そよかぜのいえ   作:804豆腐

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第1章 第2話

「みんなでピクニックに行こうよ!」

とある平日の夜。俺は椅子に座り、今日の夕飯、カレーを食べていた。

どうやら今日は杏ちゃんがニンジンを切るのを手伝ったらしく、いつもよりも美味しく感じる。

無論、管理人さんの料理はいつも美味しいのだが。

「ちょ、ちょっと! 明にぃ! サラッと聞こえなかったフリしないでよ!」

「いや、俺は関係ないのかな。と思って」

俺はそう半目でそう言いながらスプーンを口に含む。

うん。おいしい。

葵ちゃんは右手にスプーンを握りながらこちらを睨んでくる。

持っているスプーンが小刻みに震えているのは彼女の怒りゆえだろうか。

「明にぃが行くって言わなきゃ何も始まらないのっ!!」

「そんなアホな」

俺は食卓をすぐ右から順番に見ていく。

横には管理人さん目が合っておしとやかに笑っている。うん美人だ。

そして俺の正面に葵ちゃん。今にも立ち上がりそうな勢いで俺にまくし立てている。うん怖い。

そしてその横に先輩。今日も正面に座っている杏ちゃんの食べている姿をジッと見つめている。うん残念だ。

そして俺の左隣にカレーをもぐもぐと一生懸命に食べている可愛らしい少女、杏ちゃん。俺の視線を感じたのか、口いっぱいのカレーを含みながら首を傾げている。うん可愛い。

管理人さん一家は言うまでも無く、先輩はこの家に俺よりもずっと前から住んでいて、さらに管理人さんとも親しい。なら言うまでも無く俺よりも立場は上だろう。

俺の意見など最後に「はい。その決定に従います」くらいのモノだ。

「俺の意見はさほど重要じゃ無いさ。ねぇ、管理人さん?」

管理人さんは湯のみを両手で持ち、それで上品にお茶を飲んだ後一息ついた。

そして俺を見て、にっこりと微笑んだ後。

「私はみんなで決めた事を尊重したいですね」

まぁある程度予想はついていたが、管理人さんは周りの決定の通りに動くみたいだ。

後は、先輩と杏ちゃんだが。

「ねぇ、杏。あんた一緒にピクニック行きたいよね?」

葵ちゃんは斜め向かいに座っている自身の妹に伺う様に尋ねる。

カレーを無心で食べていた杏ちゃんはそんな姉の声にどこか面倒そうに顔を上げた。

「や、面倒」

スプーンを皿の上に置き、右手を軽く振りながら一蹴。

基本的にアウトドア派な葵ちゃんとインドア派の杏ちゃんが、意見が合う事自体少ないのだ。

そもそも性格も違うし、年齢も違うし。

まぁ姉妹だから何でも一緒なんて方が珍しいだろう。

「ちょっとは、考えても良いんじゃないの?」

「や。面倒なんで。お姉ちゃん1人で、どうぞ」

葵ちゃんは笑顔のまま怒りに震えている。なんとも器用なモノだ。

杏ちゃんは、義務は果たしたと言わんばかりに姉から視線を外し、またカレーを食べ始めた。

「先輩は行かないんですか?」

俺はこのままでは葵ちゃんが可愛そうだと思い、先輩に声を掛ける。

先輩はフッと無駄にイケメンな笑い方をした後、顔を上げこちらに右手を出してきた。

「や、面倒」

「先輩がやっても可愛くは無いですよ」

「や。本音」

先輩は自身の左手で自分の顔を隠しながら身を逸らした。

本音は止めろと、口調を崩さずに言う先輩。

なんていうか、汚いな。いや、色々と。

「汚いって、お前どういう事だよ」

「あー、口に出してましたか。こりゃ失礼」

ハハハと笑いながら俺は先輩の言葉を軽く流し、カレーに再び口をつけた。

何度食べても飽きのこない味。そして漬物が口の中を常に新しく変えてくれる。

母の料理など食べた事は無いが、こういうのを母の味というのだろうな。

「おにーちゃん。後で映画見ようよ」

「ん? 良いよ。でもホラーは駄目だぞ。杏ちゃんが夜寝れなくなるからな」

