未定   作:正直な嘘吐き

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ファンタジーもメルヘンも、あるんだよ!

 

角を曲がる前の自分に向かって言ってやりたい言葉だった。

 

目の前には黒いモジャ公と相対(あいたい)するいたちと魔法少女。

 

この場に無粋にも乱入してきた謡子を除けば、立派な魔法少女物のお話になるだろう。

 

これが現実ではなく、妄想の中の出来事だったなら。

 

(でもこれ、悲しいけど現実なのよね)

 

これが妄想の中の出来事ならどれだけ良かったかと、謡子は内心で独りごちる。

 

突如現れた謡子に対し、いたちは「僕の声に応えてくれた人がもう一人居ただなんて!」と喜びを

(あらわ)にし、少女は「え!? ええっ!?」と未だに戸惑っていた。

 

脳の許容量を越える出来事に、謡子も少女同様に戸惑いを隠せないでいた。

 

「――ふぅ。ああ、あれだね。お嬢ちゃん、きみはさくらちゃんに憧れてそんな魔法少女みたいな

格好をしているわけだ。確かにCC(カードキャプター)さくらは面白いと思うよ。

さくらちゃんもすっごく可愛いしね。でもね、でもだよ? だからと言ってこんな夜中に、

しかもお外でそれは無いんじゃないかな? 殺人事件の犯人もまだ捕まっていないんだし、

やるんならせめてお家の中でやらないと。見たところお嬢ちゃんも可愛らしい顔立ちをしてるんだから

きっと御家族の方も「わー可愛いー」って褒めてくれるよ。ささっ、だから早くお家に帰るんだ。

恐らくはお父さんお母さんも心配していることだろうしね。

大丈夫、きみにコスプレ趣味があるだなんて誰にも言わないからさ!」

 

戸惑いも極まって意味の分からない言葉が飛び出る始末。

 

喋りきった謡子がやけに爽やかな笑顔なのがなんだか腹立たしい。

 

「た、確かにさくらちゃんは大好きですけどそれに影響されたわけじゃありません!

というか、私だって何が何だか分からないのに――」

 

「来ます!」

 

少女の言に割って入ってくるいたち。何が来るのかと思えば、それは今までほったらかしに

されていたモジャ公だった。謡子がモジャ公のことを忘れていたのはここだけの秘密だ。

 

「お嬢ちゃん! 危ない!」

 

自分が長々と話しかけていたせいで、目の前の少女が命を落とすかもしれない。

 

そんなのは御免被りたい話だったが、突然のことに謡子は動けないでいた。

 

飛び上がったモジャ公が、少女目掛けて突っ込むが――

 

《Protection》

 

機械音染みた声が聞こえてきたかと思うと、薄い壁が現れ少女を守る。

 

真正面からその壁に激突したモジャ公は何故か爆散し、辺りに飛び散っていった。

 

飛び散った内の一片が謡子の頬を掠め、ブロック塀を穿つ。

 

恐る恐る頬に手をやると、その手には血が付着していた。今ので切ってしまったらしい。

 

次いで後ろを見やると――

 

「あ――あはは……これはこれは見事な刺さり方で……」

 

戦慄した。

 

ブロック塀や道路など、その至る所に爆散したモジャ公の欠片が深々と突き刺さっているのだから。

 

電柱を倒壊させるほどの威力があったようで、それもまた謡子を戦慄させた要因だ。

 

もしも今のが掠めるでなく、顔面に直撃していたかと思うと……。

 

――家を出る前に小便済ませといてよかったー!

 

ちびる自信があっただけに、家を出る前の自分に拍手喝采を送ってやりたい気持ちでいっぱい

になってしまう。流石に神様にお祈りまでは済ませられなかったが。

 

「だっ、大丈夫ですか!?」

 

「も勿論大丈夫さ! それよりもほら、今のうちに逃げるよ!」

 

どもってしまった恥ずかしさを隠すように謡子は走る。少女の手をひいて。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

走る走る両者は走る。

 

謡子は少女の手をひきながら。少女は手をひかれながら。いたちは少女の肩にひっつかまりながら。

 

「お嬢ちゃんでもいたちくんでもどっちでもいいけどさ、さっきのについて何か知ってること

があったら教えてくれよ。非現実的なことばかりでどうにかなっちまいそうだ」

 

先程よりも幾分かは冷静になれたとは言え、やはりファンタジックでメルヘンチックなこの

展開に理解が追いつけないでいた。頭の中に響いてきた助けを呼ぶ声に応じ、助けに

向かったら死にかけました。なんてことは冗談を抜きにしても笑えない。

 

事情をしらない人間にこの部分だけを聞かせたら、まるで意味がわからんぞ!?

と返されること請け合いだ。謡子も意味がわからないから少女といたちの両者に

問いかけたのだけども。

 

「この事態については僕から説明させてください」

 

「おや、きみが説明してくれるのかい? ……こりゃあ益々ファンタジー臭くなりそうだ……」

 

そうしていたちの口から語られるは奇想天外摩訶不思議なお話。

 

いたちくんはとある探し物のためにここではない、なんと異世界から来たのだ!

