「”それじゃあ皆準備はできた?”」
「ん、準備万端」
「シロコ先輩はいつもそうでしょ!」
「私も準備オーケーです☆」
「おじさんも、バッチシだよー」
「わ、私も大丈夫です……」
「”よし、電源落とすよ!”」
「それじゃあ、皆突撃ー」
小鳥遊ホシノの合図で全員銀行内へと駆けていった。
中では銃声が鳴り、ロボットが倒れた音がした後、叫び声が聞こえ始めた。軽い地獄だな。
我は先生と共にいる。
ここにいれば顔を隠す必要もないからジャッジメントのバッテリーを食う必要もない。
あと先生は、脆いらしいから護衛も兼ねてな。
噂によると先生はヘイローが無いから銃弾一発当たっただけで死んでしまうらしい。
……なんでキヴォトスに居るの?
「先生いきなりでなんだが、周りの人間が銀行強盗をし始めて、止めるべき立場にある人間もその強盗に加担している。……こういう時、我はどういう顔をすればいい?」
「”………笑えばいいんじゃないかな”」
「ぶち転がすぞ貴様」
舐めてるのかお前。
「はぁ……外の世界の住人と聞いていたから大人しい奴かと思ったら、そこらの不良と全く変わらない思考をしているな」
「”子供の居場所を奪おうとする人にいちいち手段なんて選んでられないよ”」
「その心意義は素晴らしいな。心意義"は"な」
お人好しなんだか、イカれているのか分からないな。
桐藤ナギサが警戒している理由が分かった気がする。
いや、あいつが警戒している理由は"シャーレ"にあると思うが。
この先生という奴は"連邦捜査部シャーレ"という、突如として設立された正体不明の機関。
何故作られたのか、何が目的なのか、何もかもが不明。
それに加え、各学園が抱える諸問題にも関与することが可能。
……そう、コイツはトリニティとゲヘナが抱えるエデン条約に関わることも可能であり、それが桐藤ナギサが先生……シャーレを警戒している理由の一つだ。
正直、我としてもエデン条約には関わらないでほしい。
今でもアリウスの対処法を練るのに精一杯なのにシャーレまで来られたら、どちらかが問題を起こした場合対処ができなくなる。
いくら
クソ、我と同じ
「……………」
「……
この薄緑髪の奴は何故、我の事をずっと見ているんだ?
「………!」
「あ?見えているのかって?当たり前だ。我は
「”…誰と話してるの?”」
「君は気にせず作戦を進めるがいい。
「”そ、そうなんだ……”」
引かれてしまったんだが。
「……取り敢えずお前何用だ?」
「……!……?……!………」
……生者は死者の声を聞き取れないっていう、しょうもない世界の掟が邪魔をしてうまく聞き取れない……!
「……ようやく自分が見える人に会えてうれしい……で、あってるか?」
「……!(コクコク)」
「なるほど、自分が死んだことに気付いてないタイプか」
「……!?……!」
「あぁ、既にお前は死んでいる。状態から察するに……脱水による死……か?」
薄緑髪の奴は全身が干からびておりげっそりとしている。
……ちょっと、グロいな。
「…………?……!」
「あー?何故自分は死んでるのに現世いるのかだって?そりゃ……な、なんか未練でもあるんじゃないのか?」
「……?………!」
「なんか心当たりがあるようだな」
「……!……!!………」
「……小鳥遊ホシノと仲直りがしたい?」
「……(コクコク)」
あのピンク髪と、か……見た目が少し似てるのは……この喧嘩が原因か?……ここを察するのは野暮だな。
「仲直りがしたいが喋れないからできないと……そういうことだな」
「……(コクコク)」
「しかし、お前が言ったことを我が通訳しても意味が無いだろうし。キレられるのがオチだろう」
「………」
「だが、
「……?」
「
「……!」
「
仲直りができないってのは辛いからな……。
『何故だ……!何故アツコを傷つけた!』
『それは……ベアトリーチェから守る為に……』
『何故、マダムから守る必要がある……!マダムは役に立ったら解放すると約束してくれた!それに比べてお前は……ただアツコを傷つけてるだけだ!』
『生贄のダミーを作るためにだな……』
『黙れ!もうお前の虚言は聞きたくない!……二度と私達に近づくな』
『……待て!まだ完全なデータが…!』
『口を開けばデータデータデータ……。ふざけるなよ貴様ァ!!』
バンッ!
