6回裏、意気込みを見せる青道打撃陣だが、本格的に目覚めてきた琉球のサウスポーに封じ込められる。
ククッ!!!
『スライダ~~~~!!!! 4者連続!! 変化球の切れも戻ってきた柿崎!!! 5番御幸も空振り三振!! バットに当たりませんでした!!』
ストレートは最速150キロを計測。変化球の切れも戻り、手が出なくなっている。それでいて、テンポもよくなり、光南にもリズムが生まれ始めていた。
ズバァァァンッっ!!
「――――っ(クロスファイア―ッ)」
手が出ない伊佐敷。抉るようなクロスファイア-。沢村と同等の角度がありながら、それをはるかに超えるスピードで迫るこの剛速球に、バットを出す事すら出来ない。
「ストライクっ!!」
『このクロスファイアーの前に、バットを出せません、伊佐敷っ!! 140キロ中盤を計測しています!!』
続く2球目は、
ククッ、ストンッ!!
「ストライクツーっ!!」
フォークボール、ストレートが走り始めたからこそ、効果的になるボール。アウトコースのボール球に手が出てしまう。
スタンドの大塚は、厳しい表情で戦況を見つめていた。
「柿崎投手の体にキレが戻っている。今の体の調子に適応している今、あの投球を崩すのは難しい。」
あの状態の投手は、いわばゾーンに入っているようなものだ。その体に出来る限界値に達している状態。つまり最高の状態。
自分ですらその一片にやっと届いているような物。彼は、間違いなく―――――
――――ゾーンに入った状態を維持できる時間は、俺よりも長い―――
「ストライィィィクッ!! バッターアウトォォォ!!!」
しかし、大塚が危惧しているのは、それだけではない。柿崎の覚醒は大して問題ではない。
――――チームの状態がまずい。俺と降谷がいないせいで、チーム全体が焦っている。
拳をぎゅっと握りしめる大塚。何もできずにチームに迷惑をかけている自分が許せない。それが、本当に。
伊佐敷の後の増子も三振。この回は3者連続三振で攻撃が終わった青道高校。いや、終わってしまった。
これで、前の回から5者連続三振。
青道を圧倒する琉球のサウスポーエース。流れを獲りに来ていた。
当然、攻撃陣の不調は、守備にも影響を与える。
7回表、
――――みんな固い、俺が投げ抜かないと――――
川上が強い気持ちで投げる。投手の立場である彼は、それほどプレッシャーがかかっているわけではない。この大舞台で、最善を尽くしたい気持ちが強い彼は、気持ちに乱れは生じていない。
――――下位打線を中心に、リズムが悪い。
沖田も色々と、表情がよくないナインの様子を気にしていた。抑え込まれた面々が、そろって暗い顔をしている。それがよくない。リードしているのは自分たちだという事、相手は追い付かないと勝てないというのに、追い詰められた顔をしているのだ。
――――この感じ、久しぶりだ。でも、この空気はダメだ―――
東条も、全国で経験があるのか、この空気を敏感に感じ取っていた。
――――うちが得点できないなら、もうこれ以上の失点を許さないリードが必要―――
それが求められるが、そう思ってリードを狭めることが、全国経験、それも緊迫したゲームに慣れていない彼の弱点。
カァァァンっ!
―――打ち取った当たり!
内野ゴロ、三塁ゴロ。完全に詰まらせている。
ポロっ、
「!!!」
しかし、ここで増子が痛恨のエラー。一死からランナーを出してしまう。
『ここで青道にエラー!! 一死から4番垣屋が塁に出ます!!』
――――違う、今のはイレギュラーしただけ。先輩たちを、バックを信じるんだ。
川上も、このエラーで流れが変わるかもしれないことを感じているからこそ、強い気持ちを持つ事が大切だと感じていた。
「大丈夫、まだコースにも行っているし、疲れているわけじゃない。まだ俺は行ける。」
独り言のように、川上は何かを言って心を落ち着かせる。セルフコントロール。そして、マウンドのプレートを一周ぐるっと回ることで、心を鎮める。
――――― 一塁ランナーも、隙あらば狙ってくる。クイックと間合いも気を付けないと。
今までこんな風に余裕をもっていろいろ考えることはなかった。が、川上は視野を広くしてマウンドに立っている。
ズバァァァンッっ!!
