前世で親友に裏切られたTS少女が今世で幸せを掴む話 作:名無しのTS好き
──思い返せば、散々な人生だった。
生まれは、国の中でも一番酷いスラム街。
力が全てで、力の無い人間は淘汰される、そんなところだった。
あの街で信じることができるのは、ただ一人、自分だけ。
だから、長く生きている奴ほど人を利用するのが上手くて、それでいて性根が腐っている。
勿論、性格が良い奴だっているにはいたさ。
けれど、そんな奴に限って直ぐ死んでいくんだ。
それにここは、人の命も軽い。
初めのうちこそ、皆誰かが死ねば嘆き悲しむものだが、それも次第に無くなっていって、最終的には誰かが死んだところで何も意に解さなくなる。
そんな所で俺は、子供の頃から何人もの大人を倒して成り上がってきた。
ついには、街の一番上に立つところまで。
だが。
裏切られた。
それも、子供の頃から一緒に成り上がってきた、親友だと思っていたやつに。
ソイツ曰く、「君の力は強すぎるんだ、後は僕に任せてくれ」だとさ。
ハッ、冗談じゃねえ。
俺みたいな欲張り者がせっかくたどり着いた地位から退くわけねぇだろ。
結局、不意打ちをされて致命傷を負っちまったんだけどな。
最後の抵抗として、なんとかその場で始末されることだけは避けれたが、自分でも、もう長く無いことくらい分かっている。
はぁ、街の
ああ、くそったれ。
あの野郎に刺された腹が痛い。
いや、もうそんな痛みすらも消えてきて、なんなら寒いくらいだ。
いつか、俺の目の前で死んでいった奴が言ってたけっなぁ。
死ぬ直前は痛くもなんともなくて、むしろ寒いと。
それにしても、一番の仲間だと思っていた奴に裏切られて、このザマか。
俺の人生には、何の意味があったんだろうな……。
……もしもの話ではあるが、もし、生まれ変われるとしたら。
人伝いに何度か聞いた冒険者って奴になって、一人で力を追い求めてみてぇ。
それから、はるか昔に魔王を倒したっていう勇者みたいになりてぇな。
あ、でも本当に、
俺のことを何があっても、いつでも信じてくれて、裏切らないようなそんな仲間が。
まあ、どうせ無理なんだろうけど。
段々と、体に力が入らなくなる。
動かそうにも、もう言うことを聞かない。
……なあ、神サマ。
あんたってさ、俺らの国にもちゃんといるんだろ?
神話として語られている出来事も本当はあったんだろ?
だがら、もしいるんだったらよ、俺みたいなクズの願いでも、叶えてくれよ……。
そうして、視界が暗くなっていく。
ああ、本当に。
本当に散々な人生だった。
◆◆◆
「な、何でこんなところに……だ、大丈夫!?」
「……ん、ああ」
「ッ! やっと目を覚ましてくれた……」
「誰だ……お前……」
ぼやけた視界に、まだ八とか、九くらいだろう少年の姿と、かすかな緑が見えてくる。
ここは……ああ、森か。
俺の亡骸が街に残らないようにと、誰かが運んだのか……?
燃やして消せば良いだけなのに、わざわざ面倒くさいことをする奴もいるもんなんだな。
ていうか、なんで
どうせ死ぬって言うんだから、足なんか止めずにどこかへ行ってほしいんだが。
それに、俺はそんな目で見られたくねぇんだ。
もう死ぬ覚悟は決めてたって言うのに、最後にそんな心配をされるような目で見られて死にたくない。
最後くらいなけなしのプライドを持ったまま死なせてくれ。
「ギルドの人に相談しようにも……うぅんいや、僕が何とかしなきゃ」
「や、やめろ……俺に近づくな……」
「ほっとける訳ないでしょ!」
俺は、必死に抵抗しようとする。
だが、何故か体こそまた動く様にはなっていたものの、どうも力が込めれず、ただ目の前の少年が俺を運ぼうとするのを見守るくらいしか出来ない。
それにしても、何かが変だ。
この少年が俺に向ける目は、まるで小さな子供を見る様もの。
しかも、こんなちっさい奴が、それなりに鍛えたはずの俺の体を運ぶなんてことは出来ねぇはずなのに。
どうして、俺はいとも簡単にこいつに抱えられてるんだよ……?
