ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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お久しぶりです。


第64話 発覚

青道だけではなく、その光景を目に焼き付けているのは―――――

 

 

「春の悪夢を思い出すな……。もう一度戦う破目になるのか……」

沖縄のエース、柿崎は呻くようにつぶやいた。今年の春、思い知った本当の超高校級。投手としてのプライドを完全に壊された試合。

 

7回途中、6失点。その試合で、チームを導いてきたエースの面影はなかった。

 

 

あの時の柿崎は、この横浦に、特に坂田を最後まで抑えることが出来なかった。今でこそ安定感のある投球を実現している柿崎だが、それでもあの打者を抑えられる気がしなかった。

 

 

――――アイツと戦う時まで、マウンドで打者に怯えることなんて、なかった――――

 

 

沖縄のエースすら恐れおののく最強の打者、坂田久遠。もし神木ならどうしていただろうかと、想わずにはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

プロ注目の舘が、6回持たないばかりか、7点も奪われるという姿。それはプロスカウトたちも驚愕させていた。

 

「ナックルカーブを覚えて、緩急を覚えた舘君が、ここまで打たれるとは―――」

 

「いや、それよりも大阪桐生のバットの振りが鈍い。そして、それを演出しているのは――――」

 

 

扇の要で存在感を見せつける若き司令塔。投手はチーム力を爆発的に向上させるという。

 

だが捕手は違う。捕手はチームの要、名捕手の存在は、チーム力の底上げになくてはならない最後のピース。

 

それが横浦にとっての黒羽金一。

 

だが和田が捕手の全てに応えられるわけではない。

 

 

カァァァァンッッ!!!

 

『大量リードを貰った和田。この回連打で一死一塁二塁のピンチ。』

 

『これですよね。予選ではあまりひどい事にはなりませんでしたが、打たれ出したら止まらないんですよね、彼は』

 

セットポジションでの球威低下、シュート回転する確率が高くなる事が、この投手の短所。

 

 

9点を奪われて、このままでは終われない大阪桐生。この相手から恵んだチャンスを逃すはずもなく、

 

 

カキィィィィンッッッ!!!

 

『ここで追撃となるスリーランホームラン~~~~!!! 和田打たれました!! 今のも真直ぐが甘く入りましたね』

 

『本当に、急に悪くなったりよくなったりしますからね。横浦の打線に助けられていますよ』

 

この回更に連打で再三ピンチを作ってしまった和田は、7回途中5失点で降板。しかし、その勢いを完全に飲み込む横浦相手にはあまり意味がなく――――

 

 

『試合終了~~~~!!!! 17-5!! 乱打戦を制したのは東の名門、横浦高校!!! 大阪桐生の追撃実らず!! あまりにも圧倒的! 何という得点力!! 何という破壊力だァァ!!』

 

『ここまで打てるチームを見たことがありませんね。こんなチームを抑えることが出来る投手が果たして何人いるのか…。これで総得点数はどこまでいったのでしょうか』

 

『63得点です。大会記録、74得点までは後11点。そして残りは2試合。今の打線の調子を考えれば、十分射程圏内ですね。』

 

『そしてこの瞬間、準決勝は西東京代表、青道高校との対戦が決まった横浦高校!! 大会随一の投手陣対大会最強の打線!! 最高の盾と矛の一戦は、どのような展開を見せるのか!?』

 

 

まるで、一昔前の青道の試合を見るかのようだった試合。投手に難のある高校。打撃は全国で間違いなくトップクラス。今シーズン最強の打線と言っていいだろう。

 

青道と違うのは、長距離砲が何人もおり、選球眼がいい事。投手が悪くても、全国屈指の投手から大量得点を奪い、情け容赦なくうちこむことが出来る。

 

 

東の火薬庫、横浦高校。

 

 

「―――――――――」

青道ナインは言葉が出ない。まさか舘が7失点。その後は毎回得点で失点を繰り返す大阪桐生。

 

「ウソだろ―――俺達が手古摺った舘相手に、7得点―――」

伊佐敷は、この並外れた得点力に、唖然とする。

 

「――――悔しいけど、これは完全に打力で負けているね」

小湊も、打力では負けていると断言する。横浦は好投手を悉く燃やしている。青道は妙徳にあれほど手古摺った。

 