「ストライクツーっ!!」
4番垣屋を出したが、5番巌に対してはストライク先行。2球で追い込む。
――――クイックが早い。先ほどもそうだが、これではタイミングが―――――
早過ぎる―――――――
カァァァンっ!!
「ゲッツーっ!!!」
セカンド方面へと転がる打球。スライダーを打たされた巌が走る。
――――――っ、
「!!」
一瞬ボールを握り損ねた小湊。そのタイムロスが、
「先輩っ!!」
沖田へとトスをするが――――
――――間に合わないッ!!
「セーフっ セーフっ!!!」
『ゲッツー成立せず!!! 5番巌が何とか逃れました!! 二塁小湊が何か動きを止めたように見えますが―――』
『握り損ねたのでしょうか、やはり、この僅差の場面は相当なプレッシャーなんでしょう――――』
『しかし、光南!! ランナーを進められず、ツーアウト!!』
―――――くそっ、何してんだよ、俺は。投手陣を助けるどころか、俺達が――――
「――――――」
マウンドで、一塁ランナー、そして御幸のミットを交互に見ている無表情の川上。集中しているのか、未だに崩れる気配がない。
だが、その根幹が崩れつつあった。
―――― 一也、外が多くないか?
川上は怪訝そうに御幸のリードに疑問を持つ。外の出し入れは、川上の得意分野。しかし、それだけではだめだという事が解っている。内角を突く。両サイドが必要。
光南の打者、6番権藤は御幸が次にボールゾーンの変化球を持ってくることを予測した。
――――この投手の特徴を活かしてくるはず。内角にはストライクが入らないというより、捕手が嫌がっているな。
―――――大きいのを打たれるわけにはいかない。ここで、ゴロを打たせて、低めの変化球で終わらせる。
ドクンっ、
御幸は余裕そうな表情を浮かべているが、違う。彼はそれで“終わってほしい”のだ。
ツーアウト、平行カウント2エンドツーから6球目。
その瞬間、一塁ランナーがスタート。川上はそれを無視する。投げるのはボールゾーン。
―――――あっ、
この時初めて、川上は表情を崩した。コントロールミスをしたのではない。
6番権藤が、膝を低くしながら、この低めの際どいボールに食らいつこうとしているのが見えたのだ。
がキィィィィンッッッ!!!!!
「―――――――――――え?」
川上は打った方面を見上げる。打球が空高くに飛んでいる。
そして――――――
『入ったァァァァ!!!!! 光南高校逆転!!!!! 6番権藤のツーランホームランで、試合をひっくり返しました!!!』
「―――――――――――――」
打たれた御幸は、打球方向を見ているだけ。動けない。こういう時は、打たれた投手へと駆け寄るのが普通だが、それすら出来ていなかった。
「一也―――――」
川上がしゃべることで自分を落ち着かせて、少しプレート周りをまわっている時、御幸が制止したまま、動いていないことに気づく。
打たれた川上も当然ショックだが、マウンドに上がったからには妥協を許したくない。川上は、湧き上がる感情を抑えて、冷静であることを努めた。
『今のボール。ボールですよね? 狙っていたのでしょうか?』
『ええ。確実に狙われていましたね。あのボール単体なら素晴らしいボールですよ。ストライクからボールになる決め球にはうってつけです。しかし、あれだけアウトコース一辺倒のリードでは、あのコースはボールでも撃たれますね。』
『そうですか。さて、これで逆転を許した青道高校。マウンドの川上は立ち直れるか?』
「一也?」
川上が、喋っても、御幸はライトスタンドに運ばれた打球の方向を見ているだけ。
「―――――」
「一也!!」
いい加減ぼうっとしたままなので、声のトーンを上げる川上。今まで勝ち気な性格の彼が、ここまで打ちのめされているのは珍しい。
「あ……」
「次の打者を打ち取れば、まだわからない。悔しいのは俺だって同じなんだ―――」
悔しそうな顔で、白状する川上。それを聞いてハッとする御幸。
「あの時みたいに、大塚に負担をかけたように、チームに迷惑をかけたくないッ」
叫ぶように本音を吐いた川上。大塚が登板せざるを得ない状況になったのは、彼や降谷が崩れたから。
皆大塚の事で後ろめたさを感じていた。だが一番感じていたのは川上なのだ。
投手として、話の合う後輩に、無茶をさせてしまった。それが悔しかったのだ。
だから折れるわけにはいかない。折れるわけにはいかないのだ。
「わ、悪い。」
その後、7番上杉をショートゴロに打ち取った川上。やや苦い表情でマウンドを降りる。
「御幸――――」
その背中が、小さく見えた。
7回の裏、柿崎の勢いは止まらない。白洲が打席に向かうが
ズバァァァァンッッッ!!!
