1 ようこそ高度育成高等学校へ
エンジン音が鳴るバスの車内に、凛とした声が聞こえてきた。
「どなたか席を譲ってもらえませんか!」
どうやらおばあさんが座れなくて困っているのを見かねた女子が、声を上げたようだった。
女子はオレと同じ高校の制服をきているため、新入生なのだろう。高校までまだ時間があるし正直座ったままでいたかったが、これからあの女子と顔を合わせるたびに席を譲らなかった人だとは思われたくない。オレは席を譲ることにした。
「あー…いいっすよ、ここ使ってもらって。」
おばあさんと女子生徒がこちらを見る。譲る人がいるとは思っていなかったのかおばあさんは驚いた様子だったが、女子生徒のほうは安堵の表情を浮かべていた。
「ほんと!ありがとう!」
「ありがとうね…」
おばあさんを支えながら、女子生徒がこちらへ向かってくる。早めに席を立ち自分もおばあさんを支えて、座る手伝いをした。
「いやそんな、全然気にしてなくてむしろすんません。」
オレがそういうと、おばあさんはしわがれた顔をくしゃっとさせながら言った。
「高校生活初日だものね、緊張するのは当たり前だよ。それでも譲ってくれてありがとうね。」
「ははは…」
全部自分の今後のためだからか、少し気まずかった。にしても、なにか違和感があるんだよな…まあ気にしたところでなにかわかるわけでもないか。
そんなことを考えている間に、安堵の表情を浮かべていた女子生徒はいつの間にか笑顔になっており、オレとおばあさんを見つめていた。
「お嬢さんもありがとうね。」
おばあさんにお礼を言われた女子生徒は、少し照れくさそうに笑って言った。
「いえいえ、わたしはなにも…」
ーーーー
かなりの高さの外壁が、見えなくなるくらいまで続いている。ここがこれからオレが通う高校、高度育成高等学校か。敷地内は60万平米を超えるとのことだが、平米とかよくわからないので想像もつかない。
ずっと立ち止まっていても邪魔だろう。足を踏み出そうとした瞬間、後ろからとたとたと近づく足音と、先刻聞いた、凛とした声が聞こえてきた。
「ちょっとまってー!さっきはありがとう。辛そうにしてたから見てられなくて…」
どうやら先ほどの女子生徒がわざわざ礼を言いに来たらしい。そんなこと気にしなくてもいいってのに。
「優しい人なんだな。オレは全然気づかなかったよ。」
気づかなかったのは本当だが、気づいていたとしても自分から席を譲ろうとはしていなかっただろうがな。
女子生徒はぽかんとした顔を一瞬浮かべたあと、笑って言った。
「そんなことないよ!わたしは呼びかけただけ。君のほうこそすぐ来てくれたよね?優しいのは君だよ。」
何言ってんだこいつ、オレはそんな人間出来てないっての。そんなことを考えていたら顔に出ていたのか、女子生徒はむっとした顔でまた優しいなどとほざくので、負けじと言い返してやることにした。
2,3巡ほどお互いムキになりつつ褒めあっていたが、なかなか根性があるようで、自然と笑みがこぼれた。
「はははっ」 「ふふっ」
どうやら同じことを考えていたらしい。似ても似つかないが仲良くなれるかもしれないな。
「なんだか君とは仲良くなれそうな気がするにゃあ。地元の知り合いとかもいないから、君みたいな優しい人と最初に会えて嬉しいよ。」
こいつ、あんだけ言い合ったあとによくそんな笑顔で言えるな…恥ずかしくないのか。
…どうやら少しは恥ずかしいようで、赤くなった耳を隠すように顔を背けながらチラチラとこちらを見ていた。その様子を見ているとなんだかオレも恥ずかしくなってきてしまい、誤魔化すように聞いた。
「…そういえば名前言ってなかったな、オレは演城凪。君は?」
「わたしは一之瀬帆波。これからよろしくね!」
そう笑顔で言う一之瀬に、なんだか全部見透かされたような感じがして、少し照れくさかった。
「よろしく。早く行けば混んでないだろうし、クラス分け見に行こうぜ。」
「そうだね。演城くんと同じクラスだったら、わたし、嬉しいな…。演城くんはどうかにゃ?」
上目遣いで一之瀬が言った。何言ってんだこいつ(二回目)。
さっきので吹っ切れたから弄ってきてるのかとも思ったが、どうやら本心から思っているらしい。