『グッ……』
『……次、近づいたらお前を殺す。それが嫌なら二度と私達に関わるな』
『………』
「………はぁ」
「……?」
「いや、何でもない。気にするな」
薄緑髪の奴に心配そうな顔で我の顔を覗き込む。
……心配してるのはわかるんだが……顔が怖いからやめてほしい。心臓にとても悪い。
「”
「了解した」
……そろそろ銀行強盗が終わるという金輪際聞かなそうなワードなんなんだよ。
ドォーン!
「”あ、出てきたみたい”」
「派手な登場だな」
「”さ、私たちも行こう”」
「はぁ……面倒くさい……」
我は先生に近づき、お姫様抱っこをする。
この体勢だ一番飛ぶときに負担もかからず効率的だ。
「”え!?ちょ、ちょっと
「……?どうしたもこうしたもアイツらのもと行くんだろ?そういうことだ、行くぞ」
「”ま、待って待って待って。な、なんでお姫様抱っこで!?私自分で歩けるよ!”」
「そりゃ、我はともかく先生は顔を隠せないだろ?だからバレたらマズイから空を飛んでいく」
「”えっ…空?”」
「飛んでる間暴れるなよ。暴れたら落とすぞ」
「”わ、わかった…”」
「よし、それじゃあ行くぞ」
「1」
地面を蹴り、少し飛び跳ねる。
「2の」
もう一度地面を蹴りビルの半分くらい飛び跳ねる。
「3!」
力強く地面を蹴りビルより高く飛び跳ね、羽根を大きく広げ羽ばたき始める。
最初のうちはゆっくりと落下していっていたが徐々に安定し始め、落下せずに飛べるようになった。
「空を飛ぶ練習をしておいたほうがよかったな……あまり安定しない……」
「”ふ、不穏な事言ってるけど落ちないよね……?”」
「まぁ…銃弾が飛んでこないか先生が暴れなければ落ちることはないはずだ」
「”大人しくしてるね……”」
「そうだ、そうしておいてくれ。我としても無意味に人を殺したくない」
取り敢えずは安全地帯に着くまではこのまま空を飛んでいくとするか。そのほうが楽だし。
アビドスの連中の頭上を飛んでいると、突如足を止め辺りをキョロキョロし始めた。
……何してるんだ?
『先生!今何処にいますか!』
奥空アヤネから通信が入る。その声色からは焦りが感じられる。
「”えーっと、信じられないと思うんだけど……。今皆の頭上に居るよ”」
『え?頭上?』
奥空アヤネの声と共に、アビドスの連中は空を見上げる。
……我達と目が合った。
数秒固まった後、遠目に見てもわかるほどに慌て始めた。
『せ、先生!?それは……その……大丈夫なんですか!?』
「”うん大丈夫。私のことは気にしないでそのまま先に進んで。指揮はここからするから”」
『りょ、了解しました。先輩達にそう伝えておきます』
奥空アヤネは通信を切った。
さっきの会話から抱いた疑問を先生に投げかける。
「……ここから指揮するのか?」
「”そのつもりだけど”」
「ここから見えるか?状況」
「”できる限り近づいてほしいなぁ……って”」
「……我が銃弾を全て防げるとは思わないことだな」
「”大丈夫、私には
そう言いタブレットを見せる先生。
……馬鹿か?タブレット如きで銃弾を防げるわけが……。
「……っ!?」
「”どうしたの?”」
「い、いやなんでもない……」
……タブレットから異様な気配を感じる。
なんだこの……恐怖に似た感覚は……!
……しかし危害を加えるようなオーラは感じない……なら……大丈夫か?
「……わかった、見えるとこまで近づくが、危険と判断したら空に戻るからな」
「”大丈夫、任せて”」
「頼りねぇ……」
我は敵の視界に入らないギリギリのところまで下がる。
先生はタブレットを起動し、戦いの指揮をし始める。
………待て、ほんとに指揮か?コレ。ただのゲームじゃね?
いや、でもアビドスの連中と動きが一緒だな。……なんだこのタブレットは……。
まぁ……どうせ、すぐ撤退する事になるだろうし、戻る準備はしとくか。
『封鎖地点を突破。この先は安全です』
「やった!大成功!」
『本当にブラックマーケットの闇銀行を襲っちゃうなんて……』
余裕で成功しやがった。
え、何コイツ、怖いんだけど。
先生って教師って意味だよね?指揮官とかの隠語じゃないよね?
