しかし、タイトル未定。
「どうでしたか、東先輩」
クリスが沢村らの評価をプロとしての東に尋ねる。
「正直、あのサウスポーのガキは、ここまで伸びるとは思わへんかった。右バッターへのカットボール、そして変幻自在の癖球、チェンジアップ系、空振りを奪えるスライダー? 正直に言わさせてもらうと、球速が伸びれば化けるで、アイツ……」
沢村の評価は高い。球速さえ伸びれば即戦力。
制球力がいいので、球速さえつけば、すぐに使えそうだと東は言った。
しかし、同時に東が気になったのは……
――――スライダーのフォームが違うことぐらいやな。
「クリスは教えんのは上手いが、全国やプロクラスになると、あのスライダーはアカンかもしれんな」
「??」
プロ入りをしていない者と、した者の明確な差。
「率を残せるバッターは、相手のフォームの違いや投手の癖だけで球を見切るんや。1年生やし、そこまでのレベルを求めるのは酷かもしれへん。せやけど、プロ予備軍が集う甲子園は見逃してくれへんぞ」
「―――――では今すぐ、フォームの修正を――――」
クリスは、その欠点について違和感程度でしか感じていなかった。突貫工事でもあり、沢村の成長スピードを前に見逃していたのだ。
「――――アカン。ここでフォームを矯正すんのは時間がかかる。それに、ここでフォームを変えて崩すことになれば、ほかの球種にも影響が出る」
「――――スライダーが使えなくなる時が来る、ということですか――――」
評価が高い沢村の欠点。球速以上に深刻な欠点。クリスは、秋大会でも沢村がスライダーで苦労しているなら、必ず手を貸す決意をした。
次に、
「あの降谷とかいうやつは、大事に育てんと。スピードボールは才能や。制球はイマイチやが、アイツも楽しみや。変化球を覚えれば、鬼に金棒やな。課題はフォームや。俺らのレベルになると、合わせるのは苦労せんわ。じゃけん―――」
「――――フォーム、ですか」
沢村と同様に、やはりフォームにまだ改善の余地があった。
「そうや。これもまだ上体だけで投げているからなんやろうな。体重移動は出来とるんやから。後は下半身の使い方やな」
沢村、降谷を見て、今度は大塚へと目を向ける。
「アイツは規格外や。正直に言わせてもらうが、あの成宮よりも恐ろしゅう感じるわ。アイツの成長限界が見えん……青道のエースなんは確かやが、その完成形が見えんのは初めてや。うちのチームも今投手がおらへんから、大塚コーチも苦労しとるし……うん? 大塚?」
東は自分の言葉に突っ込む。そして―――
「はい。二世ですよ、彼」
沖田が実はそうであることを彼に紹介した。
「……あの化け物投手の息子なら、納得やで………あの年でまだ140キロ投げられるだけで恐ろしいわ……時々三振してしもうて『俺の球に三振するようじゃ、この先ヤバいぞ!! 老体を打ち込めなくてどうする!!』となぁ……正直、ノーコンの投手よりもずっと使えるやろ………」
何やっているんですか大塚コーチ。そして40を超えているのに、140キロ後半を投げ込むおじさん。現役復帰してもいいのでは、とコーチ陣、選手からの声。
ちなみに、変化球も打撃投手を務めることによって戻ってきている。一軍監督は、「今すぐ選手として契約しよう。」と考えていたりする。リリーフならば使えるだろうと。
故に各種スポーツ新聞では、大塚和正、現役復帰か?という記事まで出ている。
「せやけど、なんやろ? 高い実力があるのに、苦しそうに見えるんわ……」
東が唯一、大塚に苦言を呈したのは、雰囲気。
「苦しい、ですか?」
クリスが尋ねる。
「奴は、お前によく似た境遇や。プロ野球選手の二世、大きな怪我、そしてあの指導力、お人好しな面」
高い実力なのに、まるで自分は未熟だと、考えている傾向が強い。理想が高過ぎる。
その理想は、アマチュアの選手には重過ぎる。並の選手なら潰れてもおかしくない。
「わいには、奴が悩みを抱えてない事の方が異常に見えるんや」
空元気に見えない。だが、慢心やエゴが無さ過ぎる。
「大塚が、自分と……」
「わいは、もうクリスのような事は勘弁や。奴は高校野球で終わる器やない。」
