ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

83 / 150
さて、誰の言葉でしょう。


第76話 何が違う、どう違う

6回裏、意気込みを見せる青道打撃陣だが、本格的に目覚めてきた琉球のサウスポーに封じ込められる。

 

ククッ!!!

 

『スライダ~~~~!!!! 4者連続!! 変化球の切れも戻ってきた柿崎!!! 5番御幸も空振り三振!! バットに当たりませんでした!!』

 

 

 

ストレートは最速150キロを計測。変化球の切れも戻り、手が出なくなっている。それでいて、テンポもよくなり、光南にもリズムが生まれ始めていた。

 

ズバァァァンッっ!!

 

「――――っ(クロスファイア―ッ)」

手が出ない伊佐敷。抉るようなクロスファイア-。沢村と同等の角度がありながら、それをはるかに超えるスピードで迫るこの剛速球に、バットを出す事すら出来ない。

 

「ストライクっ!!」

 

『このクロスファイアーの前に、バットを出せません、伊佐敷っ!! 140キロ中盤を計測しています!!』

 

 

続く2球目は、

 

ククッ、ストンッ!!

 

「ストライクツーっ!!」

 

フォークボール、ストレートが走り始めたからこそ、効果的になるボール。アウトコースのボール球に手が出てしまう。

 

 

 

スタンドの大塚は、厳しい表情で戦況を見つめていた。

 

「柿崎投手の体にキレが戻っている。今の体の調子に適応している今、あの投球を崩すのは難しい。」

あの状態の投手は、いわばゾーンに入っているようなものだ。その体に出来る限界値に達している状態。つまり最高の状態。

 

自分ですらその一片にやっと届いているような物。彼は、間違いなく―――――

 

 

――――ゾーンに入った状態を維持できる時間は、俺よりも長い―――

 

 

「ストライィィィクッ!! バッターアウトォォォ!!!」

 

しかし、大塚が危惧しているのは、それだけではない。柿崎の覚醒は大して問題ではない。

 

 

――――チームの状態がまずい。俺と降谷がいないせいで、チーム全体が焦っている。

 

拳をぎゅっと握りしめる大塚。何もできずにチームに迷惑をかけている自分が許せない。それが、本当に。

 

 

伊佐敷の後の増子も三振。この回は3者連続三振で攻撃が終わった青道高校。いや、終わってしまった。

 

これで、前の回から5者連続三振。

 

 

 

青道を圧倒する琉球のサウスポーエース。流れを獲りに来ていた。

 

 

 

 

 

当然、攻撃陣の不調は、守備にも影響を与える。

 

7回表、

 

――――みんな固い、俺が投げ抜かないと――――

 

川上が強い気持ちで投げる。投手の立場である彼は、それほどプレッシャーがかかっているわけではない。この大舞台で、最善を尽くしたい気持ちが強い彼は、気持ちに乱れは生じていない。

 

 

――――下位打線を中心に、リズムが悪い。

 

沖田も色々と、表情がよくないナインの様子を気にしていた。抑え込まれた面々が、そろって暗い顔をしている。それがよくない。リードしているのは自分たちだという事、相手は追い付かないと勝てないというのに、追い詰められた顔をしているのだ。

 

 

――――この感じ、久しぶりだ。でも、この空気はダメだ―――

 

東条も、全国で経験があるのか、この空気を敏感に感じ取っていた。

 

 

 

 

――――うちが得点できないなら、もうこれ以上の失点を許さないリードが必要―――

 

それが求められるが、そう思ってリードを狭めることが、全国経験、それも緊迫したゲームに慣れていない彼の弱点。

 

 

カァァァンっ!

 

―――打ち取った当たり!

 

内野ゴロ、三塁ゴロ。完全に詰まらせている。

 

 

ポロっ、

 

「!!!」

しかし、ここで増子が痛恨のエラー。一死からランナーを出してしまう。

 

『ここで青道にエラー!! 一死から4番垣屋が塁に出ます!!』

 

 

――――違う、今のはイレギュラーしただけ。先輩たちを、バックを信じるんだ。

 

川上も、このエラーで流れが変わるかもしれないことを感じているからこそ、強い気持ちを持つ事が大切だと感じていた。

 

 

「大丈夫、まだコースにも行っているし、疲れているわけじゃない。まだ俺は行ける。」

 

独り言のように、川上は何かを言って心を落ち着かせる。セルフコントロール。そして、マウンドのプレートを一周ぐるっと回ることで、心を鎮める。

 

――――― 一塁ランナーも、隙あらば狙ってくる。クイックと間合いも気を付けないと。

 

今までこんな風に余裕をもっていろいろ考えることはなかった。が、川上は視野を広くしてマウンドに立っている。

 

ズバァァァンッっ!!

