キャスターと一緒   作:まめつぶ

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懺悔

 

「我がマスターよ」

 

 キャスターが跪く。

 何事だと若干引いてしまう。

 

「貴方こそが神の使いだったのですね」

 

 また何か勘違いしているのかもしれない。

 そう思いハッキリと否定した。

 

「いや、違うよ」

「いえ、あれは紛うことなき神の光。天より与えらし神話の輝きに他なりません」

 

 聞く耳を持っているようで持っていなかった。

 自身の目で見たものを信じるのは良いことだが、人の話も聞いてほしいと思うアクトだった。

 

「そしてマスターから流れてくる神聖なる魔力、これこそが何よりの証拠でもあります」

 

 今は残り香程度だが、それでも神聖さは感じとることができていた。

 

「伏してお願い申し上げます」

 

 改まった態度を取る。

 仕方ないことだが、それを見て身構えてしまう。

 

「どうか、私めの裁定を」

 

 キャスターは裁きを乞うていた。

 善悪を裁き、それに従い罰を与えるか否かを決定する。

 欲得が混じることのない善悪のみによる純粋な審判。キャスターはアクトであればそれが可能であると確信していた。また、アクトの下す判決こそが神罰と同義であるとも考えていた。

 

「裁定って、何の?」

 

 確認するように問う。

 意味がわからずにした質問ではない。アクトは青髭の物語を知っている。残虐の限りを尽くした非道な過去。

 おそらく、それに対しての裁定を望んでいる。

 

「悪徳を積み重ねた私の半生にございます」

 

 考えないようにしていた。今までも意識的に思考の外に追いやっていた。

 真実か嘘か、あやふやな状態にしておきたかった。

 認めてしまえばアクトはキャスターを断罪しなくてはならなくなる。

 

「聞きたく、ないな」

 

 悪あがきに等しかった。

 こんなことを言ってもキャスターは止まらない。そう思えるほどに決意は固かった。

 

「私は子どもを殺しました。無垢なる者を手にかけ、罪なき者に残虐の限りを尽くしました」

 

 まるで懺悔だった。

 罰せられることを待つように頭を垂れる。

 

 再び力が溢れてくる。

 キャスターを倒せと意思が降りてくる。

 

(ダメだ。それはできない……したくない)

 

 何か違う道はないかと思考をフル回転させていく。

 

(どうすればいい)

 

 キャスターとはいつか別れなくてはならない。

 だがこんな別れ方は嫌だった。

 

 目的を達成するために協力してくれた。

 アクトの正義に共感してくれた。

 誰もが否定するであろう正義を笑顔で受け入れてくれていた。

 

 だからこそここまで突き進んでこれた。

 アクト一人であれば道半ばだったことだろう。たった一人で己の正義を信じ切ることは難しい。だが誰か一人でも肯定してくれる者がいれば心の持ちようは違ってくる。

 

 些細な事でも自らに疑いを持ってしまうことはある。

 けれどその度に大丈夫と思うことができた。

 

 キャスターは大切な仲間であり友達である。

 いくらキャスター自身が望むことであろうとも処刑は避けたい。

 

(キャスターは償いをしたいのでは? それなら)

 

 一つ、処刑以外の方法を思いつく。

 

「キャスター」

 

 当の本人は跪いたままだった。

 今までの違いがあるとすれば、形だけの礼ではなく真に礼儀を尽くしているという点である。

 

「贖罪をしないか」

 

 キャスターは微動だにしない。主人の話は終わっていない。であれば聞く姿勢を崩すことは適切ではない。

 

「キャスターが殺した子どもを全員生き返らせよう。聖杯ならできるんだろ? それで生き返った子どもをキャスターが責任を持って育てる。幸せにするんだ。それなら……」

「我がマスターよ、慈悲なるお心に感謝致します」

 

 黙って聞くのも従者としての務めだが、早めに進言を行い違う道を示すのも役目である。

 

「確かに聖杯であれば死者蘇生も叶うでしょう。しかし、願いが叶ったとしてもそのとき私は現世におりません。生き返らせるだけで後は野放しにするのみ。幸福を与えることはできますまい」

 

 ただ生き返らせるだけ。

 そのあとの責任を取ることはできない。少し考えればわかることである。

 その考えに届かないのは相当焦っている証拠だろう。

 

「けど、俺には」

 

 自然と手が震える。

 正義を行うのであればキャスターを処罰すべきである。

 しかし、キャスターは友達である。友達をこの手で殺すことなどアクトにはできなかった。

 

「アクト、このままでは死んでしまいます」

 

 アクトから活力が抜けていく。

 皮膚が乾いていき、肌のツヤが消えていく。

 

「どうか私に裁きを」

 

 申し訳ない気持ちはあった。

 キャスターにとってもアクトはただのマスターではない。

 互いの夢を語り、尊重し合った仲である。

 

 正義を貫くアクトに尊敬があった。

 悲哀に同情してくれるアクトに友愛を感じていた。

 

 それでもキャスターは己の裁きを優先した。

 アクトの性質を利用して引けない状況を作り出していた。

 

 もう耐えられなかった。

 この狂った世の中で生きていくには辛さと苦しみに満ちていた。

 救いはただ一つ、正しさの体現であるアクトの裁きのみだった。

 

 しかし、キャスターの願いが聞き届けられることはなかった。

 