 

だが彼一人では集めきれないかもしれない。なので迷惑なこととわかってはいるが、

魔法の資質を持った人に協力をお願いしたいとのこと。

 

先程のモジャ公は忌まわしき力で生み出された思念体で、いたちくんの探し物でもあるんだとか。

 

思念体を止めるには資質を持った者が杖で封印し、元の姿に戻さなければならないとのこと。

 

その資質を持った人というのが――

 

「なるほど。それが俺とお嬢ちゃんという訳か。お嬢ちゃんは資質を持っているからこんな

格好をしているってことだね」

 

(魔法という割にはプログラムどうこう言ってたけど……想像してた魔法とはちょっと違うな)

 

もし自分もいたちくんを手伝う場合はあのような格好をするをするのだろうか?

 

どうせなら自分はタキシード仮面みたいな格好をしたいものだと、謡子は思案する。

 

閑話休題。

 

「こんな格好……と、とにかく! 今この状況をなんとかできるのは彼女しかいないんです!」

 

二人の視線は少女の方へと向けられる。急に見つめられ、少女はなんとも居心地が悪そうだ。

 

「本当に私じゃなきゃ駄目なの!? このお兄さんにも資質があるなら、別に私なんか

じゃなくても……」

 

「あなたじゃなければ駄目なんです! それに――」

 

(やっこ)さんも迫って来てるようだし、代わる暇も無さそうだ。いたちくんの

言った通り、きみがやるしかないみたいだしね。期待してるよ、お嬢ちゃん」

 

二人に期待を寄せられて少女も腹を括ったらしい。

 

迫り来るモジャ公を見据え、杖を構えると魔法を発動させる。

 

《Protection》

 

一回目の時と比べ堂々とした振る舞いだった。魔法の壁でモジャ公の攻撃を跳ね返すと、

すぐさま封印するための呪文を口にする。

 

「リリカルマジカル!」

 

「封印すべきは忌まわしき器。ジュエルシード!」

 

「ジュエルシードを、封印!」

 

《Sealing Mode. Set up》

 

桃色のリボンで拘束され、モジャ公は苦しそうに呻いていた。

 

そりゃあ、あんな雁字搦(がんじがら)めに縛られたら苦しくもなるだろう。

 

可愛らしい少女に縛られているモジャ公を、謡子はほんの少しだが羨ましそうな目で見つめていた。

 

モジャ公の額にⅩⅩⅠという文字が浮かび上がり――

 

《Stand by ready》

 

「リリカルマジカル ジュエルシードシリアルⅩⅩⅠ 封印!」

 

《Sealing》

 

終わってみるとあっけないものだった。あれだけの巨体を誇っていたモジャ公も封印された

途端に石ころになってしまい、街は先程の大騒ぎがまるで嘘のような静けさを取り戻していた。

 

それにしてもあのモジャ公の正体がなんの変哲もない石ころだったとは。

 

生きていたかのような動きを見せたモジャ公。それを封印する魔法。

 

…………まほうの ちからって すげー!

 

いたちと少女の活躍を目の前で見て、謡子は大興奮の様子。

 

「これが、ジュエルシードです。レイジングハートで()れて」

 

いたちの指示に従い少女は杖を石ころ――ジュエルシードに向ける。ジュエルシードは杖に

吸い込まれ――

 

《Rsceipt number ⅩⅩⅠ》

 

――ひと段落ついたようだ。少女の着ていた衣服が制服に似たそれから私服のものへと変わり、

杖も紅い宝石に形を変える。

 

「――あれ? 終わった……の?」

 

「はい、あなたのおかげで。ありがとう……」

 

言い終えて、いたちは倒れこんでしまう。包帯を巻いているのを見るに怪我をしていたのだろう。

 

今ので傷口が開いてしまったのだろうか。

 

「ちょっと!? 大丈夫!? ねぇ!」

 

いたちに気をかけている少女を余所に、謡子はこの惨憺たる道路を見回す。

 

少女に出会うまでに荒らされ尽くした道を目にし続けてきたが、これはそれ以上のものだった。

 

明日はこれもニュースになるんだろうなという思考を遮るかのように、

 

「やべっ! お嬢ちゃん、早くこっから離れよう! パトカーが来てるみたいだ!」

 

遠くでパトカーのサイレンが鳴り響く。よくよく考えてみれば、あれだけの激闘を繰り広げて

いたのだ。破壊音といい、近隣の住民からすれば迷惑なことこの上ない。

 

おまけに街は殺人事件で震え上がっているのだから、通報されるのも当然である。

 

「ほ、本当だ!? え~っと……ごめんなさ~い!」

 

まぬけな声を上げながら二人は走る。ある意味モジャ公よりも怖い、国家権力に捕まらないように。

 

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