光星のスプリッター歳原、三重の剛腕榎本らのチームがいずれも二ケタ失点で打ち崩されている。予選でも、140キロ投手を3人揃えた東海大相手に15得点。その他140キロを超える神奈川の本格派はいずれも横浦と当たった場合、7失点以上しているのだ。

 

 

 

 

「総得点数は負けていますけど、俺達だってここまで勝ち上がった自信があります。妙に意識しない方がいいですよ」

御幸は、対戦している投手が違うので、何とも言えないと言い切る。甲子園は何が起きるかわからない。強豪校があっさり負けることもあり得るのだ。

 

 

しかし、この結果を見て御幸も警戒を強めないわけにはいかなかった。

 

スコアはついに二桁に到達し、最終的な結果は17-5となった。大阪桐生も粘ったが、投手陣が崩壊した彼らに為す術はなかった。それでも、和田も終盤で大阪打線につかまり、7回途中5失点で降板。青道がつけ入るすきがあるとすれば、横浦の投手陣。

対する横浦は19本の長短打を織り交ぜ、その圧倒的な打力は健在。4試合連続となる二桁得点を記録。横浦の総得点数は63得点。これで、記録に並ぶまで11得点となる。残す試合は2つ。甲子園ファンも、1世紀近い年月を経てなお、破られないこの記録が破られるかもしれないという期待を抱いていた。

 

「そしてこれが―――今日の横浦の打順。」

 

1番右 高木  二 2年生

2番左 青木  中

3番左 岡本  三

4番右 坂田  右

5番左 黒羽  捕 1年生

6番両 松井  遊

7番左 後藤  一 2年生

8番右 多村  左 2年生

9番右 和田  投

 

スタメンだけで、2年生が3人、ベンチ入りは3人。一年生も2人がベンチ入り。来年も恐らく夏を沸かせることが間違いないだろう。

 

しかも、穴と思われていた5番に勝負強い強肩強打の捕手が加わる。強打者揃いの怪物打線。

 

「しかも、1年生の中継ぎ投手陣の安定感がいい」

 

右のスリークウォーター、諸星和己。MAX140キロのストレートに加え、チェンジアップ、カーブという本格派と技巧派の中間のような投手。

 

左のオーバースロー、辻原公康。ストレートは最速141キロ、変化球はドロップカーブ。右打者に食い込むクロスファイアーと、空振りが取れるこのドロップ。

 

和田を早めに打ち崩すことがまず勝利の大前提。

 

 

青道で大塚が沢村らを指導したように、黒羽は彼らの素質を昨年度の全中大会で見抜き、誘ったのだ。そして、彼らの長所を最大限伸ばした。

 

青道にとって幸いなのは、二人にはスタミナが足りないこと。この二人は短いイニングしか投げない。だが、その事実が存在したとしても、この打線を抑えなくてはならないのだ。

 

 

歴史的快挙すら視野に入れている、この近年まれにみる打線を。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その全国最強打線と、青道の対決を楽しみにしているのは、何も甲子園のファンだけではない。

 

 

薬師高校では――――

 

「全国最強の打線、ねぇ。総得点数がおよそ100年ぶりに更新されたら、恐らく世間は驚くだろうな。だが、青道は恐らくアイツが登板かぁ」

轟雷蔵監督は、この史上最強の横浦打線相手に、大塚がどこまでやれるかが秋大会での目安になると考えていた。

 

「カハハハハ!!! あいつらが投げるのか!! というか秋大会が待ち遠しいなぁ!!」

あれだけ叩きのめされても、もう切り替わっている轟。そして、自分が対戦したことがなかった、大塚という投手は、青道で一番の投手。

 

野球ファンとして、純粋にどうなるのかが楽しみなのだ。

 

「俺としては、沖田には借りがありますからね。秋大会では抑えてやりますよ」

真田は、沖田にお見舞いされた内角打ちのホームランがまだ頭に残っている。故に、沖田を抑えない限り、自分は前には進めないと考えているのだ。

 

「というか、あの沢村とかいうやつ、宝徳戦は調子が悪かったな。」

三島は、沢村の調子が落ちていることに言及する。

 

 

「俺達とやり合う前に潰れるなよ。今度こそ俺達が打ち崩してやる」

三島は、夏の予選で青道にコールド勝ちされた時に一番悔し涙を見せていた。一番悔しい思いをしたのは轟だが、三島は試合後にリベンジを誓っていた。

 

