キャスターと一緒   作:まめつぶ

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決闘

 

 宝剣が射出される。

 それに打ち勝つ力が与えられる。

 

 拝借した剣で叩き斬る。

 

 宝槍が射出される。

 それに打ち勝つ力が与えられる。

 

 拳で槍を叩き折る。

 

 次々と武器が現われ、その都度アクトに力が与えられていった。

 

「ほう?」

 

 予想外に踏ん張るアクトに好奇心が働く。

 アーチャーの余裕は崩れない。まだまだ本気ではなく、半分の力も出していない。

 それでも一介のサーヴァントを相手にするには十分だった。ましてやマスターに対してであれば過剰ともいえる攻撃である。

 

 だが、この場において通常の物差しは役に立たなかった。

 

 アクトの能力は人の身で到達するには遥かな高みにあった。代行者や埋葬者であろうともこの域に達している者は存在しない。

 

 アーチャーは興が乗り、先ほどより倍以上の宝具を引っ張り出してきた。

 

 しかし結果は同じだった。

 

 アーチャーが品定めを行う。

 魔術を行使している様子はない。サーヴァントによるサポートでもない。礼装も概念武装も用いていない。

 これらから消去法によって導き出される答え。

 推測の域は出ないが、思い当たる節はただ一つ。

 

「世界と契約したか」

 

 呆れたような、はたまたつまらないものを見るような態度だった。

 

「下らぬ選択よ。それほどまでに聖杯を欲するか」

 

 何かしら種があると踏んでいた。

 蓋を開けてみればなんてことはなく、魂を売り渡したに過ぎなかった。

 その結論を導き出し、すでに興は削がれていた。

 

「いや、それだけでは契約には至らぬか」

 

 自ら出した結論に疑問が生じる。聖杯を手に入れるという目的では力を得ることはできない。

 ただ、仮に聖杯が人類を滅ぼすような代物であれば話は別と成りえるだろう。

 

「己が魂を売り渡すほどの切望、貴様、どのような愚かな願いを抱いた? ……いや、やはり答えなくてもよい。正義だなんだとのたまう愚か者の戯言だ。退屈極まりないことこの上ないだろう」

 

 言ってから気付く。

 聞きはしたが露ほども興味がなかった。

 

「ここまで持ちこたえた餞別だ。むせび泣いて受け取るがいい」

 

 宝具の格が上がる。

 今まで使用していた宝具は最低ランクであった。それよりも一段階上の宝具が黄金の扉にセットされる。

 

「未来永劫、人類の奴隷として酷使され続けろ。それが貴様の果てだ」

 

 王による決定が下される。

 裁きは迅速に行われた。ここに慈悲があるとすれば、恐怖を与えないという一点のみだった。

 

 逸話を帯びた宝具が飛んでいく。それら全てに対処することは英霊をもってしても至難の技である。人の身で対応できるはずもなく、与えられる選択肢は潔い死か無様な死かである。

 

 王の決定が覆される。

 質が上がろうと、数が増えようとも、同様の結果が繰り返されるだけだった。

 

 剣が折られる。逸話が否定される。

 必中であろうとも、壊れることのない宝具であろうとも、そんなことは一切関係がなかった。

 

「どうなってんだよ、一体」

 

 ウェイバーの目に無数の武器が映りこむ。それらはどれも宝具であった。その事実を知らなかったほうが幸せだったかもしれない。だがマスターである限り、それらを現実だと受け入れるしかなかった。視てしまえばあれらが宝具であると認識せざるを得なかった。

 

 このことだけでもすでにお腹いっぱいである。

 もうこれ以上の厄介ごとはいらない。なのだが、もう一つ驚愕すべきことがあった。

 

 それはキャスターのマスターである。

 

 酒盛りにおいての話を聞いていた限りでは、普通の思考をする人間という印象だった。

 平和を望む一般人。正義が好きな善性の持ち主。可もなく不可もない。

 かと思えば、極論とも取れる考えも持っていた。平和だけあればいい。アクトはそう言っていた。過激な発言にも聞こえるが、特段問題視することでもなかった。誰にだってある普通の思考であり、十分に共感することもできた。

 

 だがウェイバーはどこか狂気染みたものを感じていた。逆に言えば平和以外はいらないということでもある。

 

 港湾施設での会話を思い出す。

 ペンの貸し借りをしただけではあるが、ある程度の人となりは見えていた。

 ごくごく普通の青少年。おそらく英雄が好きなのだろう。サインをもらって喜んでいる様子は尚のこと平凡な人間であることを強調していた。

 

