前世で親友に裏切られたTS少女が今世で幸せを掴む話 作:名無しのTS好き
「くすんでいて分からなかったけど、綺麗な銀色の髪だね」
「……」
「あれ、もしかしてくすぐったかったかい? ごめんね、もうしばらく人を洗うだなんてしてないから、力加減が上手くないかもしれないよ」
俺は今、必死に羞恥心を抑えている。
それもそのはず、今の俺は服をほぼ着ていない状態なのだ。
何故かって?
手を取った瞬間、水辺に連れていかれて体を洗われたからだよ。
人にここまで無防備な姿を晒したの自体が初めてなのは勿論、それ以上に体が変わったせいで自分のはずなのに自分じゃねえみたいなんだ。
……はぁ、一体どうしてこんなことになっちまったんだろう。
確かに、死ぬ直前に生まれ変わりてぇとは神サマに願ったさ。
けれど、何も、触れただけで折れてしまいそうな華奢な少女にする必要はねえだろ。
俺は、桶に水を溜め、改めて今の俺の顔を見る。
そこ映るのは、やはり顔のパーツが整っていて、いかにも良いところの出身なことを思わせる少女の姿。
勿論、中身はクズの中でもクズの俺だが。
「いや、本当に綺麗な顔をしているね、貴女」
「……あの、ユウって奴は、ずっとあんな感じなのか?」
「ん? ああ。ユウね、あの子は本当に良い子だよ。あの子もね、貴女と同じようにあの森から見つかったのさ、貴女よりボロボロで」
「あの森は、一体全体なんなんだ?」
「さぁ、ねぇ。私らにはよく分からない力が働いていってことは分かるんだけど。だって、貴女やユウみたいな子がたまに見つかるのよ」
どうせだからと、俺は女性に気になっていることを何個も聞いてみる。
だが、満足な答えがいくつも返ってくるわけではない。
ただ、あのユウというらしい少年も俺が目を覚ましたあの場所ところで見つかったっていうのは気になるな。
それに、あそこからはたまに人が見つかるって言うのも。
思い返せば、俺が倒れていたところは、木の根っこだった気がする。
あの時は気が動転していて良く見えなかったが、おそらくかなり大きいものだったはずだ。
もしかして、その木が、何かしらの力を持っている?
まあ、今考えても仕方がねえか。
明日か明後日か、そんくらいにまたあの森に戻って見てみれば良い。
今はただ、俺なんかに優しくしてくれるこの女性と、俺を拾ったあの少年の好意に甘えておく。
いつでも裏切られていいようには行動するけどな。
「よし、綺麗になったよ!」
「……ありがとう」
「あら、急に素直になるのかい。そっちの方が可愛いと思うよ」
「ありがた迷惑だ」
「ふふ。あ、これが貴女の着替えさ」
そう言って、白いワンピースのような服を女性は渡してくる。
勿論、一度も着たことがなし、あの街では滅多に見なかった。
そもそも肌が見えている服を着ている奴なんてそうそういなかったからな。
でも、ここなら別にそんなこと微塵も気にする必要ねぇんだろうけど。
……裏切られてもいいようにするとはいったが、こんな温かさを一度でも知っちまった以上は、裏切られるだなんてことがあった日にはもう二度と立ち直れねぇだろう。
牙が欠けた猛獣ほど、害がなくて、それでいて扱いやすいものはない。
そのことは、一度街の外に出ていって戻ってきた奴ら全員、結局使い潰されたことが良く証明している。
あいつらも良い奴らだったんだがなぁ。
ほどほどに冷酷で、それでいて温かさもあって、それでいて情に厚い。
もし死ななかったら、いつか俺がトップになった時に直属の部下にしようと思っていた奴もいたし、本当にあれは嫌な出来事だった。
あの街は、どこまでも力が全てで、自分が全てで。
他人を頼ることを覚えちまった人間は、到底生き残りえないクソみたいな環境なんだよ。
「……ねぇ、ねえ!」
「ん、……おっと」
「どうしたの、凄い怖い顔してるよ? おばさんになんかされた?」
「いや、ちょっと嫌なことを思い出しただけだ、おばさん? は優しかったよ」
「そっか……僕に出来ることがあったらいつでも言っていいからね」
っと。
俺より、本来何十歳も年下のはずの少年に心配されちまった。
思ったより酷い顔をしていたみたいだな。