「ああ。とにかく、俺達はまだ青道から得点を奪えていない。まずはあの投手陣を打たないと。」

秋葉は、まずはあの高い投手力が何よりも厄介だと考えている。

 

薬師の見立てでは、まず投手の柱は大塚、打の柱は沖田。この二人のエースとバッターをいかに叩くかだ。

 

「まあ、俺らがやる前に、火だるまになる可能性もあるがな」

 

 

いくら青道でも、失点は免れない。例え大塚であってもと。

 

 

 

 

市大三高でも―――

 

 

「春の選抜よりもスケールアップしているこの打線を前に、誰がキーになるかはもう解っている。」

 

当てられたら確実にホームランされるであろう、川上ではない。

 

そして降谷。いくら変化球を覚えたとはいえ、2球種で長いイニングを抑えるのは厳しい。

 

沢村は、抑えられるかもしれないが、抑えられないかもしれない。だからこそ逆に怖い。だが、はまれば波に乗るだろう。しかし、スライダーを封じられた瞬間に終戦だろう。

 

丹波の投球を見る限り、妙徳に手古摺るようでは危ない。良くて短いイニングだろう。

 

そう、世間は見ているし、彼らも今はそう考えていた。

 

 

 

よって、先発するのは――――

 

「大塚がカギを握っているという事か」

 

「ああ。アイツがどこまでやれるか。それが青道の勝利を左右する。」

 

高校最強の怪物打線対新世代筆頭。高校野球の次――――――

 

 

プロ野球のスカウト陣の出方すら占う一戦となるのは間違いない。

 

 

今年最高のルーキーが、横裏ドラフト候補達にどれだけの実力を示すか。

 

 

 

その世代を代表する大塚対坂田の激突。チーム編成に影響がでるはずだ。

 

 

 

 

 

 

甲子園は近年稀に見る大盛況。大阪桐生と横浦の一戦で不完全燃焼の甲子園ファンは、大記録を更新できるかがかかる横浦と、天才大塚の対戦を心待ちにしていた。

 

 

 

 

「大塚君」

その世間の目を浴びている好投手に、少女が勇気を振り絞り、前に立つ。

 

「―――――あと2勝。自分の体は解っているよ」

 

「怪我が、怖くないんですか――――」

 

「―――――怖いけど、無茶はしないよ。」

 

「それが無茶なんです!! 怪我をして、また―――またリハビリなんて―――」

 

「――――右の5本目の肋骨を痛めている。医者にはそう言われた。まだ骨折ではないけれど、それでも不味いらしい――――」

それはもう、骨折の一歩手前。腰の回転が良く、1年生とは思えないほどの剛速球を投げ込み、且つ9回を投げ切れる体力がある。その弊害が、ここにきて大塚にしわ寄せが来ていたのだ。

 

「上半身の筋肉が足りない。大丈夫、横浦戦で抑えたら、もう長い回は投げないと思うから」

 

「――――せめて――――せめて監督に伝えてください!!! このままじゃ、大塚君が壊れちゃう――――」

懇願に近い吉川の言葉。自分の事ではないのに、他人に対してこうも必死になっている。その姿が、何か痛々しくて、それでもどこか嬉しいという気持ちも抱いた大塚。

 

だが、一番の要因は、

 

――――ホント、まあ断れない空気だよな――――

 

「――――まったく、こんなんじゃ、断れないなぁ、まったく――――」

 

「大塚君――――」

こんな時でも軽口を言う余裕がある大塚に、キッ、と睨む吉川。それは怪我をして無茶をしている大塚を咎める意味を込めている。

 

「―――ハァ。それで、隠れていないで、出てきたらどうです?」

大塚は、先程気づいた視線に対し、そんな言葉を投げる。

 

「――――大塚――――っ」

そこには信じられない、という顔をしている御幸、そしてマネージャー陣。

 

「すいません、先輩。あの投球にはやはりリスクがあったようです。」

 

「――――違う、あの時だ。明川戦のスライディング。あの時に痛めたのか――――」

御幸はそれだけではないと、アレが決定打だったと感じていた。大塚の怪我が真実である以上、アレが直接的な原因。

 

 

けど言わなかったのは―――――

 

「もし言えば、明川の皆さんに迷惑がかかる。御幸先輩、絶対に明川学園の件は言わないでください。」

 