東は、大塚の目標と対決した。だからこそ、分かる。
ーーーーあれは本物の唯一無二。
後にも先にも、投手としての実力は世界最強。速いとか、キレがいいという事ではない。
大塚和正ほど、打者の心を簡単に壊してしまう投手を、東は知らない。
そんなシリアスな雰囲気とは知らない大塚。
彼は御幸と屋内ブルペンにもう一度入っていた。
何が起きているかは二人しか知らない。だが、御幸がノートを持って、大塚と話していることから、御幸が作ったスコアブックを見て、配球面での打ち合わせをしていることがわかる。
「緊張感がすごすぎて、入れなかった」
東条曰く、あれはアマチュアの空気ではなかったらしい。
かなり濃密な夜だったと、大塚と御幸は語った。
そして翌日―――――決戦の日。
スタメンが改めて発表され、
1番 両(遊)倉持
2番 左(二)小湊
3番 右(三)沖田
4番 右(一)結城
5番 右(投)大塚
6番 左(捕)御幸
7番 右(中)伊佐敷
8番 左(右)白洲
9番 右(左)東条
今大会のベスト布陣。増子も代打で控え、守備に坂井が回る。解ってはいたが、沖田と倉持を外せない以上、増子はスタメンから外れた。坂井も結果を出している東条に決勝のスタメンを奪われたが、「声だけは出す」といい、監督から出番はあるから準備しておけと言われていた。
「調子は?」
バスに乗り込んだ御幸は、大塚に尋ねる。
「絶好調♪」
そう言って阿吽の呼吸で、片手でグータッチの大塚と御幸。
そしてバスに揺られ、ついに訪れた決勝の舞台。
西東京大会決勝、神宮球場。
そこには長年のライバル、稲実が待ち構えていた。
先攻めは青道、後攻めは稲実。試合前に両チームの主将ががっちりと握手をする。
「今日はどうも」
「いい試合を」
それだけいい、青道はベンチへ、そして稲実はグラウンドへ。ここから初回青道の攻撃が始まる。
稲実の先発は勿論成宮鳴。左のエースにして、関東1の投手。その彼がコールされた瞬間に、鳴り止まない拍手と歓声が響き渡る。
稲実の次に、青道のスターティングメンバーがコールされていく。
そして、電光掲示板に大塚の名がコールされると、成宮と同等の歓声が彼を出迎える。
関東1の称号をかけて、ゴールデンルーキー対稲実のエースの対決。どちらも未だ自責点ゼロ。安定した投球を続けている。
「青道、勝つかな……」
「大丈夫。あの人を信じよう……」
若菜たちはまたしても応援に駆け付けていた。そこには、沢村の家族もお忍びで参加している。
尚、沢村は恐らく出番がないかもしれないと断りを入れた模様。
『さぁ始まります、西東京大会決勝!!』
『この一戦に相応しい青空の下、両ベンチから選手が出てまいりました』
『夏2連覇を狙う去年の覇者稲城実業と、』
『去年の雪辱を果たし6年ぶりの甲子園に返り咲くか、青道高校!!』
『稲実の先発は成宮鳴!! この左腕を相手に、青道はどんな攻撃をするのでしょうか』
1右(中)神谷 1番 両(遊)倉持
2右(遊)白河 2番 左(二)小湊
3右(三)吉沢 3番 右(三)沖田
4右(捕)原田 4番 右(一)結城
5左(投)成宮 5番 右(投)大塚
6右(一)山岡 6番 左(捕)御幸
7左(右)富士川 7番 右(中)伊佐敷
8右(左)梵 8番 左(右)白洲
9左(二)平井 9番 右(左)東条
一番倉持。左打席に構え、まずは粘る事だけを優先する倉持。当てれば左打者特有の一塁への到達スピードの速さを利用し、塁に出る魂胆。
―――ヒットを出しても構わんが、とにかく粘れ、立ち上がりなら―――
バットを短めに、打席に立つ倉持。冷静にボールを見極めるのだが、やはりムラっ気があるのか成宮の球は高い。
―――やっぱ、立ち上がりは冷静になるのが一番だな――――
まだチェンジアップは使ってこない。フォークがワンバウンドしており、スライダーを投げづらい。
「―――――」
マウンドの成宮。表情こそ無表情だが、ストレート以外の制球が少し乱れている。
――――左だからスライダーが逃げる。けど、カウントは2ボール1ストライク。仕掛けにはもってこい!