狙ってやってるならまだしも、本心からってのがより厄介だ。中学では初恋製造機として名を馳せていたのではなかろうか。
「…一之瀬、お前苦労してそうだな…」
「え!?なに急に!?」
オレの急な発言に戸惑っていた一之瀬だったが、からかわれているとわかったのか少し早足で歩きだしたので、慌てて着いていった。
「ふんっ」
本気で機嫌が悪いわけではなさそうだが、こういうところでちゃんと謝らないと付き合いが悪くなるからな。しっかり謝っておこう。
「すまん、悪ふざけがすぎた。でもそのうえで一つ言わせてもらう、さっきの発言、言い方もあいまって人によっては勘違いされるぞ。思い返してみろ…」
目をそらしながら思ったことを伝えると、2秒ほど固まったあと沸騰したやかんみたいになりながら慌てふためいた。
「ち、ちが、いや違くもないんだけど違くてっ!あの、そういうつもりで言ったわけじゃなくてねっ!?」
もちろんわかってはいるが、思っていたよりも慌てている一之瀬がなんだか可愛くてついまたからかってしまいそうになった。
「わかってるよ、クラス一緒だったらいいなってだけだろ。一之瀬と同じクラスだったらオレも、うれしいな…」
やべ。
「む~っ!またからかってる!わたしだって怒るときはほんとに怒るんだからね!」
頬を膨らませてそんなことを言う一之瀬、さすが一之瀬あざとい。
「はいはい、そんなことしたって可愛いだけだぞ。はやく見ようぜ………?おい?」
なにやらさっきのやかんモードを超えて活火山モードまできた様子で、ずっと口をパクパクさせている。
「な、なななな何を言っているのかにゃ!?か、可愛いとか急に言われても…」
慌てたと思ったらモジモジしだしてなんだこいつ、元気なやつだな。
「別に言われ慣れてるだろこんなこと。ほら、見ようぜ。」
だんだんと人が増えてきたので、掻き分けて道を作ることにした。
「…可愛いなんて初めて言われた…。なんだか調子狂っちゃうにゃあ…」
ーーーー
えーっと演城は…っと。あった。なになに、Cクラスね。一之瀬は見つかっただろうか。
「一之瀬、オレはCクラスだったけど一之瀬は?」
オレの声に反応した一之瀬が振り向いて言った。
「あちゃー、わたしはBクラスみたい、残念だね…」
本当に残念だ、なんだかんだ仲良くなれたつもりだったからな。
まあクラスが違くても遊んだりはできるだろ。クラス替えとかもあるだろうしな。
「そうだな。まあ隣のクラスだし、放課後とか遊べたりするだろ。せっかく友だちができたのにさよならってのもなんかな。」
オレがそういうと一之瀬は少し驚いたようだった。
「友だちって思ってくれてたの…?演城くんってあんまりそういうこと言ってくれない人だと思ってたにゃあ。」
てへへ、と頭を掻きながら言う一之瀬に失礼なやつだと思ったけど、オレのほうが失礼なやつだった。思われても仕方がなかった。
「携帯端末とか受け取ったら、連絡先交換しようぜ。自由時間にそっちのクラスに遊び行くからさ。もちろん一之瀬がよかったらだけど。」
これまた驚いた顔しやがって。確かになれないことしてるけれども、まだあって数十分だってのになんだってわかるかなあ…。
一之瀬は今日一番の笑顔でうなずいて、目を潤わせ、頬を染めながら言った。
「もちろんいいよ!わたしも言おうと思ってたから…お揃い…だね…?」
ッ…………一瞬動揺してしまったが、さっきやられたこと根に持ってるなこいつ。顔がやかんモードだから気づけたものの、オレじゃなかったら惚れてるぞ。
舐められっぱなしってのも癪だな。オレに勝負を挑もうなんざ百年早いってことを教えてやろう。
「そうだな、お揃いだ。オレ、嬉しいよ。一之瀬ともっとずっと仲良くなれた気がして…」
見よ。中学演劇部で主役を根こそぎ奪ってきたオレの演技力を。
一之瀬の手を取り、心の底から嬉しいが少し恥ずかしがっているような表情を浮かべ、じっと目を見つめること数秒間。しれっと活火山に移行した一之瀬はそのままショートしてしまった。
「あれ、やりすぎた?おーい一之瀬ー」
目の前で手を振っても反応がない。活火山を終えて休火山モードに入ってしまったのだろうか。
「…はっ」
どうやら気が付いたみたいだが、さすがに今回はオレの勝ちでいいだろう。
