ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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タイトルがフラグ。もう嫌な予感しかない。


第61話 聖地の洗礼

大会が進み、ベスト8が揃った甲子園。準々決勝第1試合、青道高校は、神木を打ち砕いた宝徳と当たることになった。

 

先発は沢村。片岡監督は、万全の状態で大塚を横浦戦にぶつけるために、沢村にこの大役を託す。

 

一方野手陣では大幅なオーダーの変更が求められた。

 

1番東条  左

2番倉持  遊

3番沖田  三

4番結城  一

5番御幸  捕

6番伊佐敷 中

7番白洲  右

8番小湊  二

9番沢村  投

 

沖田、結城の打順は変わらず。しかし、今大会出塁率の高い東条が先頭打者に、倉持が2番打者。サヨナラ打を放つなど、今大会で存在感を示し始めた御幸を5番に抜擢。怪我から復帰の小湊亮介が合流を果たしたが、まだ万全の状態ではなく、フルイニング出場は厳しい為、小湊春市がそのままスタメンに。

 

 

先発の沢村。今大会3回戦で、リリーフ適正の無さを晒し、先発固定の起用が濃厚に。リリーフ経験のある川上、降谷をいつも通り後ろに回し、丹波、大塚はスクランブル体勢。

 

リリーフでは本来の力を発揮できなかった沢村が、先発で調子を戻せるかどうかがポイントとなる。

 

 

宝徳学園は打順を少し組み替えたオーダー。3回戦で4番を打っていた足利を3番に起用。4番に3番の西木原を据え、その他は変わらず。3戦連続となる先発の平松。

 

1番鈴木  左

2番露木  三

3番足利  右

4番西木原 左

5番斉藤  一

6番佐々木 二

7番平松  投

8番芹沢  捕

9番小坂  遊

 

 

青道は宝徳を警戒し、闘志を燃やしていたが――――

 

 

 

『三回終わって青道のリードは4点!! 優勝候補前橋を撃破した勢いが感じられない宝徳!! なんとか意地を見せてほしい!!』

 

 

ヒットを何本か出すも、得点圏への二盗を御幸に封じられ、沢村のクイックがさえわたる。

 

さらには、リリーフでは見せていた不安定さがない沢村。しかし、片岡監督は―――

 

「先発ではいいが、リリーフでの苦手意識が固まってしまったか。」

 

快投を続ける沢村。リリーフの経験がなく、大舞台での失点。これが後後に響かなければいいがと考える。

 

だが、片岡監督の

 

「この試合では、スライダーをあまり使うな。特に、追い込んだときに使うリスクが大きすぎる」

スライダーが見極め始められたことで、沢村の球数が多くなる可能性がある。相手も当然スライダーを意識しているので、それはそれでこの1試合はもつと考えていた。

 

 

 

とはいえ、無難な立ち上がりの沢村に課題はないとはいえない。むしろランナーを出してもよく粘っている方だ。宝徳の動きが悪い。

 

「―――――っ」

 

対照的に、4回表のマウンドの平松は、得意球であったはずのカーブの制球に苦労しており、2回甘いインサイドの球を伊佐敷に叩き込まれ、ツーランホームランを浴びている。

 

クリスも、当初はあの前橋の打線を抑え込んだ平松を警戒していたが、彼の不調の原因を推察し、その結論は至ってシンプルなものだった。

 

「連投による疲労、ですね」

 

宝徳にとって、不退転の覚悟で臨んだ3回戦。宝徳のエースとして、平松は9回まで力投を続けた。

 

それ以前から、連続して先発、2連続完投中だった。疲労はピークに迫りつつあった。

 

 

勝負は戦う前からついていたのだ。

 

4回の裏、

 

『空振り三振~~~!!! 4回裏ですでに4つの三振を奪う沢村!! 3回戦は苦しみましたが、ベスト4進出をかけた一戦、大一番で見事な投球!!』

 

