NoctilucaEpica/星海の叙事詩 作:阿島ぽんず
Ep.1[勇者の産声]
「ギルド長が、私を……?」
馴染みの職員から告げられた、ギルド長からの呼び出し。
“女神のごとき”ヤーラ・エルティナーサ。齢にして200を超えるエルフであり、その辣腕で以てギルドを切り盛りする女傑。
ブルライト地方の中でも冒険者の力が特に強い、ここグランゼール王国でも
最近、
あれだって、他のギルドに先駆けていち早く対処に動き、多くの命を救ったという。私が依頼に手こずらずにもっと早く戻っていれば、もっとたくさんの人達を救えたはず―――そこまで考えて
いま大切なのは、多忙を極めるヤーラさんから呼び出しがあったということ。
依頼であれば職員からの伝達で事足りる以上、ギルド長から声がかかる必然性がわからない。
私自身、目をかけてもらえるほどの人物でもないし、当然、睨まれるようなことをした覚えもない。
ただただ呼び出しの理由がわからずに首をひねる。
とはいえ、断るという選択肢は持ち合わせていない。求められている以上、もしかしたら誰かの役に立てる機会があるかもしれないのだから。
呼び出された執務室へ行ってみれば、懐かしい顔ぶれ。
柔らかい体毛に覆われた猫竜種である“耳欠けの”ラエモンド・ラミアス。
こちらの姿を認めるや、瞳に複雑な色を浮かべる魔動機師のドリー。
そして、小翼に見合わぬ傲岸さで酒を呷ろうとするレディア・キールストン。
いずれも、顔を合わせるのはグランゼール英雄候補生学校以来。数年来の再開に感傷を覚えないと言えば嘘になる。
けれど、まさか同窓会をしようというわけでもあるまいに。
一人前ではあるけれど一流とも言い難い冒険者ばかりが集められたこの状況に、俄然疑問が湧いてくる。ギルド長は私達に何をさせたいのだろうか。
行ったことはあるけれど、足場が悪い中で
それどころか、今回の依頼では依頼人とされる
オルデアさんは自分達の身は守れると言うけれど、それでも困難な依頼には違いない。
けれど―――
「私に、私達にお任せください」
―――断るという考えが浮かぶはずもなく、ふたつ返事で引き受ける。
その身に宿す穢れのせいで、“守りの剣”の影響下にある
苦しみに耐えているであろうパシエルくんの真剣な表情。そしてなにより、それでもなお前に進もうとする彼の覚悟を見せられて、彼らを助けないなんてことは考えられなかった。
ラエモンドくんから呆れを含んだ微妙な視線を向けられた気がしたけれど、きっと気のせい……と思いたい。
勝手に話を進めた私に対する反応は様々だった。
レディアちゃんはふたつ返事で乗ってくれたけれど、ラエモンドくんは不承不承といった様子で頭を掻いてぼやいている。
そんなことを言ったって、本当は誰よりも面倒見が良いくせに。
「大丈夫、こんなこと言っててもなんだかんだラエモンドくんは面倒見が良いですから」
不安がっているといけないと思い、こっそりパシエルくんに耳打ち。
こくこくと頷く彼がなんだか微笑ましくて、思わずふわりと頭を撫でてしまう。
こうなると、より彼の助けになりたくなるのは私の悪い癖なんだろうか。少なくとも、レディアちゃんに打ち明けたらまた呆れた顔をするだろうし、ラエモンドくんには仕方ない奴扱いをされてしまうだろう。
なんとなく視線を感じてドリーくんへ視線を向ければ、複雑そうな表情を浮かべる彼の顔。
……そんなにダメかな、私。
―――――――
―――――
―――
「
ラエモンドくんの魔法が炸裂し、レディアちゃんの操気で操られた大剣が穿ち貫き、閃いた双刃がその首を撥ね飛ばす。
それでもなお向けられる四対の魔眼に射抜かれて、レディアちゃんの身体が石になっていく。あり得るはずのない慮外の事態に歯噛みをするが現実は変わらない。
唯一石化を癒せるラエモンドくんが石にされる前に倒しきらないと、レディアちゃんの石化を解けなくなる。
それは依頼の失敗を意味するばかりか、後背にいるふたりが危険に晒されることに他ならない。
(浅い……ッ!)
硬直が始まって重くなる脚を叱咤して、沼底の淤泥を踏破して肉薄。
弱っている一体に斬撃を見舞うけれど、踏み込んだ脚が沈み込んで体幹が僅かにブレる。僅かなブレは小さなズレとなって腕に伝わり、大きく揺れた剣先はカトブレパスの急所を捉えられない。
泥濘から足を引き抜く暇もないまま、別の個体が突進。巨体に弾き飛ばされて仄暗い沼を転がった。
闇夜を切り裂くように響く銃声。追撃に移ろうとする巨体の脳天を、
制御を失った巨体は次の一歩を踏み出せず、頭から泥濘に突っ込んで動かなくなる。
(あと3体ッ!)
ならばお構い無しと真っ直ぐに三対の魔眼を見据え、
―――私が、みんなを守らなきゃ。
―――――――
―――――
―――
カトブレパスの群れを制し、沼地を踏破した―――また同じだけのカトブレパスの群れに遭遇した時はもうダメかと思った―――その先で、私達は古い祭祀場のような場所に転移していた。
色々な場所にランダムに飛ばされるとされている
しかし、何らかの条件を満たせば(あるいは極めて稀な偶然で)時折その法則を無視した場所に繋がるらしく、私達が辿り着いたこの場所もそうした“稀有な場所”のひとつらしい。
群体となって現れる、影、影、影。
濃闇を凝縮したかのような影の群れを裂き、貫き、祓い続けた末に、私達は祭壇に安置された4つの遺物を見上げていた。
「まさか……本当に存在していたなんて」
思わずといった様子で漏れる、オルデアさんの言葉。
聞けば、“よるのおうさまと あさのゆうしゃ”という古い御伽噺に語られる“あさのゆうしゃ”が所持していた逸品だという。
「知っていますか、ラエモンドくん?」
私達の中で一番勉強が出来るラエモンドくんに問いかける。
御伽噺自体は昔―――まだ村があった頃―――におとうさんから聞かされた。早く寝ないと想いごとを食べられてしまうぞと脅かされて、
聞けば、オルデアさんは“あさのゆうしゃ”の末裔であり、眼前の遺物は“あさのゆうしゃ”の存在が真であった証明に他ならないという。
私達はオルデアさんに促されるがままに、申し合わせるわけでもなく、何かに導かれるように遺物を手に取った。
古剣をゆっくりと引き抜く。鞘と刀身が擦れる音が静寂を破る。
刀身に指を這わせれば、ひんやりとした金属の感触。
魔力を通せば熱を帯びて、曙光のような柔らかな輝きを放つ。
銘を、
偶然か、運命の悪戯か、私の手に収まる御伽噺の武具。
かつて夜を終わらせた勇者が振るったという武具を手にして尚、現実離れした話に実感が湧いてこなくて不思議な気持ちになる。
しかし同時に、私の中の冷静な部分が、来たるべき戦いを予見していた。
オルデアさんの言う通り、これら遺物が“あさのゆうしゃ”の実在性を証明するものならば、同様に“よるのおうさま”の存在をも証明することになる。
そして、
であれば、
誰かに乞われようと乞われまいと関係ない。
共に並び立つ者が居ようと居まいと関係ない。
これは
(HO1視点)