杏ちゃんは頬を林檎の様に染めながら右手で俺の左腕を叩いてきた。

「うー」と恥ずかしそうに声を上げているのも可愛らしく、俺は甘んじてその拳を受け入れる。

「俺も見る! 映画! 見たい」

突如として先輩が右手を高く上げながら叫んだ。

そんなに激しく主張しなくても、いつもの様にレンタルビデオ屋で借りてきた映画をテレビの部屋で見るだけだから、参加なんて簡単なんだが。まぁ性格か。

杏ちゃんは先輩をチラッと見た後、小さく頷いた。

その反応に先輩は狂った様に立ち上がり、歓声を上げる。

「いよっしゃー!『やっぱりうるさそうだから、や』なんで!?」

喜び飛び上がった状態から器用に着地し、そのまま床とお友達になっていた。

床に落下した音など一切せず、やはり凄い人なのだな。と再に認識する。

俺はそんな先輩の姿を横目にカレーを食べた。うん、おいしい。

「ずるい! ずるい! ずるい!!」

俺はスプーンからカレーを口に運びつつ、正面で立ち上がり叫んでいる葵ちゃんを見た。

葵ちゃんは悔しそうにスプーンを上下に振りながら怒っていた。

そんな葵ちゃんを管理人さんは優しく諌めている。

「葵。行儀悪いですよ」

「だって、だってお母さん! 明にぃも司にぃも酷いんだもん!!」

いや、酷いと言われてもなぁ。

俺はお茶を一口飲みながら、考える。

先輩は椅子に座りなおし、葵ちゃんの方を見ていた。

と思っていたら、横目で姉の事など一切見ず、カレーを無心で食べている杏ちゃんをチラッと見る。真剣さの足りない人だな。

しかし、確かにコレは葵ちゃんが可哀想か。

「よし。俺は一緒に行こう」

どうせ今は仕事もゆっくりとできる時期だ。土日も休みだな。

1人の寂しさは知ってるつもりだ。

「ホントに!?」

「あぁ」

「ホントのホントに!?」

葵ちゃんは身を乗り出しながら、嬉しそうに微笑みながら聞く。

それに俺は口元だけで笑いながら答えた。

「ホントのホントだよ。ついでに言うなら、ホントのホントのホントだ」

葵ちゃんは俺の手を握りながら嬉しそうにはしゃいでいたが、その手を見て顔を赤く染めながら静かに椅子に座った。

「じゃあ、いつ行くか決めないとね。後、行くところ」

「そうだな。葵ちゃんはもう新しい自転車には慣れたのかい?」

葵ちゃんはその俺の問いかけに一瞬驚いたような表情を浮かべ、何故そんな事を聞くのかと俺に疑問を投げかける。

「そりゃあ。自転車で川沿いを走れたら気持ち良いだろう?」

「う、うん! 凄く楽しそう!!」

葵ちゃんは先ほどよりももっと嬉しそうに頷いた。

色々想像しているのだろうか。頬が緩んでいる。

しかし、そんな葵ちゃんが突如顔を真っ赤にしながら俯いた。

「こ、これってデートみたいだね」

そして俯くと同時に消え入りそうな小さな声が俺の耳に届いた。

確かに言われてみれば葵ちゃんの言うとおり、デートっぽく見えなくも無い。

葵ちゃんは見えていないだろうが、デートという言葉を聞いたのか、カレーを食べていた杏ちゃんの動きが止まる。

「まぁデートと言われればそうかもしれないね。なら最高のモノにしないとな」

「あら素敵。当日のお弁当は私が作りますね」

管理人さんも笑顔で俺の言葉に続いた。

そしてその言葉に反応する人物が食卓には2人いた。

俺の言葉からさらに顔を赤くした葵ちゃんと、既に怒りの兆候を見せ始めている杏ちゃんだ。

俺はそれに気づきつつも杏ちゃんをフォローする事はしない。

その理由は簡単だ。

「……私も行く」

その言葉は誰も聞こえなかったかもしれないが、俺の耳には確かに届いた。

俺は思った通りにコトが運んだ事に喜びを感じながらも、それを顔に出さないようにしながら、管理人さんの方を見る。

管理人さんもその小さな声を聞いていたのか、いつもと変わらない笑みを浮かべながら小さく頷いた。