「ストライィィィクッ!!! バッターアウトっ!!!」
『三振~~~~!!! 勢い止まらず!! 援護をもらった柿崎!! 一段とアクセルを踏んできたか!!』
あえなく白洲が三振。まるで相手にならなかった。
そして次の打者は川上、当然代打を起用する片岡監督。1年生の小湊を出すが―――
『打ち上げた!! サードフライ!! これでツーアウト!! 速い球に詰まらされましたね』
何もできない。何もしかけられない。柿崎を攻略できていない。
連続奪三振は6でストップするものの、柿崎が最後の力を振り絞り、青道の打者をねじ伏せに来ていた。
試合終盤、投手にとって一番苦しくなり始める時間帯で、彼は力を出しているのだ。
神木という先輩投手にあこがれを抱いていたサウスポー。だが、その憧れの存在にはなく、彼にあるモノ。
それは、圧倒的なタフネス。先天的な体の頑強さ。
だからこそ、彼はこの投球を見せつけることが出来るのだ。
「――――――――――」
ガックリと肩を落とす春市。
続く東条―――――
ドゴォォォォぉんっっ!!!!
「ストラィィィクッッッ!!!」
『ここでまた出ました、150キロっ!!! 今日安打を打たれている東条に対し、アクセル全開!! 鬼の形相で立ちはだかります!!』
――――安打していた時の本調子ではない時とは違う。全然早い―――
キィィンッっ!!
「ファウルボールっ!!」
148キロ高めのストレート。この威力のあるスピードボールに、東条は当てることが精一杯。
キィィンッっ!!
「ファウルっ!!」
球速表示には147キロ。
3球連続でストレート。しかも140キロ後半のスピードボールに食らいつく。だが、誰の目が見ても、追い込まれているのは東条。
――――それでもっ
ククッ、ストンッ!!
「ボールっ!!」
低めのスライダー。振らせにきたが、これで振るようなら1年生でスタメンを張れるわけがない。
キィィンッっ!!
「ファウルっ!!」
一転してストレート。当てるのがまだ精一杯。打球も前に飛ばず、苦しい表情の東条。
キィィンッ!!
「ファウル!!」
また2球連続でストレート。粘りを見せる東条。その後も継続して打席に立ち続ける東条。フルカウントまで持っていき―――――
ドゴォォォォンッッ!!
――――――アウトコース、手が出ない―――――っ
東条は、ねじ伏せられた気分になった。が、
「ボール、フォア!!」
――――そこは取らないのか!? ヒットは難しいけど、何とか――
マウンドの柿崎も、
「え!? (マジか、いいとこ行ったと思ったんだけどなぁ)」
少し苦笑する柿崎。今日安打を打たれている東条を是非ともねじ伏せたかったのだ。だが、歩かせてしまって不本意な様子。
続く小湊も粘りを見せる。
――――ヒットにすることが難しくても、カットは可能だね。
小湊の狙いは―――――
――――甘いフォーク!!
カキィィィンッッ!!
『センター前~~~!!!! 小湊またヒット!!! 粘り勝ち!!! ツーアウトからランナーを出してチャンス拡大の青道高校!!! 3番沖田を迎えます!!』
「げぇ!! (やっべ、甘く投げちまった!!)」
グローブで頭を抑える柿崎。笑顔のままだが、だんだんと苦しい表情が垣間見られるようになる。
――――落ち着け、カッキー!! まだお前の球威はそこまで墜ちてるわけじゃない!!
