今よりもっと、もっと高く。
青道にとってみれば山場の一つと言われていた帝東戦は、大塚の快投もあり、圧勝に終わる。同じ東京、甲子園出場校すら手も足も出ない。
残念ながら大塚栄治はこの試合で初の失点を喫する。とはいえ登板数が少ないものの、予選では稲実を相手に8回無失点、甲子園では西邦相手に完封、後は横浦坂田、黒羽相手にパーフェクトリリーフ。
1年生のレベルではないと言える。
そして帝東戦は雨の中、青道一般学生も数多く応援に駆け付け、彼の快投をその目に焼き付けた。
翌朝の学校では、
「聞いたぜ、帝東相手に8回だそうだな。最後に余計な失点はあったが、お前が相変わらずだから安心したぜ」
廊下にて、大塚、沖田ら1年生たちと出会った引退した上級生たち。伊佐敷がまず、帝東相手に快投したことについて言及する。
「新たな投球パターンを取り入れてこの有様です。その余計な失点が接戦でなくて良かったです。あんな失点はもう繰り返すわけにはいかない」
15奪三振のうち、11が見逃し三振。スイングすら出来ていない証拠だ。
その後、早打ちに切り替えたために三振数は落ちたが、球数はかなり抑えられた。
そして大塚が悔いているのは失点の仕方だ。
だが、そんな大塚の自己反省する姿を見ている為か、先輩たちは深く突っ込まなかった。
その後、
「コントロールがいいからフロントドア、バックドアでもなんでもするんだなとはいったが、早速やりやがって!!」
ポンポンと大塚の左肩を叩く伊佐敷、しかし表情は柔らかい。
「3回戦で順当通りいけば、稲実の奴らか。」
「まあ、そうですね。秋は打力が落ちる分、夏よりは苦戦しそうにありませんが。」
冷静に考えて、3年生の打力が抜けてどこのチームも攻撃力が落ちる。大塚はその事について指摘しただけなのだが、
「おいおい、あの時8回無失点した男の言うことかよ。こんなんじゃ、また無失点やらかしそうで怖いな、おい!!」
「けど、それはうちにも言えます。沖田と東条、御幸先輩がマークされるのは解っています。そんな状況で如何にして得点を奪うかが焦点になりますね」
「半年たってもホント、可愛げがねェな」
「だが、こういう冷静に試合を見れる選手が多くいるのは強みだ。期待しているぞ、大塚」
元主将の結城に激励を貰う大塚。
「まあ、さすがに配球を変えてくると思うんで、あの時のようにはいかないですね。」
配球が変わればまたどうなるか。沖田は油断などできない。あの時は策略がはまっただけなのだ。
「3安打のテメェが慢心しなかったら、それこそ稲実に勝ちの目がなくなるじゃねェか!!」
「ホント、流石の俺も、成宮が可哀相に見えてきたよ」
伊佐敷と小湊兄が沖田の油断のない自然体であることに安心を覚えつつ、こんな打者を相手にする成宮に少し同情を覚える。
「丹波先輩、国体お疲れ様でした。堂々の投球、横浦相手に9回2失点。坂田さんがいないとはいえ、もう完璧エースですね」
「まあな。あの打者がいるのといないでは、だいぶ違うがな。フォークの種類を増やしたのが要因か、フォークに的を絞れなくなったようだった。」
国体は堂々の優勝。横浦、大阪桐生と強豪校が互いにつぶし合う中、青道は中堅校とのトーナメントが続き、決勝戦の横浦戦まで丹波を温存できたのが優勝の最大の要因。
和田を青道打撃陣も攻略し、4得点。やはり接戦にはなったが、丹波の力投で栄冠を手にした。
そして気がかりなのは、アジア大会以降調子を崩している柿崎。疲労が蓄積しているのか、横浦打線につかまり、7回3失点で降板。そのまま敗退したのだ。
青道にとってみれば、因縁の相手でもある柿崎。その相手がセンバツに出てこないようでは、