天才が怪我をした理由。それが明らかになれば、沖田の二の舞だ。彼のような理由で、野球で苦悩してほしくなかった。

 

あの時は全て、全力を尽くして戦った。だからこそ、言い訳をしたくないのだ。

 

相手を傷つけたくないのだ。

 

 

 

「――――投げ切れるわけがない。無理だと思ったら、俺が直訴してでも降板してもらうからな。」

厳しい表情で、御幸はそう断言する。この投手が怪我で消えることだけは避けなくてはならない。それは青道全体を考えているだけではなく、御幸が、この投手の未来を守りたいと感じているからだ。御幸にとってのトラウマでもある――――

 

―――こいつを、クリス先輩の二の舞になんてさせない!!

 

 

「大塚君―――なんでもっと、早く言わなかったの?」

貴子は、有望な1年生投手の怪我の発覚に、言葉を震わせる。

 

 

「そうですね―――先輩達が喜んでいる姿を見たいと思ったから、このチームを頂点に導くために―――俺自身がマウンドを降りたくないと思ったからです――――横浦戦は責任を持って投げます。これが、俺のけじめです。」

 

その後、大塚は泣き崩れる吉川を御幸やマネージャー陣に任せ、監督へと怪我の報告をしに行った。

 

ガンッ!!!

 

壁に思わず拳をぶつけてしまった御幸。表情は歪み、その二枚目の顔は、崩れていた。

 

「――――――」

どうして気づいてやれなかった。そんな後悔だけが彼の心に残っていた。

 

「―――クリス先輩の時もそうだ。俺はいつも、遅い――――ッ」

 

 

 

そして、

 

 

 

「お、大塚――――それは本当なのか――――!?というより、体は大丈夫なのか!?」

太田部長が驚愕し、そして大塚の事を気遣うように言葉を続ける。

 

「――――どうして言わなかった。」

大塚の体を貫くような、やや非難の眼差しを向ける片岡監督。

 

「――――違和感を覚えたのは、薬師戦。症例が解ったのは、稲実戦の後です」

包み隠さず、大塚は白状する。彼の前で、嘘を言う覚悟などない。

 

「この状態で、お前は――――」

 

 

投げてきたというのか、これが大人達の気持ちだった。

 

 

 

 

「けど、横浦戦だけは、この一戦だけは、俺の責任に賭けて、チームを勝利に導きます。迷惑をかけた分は、きっちり返します」

だが、これだけは言う。横浦戦、先発で勝機があるのは大塚。ギャンブルをするなら沢村。

 

もしくは――――

 

 

「――――限界が来たと感じたら、すぐに降板させる。だが、一つだけいいか、大塚」

準決勝の“登板”を許す片岡監督。だが、その後の言葉は、大塚が抱いていた心に響くモノだった。

 

「お前はそんなにも―――――このチームを信じられなかったのか――――すまなかった」

頭を下げる片岡監督。そしてその姿に驚く太田部長と、高島副部長。

 

 

大塚が無理をしなくていいようなチームに鍛えることが出来なかった。エースや柱という役回りが彼を苦しめたのだ。

 

 

片岡監督も、そんな経験があった。だからこそ、強く言えなかったのだ。

 

 

「――――――っ」

それは、大塚が抱える本当の壁。如何にチームを信じるか、その心が足りなかったことを示している。

 

「――――すいません。今の俺には、片岡監督が期待する答えは、持っていません。」

 

 

 

 

そして一方の準決勝の相手、横浦高校では―――

 

「まさか、こんな縁があるとはな、神様に少しは感謝するべきだろう」

後藤は、かつてのチームメイトと、準決勝で戦えることに喜びを感じていた。

 

「ああ、あの大塚坊やと戦うとはなぁ。あの時ほど、神様を恨んだことはなかったが、存外に俺達には甘いらしい。まあ、本番でアイツにノーノー食らわされないように注意しないとな」

多村は、あの投手の復活と、甲子園での再戦を後藤と同じく感慨深いものだと考えていた。彼らにとって、あの事件は分岐点でもあった。

 

「負けるつもりはありませんよ。勝負の世界。勝つ気持ちを失ったら、面白くはないですからね」

そして元バッテリーの黒羽。盟友との大舞台での対決に、心躍っていた。

 

――――負けないからな、栄治!!

 

 

 

 




温度差がヤバイ。
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