「どうして……俺を助ける……」
「小さな女の子が倒れてたら助けるに決まってるじゃん!」
「……は……?」
そんな俺に、こいつは更に混乱させるようなことを言ってきた。
こいつは、何を言っている。
俺は、もう何十年も生きてきた大人で、それも男のはずで。
そんな俺を『小さい女の子』だなんて、新手の幻覚にもかかったんじゃねえの。
ほら、手だってこんな、ゴツゴツしていてどう頑張っても子供になんて……は?
あり得ない、あり得ない。
どうして、俺はこんなに小さな手になっているんだ。
こんなんじゃ、まるでこんなのこいつが言っていた
「わっ、き、急にどうしたの!?」
「俺が……俺じゃなくなっている……」
「え、えっと、目を覚ましたばかりだから、色々混乱しているの……かも? あんまり無理しないでいいから、ね」
違う、俺は無理なんかしていない。
おかしくなっちまっているのは俺じゃなくて俺の体だ。
ここに、鏡でもあればいいんだが。
鏡だなんて高いもの、こいつみたいな弱そうな奴が持っている訳ねぇよな……。
いや、鏡じゃなくてもせめて川とか、今の自分の容姿を知る手段が欲しい。
それにしても、俺の体は一体どうなっちまってるんだ。
俺が、いつもの状態だったらこんくらいの子供、直ぐに振り払えるっていうのに。
歯がゆい、何も出来ねぇ今の自分の体が憎い。
「町についたよ! えっと、とりあえず宿のおばさんのところに……」
「これが……町……? こんな、活気に溢れてるもんなのか……」
「……もしかして、町を見るのは初めて?」
「こんなの、俺が知ってる
ああ、もう。
訳分からないことが多すぎる。
ここは、俺がいたあの街じゃないのか?
あの、どの住民もいつも暗い顔をしている街じゃないのか?
そもそも、ここは一体全体何処なんだ。
何から何まで、俺にとって初めての景色しかない。
こんな、襲いやすい子供、それも何かを抱えているような人間がいれば真っ先に襲いかかられるはずなのに、どうしてここの連中は笑顔でいられる。
笑顔であるくらいだったら、早くこいつを匿うなりしねぇと。
このままじゃ、人を奴隷にして売ろうとするような奴らが……。
「ッ!」
「ユウ! 今日はどうだったんだ……って、どうしたんだい、その抱えている女の子は」
「あ、あの、森の奥で変な声が聞こえて、そこに行ったらこの女の子が倒れてて……」
「ボロボロじゃない! 早く洗ってあげないと」
思わず警戒をしちまったが、この女性もやはり。
敵意がどこにも、ない。
何で、ここにいる奴らはこんなに優しい奴らばかりなんだ?
俺の体がおかしくなっているのは勿論なのだが、俺にはこいつらの心情がイマイチ理解できない。
出会う奴ら、全員が笑顔でいる。
暗い顔をしている奴がいたら、逆に励ましていたり、本当に、なんなんだここは。
俺がいた、あの力こそ全てだった街は、どこに行ってしまったんだ。
「ユウ、ちょっと水を出しておくれ」
「は、はい! 今日はあまり魔法使ってないので魔力も残ってます!」
「ありがとね、ユウ。貴女、ちょっとこっちの方においで」
そう言って、女性は俺に手を差し伸べる。
勿論、その目には打算だなんてこれっぽちも考えていないようで。
こんなの、人生で一度もされたことがない。
人を助けるだなんてことは、自分に利益がない限り絶対にしない連中にしか出会ったことがない。
だから、今は。
初めて会った、この少年と女性が、妙に眩しく見えるのだった。
これが、いつか死んだ外の町から来た奴が言っていた
……分からない。
だって、俺は、近づいてくる人間の手を取ったことが一度もないから。
会った奴らは全員が悪意を持った目で近づいてきて、手を取るだなんてことは一度もなかったから。
けれど、今は生き残るためにこの手を取るしかない。
裏切られたら、またそれだけの人間だったということ。
致命傷を負ったのに、何故か生きている時点で、俺の体には何かが起きている。
認めたくはないが、おそらく本当に少女にだってなっているのだろう。
どうせ、一度は死んでもいいと覚悟した身だ。
なら、もう流れに身を任せるしかないじゃねえか。
そんなことを思いながら、俺は。
その伸ばされた手を、取った。