 

「ストライクツーっ!!」

4番垣屋を出したが、5番巌に対してはストライク先行。2球で追い込む。

 

――――クイックが早い。先ほどもそうだが、これではタイミングが―――――

 

 

早過ぎる―――――――

 

 

カァァァンっ!!

 

「ゲッツーっ!!!」

 

セカンド方面へと転がる打球。スライダーを打たされた巌が走る。

 

 

――――――っ、

 

「!!」

一瞬ボールを握り損ねた小湊。そのタイムロスが、

 

 

「先輩っ!!」

沖田へとトスをするが――――

 

――――間に合わないッ!!

 

 

「セーフっ セーフっ!!!」

 

『ゲッツー成立せず!!! 5番巌が何とか逃れました!! 二塁小湊が何か動きを止めたように見えますが―――』

 

『握り損ねたのでしょうか、やはり、この僅差の場面は相当なプレッシャーなんでしょう――――』

 

 

『しかし、光南!! ランナーを進められず、ツーアウト!!』

 

―――――くそっ、何してんだよ、俺は。投手陣を助けるどころか、俺達が――――

 

 

「――――――」

マウンドで、一塁ランナー、そして御幸のミットを交互に見ている無表情の川上。集中しているのか、未だに崩れる気配がない。

 

 

だが、その根幹が崩れつつあった。

 

 

 

―――― 一也、外が多くないか? 

 

川上は怪訝そうに御幸のリードに疑問を持つ。外の出し入れは、川上の得意分野。しかし、それだけではだめだという事が解っている。内角を突く。両サイドが必要。

 

光南の打者、6番権藤は御幸が次にボールゾーンの変化球を持ってくることを予測した。

 

――――この投手の特徴を活かしてくるはず。内角にはストライクが入らないというより、捕手が嫌がっているな。

 

 

 

 

 

―――――大きいのを打たれるわけにはいかない。ここで、ゴロを打たせて、低めの変化球で終わらせる。

 

 

ドクンっ、

 

 

御幸は余裕そうな表情を浮かべているが、違う。彼はそれで“終わってほしい”のだ。

 

 

ツーアウト、平行カウント2エンドツーから6球目。

 

 

その瞬間、一塁ランナーがスタート。川上はそれを無視する。投げるのはボールゾーン。

 

 

―――――あっ、

 

この時初めて、川上は表情を崩した。コントロールミスをしたのではない。

 

6番権藤が、膝を低くしながら、この低めの際どいボールに食らいつこうとしているのが見えたのだ。

 

 

 

がキィィィィンッッッ!!!!!

 

 

「―――――――――――え?」

 

 

川上は打った方面を見上げる。打球が空高くに飛んでいる。

 

 

そして――――――

 

 

『入ったァァァァ!!!!! 光南高校逆転!!!!! 6番権藤のツーランホームランで、試合をひっくり返しました!!!』

 

 

「―――――――――――――」

打たれた御幸は、打球方向を見ているだけ。動けない。こういう時は、打たれた投手へと駆け寄るのが普通だが、それすら出来ていなかった。

 

 

「一也―――――」

川上がしゃべることで自分を落ち着かせて、少しプレート周りをまわっている時、御幸が制止したまま、動いていないことに気づく。

 

 

打たれた川上も当然ショックだが、マウンドに上がったからには妥協を許したくない。川上は、湧き上がる感情を抑えて、冷静であることを努めた。

 

 

 

『今のボール。ボールですよね? 狙っていたのでしょうか?』

 

 

『ええ。確実に狙われていましたね。あのボール単体なら素晴らしいボールですよ。ストライクからボールになる決め球にはうってつけです。しかし、あれだけアウトコース一辺倒のリードでは、あのコースはボールでも撃たれますね。』

 

 

『そうですか。さて、これで逆転を許した青道高校。マウンドの川上は立ち直れるか?』

 

 

「一也?」

川上が、喋っても、御幸はライトスタンドに運ばれた打球の方向を見ているだけ。

 

「―――――」

 

「一也!!」

いい加減ぼうっとしたままなので、声のトーンを上げる川上。今まで勝ち気な性格の彼が、ここまで打ちのめされているのは珍しい。

 

「あ……」

 

「次の打者を打ち取れば、まだわからない。悔しいのは俺だって同じなんだ―――」

悔しそうな顔で、白状する川上。それを聞いてハッとする御幸。

 

 

