前世で親友に裏切られたTS少女が今世で幸せを掴む話   作:名無しのTS好き

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第三話 お前は英雄になれるよ

 結局、俺はあのまま倒れたらしい。

 その証拠に、宿屋の近くでユウと話していたはずが、俺の体はご丁寧にベットにすっぽりと入っている。

 

 原因は、まあ深く考えなくても嫌な思い出を思い出したからだろう。

 この体だと、前は簡単に出来たトラウマを押さえつけることも中々難しそうだ。

 

 ったく、難儀な体になっちまったもんだな。

 

 だが、この体について不満を言っている場合ではない。

 このままだと、どこかで体調を崩してしまうことが目に見えている。

 

 ……そのうち、どこかで鍛えることにしよう。

 神サマが俺の願いをちゃんと聞いてくれているなら、力を追い求めてるという選択肢も、きっとまだ残っているはず。

 

 その気になれば、まだここから出るということも出来なくはない。

 

 

 

「いくら(つら)が良いと言っても、中身が俺みたいなのだって知ったら多分拒絶されるだろうしなぁ……はぁ、なんでこんなに幸せっていうのは手放せねぇもんなのか」

 

 

 

 その途端、思わず、そんな独り言をも吐いてしまう……が、その言葉に対して何かを返す人間なんて勿論おらず。

 ただ、虚しい俺の声が部屋に響くだけだ。

 

 さて……っと。

 窓から太陽が差しているからもう朝になっているのは確実だ。

 

 まずは心配をかけたことを謝りに行くとしよう。

 特に、ユウは少し話をしただけでも、俺が今まで一度も会ったことのないほどのお人好しで心配性ってことが分かっているからな。

 

 きっと、俺を運んだ時も気が気じゃなかったんだろう。

 だから早く元気な姿を見せて、安心させてやらねぇと。

 

 扉を開けて、階段を下っていく。

 すると、食堂のような場で沢山の人々が騒ぎあっているのが見える。

 

 やはり、どいつもこいつも楽しそうな顔をしたまま。

 

 ん……ただ、ユウと昨日の女性の場所が分からねぇ。

 とりあえず近くで飲んでる男二人組に声をかけよう。

 

 

 

「おっ、そこの綺麗なお嬢ちゃん、飯でも奢ろうか?」

 

「……いや、良い」

 

「おいおい、下衆みたいな気持ちが隠し通せてないじゃないか! ……すまないね、連れが。ところで、誰かを探しているのかい?」

 

「ユウ」

 

「ああ、ユウか。それなら、あそこにいるよ、ほら、リューカさんの近くに」

 

「リューカ……? ああ、なるほど。ありがとう」

 

 

 ……なんだか、やりにくいな。

 最初の男もなんだかんだいって俺を案じていたようだし。

 

 俺にとって、酒場やそれに連なる場所は力で分からせて情報を()()ところだったんだけどな。

 

 本当に、何から何まで違う。

 あそこじゃ年頃の少女が自分に話しかけてきた日には、自分の()()にしている奴が大半だったって言うのに。

 

 お、あそこだあそこ。

 それにしてもあの女性、やけに風格があると思っていたらここの女主人だったのか。

 

 通りで、纏う雰囲気が上に立つ者のもんだったわけだ。

 

 

 

「ごめんな、ユウ。心配かけちまって」

 

「わ、わぁ!? び、びっくりした……調子は、良くなった?」

 

「ああ、お陰様で助かった。それと、あんたリューカって言うんだな。ありがとう、金もない俺に部屋を貸してくれて」

 

「なんだ、わざわざあたしにも声をかけるのかと思っていたらそんな心配かい。大丈夫さ、あたしは困ってる子からお金を取ることなんてしないよ」

 

「……だが、じゃねえと清算が……」

 

「いいんだよ、あの辺の男たちが泊まってもいないのにここでずっと飲んでお金をたんまり払ってくれるからね」

 

 

 

 ……ああ、ダメだ。

 本当はもっと誠意を見せてぇのに、俺が学んできた()()の中に人に感謝を伝えるなんてことがないせいで、こんな礼儀もへったくれもねぇ言い方になっちまう。

 

 幸い、なんとか俺の気持ちはリューカに伝わったみたいだが。

 このままだと、また誰かに優しくされた時に礼を言うどころか逆に不快にさせちまいかねない。

 

 今の俺には、この町で暮らしていく上で足りないものがあまりにも多すぎる。

 こんなんじゃ、ただの口が悪いクソガキだ。

 

 そんな中、リューカは俺の気持ちを何か感じ取ったのか、優しい、まるで言い聞かせるような声色で言葉を続ける。

 

 

 

「まあ、とにかく、大丈夫そうで良かったよ。今日は、町を周りだとかそういう希望はあるかい?」

 

「……それなら、俺がいたっていう森を案内して欲しいんだが……ダメか?」

 

「あの森ね、実はあたしもあんまり詳しくないんだよ」

 

「じ、じゃあ僕が行きます! 少しでも助けになるなら、やります!」

 

「ユウが言っても良いと言っているけれど、それでいいかい」

 

「勿論。ありがとな……ユウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでね。ここは凄い沢山の動物がいるんだ」

 

「へぇ、確かにリスやらが沢山いるな」

 

 

 

 そんなわけで、俺は今ユウに森を案内されている途中だ。

 それにしても、大分この森は自然豊かだな。

 

 あいにく、俺は森なんてもんを人生で何回も見たわけじゃねえけど、この森はそんな俺から見ても豊かだと思う。

 

 一応、あの街にも森というか、林程度の自然ならあった。

 だが、そこには大抵死体が捨てられていて、そこに少ない動物共が群がっているという、なんとも許容し難い光景が広がっているのが日常だった。

 

