縁壱が鬼殺隊に入ったらしいので、拠点に帰ってきた。
そして改めて妻子を守った御礼を言われつつ呼吸法の話になった。
呼吸法?と不思議そうな顔をしていると、
柱の1人である煉獄吉寿郎が実際に演舞を見せてくれた。
吉寿郎の刀がまるで燃えているように見える。
しかし実際には燃えてはいない。
斬った藁に焦げた跡などは無いからだ。
変化はそれだけじゃない。
力、スピード、スタミナ。
ありとあらゆる要素が人を超えている。
今までは数と技術で人間より力が強い鬼に対処していたが、
これを極めれば一対一でも鬼を殺せる。
鬼の被害者が主だった構成員であり、
数と質共に課題が多い鬼殺隊が最も欲していたものだ。
これは凄いと思い、自分も教えてもらった。
そして数か月後。
俺は呼吸法を身に着けることができなかった。
年単位で粘れば習得できるかもしれない。
しかし、早々に習得した隊員と時間がかかった隊員では強さに差が有る。
適性が無い者が粘っても得られるものは少ないとみた。
なので俺は鬼を殺す仕事から引き、
隠密として働くことを御屋形様へ進言した。
元よりこの身は忍の者。
真正面からの戦闘よりも情報収集の方が得意だ。
そして正式に許可を得て、隠密部隊である『隠』を設立した。
主な仕事は鬼の情報収集と負傷者や鬼の被害者の保護だ。
そして俺の部下の中で呼吸法を習得できた者は隊員として独立させた。
組織内での不和は最も恐ろしい。
隠の勢力を削ってでも無駄な権力争いは避けるべきだ。
鬼殺隊の中で新たな地位を確立した俺は、
今後のことについて考えながら出発の準備をしていた。
すると、
「久しいね一朗太。
帰って来ていたなら声をかけてくれればいいのに」
「そちらこそ、帰って来ていたとは知らなんだ。
久しいな松姫殿」
彼女は松姫。
日ノ本の国では珍しい大柄な女性であり、剣術に長けている。
鬼殺隊で上位9人の内の1人である水柱だ。
女性では唯一の柱でもある。
俺や縁壱(190cm)ほどではないが、吉寿郎(170cm)より少し高い。
老婆とは違う、艶のある白髪に赤い目。
着物が似合わぬメリハリのある体。
異国の者の血が混じっていると本人から聞いたことがある。
彼女のような大きい女は世間では醜女扱いだが、
俺のような大男には体格差が程よく感じて美しく思える。
まあ戯言だが。
呼吸法を習得したことで彼女の水の剣術は水の呼吸と呼ばれるようになり、
水の呼吸は多くの隊員にとって使いやすい型であったようで、
彼女にはすでに多くの門下生が存在する。
「全集中の呼吸の習得を諦めたと聞いたんだけれど、本当かい?」
「ああ、そうだ。
俺には向いてなかったようだ。
なので鬼の情報を集めたり怪我人や鬼の被害者を手当てする組織を作った。
『隠』という組織だ。
先程御屋形様に許可をもらったところだ」
「そうか。
少し残念だが、辞めないならそれでいい」
松姫は納得してくれたようだ。
彼女は俺が鬼殺隊に入ってから何かと面倒を見てくれる。
柱には元武士が多いので、忍出身の俺とはどうにも合わない。
その中で松姫は武家出身ではないので、俺に対して思うところもない。
とてもありがたい存在なのだ。
「目下の使命は鬼舞辻無惨を見つけることだ」
「ふむ。
それは確かに最も重要なことだ
だがどうやって探す?
鬼を尋問して分かっているのは奴の名と姿を自由に変えられるということのみだが」
「鬼舞辻無惨は御屋形様の祖先である可能性が高いらしい」
「ああ、当代の御屋形様はそう考えているね」
「姿を自由に変えられるとはいえ、元となる自分の姿を大きく弄ることは無いはずだ。
全ての鬼が束になっても勝てないらしい奴が徹底して身を隠す理由もないしな」
これらの情報は過去に鬼を尋問した鬼殺隊の残してくれた情報だ。
鬼は無惨について口を割るとその次の瞬間に塵となって消える。
ゆえに手持ちの情報は少ない。
「だが今は縁壱がいる」
「ふむ」
「隠れる理由の薄い鬼舞辻無惨。
そこらの鬼が束になっても狩れる柱が、
9人束になっても敵わない縁壱。
奴が警戒していない今が仕留める好機だと考える」
「ふふ、否定できないのが悲しいね。
でも、その通りではある。
彼は別格だ」
他の柱はプライドが邪魔して口にしないだろうが、
そこら辺の感覚が薄い松姫殿はあっさり認めた。
「そういう訳だ。
俺は出発する。
もし奴の情報を得たら鴉で伝えてくれ」
「勿論だとも」
そう言って俺は出発の準備を進める。
時間がどれだけかかるか分からない。
早ければ早い方が良い。
「あー、
そうそう一朗太」
「どうした?」
「帰ってくるなら連絡くらいしてくれよ?
寂しいじゃないか。
私とお前の仲だろう?」
「……そうだな。
すまない、気を付ける」
「それならいいんだ」
そう言って松姫は去っていった。
……さて、準備を進めよう。
松姫の外見は鳴潮のザンニーというキャラをイメージしてます。