NoctilucaEpica/星海の叙事詩 作:阿島ぽんず
『むかしむかし、まほうが空をとび、
光が夜をおいはらっていたころの話。
人の心は、みんなまぶしかったけれど、そのぶん、たくさんのかなしいこともありました。
つらい思い、わすれたい気持ち、そんな想いがいっぱいになって――
よるが生まれたのです。
よるはやさしく、でもおそろしい
よるはやさしい顔をしていました。
ひとりで泣いている子の頭をなでて、
「しずかにおやすみ」とささやくのです。
でもね、よるはだんだん長くなって、人はおきなくなってしまった。
町はしずまり、友だちも家族も、ずーっと夢の中。
おそろしいのは、よるは、みんなの想いを食べて、大きくなるということ。
ある夜、よるのまんなかによるのおうさまが立ちました。
まっくろなマントをひいて、こえはなく、目だけがひかっていました。
おうさまは言いました。
「わたしが見ているぞ。夜を出歩く子は、その想いごと、いただいてしまおう。」
でも、そのよるをきらった人たちがいたのです。
彼らはあさのゆうしゃとよばれました。
そして、いちばんたいせつだったのは――
朝をのぞむたくさんの心。
ゆうしゃたちは、こうさけびました。
「まだ眠っていたい気持ちもあるけれど、それでも、朝がほしい!」
その声は、よるをさき、おうさまをたおしました。
世界はひかりをとりもどし、みんなが目をさましました。
だからね
お母さんも、お父さんも、こう言います。
「夜は、あのときのおうさまのけはいがまだ残っている。
夜に出歩いたら、またよるが大きくなってしまうよ。」
だから、夜はおうちでねむって、朝になったら元気に遊ぶんだよ』
それは、ブルライト地方に伝わる古い寝物語。
原典は既に誰も知らず。されど数多の父母からその子供へ、その子供へと何代も受け継がれてきた御伽噺である。
語り終えた父親が、寝息を立て始めた幼子に優しげに微笑みかける。
揺らめく灯りが、幼子の蜂蜜色の髪を柔らかく照らしている。
すやすやと寝息を立てる童女を起こさぬよう、父親はそっと額に唇を落とし、
いつか出ていかなければならない揺り籠だとしても、いまだけはその安らぎの中で穏やかに眠る。
それは、いつの時代でも、何処にでもあるささやかな幸福。
今だけは何処かでその幸福を享受しているであろう者達。
いずれ来たる戦いの運命はまだ知らず。
今だけは、ただ安らかに。