そしてスライダーのフォームの他に露呈したのは沢村の精神的な欠点。彼は途中から試合に入ることが非常に苦手なのだ。形はどうあれ、彼は気持ちで投げるタイプ。今までは先発を多く経験した彼だが、強豪校に入り、リリーフ登板は練習試合でのたった一回。しかも、勝敗がすでに決している場面。

 

 

絶対に相手に点を許してはならない。先発なら多少ヒットを打たれても、何とか試合を作る事が要求される。だが、リリーフ登板での痛打は、致命的なケースがほとんどである。

 

沢村には、大塚や降谷のような剛速球はない。チェンジアップでタイミングを外し、フォームでタイミングを外し、ようやくスライダーで空振りを奪える程度になった。投手の基本だが、彼はほかの二人に比べて圧倒的な威圧感が足りない。だが、今はそのスライダーが機能しないことを、沢村は冷静に認識していた。

 

 

5回のマウンド。一死から痛打を浴びる沢村だが、彼はリリーフ時よりも落ち着いていた。

 

一死一塁。3回戦の妙徳と同じケース。

 

――――大丈夫、ここでゲッツーなら大丈夫だ!

 

ここでの気持ちの入り方が違う。リリーフ時の彼は、そこまで余裕がなかった。だが、先発沢村はその余裕がある。

 

ここでバッターは、8番左打者の芹沢。今日は沢村のチェンジアップを弾き返している。

 

――――初球ボールのチェンジアップ。敢えてつづけるぞ

 

御幸の強気とも無謀ともいえるリード。だが、初球から振ってきた芹沢に有効で、ストライクからボールになるこの変化球に空振りを喫する。

 

「ストライクっ!!」

 

――――今度はスライダー。思い切り腕を振れ。

 

ククッ、ギュワワンッッ!!

 

――――スライダー!! 甘い球!!

 

甘く入ったスライダー。フォームに問題があることを意識した沢村の腕の振りが鈍くなり、甘いゾーンに入ってきたのだ。

 

カァァァァンっ!!

 

「!!」

ライト線に切れるファウル。一振りで合わされた。それを見た沢村は、やはり驚いていた。

 

 

――――フォームを見られるだけで、違うだけで、ここまで――――

 

 

沢村の中で、一つの柱が崩れた。スライダーという決め球が、また自分の手元から消えていくような感覚。

 

 

そして、隙の出来た沢村を前に、それを見逃す全国の高校球児はいない。

 

 

「!! スチールっ!!」

 

明らかに打者意識に傾倒していた沢村の隙をついた、7番平松の盗塁。投球で調子が出ていないが、それでもチームのために最善を試みようとしていた。

 

『間に合わない~~~!!! ここで投手の平松の盗塁!! 一死二塁のチャンスを迎えます、宝徳!!』

 

 

「―――――っ!」

思わずしかめっ面をする沢村。明らかに集中力を欠いていた。

 

「沢村、どうした?」

マウンドに駆け寄る御幸。沢村のクイックに先ほどキレがなかった。あの走力ならアウトに出来たはずだと。

 

「うっす、バッター集中でいきます!! 打たせないっす!」

 

 

「お、おう。とりあえず、スライダーはあまり使えないからな。やっぱアイツらフォームで見切ってやがる」

 

 

ズキッ、

 

 

背中を見せながら、御幸がその一言を発した時、沢村の胸に何かが走った。

 

「――――っ」

 

 

そして、再びミットを構える御幸は沢村の表情がまだ固いことが気になる。

 

――――沢村―――初球の入りが重要だぞ。まずはアウトコースにストレート。ボールからでいい。

 

 

不安定な表情のまま、沢村が投じた初球。

 

 

――――ッ!! ストライクゾーン!?

 

 

少し中に入ったボール。ボールでもいいという要求だが、

 

 

「ストライィィクっ!!」

 

 

『初球際どい球!! 制球はまだ安定しているようです、沢村』

 

 

『いきなりあのコースを使えるのはいいと思いますね。』

 

 

――――沢村、ならもう一球だ。このコースはそう簡単に撃てないはず。

 

「ボールっ!!」

 

しかし、今度はストライクを要求したのに、やや外れるストレート。ストライクに入れようとすると、ボールになり、ボールがストライクになる。

 

――――迂闊にストレートが投げ込めないな。相手はそんなことは考えていないだろうけど。

 

 

そして続くボールは癖球。沢村が最初に投げたボール。

 

 

――――ボールを最後まで見れば、ミートすれば――――

 

カキィィンッっ!!

