キャスターと一緒 作:まめつぶ
キャスターとの契約が完了する。
これにてアクトは聖杯戦争へ参加することとなっていた。
「聖杯を手に入れれば何でも願いが叶う。てことで合ってる?」
「その通りです。我がマスターよ」
何度も行われた大規模儀式。
未だに成就したことはなく、此度で四度目の聖杯戦争となっていた。
「死んだ人を生き返らせることも?」
「聖杯であれば可能でしょう。そしてそれこそが私の悲願とするところ」
思い浮かべるのはジャンヌ・ダルク。
キャスターは一人思いに馳せていた。
「アクトは誰かを生き返らせたいのですか?」
「ん? いや聞いただけ」
「そうですか」
繁華街を抜け、暗い方へと向かっていく。
「これからどちらへ向かわれるのですか?」
「ゲームセンターってとこ、知ってる?」
「はい、呼び出されたときに現代の知識は得ておりますので」
「ふーん。便利なもんだな」
「娯楽目的ということでしょうか」
「いや、人に会いに行く」
「ご友人ですか?」
「ただの同級生だよ。今からそいつを殺しに行く」
変化のない表情に平坦な口調。
いつも通りの日常で発するかのような話し方だった。
「理由をお聞きしても?」
「そいつイジメっ子でさ。友達も標的にされてんだ。悪い奴だろ?」
今度は感情を込めて話していた。
アクトは悪いことをしてるヤツが許せなかった。
「だから貴方が代わりに罰を与えると?」
「そう考えたことはなかったけど、まあ同じようなものかな」
「神罰の代行ですか。果たしてそれは許されることなのでしょうか」
「警察は許してくれないだろうな」
「いえ、人間にではありません」
では誰なのか。
アクトが疑問を視線に乗せる。
「天上におわすが我らが主、神であります」
キャスターが祈るように頭を垂らす。
「どうだろう、神様と話したことないからな。わからないや」
反対にアクトは夜空を見上げていた。
「けど、もし俺が神様だったら許すと思う」
その理由にキャスターが興味を示す。
「悪いやつがいなくなるとスッキリする。正しく生きている人が喜ぶ。治安が良くなる。不幸になる人が少なくなる。良いことだらけだ」
何の疑いもなく、淀みなく言葉を紡ぐ。
「こんな善行を前にして、許さないなんて言うはずはないんじゃないかな」
得心を得る、というほどではないが十分に理解を得ることはできた。
神の在り様を考えれば、アクトの行動は許容こそされ否定されるものではない。
「あ、えっと」
言った後に気付く。
これではまるで自画自賛である。
「なんかごめん。自分で自分を褒めたみたいになっちゃった」
頬が赤くなっていた。
そのことにキャスターが気にする様子はない。
「質問があります。アクト」
改まった態度だった。
何か怒らせたかもと身構える。
「貴方は自らの行いを正しいと確信している。その心の内を知りたいのです」
口調は普通。キャスターは怒ってはいなかった。
ひとまず警戒を解く。
「アクト、貴方は今から命を奪おうとしている。そこに利得がないと誓えますか?」
「利得? 何か俺が得をするかってこと?」
キャスターが頷く。
「特にないと思うけど……お金をもらってやるわけでもないし、強いて言えば気分が良くなるってことくらい?」
「それは私欲から来るものでしょうか?」
アクトが悩む。
どう返答したらいいものか困惑していた。
「聞き方を変えましょう。殺したいから殺害をするのですか? 悪事を働く者が許せないからですか?」
「それなら断然後者だな。殺したいと思ったことはないし、自分が最も正しいと考えた結果殺そうってなるだけだしな」
不純な思いはない。
ただ純粋な気持ちで答えていた。
「今一度聞きましょう。貴方の願いはなんですか?」
「ヒーローになること」
「それはなぜですか?」
「悪いことが許せないから」
真っすぐとした目だった。
純粋で、清廉な、穢れなき思い。
その魂は輝きを放ち、キャスターが起源を垣間見た瞬間だった。
「欲得はなく、ただ正義のための行いと仰せか……罰せられるのであれば、私は貴方に裁かれたかった」
キャスターはかつて処刑されていた。
正義の名の下ではなく、富の簒奪を目的として殺されていた。
「着いた」
気付けばゲームセンターの前まで来ていた。
これから記念すべき一人目の殺害である。
殺害対象、残り三十五人。
アクトの余命、残り一か月。
その間に全員殺す腹積もりである。
(一日一人だと間に合わない。どっかでまとめて仕留めないと)
一か月と宣告はされているが、それより早いかもしれないし遅いかもしれない。
何にしても早めに遂行する必要があった。
目標は半月ほど。
それまでに全員あの世に送り届ける予定である。
「見つけた」
ゲームセンター内を探し回り、目的の人物を発見する。その人物はゲームはしておらず、ベンチでジュースを飲んでいた。
近づき、肩を叩く。
「ん?」
同級生が振り向く。
「あれ? アクトじゃん」
嫌な笑みを浮かべる。
暇だったところにおもちゃがやってくる。そんな雰囲気だった。
「何? あいつの代わりに金でも持ってきたん?」
笑っていた。
全く悪いとも思っておらず、イジメは自分にとって当然の権利と考えていた。
「一応聞いとくけど、もうイジメをするのは止めてくれないか?」
「あ?」
会話をする気はなかった。
ただ言えば止めるのだろうかと、少しばかりの興味本位が働いていた。
「何調子乗ってんのおまえ?」
わかりやすいほど不機嫌になる。
