シルクは戦場から軍を引き上げ、砦に戻ると、まずは兵の慰労を優先した。
勝利に酔うことなく、戦死者を弔い、負傷者を見舞わせ、兵に粥を与えて労った。老将武鳴もまた、軍議の場で毅然と立ち、シルクと肩を並べて軍を整えた。
やがて、各地から次々と戦況が報告される。
文官が巻物を広げ、報告を読み上げた。
「神我(しんが)地方でホール将軍、討死に……」
砦の広間に静かな衝撃が走る。ホールは異国からの亡命者であり、十年にわたり元王家に仕え、数々の戦で功を立てた。ロワンと並んで知勇をもって名高く、兵からの信望も厚かった。
「……そうか。ホールは死んだか」
シルクは深く目を閉じ、一瞬だけ感情を噛み殺した。
若き頃より共に戦場を駆け抜けた老将の死は、彼の胸を強く打った。だが、長く沈むことは許されない。
「――最帝は、このまま聖地を奪還せんと動いております。すでに十万を超える軍を差し向けたとのこと」
広間の空気が一気に張りつめる。
聖地には、中央神会――古来より諸国の信仰を束ねる大神殿が鎮座している。ここを抑えた者こそ「天に選ばれし正統」とされ、諸侯の帰趨を決するほどの威を持つ。
もし最帝が聖地を手中に収めれば――
「神の守護を得た正統」として天下に号令をかけることができ、シルクはたちまち「逆賊」の汚名を着せられる。
武鳴は苦い顔をして口を開いた。
「越王よ、聖地を奪われては、いかに戦場で勝とうとも大義を失いますぞ」
諸将が意見を言う中で、シルクは静かに立ち上がり、地図を指でなぞった。
「……我らは東へ行く」
その一言に、広間がざわめく。
「なんと……! 聖地へ向かわぬと?」
シルクの眼光が鋭く光った。
「そうだ。聖地へ直接向かえば、百万の大軍に阻まれ、兵も民も疲弊する。だが、東の豪族どもを討ち取ればどうなる?」
九張がすぐに答える。
「……豪族たちは最軍の兵站を担っております。米や塩、馬や矢羽根、すべて彼らの蔵から供給されている。もし討てば、最軍は飢えと渇きに苦しむでしょう」
シルクは重々しく口を開いた。
「最を支える大軍とて、糧なくしては立てぬ。聖地へ正面から挑めば、我らは必ず磨り潰される。だが、東の豪族を討ち、兵站を断てば、百万の兵もただの飢えた群れにすぎぬ」
その言葉に、広間は静まり返った。やがて将軍たちの顔に理解の色が広がり、低く唸った。
「……なるほど。大樹を倒すには、その根を断つ。確かに理にかなっておる」
「よし、急いで、遠征の支度をせよ。それと、元国にも布令を出せ。『元帝、仇討ちを行う。功績を残した者に多額の褒美を出す』と」
それから数日して、峡谷の砦には多くの人々が集まり始めた。
越の兵はもちろん、元の旧臣や民も次々と馳せ参じた。
彼らの胸には、それぞれの旗印があった。
――故国を取り戻すために剣を取る者。
――元帝の無念を晴らすために駆けつける者。
――聖地を護り、神の威を汚させぬために立ち上がる者。
――越王シルクの忠義と智勇に惹かれて従う者。
大義は異なれど、その全てが一つの名の下に集約されていった。
「シルク王に従う!」
「最を討て!」
砦の広場は、民と兵の声でどよめき、まるで大河の奔流のように響いた。
老若男女を問わず、人々は武器を手に、あるいは荷車に食糧を積み、あるいは薬草や布を抱えて集まった。
砦はもはや一国の要塞ではなかった。
――最に抗う全ての民が結集する、反攻の旗本であった。
総勢三十万の大軍は、旗を翻し東へと進軍した。
御露巣、北亜、桓武の三地方――シーア大陸北部地方。よく穀物が取れて最軍の糧となっていた。
シルク軍は、稲光のごとき速さでこれらを蹂躙した。
城を守る兵は戦意なく、門を閉ざす前に討ち破られ、あるいは開城して降伏した。
街道を覆う三十万の兵馬は、まるで黒き洪水のように押し寄せ、抵抗は瞬く間に呑み込まれていった。
炎の狼煙が次々と立ち上り、御露巣から北亜へ、さらに桓武へと連鎖するように広がった。
人々は歓呼の声で迎え、あるいは恐怖に怯えて逃げ惑った。