「あの時みたいに、大塚に負担をかけたように、チームに迷惑をかけたくないッ」

叫ぶように本音を吐いた川上。大塚が登板せざるを得ない状況になったのは、彼や降谷が崩れたから。

 

皆大塚の事で後ろめたさを感じていた。だが一番感じていたのは川上なのだ。

 

 

投手として、話の合う後輩に、無茶をさせてしまった。それが悔しかったのだ。

 

 

だから折れるわけにはいかない。折れるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

「わ、悪い。」

 

 

その後、7番上杉をショートゴロに打ち取った川上。やや苦い表情でマウンドを降りる。

 

 

「御幸――――」

 

その背中が、小さく見えた。

 

 

7回の裏、柿崎の勢いは止まらない。白洲が打席に向かうが

 

 

 

ズバァァァァンッッッ!!!

 

「ストライィィィクッ!!! バッターアウトっ!!!」

 

『三振~~~~!!! 勢い止まらず!! 援護をもらった柿崎!! 一段とアクセルを踏んできたか!!』

 

あえなく白洲が三振。まるで相手にならなかった。

 

そして次の打者は川上、当然代打を起用する片岡監督。1年生の小湊を出すが―――

 

『打ち上げた!! サードフライ!! これでツーアウト!! 速い球に詰まらされましたね』

 

何もできない。何もしかけられない。柿崎を攻略できていない。

 

連続奪三振は6でストップするものの、柿崎が最後の力を振り絞り、青道の打者をねじ伏せに来ていた。

 

試合終盤、投手にとって一番苦しくなり始める時間帯で、彼は力を出しているのだ。

 

 

神木という先輩投手にあこがれを抱いていたサウスポー。だが、その憧れの存在にはなく、彼にあるモノ。

 

 

それは、圧倒的なタフネス。先天的な体の頑強さ。

 

 

だからこそ、彼はこの投球を見せつけることが出来るのだ。

 

 

 

 

「――――――――――」

ガックリと肩を落とす春市。

 

続く東条―――――

 

ドゴォォォォぉんっっ!!!!

 

「ストラィィィクッッッ!!!」

 

『ここでまた出ました、150キロっ!!! 今日安打を打たれている東条に対し、アクセル全開!! 鬼の形相で立ちはだかります!!』

 

 

――――安打していた時の本調子ではない時とは違う。全然早い―――

 

 

キィィンッっ!!

 

「ファウルボールっ!!」

 

148キロ高めのストレート。この威力のあるスピードボールに、東条は当てることが精一杯。

 

キィィンッっ!!

 

「ファウルっ!!」

 

 

球速表示には147キロ。

 

 

3球連続でストレート。しかも140キロ後半のスピードボールに食らいつく。だが、誰の目が見ても、追い込まれているのは東条。

 

――――それでもっ

 

 

ククッ、ストンッ!!

 

 

「ボールっ!!」

低めのスライダー。振らせにきたが、これで振るようなら1年生でスタメンを張れるわけがない。

 

 

キィィンッっ!!

 

「ファウルっ!!」

一転してストレート。当てるのがまだ精一杯。打球も前に飛ばず、苦しい表情の東条。

 

キィィンッ!!

 

「ファウル!!」

また2球連続でストレート。粘りを見せる東条。その後も継続して打席に立ち続ける東条。フルカウントまで持っていき―――――

 

ドゴォォォォンッッ!!

 

――――――アウトコース、手が出ない―――――っ

 

 

東条は、ねじ伏せられた気分になった。が、

 

 

「ボール、フォア!!」

 

――――そこは取らないのか!? ヒットは難しいけど、何とか――

 

マウンドの柿崎も、

 

「え!? (マジか、いいとこ行ったと思ったんだけどなぁ)」

 

少し苦笑する柿崎。今日安打を打たれている東条を是非ともねじ伏せたかったのだ。だが、歩かせてしまって不本意な様子。

 

 

 

続く小湊も粘りを見せる。

 

――――ヒットにすることが難しくても、カットは可能だね。

 

小湊の狙いは―――――

 

 

――――甘いフォーク!!

 

 

カキィィィンッッ!!

 

 

『センター前~~~!!!! 小湊またヒット!!! 粘り勝ち!!! ツーアウトからランナーを出してチャンス拡大の青道高校!!! 3番沖田を迎えます!!』

 

 

「げぇ!! (やっべ、甘く投げちまった!!)」

グローブで頭を抑える柿崎。笑顔のままだが、だんだんと苦しい表情が垣間見られるようになる。

 

 

――――落ち着け、カッキー!! まだお前の球威はそこまで墜ちてるわけじゃない!! 