捕手の上杉も、ボールは来ていると伝え、柿崎に自信を失わせることを避けようと試みる。
ようやく、また一段上へと駆け上がった自分達のエースを、ここで潰させるわけにはいかない。
――――打席で球を見たい、けど出塁しないといけない――――
だからこそ、同じように小湊同様に粘る沖田。高めのストレートに対してあってきてはいるが、それでも捉えきれない時がある。
ストレートを続け、変化球でふらせる。この基本の投球を見切った沖田は、またしても平行カウントに持ち込む。
勝負の5球目、
スッ、
――――無警戒すぎだ――――っ
コンっ、
「なっ!!」
慌てて柿崎が打球に対して走るが、
ズキッ、
「ッ!!」
打球を取った瞬間に無理な体勢をしたのか、転倒してしまう。倒れてしまった彼が体勢を立て直すも、
「セーフっ、セーフっ!!!」
『満塁~~~~!!! これで満塁です!! ツーアウトながら、満塁のチャンス!! ここで4番の結城を迎えます!!』
「こ、この局面でバントヒット――――さすが!!」
三塁ベースで笑顔の東条。やはり何かを持っていると感じた。そしてこの局面――――
4番結城、7回の裏ツーアウト満塁。絶好の場面。1、2番が機能し、3番沖田のお得意のバントヒット。
光南側はタイムを取る。
「ここだな、ここが勝負の分かれ目。テンションあがってきたな♪」
柿崎はこの終盤の大ピンチでも冷静。春には一度心が折れてしまいそうなぐらい打ちこまれたので、これぐらいでは動じない。
「ああ。春夏連覇の為の、最後の難関。つうか、マジ緊張感なさすぎ」
上杉も、相手の4番との対決となるため、柿崎に発破をかける。
「いやいや、マジで逃げ出したい気分」
「エースがそれなら世話ないなぁ、おい!!」
上杉が柿崎の本音に過剰反応するも、彼は手でそれを途中で制す。
「けど、こっちも“チーム背負った背番号”貰ってんだ。ねじ伏せてやるよ。最高のボールでな!!」
ニッ、と笑う琉球の左腕。ここで笑顔になれる胆力を持ち合わせる男。苦しい筈なのだが、こういうところは図太い。
「なんだよ。全然大丈夫じゃねェか」
そんなエースの様子に表情が柔らかくなる上杉。
「いやいやマジこの局面は怖いって。」
その言葉に手をぶんぶんと振って否定するエース。
「どっちだよ!!!」
『さぁ、チームのエース対チームの4番!! 先程は三振に打ち取られたものの、ここで雪辱を晴らし、優勝へと近づく一打を打てるか、4番の結城!!』
キィィンッっ!!
「ファウル!!」
ストレートに振り負けない結城。初球鋭いスイングが、レフト線を襲う。
「―――ッ!?」
一振りで、ストレートに合わされた柿崎。ここにきて、結城のスイングに鋭さが戻った。
――――ハァ!? さっき空振りしたボールにもう反応できるのかよ。こいつら無名じゃねェな
冷や汗が止まらない柿崎。坂田には届かないものの、オーラを感じさせるスラッガー、結城を前にして、投手として危険を察知する。
――――マジで、ミラクル起こす実力もってんじゃねェか!! 怖すぎだな、おいおい!!
「ボール!!」
アウトコース際どいストレート。これを見た結城。
続く3球目、
「――――!!」
柿崎も投げた瞬間に表情を崩した一球。内に僅かに入ったスライダー。
カキィィィィンッッッ!!!!!