 しかし、今思えばそれこそが異常であった。

 年端もいかない男子が戦場で普通にしていること自体おかしい話だ。

 

 もちろん魔術師であれば話は別である。死が怖くないというわけではないが、倫理観が壊れている者が多いのは事実だ。根源を目指すことに盲目となり、他のことに目をくれなくなってしまう。その結果、生死が絡む事象でも平然としていられる精神が出来上がってしまうことが多々あった。

 

 だがアクトは魔術師ではない。確実な証拠があるわけではないが、魔術師独特の雰囲気が全くと言っていいほどなかった。

 

 なぜ聖杯戦争に参加しているのか。その理由も見えなかった。今回の会合で明らかになるかとも思ったがその胸の内が明かされることはなかった。

 興味はなかった。他のマスターの願いなんて知るだけ無駄である。

 

 とはいえ、である。

 これだけの男が何を思い、何を願うのか、興味を抱かないほうが無理な話だった。

 

(あれだけの力があって何が出来ないっていうんだよ)

 

 サーヴァントの攻撃を捌き続けるアクト。

 ウェイバーでは天地がひっくり返っても為せることではなかった。

 

 全身全霊で臨めば一本くらいは防げるかもしれない。そこがウェイバーにとっての限界である。

 

 羨望と嫉妬がウェイバーを黒く染める。承認欲求を渇望していたウェイバーには毒となる光景でもあった。

 

 ここに来てアーチャーの感情が苛立ちへと変わる。

 呆れは失望に、失望から苛立ちへと変化を遂げる。

 

「調子に乗るなよ雑種。英雄の真似事もここまでだ!」

 

 さらに上のランクの宝具を持ち出す。

 業腹ではあるが、今までの宝具が通用しないことも事実である。すでに興覚めでもあり、これ以上引き延ばしても同じことの繰り返しである。

 

「貴様の芸も見飽きた。そろそろ幕引きとしよう。契約者」

 

 黄金の輝きが強くなる。中には神性を帯びた宝具もあった。

 だがアクトの様子は何一つ変わらない。思うところがあるとしたらアーチャーの話についてである。攻撃が中断したので、ようやく疑問を口にすることができた。

 

「さっきから何言ってんだ?」

 

 話がさっぱりだった。

 世界がどうのとか、契約がどうのと言われても意味がわからなかった。

 

「契約者って何のことだ? それに世界と契約って……もうわけわかんないって」

 

 世界と契約なんていうのは言葉としても成り立っていない。

 アクトからしたら別世界の話だった。

 

「たわけが。無知は愚者にも劣る。愚か者であれば滑稽な姿も見せてくれるというものだが、無知蒙昧に価値はない」

 

 宝具が発射される。

 三度、同じ演目が始まる。

 

 だが今回は違った。アクトも防ぐことには慣れてきていた。なので攻勢に移ることにした。

 宝具による嵐の中を突き進んでいく。当たりそうになるものを弾き、壊していく。

 距離が半分詰まる。そのタイミングで秘蔵の一本が持ち出された。

 今までの宝具とは一線を画す槍、グングニルが放たれる。

 

 心臓目掛けて一直線。絶命は確定したも同然である。

 

 こればかりは自らの目を疑う他なかった。

 アーチャーの目の前で神槍が砕け散る。アクトからしたらこれまでと何ら変わりないことであるが、魔術師及び神秘を知るものからしたら信じられる光景ではなかった。

 

 アクトも全くの無事というわけではない。

 鼻から血が垂れる。そのことに本人は気づいていなかった。

 脳はオーバーヒートを起こし、魂はズタボロになるほど酷使されていた。代償がないわけではない。流石に神槍を無効化するとなればそれなりに対価は必要だった。

 

「解せん」

 

 アーチャーの余裕が崩れ始める。現世においては初めてのことだった。

 いくら何でもおかしい。例え契約によって力を得ていたとしても、無傷で防ぐなどありえなかった。

 

 槍が砕けたことは百歩譲って納得してもいい。

 しかし、それよりも理解できない事象があった。

 それは確定された未来の消滅である。付与された効果が相殺されていた。

 

 宝具を砕き、必中必殺効果すらも打ち消していた。

 

 アーチャーの脳裏にある宝具がよぎる。

 誰も持ち得ない、自身のみが所持している最強の宝具。

 それを使えば勝利は確実である。

 