スッ
バントの構えを見せる倉持
「ボールっ!!」
これでスリーボール。外角のストレートが浮いてしまう。打者有利のカウント。ここでバントを見せられたことが大きく、このカウントも理想的である。
成宮もここまで足の脅威を見せられては、当たった時が怖いと考える。
しかし――――
「ボールフォア!!」
「ちっ……」
倉持の足を警戒した成宮は、先頭打者に四球を与えてしまう。
二番小湊。どこかでは足を負傷しているが、ここでは全快の小湊。バントのサインを見せ、揺さぶりをかけに来る。
―――またバントかよ…っ!!
成宮はイラつきを抑えつつ、一塁ランナーを目で刺す。
―――ひゃはッ! ビデオで見たぜ、お前のクイック。
そして初球―――
ダッ!!
大塚の足と肩には防がれた倉持の俊足。捕手の原田もそんなことはさせない二塁へ送球。
「セーフっ!!!」
―――ヒャハッ!! 御幸と大塚で散々やられてんだ!! その程度の肩で防げるかよ!!!
あの日の屈辱よりも、という倉持の力も解放され、倉持の単独スチールが成功。
『初球単独スチール成功!! 倉持は二塁へ!!』
そして、小湊も徹底したレフト方向を意識した打撃で粘る。ストレートにはファウルで逃げ、変化球を待っているかのようなスイング。
―――こいつら……ッ!!
成宮は真っ向勝負をしようとしない青道に腹を立て、最後は球威の乗ったストレートで小湊を詰まらせる。
「くっ……(でもこれで結構粘らせてもらったよ。倉持と合わせてもう10球は超える。最初の役目は果たしたよ、沖田)」
打ち取られはしたが、進塁打で倉持は三塁へ。後は、
怪童に託す。
スタンドにいる台湾の無名投手の楊は、この初回の局面について、
「沖田の実力を考えるなら、外は見せ球。奴はアウトコースに不用意に投げるのが一番怖い。」
半端に決まるアウトローは、彼の絶好機でもある。準決勝を見る限り、インコースで詰まらされた場面もあった。
球威だけなら、真木の方が上背がある分重い。この局面、緩い球を上手く使わなければ、打たれるだろうと、彼は心の中で思う。
「舜臣と大塚だけだよ、そう言えるの……」
明川のチームメートは苦笑い。
『さぁ、一死三塁で3番沖田! 一年生ながら、青道の主軸を任されています!! このルーキーバッターは、都のプリンスを相手に、どういった打撃を見せるのでしょうか』
ゾワッ、
成宮の投手としての本能が、危険を察知する。この打者はある意味結城よりも危険だと。
3番沖田道広。広角打法の達人。あの大塚に名前を覚えさせた打者。懐が広く、手足が長い。それでいてインコース、アウトコースと隙がない。
―――まずはスライダー。様子を見るぞ。
「ボールっ!!」
僅かに外れたインコースのスライダーを見切る沖田。
―――この野郎、簡単に見切りやがって
成宮は球種の一つを悠然と見送られ、敵愾心を燃やす。
―――ここでインコースならばストレート、もしくは外角の変化球の確率が高い。先ほどのスライダーを無駄にしたくないだろう。
狙うは外の球。
「ッ!!」
そして投じた二球目のボール。
それはビデオでも確認されたチェンジアップ。スクリュー気味に沈むタイミングをずらす球。
―――こういう軌道か
「ストライクっ!!」
スクリュー気味に右打者の外へと逃げていくボール。タイミングを外すだけではなく、相当な変化をしている。狙っていても、なかなかできる事ではない。
――――中々出来る事ではない。チェンジアップはやはり一つ抜けている
沖田は、成宮の変化球の核がこれであることを見抜く。
「へっ!」
見送った沖田だが、成宮は外へと決まったこのボールに手が出ない沖田を見て笑みをこぼす。
―――なら仕掛けてみるか。見せつけられるばかりは好きではないので。
外の球に対応するべくイン寄りに立つことを決めた沖田。さっそく打席で仕掛けてきた。だが、ここで内角を狙う確率が高くなるだろう。
―――今のビビっちゃった? 外のボールが気になるよね?