『打ったぁァァァ!!!!! ライト大きい!! 伸びていく~~~~!!!』
大きく飛び上がった打球は右中間へと伸びていく。その瞬間、青道応援席だけではなく、甲子園全体が揺れる。
「行けェェェ!!!!」
東条が声を張り上げる。
「伸びろォォォォぉ!!!!!」
小湊が叫ぶ。珍しく闘志を抜きだしにした一面。この一打で勝負が決まるかもしれないのだ。彼も必死だ。
「抜けろォォォォぉ!!!!!」
沖田も声を上げる。この試合で、この当たり。抜けることを願う。
『センターバック、センターバックする!!! 布施どうだぁぁぁぁ!?!?!』
センター布施、この打球に―――
「うおぉぉぉぉぉ!!!!!!」
身体を投げ出し、ボールへと突っ込む。そして―――――
崩れ落ちた布施。左手と震わせながら、彼はグローブを掲げる。
「―――――――――――あ」
一塁ベース上で止まる結城。
「―――――――――くっ」
三塁ベースを通過する直前だった沖田。目を思わず伏せる。
「―――――――――」
既にホームに還っていた東条と小湊。
そんな4人とは対照的に、甲子園が湧きかえる。
『とったァァァァ!!!! センター布施の大ファインプレーっ!!!』
無情にも、結城の良い当たりは相手外野手のファインプレーに阻まれる。光南ナインは、倒れている布施の肩をポンポンと叩きながら笑顔を見せる。
「ナイス布施!!」
「やばかった、けどありがとう!!」
「正直ダメかと思ったぜ!!」
「センターが布施で助かったぜ!!! マジで泣きそうだった!! 感動した!!」
「何他人事のように言ってんだよ!! コースはずれてたぞ!! マジで抜けてたら洒落になってねェぞ!!」
エースの右肩をガシガシと叩く上杉。左肩は叩かない上杉。
「いてぇよっ!! けど、俺一人で青道に勝てるなんて思ってねぇよ!!」
「ほう」
ナインの顔が驚いたり、心配そうな顔をしたりと、色々な表情を作るエースの言葉。
「俺は投げることしか出来ねェからな。打たれたらマジで頼みますって。エースとは言っても、俺一人で勝てるなんて思ってないし♪ 守ってくんなきゃ、全部ランニングホームランだぜ!」
決まった、とドヤ顔をする柿崎。
「やっぱあほだな、カッキー」
「けど、図々しいこの一面は嫌いじゃない」
「そうだそうだ。もっと先輩を頼れ!!」
大ピンチを抑えた光南ナイン。ムードも上向きだったが、その空気を作っているのは柿崎だけではない。
「ラスト2イニング。横浦の時ほどじゃないけど、迷惑かけるつもりなんで、フォロー頼みま~す♪」
「おいおい!! 春の横浦に比べりゃあ、まあまだましだけど、今それを言う!? カッキー!?」
上杉が突っ込むが、その目は怒っていない。
――――マジで図太い奴だ、こいつは。
光南の選手一人一人が、この僅差の場面で精神的に強かったのだ。
「―――――――っ」
そんな光南ナインのムードを見た大塚は、歪んだ表情を浮かべる。それは、怒りに近いモノだった。
いや、怒りというにはあまりに稚拙な感情。
大塚は柿崎に対し、嫉妬を覚えたのだ。そして彼自身は認めたくはないが、羨望もあった。
――――なぜ、あれほどの実力を持ちながら―――――
何が違う。どう違う。
彼は高いレベルの投手であると同時に、ムードメーカーでもあった。
こちらからは遠くてはっきりとは聞こえない。だが、間違いなく彼が中心だった。
「大塚?」
金丸が不穏な雰囲気を出していた大塚に声をかける。
「――――なんでもないよ。」
彼は短く言い切る。柿崎から目を離さず。
――――羨ましくて仕方ない。チームのエースを背負っていると認めている、認められているあの人が。チームの力になっている彼が
形容しがたい感情を胸の中で抱いている大塚。
その中でひときわ大きいのは、
暗い感情。
そんな彼を蝕む闇が、心の中で渦巻いていた。
『いやぁぁ、うちも打ったり、守りも守ったり。この7回の攻防は見ごたえがありましたね!!』
『少し風に戻されたかもしれませんね。しかし、惜しい当たりでした。柿崎君も、だいぶ疲労で球威が落ちてきたので、崩れるかと思いましたが。』
7回裏の満塁のチャンスを活かせなかった青道高校。差はわずかに1点。だが、それを阻む大きな壁、エース柿崎が立ちふさがる。
チャンスをものにできないと、勝てない法則がある。それが野球。
内外で不穏なムードがあります。特に外では誰にも気づかれずに闇墜ちしそうな人がいたり。
やっと主人公が苦しむ姿を書くことが出来ました。ちょっと満足。
手遅れになったら、どんなアニメキャラが近いだろう