「じゃあ、今度の日曜日にみんなでサイクリングとピクニックに行こうか」

俺は言いながら横に座って、眉を顰めている杏ちゃんの頭を撫でた。

その俺の言葉に杏ちゃんは自分が勢いで言ってしまった発言に気づいたが、小さくため息をついて頷いた。

「まぁこうなった以上俺も行こう」

「そう言ってくれて良かったですよ」

先輩は今までの流れなど無かったかの様にカレーを食べながらそう告げた。

だいたいは当初、管理人さんが描いた絵の通りになっただろう。

多分だが、葵ちゃんが新しい自転車に乗って、どこか遠くへ行きたがっている事に気づいていた。

そして、それを止めるよりも一緒に行く方が安全だと考える。

さらに杏ちゃんと先輩の外出嫌いも少しはいい方向に行けば良いと考えたのではないだろうか。

結果、この終着点である。

俺はカレーを食べ終えた後片付けで1人洗い物をしていた管理人さんに先ほどの考えを聞いてもらった。

「ふふ。70点ですね」

「おや、どこが不足でしたか」

俺の個人的な予想では90点以上だろうと思ったのだが。

どうやら決定的に抜けているポイントがあったらしい。

「明君は自分の事を抜かすのがよくない癖ですね」

「と言いますと?」

「明君はもうこの家の家族だ。という話です」

どういう事なんだろうか。

意味を管理人さんに問うても微笑むだけで答えてはくれなかった。

いつか、俺にも分かる日が来るんだろうか。

俺は静かに管理人さんに頭を下げると、そのまま台所を出て廊下を歩いていた。

そして階段を上り、部屋のドアを開けると、目の前には人の顔が。

「うわぁ!?」

「ぎゃあ!!」

二人で大声を上げてしまった。

叫び声と同時に早くなっていく心臓の鼓動を感じながら右手で胸を押さえる。

そして少しずつ冷静になっていく頭で目の前に居る存在を見た。

地獄から這い上がってきた悪霊の様な雰囲気と死んだ魚の様な目。

暗闇に溶け込んだその存在はよく見れば幽鬼の様ではあるが、間違いなく先輩そのものだ。

「まったく心臓止まるかと思いましたよ」

「どうするつもりだ」

突然の疑問に頭に疑問符が溢れる。

この人はいったい何を言っているのだろう。

ここまで意味不明なのは久しぶりだ。

「人は自転車に乗れる様に出来ていない」

「はい?」

先輩はこの世の終わりの様な顔をしながら言葉を紡ぐ。

それは確かに日本語の形をしていたが、日本人であるはずの俺には理解できない言葉だった。

俺はその言葉の意味するところを考えていた。

腕を組みながら眉を顰め、考え続ける。

「つまり、先輩は自転車に乗れない……と?」

言葉の意味を考えれば、そうとしか考えられない。

俺は固唾を呑みながら神妙そうな先輩を見守った。

「普通は乗れない」

「いや、まぁ何をもって〝普通〟かは知りませんが。先輩は乗れるかと思ってましたよ」

「お前は乗れるのか?」

「まぁ、そうですね」

先輩は俺の言葉が意外だったのか、驚いた様な顔をした後腕を組み目を閉じる。

「何年あれば乗れるんだ」

「まぁ乗り始めた年齢にもよりますが、先輩なら3日もあれば乗れるんじゃないですか?」

その言葉に先輩は言葉を一瞬失ったようだ。

俺はそんな先輩の様子に何も言えない訳だが。

そしてそんな俺たちの間に何とも言えない沈黙が流れる。

「三日……? ちょっと待てよ。自動車免許だってもっと時間掛かるんだぜ? あり得ないだろ」

「いやいや、まぁ確かにセンスがあるなしで時間は変わるらしいですが。先輩は運動神経も良いし、大丈夫でしょ」

「なら、そこまで言うなら付き合ってもらうぞ。明日からの3日間地獄への旅になぁ!!」

先輩はそう宣言すると、何故か高笑いをしながら俺の部屋から出て行った。

俺も地獄に行くのか。嫌だなぁ。

 