―――鳴、ここは奴の顔を見ろ、全然ビビッていないぞ!
原田としても誘いをかけているのは解る。だが、本当に外を待っているのか、それともうちなのか、判断がつかない。
―――攻めにくいな、見送られ、打席を変える。セオリー通りなら、内か?
―――いいよ、クロスファイア-で仕留めてあげる
そして内角への厳しい球。その球に何と沖田は―――
ざっ、
「!?」
成宮も驚く沖田の選択は―――
「スクイズッ?!」
ダッ、慌てて本塁へと駆け寄る鳴。だがバットをひき、クロスファイア-はボールコースへとはずれる。
「ボールっ!!」
これでカウントは2ボール1ストライク。次はストライクが欲しいところ。
―――こいつら、徹底的に鳴を初回に消耗させる気か
原田としても、小技が使えたかどうかを知る機会はない。だが、沖田はそれを行おうとした。それが重要である。
――――生意気な一年生に目にモノ見せてやるよッ!
対する成宮は、徹底して主軸にも球数を稼がせる方針の青道の思惑を食い破りたい一心である。
――――ここで、成宮の様子を見るに、怒っているな。だからこそ、次は自信のある球で来るはず。序盤に緩急を見せる投球。スライダー、チェンジアップ、クロスファイア-、次は恐らく―――
成宮が繰り出したのは、外角のストレート。それも結城相手に投げるような球速。
―――敢えて裏を突いたストレート。賢い捕手なら、そうするだろうさ。
カキィィィンッッ!!!!
鮮やかなフォロースルー。その姿を見た誰もが、沖田の思惑通りの勝負であったことを肌で感じた。
『沖田の当たりはライトへ~~~!!!』
右方向への外角直球を捉えた当たりは、ぐんぐん伸びていく。まさか外角のストレートをあのように流すとは考えていなかった。それほどの難しい球なのだ。
それこそ、狙い撃ちでもしない限り、あのコースは打てない。成宮のスピードに負けてしまうはずなのだ。
「ライトっ!!!」
原田が鋭い声で声を上げる。
「くっ!」
ライト富士川が懸命に走るが打球伸びが鋭く、全然追い付いていない。一死三塁。バックホーム体勢ではないが、沖田の実力を見誤っていた。
『抜けた~~~!!! 三塁ランナー倉持はホームに還り、打った沖田は二塁を蹴る!!』
ダンッ!
結局富士川の頭を抜け、長打コース。それを見た三塁ランナーの倉持はホームイン。打った沖田は三塁へと到達する。
「こいつっ!!」
カルロスは、打った打球にしては、早過ぎる脚に驚いていた。こう見えても、部内で倉持に次いで早くなった沖田。
そして送球よりも先にスライディングで三塁へと到達した沖田。
『青道高校先制~~~!!! 1年生三番沖田のライトへのタイムリースリーベースでまずは先手を取りました!! 今の打球どうですか!? 逆方向ですよ!?』
『外角を捌くのが上手いですね。内角の球を以前はホームランにしているので、この完成度は再来年が楽しみですね』
三塁ベースでガッツポーズの沖田。
カメラ席の峰たちも、この先制には驚いていた。
「大きいですよ、これ……」
大和田が驚く。今大会無失点の成宮から先制を奪ったのだ。
「ああ……」
「沖田君凄い。それにあんな広角な打ち形……」
若菜たちはあの資料を読み漁り、色々と広角打ちについての知識はある。だが、それを実践し、長打にした沖田には、凄さが解るがゆえに驚嘆していた。
初回に大きい当たりを食らった成宮。少し動揺が見られる。
―――おいおい、外角の難しいコースだぞ、なんでそこに手が届くんだよ……
―――山はってやがったのか? それとも本能か?
続く4番結城。
―――けど、こいつにはヒットは打たせない!
――――……このサインだと? しらねぇぞ!!