 そんなものを見ているわけだから、自然のままの、この森の空気はとても気持ちよくて。

 今までに吸ったどの空気よりも、美味しい気がするのだ。

 

 そんなこんなで、ユウと歩きを進めれば、俺が今日来たかった目的地が見えてくる。

 

 ……案の定、そこにはどこから見ても神聖な空気を放つ大樹が。

 

 

 

「でけぇな……流石にこの大きさは見たことねぇ」

 

「ね、凄いよね!? 僕は、この木の神様から英雄になってこいって言われたんだ! まだ、どういう意味なのかは分かってないんだけど、すっごく嬉しい!」

 

「ああ、そうだな。……俺の目から見ても、お前はいつかなんかを成し遂げてからそうな気はするよ」

 

 

 

 その、自分はいつか英雄になるんだと誇らしげに胸を張るユウの姿を見て、少しだけ羨ましくなる。

 

 少なくとも、こいつは環境に恵まれているんだよな。

 

 リューカがいて、あの食堂で騒いでいた男たちみたいなのもいて、それでいて住民にも信頼されているときた。

 その証拠に、町を出るときにこいつは、何人もの人間からどこへ行くんだと温かい言葉をかけられていた。

 

 おそらく、神に()()をもらってここに来たっていうのは間違いじゃない。

 だからきっと、こいつがもう少し大きくなったら、何かもっと沢山の人を助けれる力に目覚めたりするんだろう。

 

 そして、ユウは、何かを思い出したように俺にあることを聞いてくる。

 

 

 

「君も、僕みたいに何か神様に言われた?」

 

「いいや、俺みたいな人間にわざわざ語りかけてくることはなかったよ」

 

「……そっか……あ、そうだ! まだ名前を聞いてなかったや。僕は、君のことを何て呼べば良い?」

 

 

 

 俺は神サマに生まれ変わりを願っただけで、別にあっちからは何もアクションはなかったからな。

 俺に使命みたいなもんは何もないさ。

 

 それで、名前か。

 別に、あの名前をそのまま使ってもいいんだが……それには流石に抵抗感がある。

 

 どうせなら、あんな名前に縛られない別の人生を送りたい。

 

 

 

「うぅんと……」

 

「も、もしかして聞いちゃダメなやつ……だった?」

 

「いや、そういうわけじゃねえんだけど……どうも良いのが思いつかねぇんだ」

 

 

 

 ……ダメだ、全く良い名前が思いつかねぇ。

 俺にこういうセンスはねぇと思ってたけどありきたりなのすらも出でこねぇのかよ。

 

 じゃあ、仕方がないけれど、昔の名前を名乗ることにしよう。

 あれもあれで、悪くはねえんだし。

 

 あ、勿論俺はあの名前が嫌いだからな?

 名前の響き自体は嫌いじゃねえけど、昔の自分を象徴するようで大っ嫌いなんだ。

 

 

 

「そうだな、えっと、俺の名前は……「ッ危ない!」……へ?」

 

 

 

 そうして、俺が諦めて名前を言おうとした瞬間。

 俺は、ユウに体を突き飛ばされていて。

 

 隣のユウを見れば、まるで何かから俺を庇うように手を広げている。

 

 その視線の先には……ああ、魔物だ。

 元は熊だと思わしき巨大な魔物が、俺達の前で雄叫びをあげていた。

 

 クッソ、ふざけんな。

 なんで、こんなに何回も何回も俺の命を奪おうとしてくるんだよ。

 

 

 

「早く! 逃げて!」

 

 

 

 ユウの、必死な声が聞こえる。

 絶対にあいつじゃ敵わない相手のはずなのに、それでも立ち向かおうとしている。

 

 自分のことを犠牲にしてまで人を助けようとする姿は正に()()

 こいつに力があれば、きっと、()()の英雄になれる日もそう遠くはない。

 

 ……じゃあ、未来の英雄サマをここでくたばらせるわけにはいかねぇよなぁ。

 

 俺がユウの身代わり、いや、俺がユウの代わりにあの魔物を倒してやるよ。

 

 

 

「えっ、あっ、なんで!?」

 

「かかってこいよデカブツゥ!」

 

「GAUUUUUU!!」

 

 

 

 この体じゃ、体を感覚が全く違う。

 たが、それでも、俺の中に残っているイメージは消えていない。

 

 後は、それ通りに感覚を修正するだけだ。

 

 

 

「ゥオラッ!」

 

「GUGAAAA!?」

 

「こんな小さい手でも、お前を倒せるってことを証明してやるよぉ!!」

 

 

 

 とにかく、殴る。

 小細工なんてしない、出来ない。

 

 拳が、俺と魔物の血によって赤く染まる。

 叫びたいくらい痛い、が、こんくらいの痛み、何度も何度も経験してきただろ?

 

 魔物の頭を殴り、殴って、殴って、殴って……。

 

 ついには。

 

 

 

「チッ、もう物言わぬ亡骸になっちまった」

 

 

 

 俺は、魔物の息の根を止めることに成功していた。

 ははは、やったぞ、この体でも、やればできるじゃねえか。

 

 そこで、俺は改めて今の自分の容姿を確認する。

 白かったワンピースのような服は、血で真っ赤。

 

 魔物を殴り続けた拳も、それ以上に真っ赤。

 

 ……やっべ、このままユウの方を振り向いたらもうおしまいな気がする。

 

 そう思いながら、おそるおそるユウの方を向くと。

 

 

 

「か、格好いい……」

 

「……は?」

 

 

 

 なぜか、目を輝かしているユウの姿があった。




英雄は皆、どこかで()()とズレることとなる

じゃないと、本当の理不尽に出会ってしまった時におかしくなってしまうから

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