―――――雪辱を果たせないっ
残った下級生の意見は一致していた。柿崎を打ち崩す。それが青道の新たな目標の一つとなっている。
そして、教室に戻った大塚を出迎えるのは、
「大塚君、凄かったよ!!」
「あの帝東相手にあの投球なんて!!」
「沖田君もまたホームラン打ったし!!」
やはり勝利の立役者である二人にクラスメートたちが群がった。投打のヒーローには目が行き易いのだ。
「とにかく、自分の投球が出来たことが要因かな。甲子園程プレッシャーがあったわけではないし、負けられないよ」
あくまで冷静な対応の大塚。女子学生に言い寄られても、中々動じない。鈍いのか、興味がないのか、それとも精神的に枯れているのかはわからないが、とにかく今の状態ならこういう事にも問題がないように見える。
「あ、ありがとう!! いやぁ、声援とか、激励とか気持ちいいなぁ―――」
一方の沖田。広島時代では絶頂とどん底を味わった男。やはり人に期待される喜びに素直に感謝し、力に変えるメンタルを備えていた。
「うん、東京に来てよかった――――ホント、青道に来てよかった――――」
そしてあまりの嬉しさに目頭が熱くなる沖田。感激して泣いている姿を見て、クラスメートたちもあたふたする。
東京に来てもう1年。沖田にとってはそのトラウマを癒す彼の記憶に残る1年となっている。
そんな盟友の姿に笑みを浮かべる大塚。
――――良かったな、道広
それ以上は何も言わず、大塚は静かにその場を後にするのだった。
そして席に着くと沢村が今度は何か別の本を読んでいるのが見えた。
「沢村、また違う本を読んでいるぞ」
「うん、この間は孫子、次は何かしら?」
相変わらずバカなことをするが、真面目なのは変わらないと苦笑を浮かべる大塚。隣のクラスでも降谷がスタミナロールを連呼していたことは知らないが、ライバルたちが黙っているわけがないと感じていた。
だが、大塚の表情から笑みが消える。
思い出すのは、8回の表。
「ああ~~~!!!! サードでエラー!?」
「っ!!」
沖田が悔しそうな顔をする。ここまできて大塚の足を引っ張った。しかも、記録達成がかかっていたのだ。
応援団からも溜息。7回まで完全に抑え込んでいた大塚だったが、ここでついにランナーを許してしまう。
サードに転がった打球が寸前でイレギュラー。想定よりもあまりバウンドせず、こぼしてしまったのだ。
原因は、このぬかるんだフィールド。雨による影響で両投手とも制球力に不安を抱えている中、そのプレッシャーとデメリットは野手にも無関係ではなかったのだ。
「大丈夫だ、道広。記録を狙っていたわけではない」
手で気にしていないと沖田に声をかけつつ、次の打者に集中する。
ぬかるんだフィールドの事を考えれば、三振。
大塚の頭にはそれがあった。
ひくめにパラシュートチェンジ。スライダー、カーブで目線を変えつつカウントを整え、最後はタイミングを外す。
―――――切り替えできてるようだな。
御幸は、まずカットボールを要求する。
――――インコースに切れ込むこのボールで、まずはファウルを稼ぐ。
右打者の懐、寸前で変化し、上手くファウルを打たせるバッテリー。
ファウルゾーンに大きく切れてまずカウントを取った。
続く2球目
ククッ!
ここで大きな弧を描くドロップカーブ。バッターは微動だにせずカウントを奪われる。
「ストライクツー!!」
アウトコースに決まるタイミングを外すカーブ。これで追いこんだ。
―――――ここでフォーシーム。一球様子を見るぞ。アウトコース際どいコース。
御幸は外に構える。要求した場所は、先程審判がストライクゾーンと誤認したボールゾーン。
ズバァァァンッっ!!