 

捕手の上杉も、ボールは来ていると伝え、柿崎に自信を失わせることを避けようと試みる。

 

 

 

ようやく、また一段上へと駆け上がった自分達のエースを、ここで潰させるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

――――打席で球を見たい、けど出塁しないといけない――――

 

だからこそ、同じように小湊同様に粘る沖田。高めのストレートに対してあってきてはいるが、それでも捉えきれない時がある。

 

ストレートを続け、変化球でふらせる。この基本の投球を見切った沖田は、またしても平行カウントに持ち込む。

 

 

勝負の5球目、

 

 

スッ、

 

 

――――無警戒すぎだ――――っ

 

 

コンっ、

 

 

「なっ!!」

 

慌てて柿崎が打球に対して走るが、

 

ズキッ、

 

「ッ!!」

打球を取った瞬間に無理な体勢をしたのか、転倒してしまう。倒れてしまった彼が体勢を立て直すも、

 

 

「セーフっ、セーフっ!!!」

 

 

『満塁~~~~!!! これで満塁です!! ツーアウトながら、満塁のチャンス!! ここで4番の結城を迎えます!!』

 

 

「こ、この局面でバントヒット――――さすが!!」

三塁ベースで笑顔の東条。やはり何かを持っていると感じた。そしてこの局面――――

 

 

4番結城、7回の裏ツーアウト満塁。絶好の場面。1、2番が機能し、3番沖田のお得意のバントヒット。

 

光南側はタイムを取る。

 

「ここだな、ここが勝負の分かれ目。テンションあがってきたな♪」

柿崎はこの終盤の大ピンチでも冷静。春には一度心が折れてしまいそうなぐらい打ちこまれたので、これぐらいでは動じない。

 

「ああ。春夏連覇の為の、最後の難関。つうか、マジ緊張感なさすぎ」

上杉も、相手の4番との対決となるため、柿崎に発破をかける。

 

「いやいや、マジで逃げ出したい気分」

 

「エースがそれなら世話ないなぁ、おい!!」

上杉が柿崎の本音に過剰反応するも、彼は手でそれを途中で制す。

 

 

 

 

「けど、こっちも“チーム背負った背番号”貰ってんだ。ねじ伏せてやるよ。最高のボールでな!!」

ニッ、と笑う琉球の左腕。ここで笑顔になれる胆力を持ち合わせる男。苦しい筈なのだが、こういうところは図太い。

 

 

「なんだよ。全然大丈夫じゃねェか」

そんなエースの様子に表情が柔らかくなる上杉。

 

 

「いやいやマジこの局面は怖いって。」

その言葉に手をぶんぶんと振って否定するエース。

 

 

「どっちだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、チームのエース対チームの4番!! 先程は三振に打ち取られたものの、ここで雪辱を晴らし、優勝へと近づく一打を打てるか、4番の結城!!』

 

 

キィィンッっ!!

 

「ファウル!!」

ストレートに振り負けない結城。初球鋭いスイングが、レフト線を襲う。

 

「―――ッ!?」

一振りで、ストレートに合わされた柿崎。ここにきて、結城のスイングに鋭さが戻った。

 

――――ハァ!? さっき空振りしたボールにもう反応できるのかよ。こいつら無名じゃねェな

 

冷や汗が止まらない柿崎。坂田には届かないものの、オーラを感じさせるスラッガー、結城を前にして、投手として危険を察知する。

 

――――マジで、ミラクル起こす実力もってんじゃねェか!! 怖すぎだな、おいおい!!

 

 

 

 

「ボール!!」

アウトコース際どいストレート。これを見た結城。

 

続く3球目、

 

「――――!!」

柿崎も投げた瞬間に表情を崩した一球。内に僅かに入ったスライダー。

 

 

 

カキィィィィンッッッ!!!!!

 

 

『打ったぁァァァ!!!!! ライト大きい!! 伸びていく~~~~!!!』

 

大きく飛び上がった打球は右中間へと伸びていく。その瞬間、青道応援席だけではなく、甲子園全体が揺れる。

 

 

 

「行けェェェ!!!!」

東条が声を張り上げる。

 

「伸びろォォォォぉ!!!!!」

小湊が叫ぶ。珍しく闘志を抜きだしにした一面。この一打で勝負が決まるかもしれないのだ。彼も必死だ。

 

 

「抜けろォォォォぉ!!!!!」

沖田も声を上げる。この試合で、この当たり。抜けることを願う。

 

 

『センターバック、センターバックする!!! 布施どうだぁぁぁぁ!?!?!』

 