しかし結果は一つ――豪族たちの勢力はことごとく粉砕され、兵糧も軍馬も尽くシルク軍の手に収まった。
三地方は、わずか数日のうちに越王の旗の下へと帰した。
その速度は「迅雷の軍」と称され、最の中枢にも激震を走らせることとなる。
その勢いは止まらなかった。
シルクは矛先を南東へと向け、最の従属国――砂を攻めた。
砂国はもとより軍備貧しく、最に従って年ごとに貢納を続けてきた小国にすぎぬ。
だがその地は豊かな塩湖と交易の要衝を抱え、最軍にとっては欠かせぬ補給路であった。
三十万の大軍が押し寄せると、砂国の城砦は次々と陥落した。
守備兵は恐怖に戦いを放棄し、民は門を開けて降伏する。抵抗らしい抵抗もなく、国土は炎に包まれた。
シルク軍の進撃は稲妻のごとく速く、わずか十一日にして王都を落とした。
「……降伏を願い奉ります。どうか一族の命だけは……!」
縄に縛られた砂王は、必死に額を地へ擦りつけて命乞いをした。
しかしシルクの眼差しは冷たく光った。
(……民を顧みず、己の一族のみを助けよと申すか。これほどまでに卑しい王があろうか)
内心で軽蔑を隠さなかった。王たる者は、まず民を思うべきである。
だが同時に、砂国を完全に滅ぼせば民は荒れ、無用の血が流れることも理解していた。
シルクは重々しく言葉を吐いた。
「よかろう。城と領地をすべて明け渡すなら、降伏を認め、一族の命だけは許す。――ただし、砂王、お前は王ではなくなる。これより庶民に降格し、余生を送れ」
その声音には、氷のような冷淡さが滲んでいた。
砂王は救われたとばかりに歓喜し、顔を上げて声を震わせた。
「は、ははぁっ……! すべて差し出します! どうかご慈悲を……!」
こうして砂国は滅亡した。王族は捕らえられ、領土は越に組み込まれる。
だが民は殺されず、田畑も守られた。それはシルクが、愚王を軽蔑しつつも民を救うために下した妥協であった。
越軍の進軍は脅威的であった。
砂国を滅ぼした勢いのまま、シルクは周辺の豪族や従属国を次々と討ち、その補給拠点を徹底的に破壊した。倉は焼かれ、塩や穀物は奪われ、道は塞がれた。
こうして、最帝軍を支える兵站は見る間に崩壊していった。
百万という大軍は確かに強大である。だがそれは同時に、百万の口を養わねばならぬという重荷でもあった。
兵が多いということは、その分だけ兵糧も必要だ。
一日に消費する米や肉の量は山をなすほどであり、馬の飼葉だけでも地方の収穫を食い尽くす勢いである。
最帝軍は中路地方に留まっていたが、見る間に兵糧は尽き、補給線は細るばかりであった。
軍中には飢えが忍び寄り、兵士たちの士気は急速に削がれていった。
そして――。
シルクはついに決断した。
「最を討つは今ぞ。兵を本国へ向ける!」
三十万の軍は、破竹の勢いで最の領内へと雪崩れ込んだ。焼かれた倉と荒れた田畑の中を、規律正しく進軍する越軍。その背後には、従属国や豪族を討ち滅ぼして得た補給線が確かに築かれていた。
この報を聞いたサン帝は、ついに立ち上がった。
兵站は削がれ、軍は飢えつつある。もはや悠長に構える余裕はなかった。
「よい……ならば最後の決戦だ」
サンは残る兵力をかき集め、本国の地でシルクとの決戦に臨む覚悟を固めた。
百万を号する最軍であっても、その実は半ばが飢えと疲労に蝕まれていた。それでもサン帝の威光と、最後の誇りが兵を支えていた。
こうして――シルクとサン。
二人の英雄の運命を決する、最後の戦いの幕が切って落とされようとしていた。
実は、ここまでサン帝が大軍を動かしながらも決戦に踏み切らなかったのには理由があった。
それは――中央神会との交渉である。
サン帝は密かに聖皇へ使者を送り、請願していた。
「聖地守護」の大義を自らに授けよ、と。
聖地は古より神の座す場所とされ、そこを護ることはすなわち神意を体現することに等しい。
もし聖皇の勅命として「シルク討伐」が下れば、サン帝の百万の軍は単なる人の軍勢ではなく、「神を守護する聖軍」と化す。