 けれども使わない。

 それを使用するに値する相手ではない。

 

「……チッ」

 

 とはいえこのままでは距離を詰められ反撃を許すことになる。

 非常に気に食わないことではあるが、使う宝具の数と質を上げることにした。

 

「喜べ、これほどの財を拝謁出来るのだ。あの世への土産話にするがいい」

 

 エアを使用する代わりに、先ほどの二倍、もしくは三倍ほどのゲートが開かれる。

 光の壁が出来上がり、アクトからは夜空が見えなくなるほどだった。

 

「アイリスフィール」

 

 セイバーが自身のマスターを抱える。

 それからすぐさま避難をした。

 

 ライダーも同じく、チャリオットでこの場から距離をとる。

 

 アクトのみへの被害では済まない。

 このあたり一帯を消し飛ばすほどの攻撃が予想された。

 

 アーチャーが号令を発する。

 それに従い、一斉に宝具が射出された。

 

 これにより、アーチャーはようやく気付くことができた。

 

 この攻撃は最も悪手であった。

 なぜならば脅威を上げれば上げるほどアクトは強くなるのだった。

 

 宝剣を手にしたアクトが目の前まで迫る。一瞬、認識が遅れる。それほどの速さであり、今までとは比にならないほどだった。

 

「エルキドゥ!」

 

 紙一重だった。

 ほんの少しでも反応が遅れていたら死んでいた。

 鎖のおかげで左腕を失うのみで済んでいた。もし天の鎖が間に合っていなかったら脳天から股まで真っ二つだったことだろう。

 

 アーチャーが後退する。

 

 認めざるを得なかった。

 この男を殺すには理外の力を行使するしかない。

 

 ゲートから一本の剣を取り出す。

 乖離剣エア、唯一無二の宝具である。

 

 回転を始める。

 もう遊びはない。即座に力が解放される。

 

 世界を切り裂いていき、あらゆる理が崩れていく。

 抗うことを許されない力。

 

 これに対抗するには魔法か、もしくはそれに準ずる力を行使するしかない。

 

 アクトに力が与えられる。

 無理やり魔術回路が作られていく。体と脳が悲鳴を上げ瀕死も同然となる。だがすぐに再生が行われ生気を取り戻す。

 

 それが数度繰り返されていく。

 そうしてアクトは寿命と引き換えに魔法の行使に耐えうる魔術回路が与えられた。

 

 魔法を使用する。

 しかし失敗する。

 目と鼻からは血が噴出していた。

 

 拒絶反応とでも言うべきだろうか。

 現代を生きる人間の脳にとって神秘の知識は受け入れ難いものであった。魔術の使用すらしたことない一般人が魔法を使うなど狂気の沙汰である。

 

 天地を引き裂く神代のうねりが迫りくる。

 もはや時間はなかった。

 受ければ死。

 

 失敗は許されない。

 それゆえになりふり構っていられなかった。

 

 アクトの意思は一切無視する。

 再び体の改造が始まる。

 一方的に、半ば強制的に力が付与されていく。重要なのは人類にとって正義となりえるか否かである。

 アーチャーを倒すこと、それこそがこの場で最も優先されることであった。

 

 魔術回路が体中に張り巡らされていく。

 染色体が酷使され、寿命が一気に消し飛んでいく。

 

 準備が整い、アクトに時間制限の力が与えられた。

 

 魂が根源と接続する。

 万能とも言える力だった。

 文字通り何でもできた。指先でなぞるだけで存在が書き換わる。息を吹きかけるだけで抹消することができる。

 

 今度は拒絶反応はない。

 

 手には金属バットがあった。

 己にとって最も武器としてイメージしやすいもの。それが現代の宝具として新たに誕生していた。

 

 バットが純白に光りだす。

 セイバーの宝具が黄金の光を放つなら、アクトの宝具は一切の混じり気がない光だった。

 

 振り下ろす。

 眼前にまで迫っていた対界宝具が霧散する。

 加えてアーチャーの体は二つに引き裂かれていた。

 

「哀れなやつだな、そうまでして何を願う」

 

 賞賛はない。

 最後まで抱いていた感情は哀れみだった。

 

「正義」

「つまらぬ男よ。せいぜい無駄な理想を追い続けるがよい」

 

 アクト対アーチャー。

 その幕引きはアクトの勝利にて終わった。

 

 

 

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