そして三日が過ぎ、日曜日になった。

ここまでの日は確かに地獄だった。

何かがある度に屁理屈、屁理屈。

「本人の前では言えないが、面倒だった」

「おいおーい。聞こえてるぞ」

俺は自転車に寄りかかりながらこれまでの日の事を考えていた。

「なんて面倒な人なんだろう」

「こら、聞こえてるって言ってるだろ」

俺は首を振りながら、この日を迎えられた自分を褒めていた。

そしてとりあえず自転車に体重を掛けながらみんなが来るのを待つ。

「すぐ横に先輩によく似た人が居るが、気のせいだろう」

「おいこら! どんだけ恨んでんだよ。悪かったって」

「ま、別にそこまで恨んでないですけどね」

俺は先輩を無視するのを止め、俺と同じく自転車に寄りかかりながらこちらを見ている先輩に目線を合わせる。

そしてまた思考が停止した。

まぁ顔は普段と変わらず一目を引く様な格好良さだ。それは別に好きにすれば良い。

問題はその服だ。

体にぴったりと張り付いた半ズボンのジャージの様な服。

自転車競技で着る様な服だが、残念ながら着ているのは自転車3日目の男だ。

何を着ても似合うのは似合うのだが、感想は言いたくない。

「先輩はいつも形から入りますね」

「なんだ、褒めてるのか? ま、違ってもそう解釈して勝手に喜ぶがな!」

先輩はいつも幸せそうだぁ。

まぁ特に何かを言うつもりは無いが。

「お待たせー!」

俺と先輩が微妙な空気になる前に二台の自転車と2人がやってきた。

って、2人?

「葵ちゃんと管理人さん? えっと、杏ちゃんは?」

その俺の問いかけに管理人さんは苦笑して、葵ちゃんは憤慨していた。

2人の後に杏ちゃんが付いてくる様子は無い。

朝ご飯を食べた時は普通だったから、出てくる前に何かあったか。

「杏は行かないよ! 1人で留守番!!」

「そういうワケにもいかないでしょ」

俺は自転車から離れ、家の中へと走っていった。

玄関を開き、靴を脱ぎ捨て管理人室へと走る。

そしてノックした後、中の返事を聞かず走り込んだ。

「杏ちゃん」

「行かない」

杏ちゃんは部屋の隅で体育座りをしながら壁を見つめていた。

原因はいつもの姉妹喧嘩だろう。

しかし、1人で置いていく? それは論外だ。

「なら俺も行かない」

「やだ!」

俺も部屋の入り口に座り込みながらこちらを見ている杏ちゃんに視線を合わせる。

杏ちゃんは何を言っているのか分からないとでも言いたげな顔だ。

「だってお姉ちゃんと一緒に行くのが楽しみだって!」

「そうだね」

さて、どうしてこんな事になったのかな?

おそらくだが、勢いだけで今日のピクニックに行くと言ってしまったが、当日になってやはり出掛けるのが嫌になってしまった。それを母に相談しようとしたが、それを姉に聞かれてしまったという所だろうか。