これまで征服された民の寄せ集めであった最軍も、聖皇の権威を背にすれば、一気に士気を取り戻す。
その大義こそ、サン帝が待ち望んでいた最後の切り札であった。
しかし、聖皇の胸中は複雑であった。
神会としては、いずれが勝とうとも「聖地が護られ、神威が損なわれねばよい」というのが本音である。どちらか一方に肩入れすれば、敗れた側から「神会の権威は地に堕ちた」と糾弾されかねない。
そのため聖皇は日和見であった。だが、もしどちらかに肩入れするなら、利益が集中するのはシルクである。シルクは、多額の献金を神会に送り込んでいたからだ。
一方で数の上では、サン帝の攻勢は圧倒的である。百万の兵を率いるその軍勢は、戦場の現実をもって聖地の守護者たる神会の権威に説得力を与えうる。
中央神会における利益はシルク、戦場での圧力はサン帝――聖皇は、この二つの力の狭間で絶妙な均衡を保たねばならなかった。
聖皇は言う。
「最には中路守護を越には北亜守護と御露巣守護を任を与えよ」
守護は教会領の兵糧を自由に活用することができる。補給の心配がない一方で、信者や神官を守る義務も課せられる。
この命令に、サン帝は深く失望した。圧倒的な兵力をもってしても、聖皇の後ろ盾が得られない現実に、苛立ちと焦燥が胸中を満たす。
一方、シルクは淡々と次の手を打った。命令を待つ間もなく、教会の兵糧庫を接収し、越軍の補給を着実に確保する。神会に対する多額の献金と兵糧の掌握で、戦場における実力を確固たるものにしていった。
聖皇の命により、越王シルクには御露巣と北亜の守護が与えられた。
越軍は兵糧を確保しつつ、教会の聖域を侵さぬよう細心の注意を払いながら進軍した。民や聖職者を傷つけず、秩序を保つことで、越軍の士気はむしろ高まった。補給と信仰の保護、二つの責務を背負ったシルクの采配は、戦略上も象徴上も重要な意味を持っていた。
1299年10月、最都攻防戦が幕を開けた。数では最軍が圧倒的に優勢に見えたが、シルクの采配は常識を打ち破るものであった。
夜陰に紛れて川を渡る越軍の影は、月明かりに揺らめき、敵の見張りの目をかすめて進む。煙幕が張られ、視界を奪われた最軍は不意を突かれ、混乱の中で防衛線を押し戻される。囮部隊が巧妙に敵を誘い込む間に、本隊は城門を炎で焼き切る。炎と煙、混乱の叫喚が交錯する城下町で、越軍の行動は計算し尽くされた連携であった。
連戦連勝の越軍は、ほとんど損耗を出すことなく城下へと迫った。守備兵たちは、次々と倒れる仲間を目にし、鋭い矛を振るう越兵の姿と、王シルクの威厳に圧倒され、次第に士気を失っていった。恐怖と絶望が城内に広がり、城門前では抵抗の手が鈍る者も現れた。
最軍の兵は混乱していた。
城門を守っていた守備兵は炎と轟音に怯え、武具を投げ捨てて逃げ惑う者すら出る。指揮官の声は煙と叫喚にかき消され、命令は伝わらない。
「敵だ!」「退け!」「いや、進めというのか!?」
怒号と悲鳴が交錯し、隊列はたちまち崩壊していく。
そこへ越軍の重装歩兵が鉄壁の盾を組み、槍を突き出して突進した。混乱の中に秩序正しい突撃が叩き込まれ、最軍の防衛線は容易く切り裂かれる。
炎に照らされた夜空に、矢が雨のように降り注ぎ、後退する兵をさらに押し潰した。
シルクは高台からその光景を見下ろし、静かに呟く。
越軍は破竹の勢いで進撃し、ついに最の都を落とした。
サン帝が救援に駆けつける前に、城門は炎に包まれ、城内は越軍の支配下に置かれていたのである。
「……陥ちた、だと?」
後方から駆けつけた斥候の報告に、サン帝の顔は凍りついた。
都の城壁からはなお黒煙が立ち上り、夜空を焦がしていた。
百万の軍を率いて迫ったサン帝であったが、その巨躯のごとき軍勢はあまりにも鈍重で、都を守るには一歩遅かったのである。
しかしサン帝は屈しなかった。
「間に合わぬか……ならば奪い返すまでだ」
彼は冷徹に采配を振るい、都を包囲する布陣を命じる。