初球チェンジアップで、結城の出鼻をくじく作戦。この先制の流れ、如何に結城といえど、平常心ではないはず。
カァァァン!!
『初球打ち~~!!!』
「なっ!?(結城が軽打だと!?)」
原田は明らかに右打ちを狙った打撃の結城に驚愕する。ここで4番ならば積極的にスイングをすると見込んでいた。
そして打った打球はライトの前へと落ちる。当然三塁ランナーの沖田は生還する。
大塚の作戦、片岡の作戦がハーモニーを生み、初回で鮮やかな得点劇を演出する青道高校。
『打球はライトの前に落ちるッ!! 三塁ランナー沖田は余裕でホームイン!! 連続タイムリーで、青道が2点目!!』
「……ッ!!」
迂闊だった。結城がまさかここでチームバッティングをするとは思わなかった。そして打った結城はというと。
―――危なかった。ストレートなら空振りだった。
と、妙にそわそわしていた。
「たて続けのタイムリーッ!!」
「畳み掛けろォォォ!!」
ムードがよくなる青道スタンド。
そしてここで打順は5番大塚。チェンジアップを使いづらい、厄介なバッターである。
『畳み掛ける青道高校!! ここで今日5番に座る投手の大塚!! 自らのバットで、貢献できるか!?』
―――打たせねぇよ!!
ズバァァァンッ!!
「ストライクッ!!」
内角へと決まり、まずカウントを取る成宮。大塚は反応しない。
―――へっ!
続く二球目は外角のスライダー。大塚、何とかバットがとまる。
―――変化球狙いか。ストレートで押すぞ、鳴!
カァァァンっ!
軽打でカットする大塚。打球はバックネット裏へと飛んでいく。大塚は打球を見て苦笑いをする。
―――そこは反応するか……フォークで空振りを奪うぞ。
しかし最初から振る気の無かった大塚。それを悠然と見送る。
「えっ!?」
まさに狙い球が解らない。大塚は一球目のストレートを見逃し、二球目の変化球に手が出る。3球目のストレートには手をだし、フォークを見切った。一見すると凡庸な打者にも見えなくはない。
しかし、大塚には追い込まれているのに、余裕が消えていない。成宮の球数は、初回ですでに相当数に達していた。
―――ストレート外角で空振りを奪うぞ、鳴! お前のストレートなら負けない。
ズバァァァンッ!!
最期は見逃し三振で手を出さなかった大塚。外角いっぱいのアウトローの球に手が出ない。
「しゃぁぁぁ!!!」
ツーアウト一塁となる。大塚を三振に抑え、ガッツポーズの成宮。
原田はちらりと電光掲示板を見る。そこに書かれている成宮の球数は初回にしてはかさんでいた。
「!!!!」
原田は驚愕する。やけに長いとは感じていた。だが、ここまでひどいことになっているとは思いもしなかった。
――――初回だけで、20球を超えている―――――
6番捕手、御幸
―――大きいのはいらん。とにかく追い込まれるまではボールを見て、甘い球だけを狙い撃て。
「ストライクっ!!」
内側一杯の厳しい球。左打者のそこは厳しい。
「ッ……(くはぁ……エンジン全開だな……手が出ない」」
続く二球目も入り、これで二球で追い込まれた御幸。
―――けど初回はただで凡退するつもりはねぇぞ、鳴!
カァァァンっ!!
「ファウルっ!!」
三球目のスライダーをカットする御幸。
―――こいつら、ボールに食らいついて来ている。高めの釣り玉。振らせに行け!!
「ボ、ボールっ!!」
思わず手を出しそうな御幸、何とか体を捻り、よろめきながら止める。
―――これで4球目…ノルマは……後一球……
「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」
御幸は結局ストレートで三振。長い長い初回の攻撃が終わった。
「ふぅ…………さんざん粘りやがって……」
成宮も嫌になるほど粘られた。初回だけで20球を超える球数。
そして裏の回。ついに大塚がその姿を現す。
「しまっていきましょう!!」
マウンドで声をかける大塚。背番号1をスタンドで見ていた丹波は、祈るような目で見ていた。
―――任せたぞ、大塚
『さぁ、1回の表は青道の攻撃が機能し、2点を先制。成宮も少し球数を要している立ち上がり。稲実の攻撃はどうか!?』
一番神谷カルロス・俊樹(以下カルロスと略す)。
―――こいつはパンチ力がある。それに、緩い球には強いぞ。ここはまず、シンキングファーストで――――
しかしここで大塚、首を振る。
―――こういう時は、繊細に、かつ大胆に、でしょ?
