抜くうえで、御幸君のリードと、沢村君の投手としての成長が著しい。大塚君という絶対的エースがいるのも影響している。恐らく、他の投手陣にも刺激を与えているんだろう」

 

「そうですよね。なんだか沢村投手、のびのびと投げ込んでいるように見えますよ?」

大和田も、最後にボール球ではあるが、新球種で轟を三振に打ち取るときなどは、まさに彼の気迫が出ていた。

 

「だが、かなり飛ばしているようにも見える。沢村君をどこまで引っ張るか。それが勝負の分かれ目になるな」

 

そして一方の打線。9番から始まる、青道の5回裏の攻撃。

 

「監督。沢村はどこまで引っ張らせますか?」

 

「…………6回までを目安にしよう。下位打線の8,9,1を三人で片付ければ、7回もいかせる。厳しいようなら、降谷をマウンドへと向かわせる。」

 

そして沢村は当たり前のように、三球三振。バットを一度振るなという御幸の言葉通り、見逃し三振。

 

「くっそぉぉぉ!!(何で振らせてもらえないんだ!?)」

 

「まあまあ。あの球威でコントロールを奪われるのは致命的だぜ? 6回までは一応投げてもらわないと」

御幸に今日の投球を褒められ、沢村は少し有頂天になりかけるが、相手にしている打線のスイングを思い出し、

 

「え――うっす…………」

声のトーンを落とすのだった。

 

「???」

 

 

5回裏。1番小湊が四球で出ると、白洲は送りバント。二死ではあるが、スコアリングポジションで、3番の沖田に回る。

 

 

――――稲実の、成宮鳴。

 

あの投手はもっと早く、もっと鋭い変化球を持っている。そして、あの時自分を三振に取った楊舜臣は強かった。そして、次の打席でも結局塁に出ることしか出来なかった。

 

――――打者として情けない試合だった。大塚と春市、東条の3人で奪った得点。代打で凡退して、アイツを助けてやれなかった。

 

そのようにあの光景を思い出すと、沖田の目に力が入る。

 

―――打つッ、ここでこの投手を打って、試合にけりをつけてやるッ!!

 

 

「(二死二塁………けど、この打者は要注意人物の一人………)」

真田も、この打者のポテンシャルを認めている。自分よりもはるかに格上だった楊舜臣にあそこまで食らいついた打者。

 

他の、低めをヒットにする東条、ミートのうまいセンスのいい小湊、フォームチェンジの特性を知る大塚は楊から出塁を奪ったが、この3番と、4番の地力は明らかに違う。

 

 

―――甘い球はもってのほか。内角へのシュートでどんどん抉るッ!!

 

「ファウルっ!!」

 

そしてその内角への恐怖感の中、懸命にバットを振る沖田。彼は小湊のあの決勝打を思い出していた。

 

――――俺達はあの時見ていたはずだ。最初の練習試合。狩場の気迫を。

 

実力とセンスは、一流とは言いにくい。現時点で彼は、まだ一軍に行くにはまだ足りないものがある。

 

だが、その心意気だけは、一軍クラスだった。

 

――――負けたら終わりの一発勝負。ここでデットボールを恐れてなんになるッ!!

 

沖田は甘く入った(沖田の感覚)ボール球のシュートを、

 

 

ガキィィィィンンッッ!!

 

打ち返したのだ。

 

「なっ!?」

真田としても、打ってもファウルになるはずだったボールがレフトスタンドへとぐんぐん伸びて行き、

 

 

レフトスタンドへの今日二本目となるツーランホームランを放った、沖田を信じられない目で見ていた。

 

彼が撃ったのは、インコースのボール球のシュート。このコースを普通に撃つのであれば、タイミング的にもほとんどファウルになるのがふつうである。

 

しかし、沖田はインコースのシュートに対し、バットを投手の正面に向けるように、もっと言うと押し出すようにバットの面を向けたのだ。

 

