表の顔は錬金術師、裏の顔はTS薬密造人。 作:丁5
とある部屋にて。
カタカタとキーボードを鳴らし、データの入力作業を行う。
あぁ、めんどくさい。こんなことするくらいなら現場に出たいものだが……直近の覚醒者絡みの事件は余所に取られていた。
目がチカチカとしてきた。一息吐こうと、デスクの端に置いていたマグカップを手に取る。
中には、半分ほどまで減り既に冷めていたコーヒーが揺れている。
マグカップに口を付けようとした瞬間……。
「八澤先輩、この件知ってます?」
声のした方向を振り返る。
そこには私の部下である、百田がスマホ画面をこちらに向けていた。
百田のスマホ画面を覗き込むと、ニュース記事のようだが……。
記事を確認したあと、スマホから離れるように背もたれにもたれれ掛かる。
「知ってるよ。覚醒者絡みだけど、警視庁の管轄になったんだろ?」
その事件には見覚えがあった。
覚醒者絡みとあって自分たちの出番かと思っていたが、ダンジョン外であり、容疑者もスキルなどで抵抗しなかったため、普通の事件として処理されていた。
「いや、そうなんですけどね……実は警視庁の知り合いからある物を預かっていて……」
「待て」
百田はスマホをしまい、懐から何かを取り出そうとするのを咄嗟に制止する。
「話の流れからすると……それってさっきの事件の押収品だよな?」
「そうですけど……?」
「不味いだろソレ」
警視庁が管轄していた押収品がここ、ダンジョン犯罪対策課に持ち込まれているというのは非常にマズイ。
「ですが、あちらも持て余してるようでして……覚醒者絡みという事もあって、こっちの情報を求めてるんです」
百田は持ってきたは良いもの、どうすればいいのか分からないようで困ったように眉を寄せる。
はぁ……。情報を求めている辺り、この件は警視庁の上も知っているのだろうか。
あちらにも面子があるので表立って協力を求めることはできないけど、こうして裏で協力を求めているという事か。
なにかあっても現場の人間が勝手にしたことだと白を切るだろうし……こういう政治的な駆け引きはめんどくさいのだが、持ち込まれてしまったものはしょうがない。
一つ溜息を吐く。
「……仕方ない。で、どういう代物なんだ?」
「あっ、はい! これです!」
百田は懐から、小さいジップロックを取り出す。その中には白い錠剤が5錠ほど入っている。
「これ……麻取りとかの管轄じゃないのか?」
「いや、それがですね。成分解析をしたらしいんですが……材料からダンジョン由来の成分が検出されたんです」
「ほぅ」
一気に興味が出てくる。
「ダンジョンの副産物ですかね?」
百田は顎に手をやり、首を傾げる。
確かに……ダンジョンの副産物であれば、ダンジョン由来の成分が検出できるのにも納得はできる。
しかし……。
「いや、これは人の手で作られたものだな」
「断言できるんですか?」
私はもちろんという意思を込めて一つ頷く。
ジップロックから一錠取り出して、触感なども確かめるが、やはり人の手で作られたもので間違いない。
「百田。ダンジョンの副産物と言えば、たとえばどんなのがある?」
質問されると思われていなかったのか百田は慌てた様子で、天井を眺めながら言葉を紡ぐ。
「え、えーっと……剣とか杖とか金銀財宝に……あ、あと有名なのだとエリクサーとかですかね?」
そう。ありとあらゆる負傷を治療するエリクサー。それもダンジョンの副産物として有名で高値で取引されている。
「エリクサーはどんな形状で見つかる?」
「え、そりゃあもちろん瓶で……あっ」
百田も気づいたようだ。
「そう、瓶だ。ダンジョンで見つかる多くの副産物は基本的に中世時代に準拠した見た目で見つかる。しかし、これは……あまりに現代的すぎる」
最も有名な薬のエリクサーが瓶で見つかるのに、こんな錠剤が、ダンジョンで出現するはずがない。
これは、明らかに人の手で作られた人工物だ。
ダンジョン由来の成分で作られた違法薬物か……。
「面白くなってきたな……」
「八澤先輩顔が怖いです……」
おっと、つい笑みが零れてしまったか。
この事件、追いかけてみるか……。