これじゃあいけねぇ、どこであろうと、自分の感情を制御出来ない奴は誰かしらから睨まれる。
そのことを世界の誰よりも分かっている自信があるのにヘマしちまった。
この体、思ったよりも感情を隠すことが下手みたいだ。
冷静に考えりゃ、七、八くらいの少女に感情が隠せるやつはそうそういるわけねぇしな。
当たり前っちゃ当たり前なんだが、どうも表情筋が動くっていうのが久しぶりすぎで違和感しかねぇ。
なんか、今更な気はするんだが、俺が生まれた街って。
やっぱり、システムから何まで全部おかしかったんだわ。
あ、そういやこいつも俺と同じところで見つかったって言ってたっけな。
ちょっとそこのところを聞いてみてもいいかもしれねぇ。
「なあ、お前も、オレと同じところで見つかったんだろ。お前は、何があってあそこにいたんだ?」
「えっ、あっ……」
「あー、その。別に言いたくなかったら良いんだけどさ、お前がおばさんって言ってる人からそう聞いたんだよ」
「え、えっと……僕は、
「なるほど、ありがとな」
やっぱり、俺が死ぬ直前に願った、神サマがなんか関係しているっぽいな。
だから、多分、こいつも俺と
俺と同じように死ぬ直前に何かを願って、それであの森に飛ばされたんだろう。
ただ、でもこいつは俺みたいに体が変わったとか、そういうわけでもなさそうなんだよ。
となると、こいつは何かがあって死ぬことになって、その状態でここに来たってことなのか?
追加で情報を聞きたいところだが、なんか、こいつからはもう聞けなさそうな雰囲気がある。
それにしても、『英雄になって人を助ける』か。
俺にも、そんなこと考えていた時期があったな……。
俺だって、本当はずっと希望を持ちたかった。
そんな夢をあきらめて、せめてこの街で生き残ろうって決意したのはいつ頃だったか。
ああ、もう。
思い出したくないことを思い出したせいで気分が悪くなっちまった。
急に頭がクラクラしてきやがる。
クソッ、これは、本当に倒れかねないやつ……だ……。
◆◆◆
あたしの名前は、リューカ。
どこにでもあるような町で、宿をやっているもんだ。
あたしの宿には、色んな人間が来る。
旅の行商人だとか、お忍びの貴族様だとか、そして、身寄りのない森からやってきた子供だとか。
ユウだって、そんな子供のうちの一人だった。
ありゃ、酷かった。
あんなにボロボロの子供、初めて見たさ。
しかも、体中を怪我しているっていうのに、「僕は世界中の人を助けないといけない」ってのろのろと宿から出ようとしたんだよ。
もう、宿中総出で止めたよ。
こんな子供のどこにここまでの力があるんだいってくらいの力で宿を出ようとして、軽い騒ぎになったほどだったんだから。
でも、今は少し落ち着いたみたいだね。
相変わらず、人を助けるっていうのはしているらしいけど、今のところ町の人から「あなたのところのユウくんは本当に優しいね」とまあ喜んでもらえているから良いことなんだろう。
そんなユウが、今日。
ユウがここにきたばかりの頃ほどでもないけど、やっぱりボロボロの子供を森から連れ帰ってきたんだ。
この子にも、まあ驚かされた。
どこかの貴族様みたいに外に一度も出たことがないような容姿をしていて、その割には粗暴というか大人びているというか、何十年も生きている人生を諦めた人間のような話し方をする。
一瞬、あたしより長く生きているのかい、と思っちまったよ!
けれど、ユウと話している姿を見ると、やっぱり子供なんだって思うね。
何を考えているのかはよく分からないけれど、表情がコロコロ変わるんだ。
今、あの子がどんな気持ちなのかくらい、顔を見るだけで分かるくらいさ。
「リューカおばさん、この子、ちょっと疲れているみたい!」
「あらあら、そりゃ大変だ。二階の空いてる部屋のベットを貸してあげな!」
「分かった! ありがとう、おばさん!」
多分、あの子には人には言えない事情があるんだろう。
今だって、何か地獄を見たような、そんな苦しさを胸のうちに抱えた顔をしていた。
勿論あの喋り方も、あの子の事情の一つだとあたしは思っている。
だけど、あの子がどんな事情を抱えていようと、あたしは
あたしの宿のモットーは、どんな人でもここなら自分を見せれる、っていうのだからね。