外に決まるストレート。要求通り、ミットは動かない。判定は――――
「ボール!!」
流石にこれをボールと認めた審判。バッターはほっと息を吐く。
――――この試合、最後まで大塚なら大丈夫。何よりこの点差だ
御幸は懸案の決め球について考える。
ここでSFFを投げ込むのが夏までの大塚。しかし怪我明けとはいえ、1イニング限定でのリリーフ登板では初めて実戦で投げたSFFがワンバウンド。キレとスピードで振ったようなものだ。
コントロールを乱す大塚をあまり見ていなかった御幸には懸念が残った。
――――ここで次に向けてSFFを投げて、感覚を取り戻してほしいところ。稲実戦に向けて、こっちも万全の状態に近づけたい。
勝負の4球目――――――
「―――――っ!?」
投げた瞬間に違和感を覚えた大塚。挟む度合い、腕の振りはあくまでストレート。
後はリリースの瞬間だけなのだが、
―――――違う―――――
リリースした瞬間のボールの軌道が、イメージとは違った。
―――――抜けっ――――――!!!
そして一方の御幸。
大塚が投げた瞬間にその違和感に気づかなかった。
――――コース通り、アウトコースの低め当たりから落ちるSFF。これなら―――!!
球自体が荒れているわけではない。むしろコース通りにボールが来ていた。
ここから大塚のSFFは鋭く落ちる。
カキィィィンッッッ!!!!!!
「―――――――!?」
――――落ち、ない!?
金属音が響いた瞬間に、御幸は衝撃を受けた。ミットにボールはやってこなかった。
「あっ!!」
白球が高々と舞い上がる。大塚はレフト、左中間方向へと飛んでいく打球を見上げるのみ。
「――――――」
天を仰ぐ大塚。この瞬間、またしても彼は自分のストロングポイントを失ったのだ。
秋に入ってから、投手としての実力に陰りが見え始め、ついには決め球のSFFでさえ、満足に投げられなくなった。
「うおっ!!! 打った!! 打球が飛んでいくぞ!!」
観客からは、大塚が大きい当たりを打たれたことに驚いていた。7回まで深い場所にすら届いていなかった打球。
大塚はこの8回で初めていい当たりを食らったのだ。
「抜けた~~~~!!! 一塁ランナースタート切ってる!! 三塁行くぞ!!」
一塁ランナーの乾は、単独スチール。彼は、SFFの握りを見てしまったので、この雨でぬれたフィールドならば、捕球に手間取るだろうと考えていたのだ。
――――まさか、棒球になるとはな
決してギャンブルスタートではなかった。
「乾、三塁廻る!!」
「中継からバックホーム!! ヤバいぞ、おい!!」
レフト川島から、ショート倉持へ。外野守備では川島がクッションボールの処理にミスをだし、乾の激走を許してしまう。
倉持がバックホームへと投げる。明らかに川島の守備で冷静さを欠いていた。
バッターランナーが三塁に向かっていることにも気づけず。
野手全員が感じていた。エラーから完全試合を逃し、大塚のリズムを狂わせたのだと。
「なっ!! バッターランナー!!」
御幸が大声を張り上げるも、倉持はすでに送球をしてしまっていた。三塁方向からはすでに乾がホームに駆け抜けようとしているのが見える。
完全にセーフのタイミング。
「クッ――――!!!」
とにかく、この状況ではどうにもならず、堅い守備を誇っていた倉持、公式戦初先発川島に立て続けに守備のミス。
御幸はそんなことを想定していなかった。
「セーフ!! セーフっ!!!」
「しゃぁあぁ!! あのルーキーから一点を取ったぞ!!」
大塚栄治。公式戦初の失点。タイムリースリーベースで一点を返される。
外角の落ち切らなかったSFF。完全な棒球と化したストレートを引っ張った当たりは、左中間を切り裂く長打になった。
「――――――」
呆然とした表情の大塚。尚もノーアウト三塁。これまでチャンスらしいチャンスがなかった帝東にしてみれば、このチャンスはモノにしたい。
―――――落ち着け―――――
大塚は、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
――――仮に、ここでSFFを使えなくても、他の球種は機能している。
そうだ。一つの球種に頼ることが思わぬ落とし穴になる事は間近で見ている。
――――SFFだけが、全てじゃない。
御幸も、ここで切り替えが出来ている表情の大塚に安心する。