脇を締め、肘をたたんで繰り出された一撃は、その通常ファウルになるコースの球をフェアゾーンへと強引に運んだのだ。

 

「なんつう野郎だ…………(あのコースをフェアゾーンに飛ばすだけじゃなく、スタンドまで叩き込みやがった………ッ!! )」

とんでもないインコースの捌き方。この野球界でも稀な技術。あのコースをあそこまで打てる打者は、彼の3度の三冠王に輝いた伝説の男ぐらいだ。

 

真田はこの沖田に、轟とは違う凄みを感じた。この打者は、強打の青道の中でも何かが違う。轟のような野性的なバッティングではない。

 

今のボールを一撃で仕留める技術に、沖田の凄さを感じたのだ。

 

「怪物ではなく、怪童、か。戦ってみて、解った気がするな」

彼がなぜ、怪童という名で東京に名を轟かせているのかが分かった気がした。

 

 

 

 

続く打者の結城はまたしても歩かされ、増子が外野フライに打ち取られ、5回の両チームの攻撃が終了。

 

スコアはさらに広がり、7-0と青道がリードを奪う。

 

6回もテンポのいい投球で一死から1番打者に意地でヒットを許すも、併殺打を取り、後続を抑えることに成功する。この回も無得点。

 

沢村はここまで6回を投げ、被安打3、四死球1、7つの三振を奪う力投。

 

ここまで、青道の左腕があの強力薬師打線を零点に抑えている事態に、観客はざわめき立つ。

 

「おいおい。あの薬師が一点も奪えないぞ………」

 

「あの左腕は何なんだ…………」

 

「大塚以外にも、ここまでの投手がいるのかよ………」

 

他校の偵察要員も、この沢村の出現に、脅威を感じていた。

 

ただでさえ攻略の難しい大塚がいるのに、さらに2番手投手も力がある。トーナメントでもこの2人の投手を軸に、ここまで有利に投げている。

 

大塚は、楊舜臣との投手戦での高い集中力と、真の実力を見せつけ、沢村という新たな左腕は、薬師を抑える。

 

そして、沖田のツーランホームランで、6回終了時点で7点差。7回の表の攻撃で、薬師が一点以上奪わなければ、コールドが成立する。

 

そしてここで、抑えのエース川上を投入する片岡監督。

 

「きっちり抑えていけ。負けることは有り得ん。」

 

「はいっ!!」

マウンドへと勢いよく駆け出す川上。そして、マウンドで川上へとボールを渡す沢村。

 

「やっぱ、疲れた………なんかいつも以上にしんどかった………」

やや疲れ気味の沢村。球数はまだそれほどではない。精神的にかなり消耗していた沢村。体力面では問題がなくても、やはり薬師をゼロに抑えた代償はそれなりにあった。

 

「勇気を貰ったぜ、お前の投球。先輩として、俺も頑張らなきゃな」

にこっ、と笑い、川上はマウンドに立つ。

 

 

 

 

――――ここまで沢村が頑張ったんだ、弱気は、最大の敵っ!!!

 

ズバァァァンッ!!

 

 

「ストライィィクっ!!」

躊躇いなくインコースを攻めてきた川上。いきなりきわどいインコースに投げ込んできた彼の投球に、秋葉は驚きを覚える。

 

――――サイドスローなのに、初球インコース!? この投手、なんなんだ!!

 

続く2球目

 

――――スライダーで、ひっかけさせるぞ

 

カァァァンッッ!!

 

「ちっ!!」

 

 

3番秋葉をインコースの泣き所に食い込んでくるスライダーで内野ゴロに打ち取る。制球、球威ともに今日は良好な川上。

 

 

ここで4番轟との対決。

 

 

――――ここで、打たなきゃ、終わってしまう

 

 

この楽しい時間が終わってしまう。轟のバットを握る力が強くなる。

 

 

―――――初球ボール球のスライダー。外角のボールから。

 

 

ククッ、ギュインっ!

 

 

カァァァンッッ!!