「…次は負けないからねっ!またあとで!」
ショートしてたことがよっぽど恥ずかしかったのか、一之瀬は顔を真っ赤にしたまま駆け足で校舎へ向かってしまった。
しかし、あれだけやられてもまたあとでとは…なんて優しいのだろうか彼女は。
さてと…オレも
「…なあ、あんた。今の女子とは中学からの仲なのか?」
どうやらオレと一之瀬のやりとりを見ていた人がいたらしい。なんだか急にオレも恥ずかしくなってきたが、表には出さずに後ろを向いた。
そこにいたのは、ぬぼーっとした様子の、表情が読めない男子生徒だった。
「いや、一之瀬とはここにくるまでのバスで初めてあったよ。ごめんな見苦しいとこみせちゃって…」
そう伝えると男子生徒はいろいろと考えこんでいたようだったが、少しするとまた口を開いた。
「そうだったのか。距離が近いものだから前々から知り合いなのかと思ってな。しかし凄いな…どうやったらそんな仲良くなれるのか…。」
男子生徒(綾小路というらしい)は、どうやらオレと同じようにバスでいざこざが起こり、そのとき隣に座っていた女子生徒をチラッと見ただけで難癖をつけられたらしく、同じような境遇なのに全然違う現状に少し悲しそうにしていた。
にしても、綾小路が乗っていたバスでも老人が席を探していたと…やはり変だな。
「関係ないかもしれないが、高育行のバスに乗る人が多いと思わないか?オレの乗ったときもおばあさんが席を探していたし、もし一之瀬が出なかったら綾小路のときのように誰かが出てきたかもしれない。なにか理由でもあるのか…」
「…オレはわからないがなにかあるのかもな。」
オレの直感がなんだかきな臭いって言ってるんだよな。今考えたって仕方がないが、一応覚えておこう。
ふと前を見ると綾小路がソワソワしている、クラスでもききたいのだろうか。
「そういや、綾小路はクラスどこなんだ?オレはCクラスだった。」
そう話しかけると少し笑顔になって教えてくれた。やっぱりあってたみたいだ。
「オレはDクラスだった。演城とは仲良くなれると思っていたのに残念だ。」
どこかしゅんとした様子で言うもんだから、なんだか見てられなくなった。
「じゃあさ、空いた時間にそっちのクラスへ遊びに行くからよ。そんときに連絡先交換して遊びにでも行こうぜ。オレもせっかくできた友だちとは仲良くしたいからさ。」
しっぽがあったらそれはそれはブンブンと揺れていそうな顔で、何回もうなずいている。なんか犬みたいで可愛いやつだなこいつ。
「教室も隣だし、よかったら一緒に行かないか。」
断られないだろうと思いながらも、断られる可能性を考えて少し不安そうにきいてくる綾小路があまりにも面白かったので、目的の場所は後回しにして教室へ行くことにきめた。
いたずらを思いついたので校舎に向かって歩き出すが、着いてくる気配がない。想定通り、断られたと思ったらしい。
「なにしてんだ綾小路、行くぞ。」
「っ!」
悲しい顔から驚いた顔に、さらに喜ぶ顔に変わる綾小路は、あまりにも面白かった。
綾小路(これが男子高校生…青春を送るためにはあんな積極的にならないといけないのか…)
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氏名:演城 凪 (えんじょう なぎ)
学力:B+
知性B+
判断力:B
身体能力:A
協調性:A+
【面接官からのコメント】
入学試験においても高い成績であり、面接においては過去最高の成績を残した、本校においてもかなりのポテンシャルを持つ生徒である。学業、身体能力など色々な面で高水準なためAクラス所属の予定だったが、別途資料に記載されている事柄をふまえて、Cクラス所属とする。
【担任のコメント】
高いコミュニケーション能力を活かし、学年、クラス問わず情報収集に励んでいます。意識しているかはわかりませんが相手によって言葉遣いや態度を合わせている印象があるため、人をよく見ていると思います。今後彼がクラスにどのような影響を与えるか、またクラスからどんな影響を受けるか、期待がもてます。
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はじめまして。亀更新駄文で、自己満作品をあげていきます