……一応ティーパーティーに報告しておこう。コイツが敵になったら面倒だ。
「”ありがとうね
「そ、そうか……それはよかった……。じゃない、我は
「今忘れてたよね?」
「さぁ?何の話だ?」
「絶対忘れてたくせに……」
そんなことより……。
「ちゃんと欲しがってたやつは手に入れたんだろうな?
「う、うん……バッグの中に」
そう言ってバッグを開けると目的の集金記録の書類と大量の札束が入っていた。
……札束ぁ!?
「へ?なんじゃこりゃ!?カバンの中に……札束が……」
「うええええっ!?シロコ先輩現金盗んじゃったの!?」
「ちゃっかりしてんなぁ…」
「ち、違う……このお金は銀行の人が勘違いして入れただけで……」
「どれどれ……うへ、軽く1億はあるね。本当に5分で1億稼いじゃったよー」
「やったぁ!!何ぼーっとしてるの!運ぶわよ!」
え?使うのコレ。
『ちょ、ちょっと待ってください!そのお金使うつもりですか!?』
「アヤネちゃん、なんで?借金返さなきゃ!」
『そんな事したら本当に犯罪だよ、セリカちゃん!!』
銀行強盗した時点で、もうアウトなんだよな。
何まだセーフみたいに言ってんだ。
「は、犯罪だから何?このお金はそもそも私達が汗水垂らして働いて稼いだお金なんだよ!それがあの闇銀行に流れたんだよ!」
「それに、そのままにしておいたら犯罪者の武器や兵器に変えられてたかもしれない!悪人のお金を盗んで何が悪いの!?」
「……私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方が良いと思います」
……一応君らも犯罪者…ということは言わないほうがいいな。
「ほらね!これさえあれば学校の借金をかなり減らせるんだよ!?」
「んむ……それはそうなんだけど……シロコちゃんはどう思う?」
「自分の意見を述べるまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから」
「へ!?」
「さすがはシロコちゃん。私の事わかってるねー。私達に必要なのは書類だけ。お金じゃない。今回のは悪人の犯罪資金だからいいとして、次はどうするの?その次は?こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくはきっと、平気で同じ事をするようになるよ」
小鳥遊ホシノからだらけた雰囲気は消え、年長者として諭すように話す。
「そしたらまたピンチの時に”仕方ない”とか言いながら、やっちゃいけないことに手を出すと思う。うへ〜、おじさんとしては可愛い後輩がそうなっちゃうのは嫌だなー」
「……そうやって学校を守ったって何の意味があるのさ」
「……」
……まともなこと言えるんだな。
ちゃんと先輩として最後の一線だけは越えないようにしてんだな。
「……!!……!」
「何泣いてんだ薄緑髪。というかそんなカラカラの体でよく泣けるな」
「………!……!」
「ちゃんと先輩してるのが嬉しい?……泣くほどか?」
「えっと……誰と話してるの?」
「見えちゃいけない存在と話してるだけだ。気にしないでくれ」
「なにそれ怖いんだけど。……まぁ、とにかく、こんな方法使うくらいなら最初からノノミちゃんが持ってるゴールドカードを使うよ」
「……私もそう提案しましたが、ホシノ先輩が反対されて……。先輩の気持ち、わかります。いくら頑張ったってきちんとした方法で返済をしない限り、アビドスはアビドスじゃなくなってしまう……」
「うへ、そういうこと。だからこのバッグは置いていくよ。頂くのは必要な書類だけね。これは委員長としての命令だよ」
「……うわああ!もどかしい!意味わかんない!こんな大金を捨ててく?変なところで真面目なんだから!」
「うん、委員長としての命令なら」
「私はアビドスさんの事情はよく分かりまんが……このお金を持っていると、何か他のトラブルに巻き込まれるかもしれません。……災いの種、みたいなものでしょうから」
「視点を変えたら、金って身近にある中で一番怖いものだからな」
金の為なら何でもやるやつがいるほどだしな。
「あは……仕方ないですよね。このバッグは私が適当に処分します」
「ほい、頼んだよー」
『…ッ!!待ってください!何者かがそちらに接近しています!』
「追っ手のマーケットガード!?」
「い、いえ敵意はない様子です。調べますね……あれは……」
「べ、便利屋のアルさん!?」
「……便利屋?ゲヘナの奴か」
………ゲヘナかぁ、他のトリニティのカスどもと違いゲヘナだからと忌み嫌っているつもりはないが……あっちがそうとは限らないからなぁ……。
……エデン条約間近だし、変な事が起こらなければ良いんだが……。
190kgのレールガンと約60kgの人を持ちながら空を飛べる神が一番ゴリラゴリラしてる。