「私の事なんてどうでも良いって!」

「思ってないよ」

俺は立ち上がって叫ぶ杏ちゃんに視線を合わせる様に膝立ちになる。

半泣きになりながらこちらにゆっくりと寄ってくる杏ちゃんの頭を撫でた。

「でも私、自転車乗れない」

「なら俺の後ろに乗っていけば良い」

今までの俺なら表面上の杏ちゃんの意思を尊重して、こんな無茶な事は言わなかっただろう。

人の嫌がる事を言わず、せず。

全ての人に優しくありながら、全ての人を遠ざけてきた。

「でも……」

「ごめんね。杏ちゃん。俺はワガママなんだ。だから全員一緒に行きたい」

俺は意地の悪い言い方をしながら杏ちゃんの反応を待つ。

杏ちゃんは迷っているようだが、後10分もしない内に頷くだろう。

そして俺たちはその後にピクニックへ行くことになる。

 

自転車で川沿いを走らせながら、全身に風を感じる。

まだ冷たい春の風は、上着の隙間から体をどんどん冷やしていくが、それ以上に俺の体は熱を発していた。

当然だ。自転車を漕いでいるのだから。

そして背中にも確かな温度を感じる。

杏ちゃんが落ちない様に背中にしがみついているのだ。

怖がりながらも速度を出してぐんぐん前に進む自転車に喜びを隠しきれず、笑顔を隠せない。

そんな表情をしてるんだろうなぁ。うん、見てみたい。

……が、今は運転に集中するべし。

自転車とはいえ。事故ればタダでは済まないしね。

「全て思い通りという顔ですね」

「そうですか?」

「えぇ。ここで私がこうして話しかけてくる事まで計算ずくという顔です」

俺は横を並走しながら苦しそうな顔一つせず笑顔で自転車を走らせている管理人さんに少しの恐怖を感じつつ、いつも通り答えた。

しかしそんな俺の反応もお見通しだったのだろうか。管理人さんは笑顔のまま何も言わなかった。

そしてそのすぐ後に少し急な坂が現れ、俺は杏ちゃんに一声掛けた後その坂をゆっくりと上っていく。

「ひゃぁぁぁあああふうううぅぅぅ」

そんなゆっくりと上っていく俺のすぐ横を走り抜いて行く一台の自転車が。

どうやら乗っているのは先輩の様だ。

無駄に車体を寝かせながら立ち漕ぎで走り抜いていく。

声と勢いの割にあまり速度が出ていないのは余り気にしてはいけないのだろう。

そして先輩はその小高い坂の頂上へ上りきると同時に両腕を上げ叫んだ。

「ツールドフランス!!」

まぁあの人は気にしないで行こう。

そして笑顔のまま体勢も変わらず管理人さんが速度をどんどん上げて先輩を追っていく。

俺はそんな2人に付いていく事はせずマイペースで自転車を走らせていた。

「杏」

「お姉ちゃん」

俺は後ろの事など何も気にせず、ただ前だけを見ながらゆったりと漕ぐ。

そうこれから話す事は俺には何も聞こえないのだ。

「あの、その……」

「お姉ちゃん、あのねっ!」

「待って。私から言いたい」

「うん」

「その、今日はごめんね。カッとなってあんな事言っちゃって」

「ううん。私の方もごめん。もっと前に言えば良かったのに」

「良いんだ。ホントは私がワガママ言い始めたのがキッカケだし」

「ふふ。じゃあ2人とも悪かったんだね」

「そうだね。じゃあ2人とも悪かったって事で解決だ」

話は終わったのだろう。

俺は一定速度を保ちながら、道の先を見据える。

俺のとった選択肢は間違えていた。きっと管理人さんも。

2人の行く道は俺たちが決める事では無く、2人で決める事なのだろう。

もしかして先輩は始めから分かっていたのだろうか。

だから、先回りしないで常に後から……。

いや、まさかね。

「よーし。明にぃ! お母さん達先に行っちゃったし、私達もどんどん速度上げていきましょー!」

言いながら葵ちゃんはペダルをどんどん回して速度を上げていく。

俺もゆっくりと速度を上げながら葵ちゃんの後を追いかける。

「わぁ」

後ろで小さく杏ちゃんが喜ぶ声が聞こえた。

風を切り速度を上げていく自転車と後ろに感じる杏ちゃんの体温。

今、俺はここで生きている。

〝そよかぜのいえ〟のみんなと。


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