――――公式戦初失点の割に、まだ表情は崩れてない。大塚なら乗り切れる。
6番打者は左。ここで強引にゴロゴー。スクイズによる一点は考えていないし、アウトカウントを取れるならそれでも構わない。
―――― 一番怖いのは、ゴロゴーで万が一内野の間を抜かれること。
御幸は冷静に全体の戦況を整理していた。ここで連打が生まれた場合、流れが帝東に傾いてしまう。いくら大塚でも、この状況ではかなりしんどいだろう。
御幸は通常守備を指示。変に守備を弄らず、中間守備、前進守備を敷くことはしなかった。
――――ここで通常のスライダー。カウントを稼ぐと見せかけて、ストライクからボールのインコース。
「ボール!!!」
内に切れ込むスライダー。スロースライダーよりもスピードが速く、変化量が少なくなるボール。バッターは内の際どいボールに手を出さない。
帝東岡本監督は、大塚と御幸の配球について考えていた。
――――いい意味で夏を経験するまでは強気、しかしもろ刃の剣。
外に構える御幸。
――――この状況でツーボールにはしたくないはず。と、普通の捕手ならば思うだろう。
「ボールツー!!!」
ここで外の逃げるサークルチェンジが外れる。内と外に投げ分けるバッテリー。いいボールだが、バッター手を出さない。
苦しくなる青道バッテリー。
――――そして、いい意味でこの投手はストレートに威力がある。狙っていけ、島崎!
――――カウントが苦しい、ここで威力のあるまっすぐでファウルを打たせる。インコースにはいきづらい。
ツーボールからの3球目。
カァァァンッッ!!!
「ファウルっ!!」
しかし、帝東の狙いとは裏腹に打球は前に飛ばない。球速が落ちていても、大塚のストレートは伊達ではない。
しかも145キロ。ここに来てこの試合MAXを計測。
ツーボールワンストライク。カウント的には未だに苦しい。
――――ストレートの威力が増している? なら――――
御幸はアウトハイを要求。威力のあるまっすぐで、どんどん押す。
ドゴォォォォンッッッ!!!!
「ストライクツー!!!」
3球目よりも速いストレートが牙をむく。バッターはストレートのタイミングでうちに来ていた。
しかし、バットはボールの下。試合後半、雨という悪条件。にもかかわらず、大塚のストレートだけはキレていた。
147キロ
「おおお!!! ここでこの試合最速!!!」
「ストレートが戻ってきてんじゃないか!!」
大塚のストレートがこの8回でいきなり球威をあげる。夏予選の状態に近づいていた。
――――よし、この球威なら――――
御幸は、アウトコースによる動きをしながら、インコース側へと手を広げ、せわしなく動く。
―――――決め球はインロー!
ドゴォォォォンッッッ!!!!!!
最後はバッター手が出ず見逃し三振。球速も――――
149キロ。自己最速に並ぶ。
「しゃぁぁぁ!!! 見逃し三振149キロ!!! インローズバッと決まって三振!!」
「ストレートの球威が上がってきたぞ!!」
「夏予選の状態に戻っていますね、監督!」
記録員の幸子が、若干興奮気味に語る。
あの背中、あの存在感、あの圧倒的なストレート。
それは間違いなく、夏の幻影に迫るモノだった。
―――――何が起きている? 大塚のストレートが何故急に?
大塚からは何か迸るオーラのような物は感じる。だが、序盤から中盤、ストレートの球速は変わらず、制球力も良い時に比べ、若干落ちているがまだ満足できる範囲。
指がかかり始めた? 何が原因だ?
御幸の疑問とは裏腹に、大塚はストレートでガンガン押していく。
149キロのストレートが球場を震撼させる。ノーアウト三塁から―――――
「ストライク!! バッターアウト!!」
3球三振。オールストレートで7番の左打者を三振。最後まで掠りもしない。
「最後は高め!! ストライクコースで当てさせなかったぞ!!」
「いいぞ、大塚ァァ!!」
「剛腕復活!!! 」
「ノーアウト三塁で2者連続三振!! あと一つでスリーアウト!!」
「―――――――」
大塚は、この8回に来て試合中に感じていたずれがなくなったことに気づいた。
――――遅すぎる―――――っ
だが、大塚に笑顔はなかった。
序盤から満足のいく投球が出来ていれば――――
調子を取り戻すのに時間がかかりすぎていた。
――――これなら、SFFがイケる、か?