「ごめん、キャスターの願いは叶えられそうにないや」

 

 友達を殺さなければならないのであれば、アクトは自らの死を選んだ。

 

「アクト」

 

 キャスターが立ち上がる。今度はアクトが見下ろされる状態となった。

 

「なぜ、そうまでして」

 

 正義を行うことがアクトの望みである。また人生の義務としても課されていた。それらより優先することはないはずである。

 疑問を呈するキャスターにその答えを示す。

 

「友達だから」

 

 たったそれだけだった。

 それこそが一番譲れないものであった。

 

 目を伏せる。

 それならばと納得する。

 自分がアクトの立場であればと考えたとき、同じ行動を取っただろうと結論を出す。

 

「貴方の想い、しかと受け止めました。ですがこのジル・ド・レェ、貴方からの裁きを諦めることはできません」

 

 アクトの決断は変わらない。

 ならば他の決断を下すように変える必要があった。

 

「状況を変えましょう。アクトが動けるように、私を裁かなくてはならない状況へと変化を行いましょう」

 

 キャスターが本を取り出す。

 それから海魔を呼び出した。

 

「勝手な行動、どうかお許しください」

 

 その数、ゆうに百を超えていた。

 さらに増えていく。二百、三百と溢れ出し、城を埋め尽くしていった。

 

 キャスターには無尽蔵とも言える魔力があった。正確には宝具に蓄えられた魔力であるが、アクトから大量に流れ込んできた魔力を宝具へと貯蔵していた。

 

「アイリスフィール、私から離れないように」

 

 海魔が飛び掛かる。

 セイバーが迎え撃つ。両断しようと斬りつけるがそうはいかなかった。

 

 通常の海魔であれば手こずることはない。しかし今は無尽蔵の魔力で強化もされている。

 数もさながら、一体一体の力も底上げされていた。

 

 サーヴァントには及ばずとも、一撃で沈むような性能ではない。

 それが止めどなく襲い掛かる。サーヴァントと言えどただでは済まなかった。

 

 数の暴力により形勢があれよと傾いていく。

 事はあっという間だった。

 セイバーとライダー、併せて両方のマスターが飲み込まれていく。咀嚼はせず、動きを封じることに徹していた。

 

「白髪の女、マスターではありませんでしたか……いや、これは…………聖杯?」

 

 キャスターは海魔を通じて情報を収集していた。

 アクトが根源に繋がったことにより、キャスターも少なからず恩恵を受けていた。特に召喚術に関する能力に関しては飛躍的に向上していた。

 サーヴァントについて理解し、令呪の仕組みを深く読み解く。

 

 海魔がウェイバーとサーヴァントを吐き出す。

 意外なことに傷はなかった。外傷は見当たらず、血の一滴も垂れていない。

 捕食しなかったのはアクトへの配慮である。殺してしまえばアクトが死んでしまうかもしれない。悪行を止められなかった悔恨により急速に死へと向かってしまうだろう。

 

 それからもう一つ、ウェイバーには先ほどと違う点があった。

 それは令呪の有無である。ウェイバーの手の甲には令呪がなかった。

 

 代わりにキャスターの本に令呪が刻まれていた。

 

「こちらも回収できたようですね」

 

 セイバーのマスター、切嗣からも令呪の回収が完了する。

 さらに本へ令呪が刻まれる。

 

(切嗣!)

 

 セイバーから焦りが見て取れた。

 マスターとの繋がりが消失すれば当然である。だが驚愕すべきことはこれで終わりではなかった。

 新たな繋がりを知覚する。その先を見る。そこにはキャスターがいた。

 

「一体何が」

 

 事態が急変していく。対応を余儀なくされるが、何をすべきか判断が定まらない。

 しかも状況は待ってくれない。考える暇もなく、混迷極まるセイバーを置き去りにさらなる状況変化が生じることとなる。

 

「令呪をもって命ずる。私の従順な下女下僕となりなさい」

 

 セイバーとライダーに令呪が行使される。

 あり得ることではなかった。サーヴァントがサーヴァントを使役するなど前代未聞である。このような状況、誰も想定などしていなかった。

 

「うーむ。まさかこのような事態になるとは……如何ともし難いな」

 

 ライダーといえど抵抗することは出来なかった。

 令呪を前に抵抗できるとしたらセイバーのクラスくらいだった。

 

「ぐっ!」

 

 キャスターに対し剣を構える。

 具体的な命令でなかったため、拘束力は完璧ではなかった。

 

「流石最優のサーヴァントですね。ですが、動くのがやっとでしょう」

 

 海魔を一体けしかける。

 組み伏し、動きを封じる。

 

 制圧が完了する。相手にすらならなかった。もはや敵はいない。

 アクト以外、キャスターを害するものは存在しなかった。

 

「アクト、明日の夜、柳洞寺にてお待ちしております」

 

 お辞儀をする。

 敵対しようともアクトにはどこまでも礼儀を尽くしていた。

 

「来られない場合はサーヴァントを使役し、街中で虐殺を行わせていただきます」

 

 言わなくてもアクトは向かうだろう。

 しかし、告げることによってアクトの力を引き出そうと画策していた。

 

「それでは後ほど」

 

 キャスターが消える。

 セイバーとライダー、それからアイリスフィールも連れていかれていた。

 

 残されたのはウェイバーのみだった。

 

 

 

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