城内に籠もる越軍を一気に掃討するべく、最軍は四方に陣を敷き、攻撃の準備を整えた。
シルクとサン――
ついに両雄が、最都の城を舞台に正面から相まみえる刻が訪れたのである。
「見よ! この晴天を!」
シルクは両腕を大きく広げ、天を仰いだ。
「我らが勝利は、神々が祝福している証だ! 越の大陸統一という偉業を、天そのものが後押ししておる!」
彼は兵たちを見渡し、ひとりひとりに呼びかけるように声を張った。
「この場に立つお前たちこそ、歴史に刻まれる英雄である! 槍を持つ者も、弓を引く者も、ただ血を流す兵ではない! 越を護り、未来を築く柱だ!」
兵士たちの胸に、誇りが熱く燃え上がる。
「百万の敵軍がいかに押し寄せようと、恐れるに足らず! 奴らは寄せ集めの徒、我らは志を同じくした同胞! 勝つのは、我らだ!」
シルクは高々と剣を掲げ、最後の一言を放った。
「ここで戦い、ここで勝ち、越の名を大陸の空へと轟かせよ! この日を越の黎明とせよ!」
その瞬間、三十万の兵が一斉に鬨の声を上げた。
「ウオオ――ッ!!!」
その響きは都の瓦礫を震わせ、大地そのものをも揺るがした。
戦いはついに始まった。
越軍三十万は、城門を背に堂々と陣を構えた。鬨の声はなお高らかで、兵の瞳には恐れよりも炎が宿っている。
彼らは自らが祖国を護る盾であり、未来を切り拓く剣であることを信じていた。士気は衰えず、むしろ昂ぶっていた。
対する最軍――百万の旗が翻り、地平を覆い尽くすその光景はまさに大海の如し。だが、その一兵一兵の胸にあるのは忠義ではなく、敗北すれば己の命が散るという恐怖であった。
寄せ集めの兵たちは、サン帝の威令に従い必死に前進する。必死であるがゆえに、退くことも許されず、ただ前の者を押し潰すように突き進む。
大地を揺るがす轟音と共に、両軍が激突した。
槍と槍が打ち合い、盾と盾が軋み、矢の雨が空を覆い尽くす。
越兵は声を限りに叫び、仲間のために血路を開き、最兵は生き延びるために死に物狂いで刃を振るった。
それは、ただの戦ではなかった。
戦いは三日にわたり、炎と血に覆われた。
昼夜を分かたぬ矢雨と鬨の声、剣戟と悲鳴が都の空を震わせ、瓦礫と屍が大地を埋め尽くした。
越軍は三十万の精鋭をもって必死に抗したが、百万の最軍の波濤は果てしなく押し寄せる。
攻防は幾度も城門の前で揺れ動き、陣地は血に染まって奪い合われた。
一つの丘を巡って半日、城門の突破と奪還に丸一日……両軍の兵士たちは疲弊し、死体と炎が戦場の風景を変えていった。
三日目、戦場の空気はすでに死の匂いに満ちていた。
兵たちの甲冑は血と煤で黒ずみ、剣は刃こぼれし、声を張り上げる力さえ尽きかけていた。
それでも戦は終わらない。
越兵は「祖国のため」と己を奮い立たせ、最兵は「退けば処刑」と恐怖に突き動かされ、両軍は互いを地獄へと引きずり込むように斬り結んだ。
それでも、わずかな差が次第に明暗を分けつつあった――。
三日に及ぶ死闘の果て、両軍はすでに限界に近づいていた。
最軍は数の優位こそ揺るがぬものの、寄せ集めの兵は疲弊し、補給も底をつきつつあった。
越軍もまた、精鋭とて疲れを免れず、兵の半数近くが討たれ、矢も糧も尽きかけていた。
その時、シルクは決断を下した。
「――全軍、退け」
彼は、最後の賭けをした。
わざと退き、疲弊した最軍を城外へ引きずり出す。
百万の大軍といえど、飢えと渇きに苛まれ、三日の戦で疲れ切った兵を動かすことは命取りとなる。
シルクは戦場を俯瞰し、冷静に判断を下した。後方の山林に数百の精鋭を配置することを決め、山栄や具厳に指示を飛ばす。彼らには、最軍の追撃を食い止め、敵を誘導する役割が課せられた。発覚を避けるため、あえて夜の闇に紛れて遠回りの道を通り、行軍を進めた。
一方で、シルクと越兵は戦場の僅かなくぼみに身を隠した。手持ちの矢が尽きると、彼らは石や折れた木片、さらには骨までを投げつけ、最軍の兵たちの動揺を誘った。