 

「ファウルっ!!」

ボール球のスライダーに手を出した轟。やはり焦りからか、選球眼が悪くなっていた。

 

 

―――――ここで、次はインコースの完全なボール球。体に近いと、反応するだろうしな

 

カァァァンッッ!!

 

「ファウルっ!!」

上手くボール球を打たせた川上、御幸のバッテリー。制球の良さが成せるリードである。

 

――――一球、外のストレート。

 

 

「ボールっ!!」

 

 

ピクリと動いたが、バットを出さない轟。表情からは焦りが、焦燥が見えた。

 

 

――――こいつも、人間だったんだな。

 

 

川上は相手を見下ろして、投げていた。自分としては、相手を見下しているわけではない。だが、相手の様子すら見られるように、彼には余裕があった。

 

 

ククッ、ストトトンッッ!

 

 

「!?」ブゥゥゥンッッッ

初めてみるボール。ここで外へと逃げるシンカー。轟はまたしても空振りを奪われた。

 

「ストライク!!! バッターアウトォォ!!」

 

轟が二打席連続三振。青道投手陣に、最後まで抑え込まれた。

 

「雷市……」

チームメイトも、彼が異常なまでにマークされていること、新球種を駆使して封じ込められていることに、何を思うのだろうか。

 

 

薬師にとって、この試合は誤算が大きすぎた。

 

 

変則左腕の次は、サイドスローの投手を投入され、打者が慣れることもなく、先手を打たれている。

 

 

 

 

この試合は全て、青道のシナリオ通りの展開となったのだ。

 

 

 

 

 

「(ここまで両サイドを広く使われたら、高校生では攻略は厳しいか………!! それにしても両サイドの制球力が半端じゃねぇ………なんであんな奴が今まで無名だったんだ!?)」

雷蔵は万事休す寸前のチームと、ベンチで休んでいる、雷市に2度も勝った男を見つめていた。

 

「(沢村栄純………その名前、覚えさせてもらうぜ………)」

 

 

そして薬師ベンチの目の前で、最後の打者、三島を三振に打ち取り、マウンドで吠える川上を見つめる雷蔵以下薬師ナインだった。

 

試合は、7-0のコールドゲームで、青道の圧勝。沢村は6回を投げ、被安打3、四死球1、7奪三振、無失点の快投。

 

打線も沖田の3安打、結城の1安打と1散歩、小湊の複数出塁など、主軸と上位打線の打撃が復調した。特に沖田は何かをつかんだらしく、好感触だったようだ。

 

課題は下位打線がつながらないこと。ランナーがいる状況で回らない御幸はノーヒット。リード面で投手を纏めているために、スタメンを外せないが、8番坂井の不調も深刻。9番は許容範囲なので問題なかった。

 

6番の伊佐敷も安打こそはなっているが、序盤の長打は鳴りを潜めている。

 

「俺の出番はありませんでしたね」

大塚はベンチで温存されていた。降谷も沖田のホームランが出るまでは出番があると思っていたが、コールドになり、出番が消えたことを嘆いていた。

 

「投げたい…………」

 

「まあまあ、沢村が頑張ったし、十分じゃないかな?」

川上も、今回はきっちり三人で締める事が出来、この投球に何かをつかんでいた。

 

 

市大三高を飲み込んだダークホースではあったが、それ以上の勢いと実力を持った青道に逆にねじ伏せられた。

 

いつしか、稲城実業を超える、今年の大本命といわれるようになる青道。

 

右の大塚、左の沢村。後ろには剛腕降谷と、技巧派の川上。

 

エース級4人の、強力投手陣を擁する青道高校。夏の甲子園出場まで、あと2勝と迫っている。

 

 




大塚には出番がありませんでした。

沢村の課題はスタミナ。完投能力がないことです。原作よりも技術はありますが、スタミナがその分ありません。

あと、川上がしれっと三凡。彼だけが今の所、代償なしに進化している模様。

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