大塚はある変化球を要求する。
――――いきなりかよ……マジでお前も疲れるなぁ……
御幸は、強気なエースの要求に頼もしさを感じていた。
一方、カルロスは大塚の投球を調べていた。
―――基本は打たせて取る投球。右打者には食い込みながら沈むシンキングファースト。左打者にはカットボール。内角を攻めることの多いバッテリー。
そして初球のボールは、
ククッ、ストンッ!!
ストレートの球速で、フォークと同等の落差、フォーク以上のスピードを見せる大塚の十八番。まさか、初回の初球に投じてくるとは考えていなかった。
これまでにないデータである。
「なっ!?」
初球からスプリット。まずはカルロスの出鼻をくじく、インコースボール球のSFFを投げ込んできた大塚、御幸バッテリー。
―――んっ!? ここでSFFかよ
カルロスも読みが外れ、目を鋭くさせる。
―――次は外角のスロースライダー。タイミングを外すぞ。
「ちっ!」
「スイングっ!」
御幸の凛とした声が響き、審判も御幸の訴えを聞き入れ、ストライクをコールする。
―――シンキングファストがこないだと? ならここで、外のパラシュートチェンジ? それとももう一球SFFか?
そしてすでに投球動作を始めている大塚。テンポがよく、打者に考える余裕を与えない。
「っ!!」
そして心技体の準備が揃っていないカルロスのバットを詰まらせるシンキングファースト。
「ぐっ!?(ここで来るのかよ……ッ!)」
力無い打球は大塚の前に転がり、ピッチャーゴロ。
「まず一つっ!!」
大塚がコールする。それにつられ、コールをする内野陣だが、士気は上がっている。
二番の白河。
―――こいつにパワーはない。小湊先輩を思い浮かべればいい。
―――了解です。
「(カルロスを捻った。次は何が来る)」
バットを構えた白河。大塚は振り被り、まだボールが来ない。
「(くそっ、なんて間だ。これでは……!!)」
ゆったりとしたフォーム、今度はテンポ良く投げ込むのではなく、マイペースに投げ込んできた。
その力感を感じさせないフォームから繰り出される140キロのボールが、白河のタイミングを崩す。
「ぐっ!」
タメが長く、タイミングを再度図ろうとした白河の間を奪った大塚。フォームがカルロスの初球とは違っていた。
―――こいつら、一打席ずつ、いや、一球ずつ対策を練ってやがる…………
続く二球目はための長さを警戒した白河の意表を突く速いフォームでストレート2球で追い込む。
―――クッ、手が出ないッ!!
ポンポンと追い込まれ、続く三球目は―――
ククッ、フワッ!
「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」
今度はテンポのよいフォームからのパラシュートチェンジ。タイミングがあわず、空振り三振に打ち取られる白河。
―――…………フォームを崩す? フォームを変える? なんだそれは…………っ!
続く3番打者の吉沢は、初球のストレートに詰まらされ、ショートフライに打ち取られる。
――――ストレートが相当伸びてきた。こいつは本当に、1年生なのか?
異常な実力だ。成宮もまたオーラのようなモノはある。だが、目の前のエースは何かが違う。
――――――――まるで何かに……
目の前のエースが異常に見えた。
―――――奴は、何かに取り憑かれているようだ……
成宮とは違う、何かへの執着心。
『青道高校、大塚!! 成宮とは対照的な、素晴らしいスタートを切りました!!』
「ナイスピー!」
「いいぞ、大塚ァァ!!」
「まだ初回ですよ。後アウト24個とらないと。先は長いです」
「この野郎。信頼しちまうじゃねェか!!」
初回明暗の分かれた立ち上がり。彼は何を見ているのだろうか。
次話は未定。
この試合の投手のレベルはほぼ互角。
命運を分けるのは、あるポジションです。
ただ、沢村の強化が影響を与えています。
沖田の応援歌は何がいいかな……