越兵の気迫は凄まじく、矢がない状況でも決して退かず、投げつける物一つ一つに命を込める。その不屈の姿勢に最軍の兵は徐々に足を止め、混乱が広がり始めた。小規模な抵抗でありながら、その激しさと意志の強さに、最兵たちの士気は揺らいでいく。
混乱の中、シルクは僅かな隙も見逃さず指示を飛ばした。伏兵の間合いから再び矢を放ち、敵の足止めを確実にする。越軍は怒号と共に再突撃し、槍の壁を突き破りながら前進する。
最軍の兵士たちは三日三晩の戦闘で疲労困憊しており、側面からの突撃に耐える余力はなかった。指揮官たちは必死に秩序を保とうとするが、兵の混乱は収まらず、砦を守るべき部隊も乱戦に巻き込まれていた。
戦場のあちこちで火花が散り、矢が飛び交い、馬の蹄と人々の叫びが混然一体となる。越軍の精鋭たちは勇猛果敢に突き進み、最軍の隊列はついに崩壊の兆しを見せた。その光景を俯瞰するシルクの目は冷静そのもので、だが心中には勝利への確信が静かに燃えていた。
最軍の大将サンは、必死に兵を奮い立たせるが、疲労と動揺の連鎖には逆らえず、百万の大軍であってもこの乱戦の前ではただの群れに過ぎなくなっていた。
サン帝は自軍の崩壊を悟り、南方へ退却を始めた。しかし越軍は追撃を緩めず、巧みに敵を包囲して最帝とその側近を孤立させた。
追い詰められたサンは、遠く後方に残った兵たちを振り返り、静かに言葉を紡いだ。
「我は、このような忠勇なる兵が側に居て、史上最も幸福なる君主なり……」
その言葉と共に、サン帝は自らの命を絶った。忠実な兵たちはその最期に深く心を打たれ、戦場に静寂が訪れた。
戦いの余波として、最軍の残存兵たちは次々と降伏し、戦場には静寂が訪れた。兵士たちは「我らが主は最後まで忠義を尽くした」と互いに語り合い、サン帝の死を悼みつつも戦の終結に安堵した。
やがて、シルクのもとにサン帝の首が届けられる。かつての敵の象徴である首であるが、シルクは感情を押し殺し、丁重に扱った。勝利の証としてではなく、戦に散った者への敬意として――彼は慎重に首を扱い、無用な軽侮や嘲りを避けた。
越軍の兵士たちはその姿を見て、指揮官としての威厳と、人としての節度を再確認するのだった。
越が最100万になんとか勝利に持ち込んだのは後年の歴史家や科学者達によって研究されている。
まず越兵の強度であった。
越兵は厳しい訓練と多くの戦闘をこなしたエキスパートであり、一方、最兵は徴兵が多く、農民も多く居た。
加えて気候であぅた。
当時、秋でありながら夏のような暑さであり、最兵は自身の馴染みのある領地であるのにも関わらず
まず越兵の強度であった。
越兵は厳しい訓練を受け、多くの戦闘をこなした熟練のエキスパートであった。さらに装備面でも優位に立っていた。越は鉄や鉛を豊富に産出する鉱山を有しており、武具や防具の質・量ともに最の兵に比べて優れていた。そのため、槍や剣の切れ味、防御力、においても優位に戦いを進めることができた。
この装備の差は、長期戦や大軍同士の衝突において極めて重要であり、越兵の持久力と戦闘力の底上げに大きく寄与したのである。
当時、秋でありながら夏のような異常な暑さが続き、最兵は自らの馴染みの地であるにもかかわらず、長距離の行軍や戦闘で疲弊が著しかった。水や食料の消耗も早く、体力と士気の維持が困難だった。
さらに、越軍の作戦・戦術も勝利に大きく寄与した。シルクは巧妙に地形を利用し、奇襲や伏兵を効果的に展開した。山林や川を活用して敵を分断し、補給路を断つことで、数の優位にあった最軍の戦力を相対的に削ぐことに成功した。
また、心理戦も決定的であった。越兵は士気の維持に優れ、シルクの号令や戦術的な動きによって「勝利できる」という自信を保っていたのに対し、最兵は強制徴兵や恐怖による動機付けが主体であったため、戦場での判断力や連携が徐々に崩れていった。
こうした要素の組み合わせにより、越の三十万は百万の最軍に対して奇跡的な勝利を収めることができたと、後世の歴史家や戦略研究者たちは結論づけている。