 

「!!」

鋭い当たりが、沢村の横を通り過ぎ、あがっていく。自信を込めて投げた癖球が、内野の頭を越えていく。

 

『打球右中間!!! 真っ二つ!!! 二塁ランナー三塁を蹴る!!!』

 

すでに、平松はホームを目指すためにスピードを落とさずに走っていた。打った芹沢も二塁を狙う。

 

『二塁ランナーホームイン!! 打球処理に手間取った間に、芹沢は三塁へ!!! 宝徳、ここでタイムリースリーベース!! 差をじりじりとつめていきます!!』

 

 

さらに、9番左打者小坂。初球甘く入った高速パームを弾き返される。

 

 

 

『初球打ち~~~!!!! 落ちる球を捉えた当たりがぐんぐん伸びていく!!』

 

「洒落になってねぇぞ!! こいつはぁ!!!」

センターの伊佐敷の頭を超える痛烈な打球。

 

 

『フェンスダイレクト!!! 伊佐敷取れないッ!! 三塁ランナーは当然ホームイン!! 打ったバッターは二塁到達!! ここで、宝徳が連続タイムリーで差を2点に縮めます!!』

 

 

「―――――」

放心状態の沢村。コースにいったはずの癖球が弾き返されている。相手は、癖球を前に確実にミートに徹し、芯に当ててきている。

 

 

そして何よりも一番沢村を打ちのめしているのは―――――

 

 

――――パームボールも、打たれた―――――

 

癖球を打たれ、スライダーは機能せず、チェンジアップも合わせられ、ストレートも振り負けず、ついにはパームも打たれた。

 

 

相手打者を抑えるイメージが思い浮かばない。何を投げても打たれる。

 

最悪なメンタルでマウンドに立っている沢村。だが、そんな弱みを見せた投手を宝徳は逃さない。

 

 

打順返ってトップバッター、左打者の鈴木。逆方向への鋭い当たりを放つも、

 

 

「させるか!!」

 

三塁線を抜ける当たりを沖田が捕球、そのまま素早い送球と矢のような送球を両立させるという、美技を披露。

 

「アウトォォォ!!!!」

 

当然、打った鈴木は信じられない目で沖田を見ていた。

 

―――あれが抜けないのかよ――――

 

 

『三塁沖田のファインプレー!! ここで、同学年沢村を救う好守備を見せます!! 抜けたかと思って、抜けたァァ、と言いそうになりましたが、よく追い付きました』

 

 

これで流れを削がれた宝徳の攻撃は、2番露木がセンターフライに打ち取られて終わるものの、宝徳が地力を見せ始めていた。

 

6回表、青道は流れに乗れない。速球が走らないことを自覚した平松が緩急自在の投球を披露。スローカーブを使い、2番倉持のタイミングを崩し、内野フライに打ち取ると、

 

「ストラィィィクッ、バッターアウトっ!!」

 

3番沖田もスローカーブに見逃し三振。バットを出すことが出来ない。平松の復調は、追い上げムードが若干みられる宝徳の勢いを考えればかなり不味い展開である。

 

そして――――

 

『打球力がない!! 捕りました!! これでスリーアウトっ!! 4番結城もタイミングを外され、センターの正面を突くフライ!! 2点差に詰めた直後の守備、平松が三人で片付けました!!』

 

6回裏、沢村は立ち直りの気配を見せず、制球に荒れが目立つようになる。

 

「ボール、フォア!!」

先頭打者へのストレートのフォアボール。一番やってはならないミスを犯す沢村。チェンジアップを決め球とする投球で、打者の目が慣れ始めてきたのだ。やはり、緩急に付随しない空振りを奪える球種がなければ、全国のレベルは見逃してくれない。

