表の顔は錬金術師、裏の顔はTS薬密造人。   作:丁5

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ダンジョンのとある階層。

人気が無く薄暗く、ゴツゴツした石壁で囲まれた部屋に入る。

部屋の中に誰もいないことを確認し、スマホを取り出し電源を入れる。

時間は……少々早く着きすぎたか。

 

目的の人物が来るまで、壁を背にスマホで適当なニュース記事を眺める。

ザーッと流しながら見てる最中に、気になる記事のタイトルを見つける。

指でその記事をタップし、詳細を開く。

 

『大手ギルド所属の冒険者(23)、温泉施設更衣室に謎の侵入 警察、スキルや道具使用の可能性を調査』

2047年5月24日、東京都内の某温泉施設で、大手ギルドに所属する23歳の冒険者が更衣室に不法侵入したとして逮捕される事件が発生した。

警察によると、容疑者は同日、施設の更衣室に侵入した疑いが持たれているが、不可解な点が浮上している。

監視カメラの映像を確認したところ、容疑者が更衣室に入る場面は一切記録されておらず、周辺にいた利用者も容疑者の存在に途中まで気づかなかったという。

目撃情報や物的証拠が乏しい中、警察は容疑者が冒険者としての特殊なスキルや道具を使用した可能性があるとみて、慎重に捜査を進めている。

警視庁は「現時点で侵入経路や手法は不明だが、容疑者の職業的背景を考慮し、あらゆる可能性を視野に入れて調査を進める」とコメント。

容疑者は建造物侵入罪での起訴が検討されているが、事件の全貌解明には時間がかかる可能性がある。

 

その記事を最後まで読み込むと、下の方に様々なコメントが書き込まれている。

『そんな透明化みたいなスキルあったっけ?』

『テレポートかもしれんぞ』

『俺もそのスキル欲しい』

 

『見た目を変える道具かもしれんぞ』

 

ネット記事を眺めていると、石畳を靴で叩く音が聞こえる。

 

「わりぃ! 待たせたな!」

 

スマホに落としていた視線を上げる。

俺の目の前に黒髪の美少女が現れる。急いでいたのか、肩を上下されている。

こいつは……桜井渡、俺の数少ない知り合いであり……男だ。

 

「いや、大丈夫だ」

 

俺はスマホをポケットにしまう。

時間は問題ない……だが、気になることが一つ。

 

「それにしてなんで、その姿で来たんだ?」

 

桜井は自分の体に視線を落として、その後顔を上げる。

 

「ダメだったか?」

「目立つだろ。それに、その様子だと配信してたんだろ?」

「あ、バレた?」

 

こいつはTS薬を飲んだ状態で『サクラ』という名前でダンジョン配信を良く行っている。

ビジュアルの良さもあり、ちょっとヤンチャな言動も相まって人気を博しているようだ。

……見たことはないが。

 

「一応、この場を誰かに見られたくはない。次からは止めてくれ」

「あぁ、そっか。特定されてリア凸される可能性もあるもんな。すまんすまん」

 

桜井はそう言って、胸の前で手を合わせる。

手を合わせる際に、肘によって胸がむぎゅっと圧迫されその大きさが浮き彫りになる。

片目を閉じてウィンクして謝っている桜井は、知らない人が見れば夢中になることだろう。

まぁ俺は、こいつが男と知っているから何の感情もないんだが……。

 

「あ、そうだ。これ前回の分」

 

そう言って桜井は分厚い封筒を手渡してくる。

受け取って、封筒の中身を覗き込む。分厚い紙幣の束だ。ザっと300はあるだろうか。

 

「確かに……じゃ、これ今回の分な」

 

俺は封筒をポケットに押し込み、反対のポケットからいくつかの錠剤を手渡す。

 

「サンキュー!」

「ちょっと待てよ、桜井」

 

立ち去ろうとする桜井を呼び止める。

俺はポケットからスマホを取り出し、さっきのニュース記事をもう一度開く。

桜井が振り返り、首を傾げる。

 

「なんだよ、急に。まだなんか用か?」

「これ、読んでみろ」

 

俺はスマホの画面を桜井に突きつける。

『大手ギルド所属の冒険者(23)、温泉施設更衣室に謎の侵入』という見出しが、薄暗いダンジョンの部屋で青白く光る。桜井は目を細めて画面を覗き込み、読み進めるうちに表情が微妙に変わる。

 

「へえ…こいつ、透明化かテレポートでも使ったんじゃねえの? すげえスキルだな」

 

桜井は軽い口調で言うが、俺は真剣な目で彼を見つめる。

 

「スキルかどうかはわからん。けど、コメント欄で『見た目を変える道具』って話が出てんだ。うちのTS薬が変な使われ方してないとも限らないだろ?」

 

桜井の顔から笑みが消える。

 

「マジか……。いや、でも、俺が売ってるのはお前の作った正規のやつだけだぜ? ちゃんと管理してるって」「管理、ちゃんとできてんのか?」

 

俺は少し声を低くして続ける。

 

「この薬、ただの性別変更じゃねえ。調合次第じゃ、時間制限はあるが顔や体型をガラッと変えることもできる。もし誰かがそれで変なことやってたら、警察が嗅ぎ回ってくる可能性だってある」

 

桜井は少しバツが悪そうに頭をかく。

 

「うーん、確かに……。俺、売るときはギルドの知り合いとか、信頼できるやつにしか渡してねえつもりだけど……」

 

その知り合いがまた別に流してる可能性もあるわけか。

こっから先はいくら詮索しても桜井も把握できていない可能性が高い。

まぁ、それにまだ俺の作ったTS薬が原因って確定したわけじゃないしな……。

俺は一つ溜息を吐く。

 

「まぁいい……とりあえず、これからは気を付けてくれ」

「あ、あぁ。すまん。気を付けるわ」

 

先ほどの謝罪とは違って桜井は本気で反省しているようだった。

国の非認可の薬だ。目的の為にバレるわけにはいかないのだ。

 

 

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