「なになに、どしたん?」
後ろからもう一人現れる。目の前にいる同級生の友達である。
その男が遠慮なく肩を組んできた。
「こいつが生意気なことほざきやがってよ。イジメをやめてくれってさ」
「へぇー、かっこいいじゃん。てか、イジメなんてしてないし、遊んであげてるだけだから」
肩を組んできた男がアクトの足を踏む。
体重を乗せ、力を込めてくる。
「でもまあ、止めてやってもいいぜ? その代わり今度からおまえが遊び相手になってよ」
胸のあたりを小突いてくる。
「わかった。それでいい」
どうせ断る。
怯えて逃げ出す。
そう思っていたのだが、アクトはいつもと違い反抗的だった。
「いいね。じゃあちょっと移動しようか」
「いつまで余裕ぶってられるか楽しみだわ」
二人に連れられ人気のない場所へ移動する。
(ちょうどいいか)
到着したのは路地裏だった。
「おら!」
着いた途端、背中を蹴られる。
移動中も肩を殴ったりと暴力を振るわれていた。
「可愛がってやっからよ」
これから行われるのは一方的な暴力である。
弱者を虐げることによって、自分が強者なのだと感じることができる。
その瞬間に得られる薄汚い愉悦を思い浮かべ、男はアクトへ拳を振るった。
勢いよく顔面に叩き込まれる。
しかしアクトは微動だにしなかった。
そしていつの間にか片手にはバットが握られていた。
「もう、見て見ぬフリはしない」
バットを強く握る。
それから思いっきり顔面を強打した。
「ぐあぁ!」
鼻が折れ、血が噴き出す。
「てめぇ!」
もう一人が襲い掛かってくる。
同じようにバットで迎え撃つ。
しかし空振りをする。あまりバットを振ったことがなく、まだ扱いに慣れていなかった。
バットがそのまま壁に衝突する。
なんとコンクリートの壁が砕け散っていた。
どう見ても普通ではない。
「は?」
運良く当たらなかった男が呆けていた。
「マジやべえって!」
顔面を強打された方が逃げていく。
追いかけることはしない。
そちらは後で対処するとして、今は残った方を処理することにした。
「よし」
今までできなかったことをやる。
もう抑える必要はない。
アクトは生きてきた中で最も充実した時を迎えていた。
「こちらです。マスター」
キャスターに案内され逃げた人物を発見する。
先ほどの路地裏からさほど離れてはいなかった。
男は激痛によりあまり走ることができなかった。
余程折れた鼻がつらいらしい。
「ま、待って」
これ以上逃げられないように足を折る。
「いでぇ!」
転がり、地面に倒れる。
今いる場所は住宅街のど真ん中だった。
出歩いている人がいないとは言え、うるさくすれば気づかれる可能性がある。
あまり騒がれても困るので、バットを無理やり口へ押し込んだ。その際、何本か歯が砕けていた。
「悪いけど、早めに食べちゃってくれる?」
「承知しました。我がマスターよ」
今回は遊ぶことはせず、早々に海魔の餌とした。
「マスター」
殺害の証拠を消し去り、海魔も異界に帰す。
「この付近で戦端が開かれたようです」
「それって聖杯戦争に関わること?」
「ご明察です」
どこからか水晶を取り出す。
「少しばかり覗いてみましょうか」
水晶に戦いの様子が映し出される。
そこではセイバーとランサーが打ち合っていた。
「すっご」
まるで映画のようだった。
尋常ならざる動きについ魅入ってしまう。
「……まさか」
キャスターの手が震えていた。
新たな来訪者が現われ戦闘が中断する。
しかしそんなことはお構いなしに水晶でセイバーをフォーカスする。
顔が良く見えるようになり、しっかりと確認することができた。
「おお! おおお!!」
涙を流し始める。
「ジャンヌ!! 我が聖処女よ!」
「ど、どうした?」
キャスターの様子が急変する。
どうにも映し出された女性が原因と見受けられる。
「どちら様?」
「あれこそ私の求める運命の乙女! 復活を夢見た我が願いそのもの!」
キャスターは誰かの復活を願っていた。
そして願いが成就していた。
「あ、そうなの? 良かったじゃん」
祝福の言葉を投げる。心からの祝福だった。
「こうしてはおれません。今お迎えに上がりますぞ!」
「え、行くの?」
「無論です。今こそ再び御旗を掲げるとき!」
満ち溢れた気力、爽快なる面持ち。
キャスターは青春を取り戻したかのようだった。
「さあ! 参りましょうぞ!」
もはや止めることは叶わなかった。止める理由もなかった。
会いたかった人に会いに行く。
止めるなど野暮というものである。
それになんだかアクトも嬉しくなっていた。
キャスターの希望に満ちた表情を見て、自分ごとのように嬉しくなってくる。
「うん、じゃあ行こうか」
「はい!」
喜々として返事をする。
今にもスキップをしそうな喜びようだった。
「ところでさ」
アクトがモジモジとした様子を見せる。
舞い上がっていたキャスターだが、アクトの不可解な様子を見て現実に戻ってくる。
「あんた、ジル・ド・レェって名前だったりする?」
「ええ、仰る通りその名は私のものであります」
「……マジか」
喜びと驚き、二つの感情によって胸が高鳴る。
「サイン、もらえたりする?」
「署名ですか? 構いませんが」
「ほんと? じゃあ後で色紙買っておくからそれにお願い」
「かしこまりました。では行きましょうか。マスター」
アクトは英雄が好きだった。
サインを楽しみにしつつ、剣戟が鳴り響く戦場へと向かった。