センター布施、この打球に―――

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

身体を投げ出し、ボールへと突っ込む。そして―――――

 

 

 

 

崩れ落ちた布施。左手と震わせながら、彼はグローブを掲げる。

 

 

「―――――――――――あ」

 

 

一塁ベース上で止まる結城。

 

「―――――――――くっ」

三塁ベースを通過する直前だった沖田。目を思わず伏せる。

 

「―――――――――」

既にホームに還っていた東条と小湊。

 

 

そんな4人とは対照的に、甲子園が湧きかえる。

 

 

『とったァァァァ!!!! センター布施の大ファインプレーっ!!!』

 

 

 

 

無情にも、結城の良い当たりは相手外野手のファインプレーに阻まれる。光南ナインは、倒れている布施の肩をポンポンと叩きながら笑顔を見せる。

 

「ナイス布施!!」

 

「やばかった、けどありがとう!!」

 

 

「正直ダメかと思ったぜ!!」

 

 

「センターが布施で助かったぜ!!! マジで泣きそうだった!! 感動した!!」

 

 

「何他人事のように言ってんだよ!! コースはずれてたぞ!! マジで抜けてたら洒落になってねェぞ!!」

 

エースの右肩をガシガシと叩く上杉。左肩は叩かない上杉。

 

「いてぇよっ!! けど、俺一人で青道に勝てるなんて思ってねぇよ!!」

 

 

「ほう」

ナインの顔が驚いたり、心配そうな顔をしたりと、色々な表情を作るエースの言葉。

 

 

「俺は投げることしか出来ねェからな。打たれたらマジで頼みますって。エースとは言っても、俺一人で勝てるなんて思ってないし♪ 守ってくんなきゃ、全部ランニングホームランだぜ!」

決まった、とドヤ顔をする柿崎。

 

 

「やっぱあほだな、カッキー」

 

 

「けど、図々しいこの一面は嫌いじゃない」

 

 

「そうだそうだ。もっと先輩を頼れ!!」

 

 

大ピンチを抑えた光南ナイン。ムードも上向きだったが、その空気を作っているのは柿崎だけではない。

 

 

「ラスト2イニング。横浦の時ほどじゃないけど、迷惑かけるつもりなんで、フォロー頼みま~す♪」

 

 

「おいおい!! 春の横浦に比べりゃあ、まあまだましだけど、今それを言う!? カッキー!?」

上杉が突っ込むが、その目は怒っていない。

 

――――マジで図太い奴だ、こいつは。

 

 

 

光南の選手一人一人が、この僅差の場面で精神的に強かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――っ」

そんな光南ナインのムードを見た大塚は、歪んだ表情を浮かべる。それは、怒りに近いモノだった。

 

いや、怒りというにはあまりに稚拙な感情。

 

 

大塚は柿崎に対し、嫉妬を覚えたのだ。そして彼自身は認めたくはないが、羨望もあった。

 

 

――――なぜ、あれほどの実力を持ちながら―――――

 

 

何が違う。どう違う。

 

 

彼は高いレベルの投手であると同時に、ムードメーカーでもあった。

 

 

こちらからは遠くてはっきりとは聞こえない。だが、間違いなく彼が中心だった。

 

 

「大塚?」

金丸が不穏な雰囲気を出していた大塚に声をかける。

 

 

「――――なんでもないよ。」

彼は短く言い切る。柿崎から目を離さず。

 

 

 

――――羨ましくて仕方ない。チームのエースを背負っていると認めている、認められているあの人が。チームの力になっている彼が

 

 

形容しがたい感情を胸の中で抱いている大塚。

 

その中でひときわ大きいのは、

 

 

暗い感情。

 

 

そんな彼を蝕む闇が、心の中で渦巻いていた。

 

 

 

『いやぁぁ、うちも打ったり、守りも守ったり。この7回の攻防は見ごたえがありましたね!!』

 

『少し風に戻されたかもしれませんね。しかし、惜しい当たりでした。柿崎君も、だいぶ疲労で球威が落ちてきたので、崩れるかと思いましたが。』

 

 

7回裏の満塁のチャンスを活かせなかった青道高校。差はわずかに1点。だが、それを阻む大きな壁、エース柿崎が立ちふさがる。

 

 

 




チャンスをものにできないと、勝てない法則がある。それが野球。

内外で不穏なムードがあります。特に外では誰にも気づかれずに闇墜ちしそうな人がいたり。


やっと主人公が苦しむ姿を書くことが出来ました。ちょっと満足。

手遅れになったら、どんなアニメキャラが近いだろう


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。