 

 

――――ここで、4番。何とか長打を避けるリードで。だが、相手もそれを狙ってくるはず。

 

 

4番西木原。ここで、長打があれば、1点差。ホームランならば同点のケース。

 

 

――――ストレートをインコースボールゾーンへ。ストライクを狙うな。

 

「ボールっ!!」

インコースに外れる要求通りのボール。西木原もインコースを意識し、そしてちらりと外を見た。

 

――――外の方が気になっているのか。次は、カッターで打ち損じを狙う。

 

 

 

「ボールツーッ!!」

 

しかし、ストライクゾーンから外れるカッター。インコースを攻めきれていない。

 

――――沢村、いったん外の変化球、パームでカウントを取るぞ。

 

 

不規則変化をしながら高速で落ちるパーム。微妙に変化したこの球種が外に決まる。

 

「ストライクっ!!」

 

まずはカウントを一つとった沢村だが、機能している球種が少ないのがやはりつらい。

 

 

――――2球インコース、外の球でカウント。今の投手の状態を見れば、インコースは捨てて良いだろう。狙い目は、外のストレート。

 

西木原は沢村の投球を見て、そう判断した。だが、あくまでインコースを犠牲にするような打席の入り方はせず、いつも通りの位置でバッティングを行うことを意識していた。

 

 

――――こうなってくると、アウトコース主体になるな。インコースが入らない以上、外で勝負をするしかない。ここで、右打者へのサークルチェンジ。

 

御幸も、逃げるボールで空振りを奪う事が出来れば楽になると考えた。

 

 

しかし―――――

 

 

カキィィィンッッ!!!

 

 

それは、いつか見た光景に重なった。

 

それは予選決勝での、坂田が沢村のチェンジアップを捉えた当たりに。

 

 

「―――――――沢村――――」

 

 

 

 

天を見上げる沢村。そこには何もないと言うのに、彼はただ上を見ていた。御幸はそんな覇気のない彼の姿を見て、言葉を失う。

 

 

 

 

 

『打球突き刺さった~~~~!!!! 西木原の同点ツーラン!!! 沢村打たれました!! ここで1年生左腕を打ち砕く、試合を振り出しに戻す一撃!! 打ったのは外の変化球でしたが、』

 

 

『外角へと逃げる変化球を、逆らわずに打ちましたね。素晴らしいスイングだったと思いますよ。』

 

 

その後、後続を抑えた沢村だが、6回4失点で降板。完全に化けの皮が剥がれてきた。

 

 

「――――――」

ここまで打ち込まれたのは、恐らく高校の公式戦で初めて。大事な先発を任されたにもかかわらず、この嫌な形での失点の連続。被安打も自己ワーストとなる8本。まさに最悪の出来だった。

 

 

そして、応援に駆け付けていた長野の仲間たちも、沢村がめった打ちにあったことに、心配の声を上げる。

 

「栄ちゃん―――」

 

「けど、スライダーがなんであんなに――――」

 

仲間たちの間でも、絶賛されていたスライダーが突然機能しなくなったのだ。あの変化はバットが止まらないはずなのに。

 

「栄純――――」

若菜も、スライダーから始まった不調の原因が分からない。この遠目からでは分からない。だが、スライダーを覚えたからこその不調だという事が解った。

 

 

今年の夏、快進撃を続けてきた青道高校。その中心は下級生の投手陣。だが、その一角が崩れたのだ。

 

4-4の同点。地元甲子園の舞台を前に、地力を見せ始めた宝徳学園。青道の試練は続く。

 

 

 

 




モブ軍団に凹られるなんてことはあっただろうか。最初の勢いは彼方へと消えました。

まあモブとはいっても、基本的な選手個々のスペックは宝徳のほうが上ですね。一部の選手が頑張っているから同格に戦っていますが・・・・



勝ち進めば進むほど、チーム力が疲弊していく。夏の終わりに何人無事な姿でいられるんでしょうか。(精神的にも、身体的にも)







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