御幸は再度SFFを要求する。左の8番打者。初球148キロのストレートで空振りを奪い、カウントは依然として有利。
外れても平行カウント。とにかく、SFFの調子を取り戻したい。
―――――SFF? いや、投げるしかない。投げ切るしかない!!
強い決意で大塚はそのサインに頷く。
―――――何が来る? ストレート? けど、このイニングはストレート主体。とにかく真直ぐに当てられなかったら――――
ククッ、ギュイイイイインッッッッ!!!!!
その瞬間、御幸とバッターの視界からボールが消えた。
「!?」
いや、消えたのではない。視界から外れたのだ。投げた大塚だけが、その軌道を見ていた。
コースは完璧。打者も完全に手を出している。当たる気配は微塵もない。
「――――――っ!!」
しかし、御幸の動体視力をもってしても、このSFFを止めることが出来なかった。
「ああ~~~~~!!! 後逸!!!!」
「三塁ランナー生還!!! これで3点差!!」
「いい感じだったのに!!!」
「ここでワイルドピッチかよ!!」
ツーアウトまで連続三振で抑えていた大塚。SFFはある程度制球されていたとはいえ、
あの御幸が後ろに逸らしてしまったのだ。
「―――――――――――――っ」
天を仰ぐ大塚。この試合2回目。
――――くっ、アイツはとんでもないボールを投げ込んでくれた。なのに――――
御幸も大塚が最高のSFFを投げ込んだという事実を認めつつ、そのボールを受け止めきれなかったことに悔しさを覚える。
見たこともない軌道だった。いや、夏予選に比べ、かなりスピードが上がっている。
それこそ、140キロに到達する勢いに見える、SFF。
宝刀にさらに磨きがかかっていた。
この試合序盤から調子が戻らず、躱しながら投げ抜いてきた大塚。調子を取り戻し、次につながるかと思いきや、ここでエラーからのタイムリーに加え、ワイルドピッチで失点。
乗りきれない。大塚が調子を取り戻したのに。
その後、後続の代打のバッターをスライダーで空振り三振に抑えた大塚。悔しそうな表情をしながら、ベンチへと戻る。
その後9回はお互いに無安打。大塚はその後レフトに守備位置を移し、最後は川上が1回を無安打無失点、1つの三振を奪って試合終了。
試合の2日後、ブルペンであの時の感覚を確かめようとした大塚。
だが―――――
「――――――!!」
ストレートの球威も戻り、SFFも制球が定まらなかった。また序盤と同じような状況に戻っていたのだ。
「昨日の―――――昨日の投球は、なんだったんだ―――――」
2日前は出来ていたのに、なぜできないのか。それが大塚には苦しくて仕方がなかった。
結局、最後まで大塚の球威は戻らず、ブルペンを後にするのだった。
天才に起こった異変。ムラという投手にとって致命的な欠点。大塚の集中力に陰りはないにもかかわらず起きてしまった欠点。
その原因は、ごくごく当たり前のことで、その鋭すぎる感覚によって引き起こされていた。
主人公は複数の先天的なギフトを持っています。
一つは記憶力。五感でとらえた情報を正確に認知することが出来る。これは大塚和正にも言えることで、彼は年月を重ねることでその頭の中のイメージを実践できるようになり、投手の栄誉を掴みました。
そしてもう一つの才能は、その記憶力を十全に行える身体能力と、それを動かす感覚の鋭さです。
今は意地を張ってフォームをきめようとしていますが、それは全くの間違い。
成長期の彼は、その都度フォームを見つけなければならず、それを瞬時にできる力はあるが、彼の矜持がそれを許さないのです。
フォームという根底を場当たり的に変える。しかも、フォームチェンジという生易しいモノではなく、彼の投手としての根っこを変える覚悟が必要となります。
大塚和正に追いつくためには、何かを積み上げなければならないと考える大塚にとって、現状では受け入れがたい事実でもあるのです。